国際司法裁判所(ICJ)はミャンマー政府に対し、イスラム教徒少数民族ロヒンギャへの迫害停止を求める仮処分命令を出した。同国政府は解決に消極的。国際社会は圧力をかけ続ける必要がある。
アフリカのガンビアが昨年、イスラム協力機構(OIC)を代表し、ミャンマー政府を相手に「殺害や性暴力などはジェノサイド(民族大量虐殺)条約違反だ」と提訴。ロヒンギャ問題で初の司法判断になった今回の決定は、迫害防止の「あらゆる措置」とその定期的な報告を命じた。
ロヒンギャは国軍に何度も迫害された。二〇一七年八月には、治安部隊の大規模な掃討作戦で数千人以上が死亡、多くの女性が乱暴され、男女七十万人以上が隣国バングラデシュへ逃げ込んだまま。粗末なテント小屋でのキャンプ暮らしを続けている。
ミャンマーに住んでいたのに「バングラからの移民」とみなされ国籍がない。国軍だけでなく、国民の九割を占める仏教徒、そして指導者アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる与党の国民民主連盟(NLD)からも蔑視されているという。いわば、国を挙げてのヘイト状態というありさまだ。
スー・チー氏は先月、ICJの法廷でジェノサイドを否定。仮処分決定の直後、ミャンマー政府は「留意する」との声明を出した。「国際社会の手は借りない」というに等しい反応といえる。
「国軍兵士は村人たちを何人も銃殺。遺体に灯油を掛けて火をつけ、赤ん坊をつまみ上げて放り込んだ」-。非政府組織(NGO)でロヒンギャ救援にあたる中坪央暁氏(元毎日新聞特派員)の近著「ロヒンギャ難民100万人の衝撃」(めこん)には、こんな証言がたくさん収録されている。
これが事実なら、治安部隊を許してはならないだろう。かつての民主活動家スー・チー氏は最近、中国の習近平国家主席と会談し、「一帯一路」に協力する見返りにロヒンギャ問題への「理解」も取り付けている。「正当化」「開き直り」を許さぬために、今回の司法判断を機に経済制裁などを含めた圧力を強めるほかない。
日本の対応は中途半端だ。各国に先駆けてバングラのロヒンギャのキャンプに外相が訪れ多額の援助もしている半面、国連でのミャンマー非難決議案の採決は、常に棄権。「ミャンマー政府との関係を壊したくない」との考えが見える。今は、弱い立場の人たちの救済を優先させるべきではないか。
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