激ヤセ激太り歯も抜く…クリスチャン・ベイルはいつだって全力投球!

 世の中は厳しいもので、全力を尽くしても報われるとは限らない。しかしクリスチャン・ベイルは、もう何十年も全力投球を続けている。我々は今こそ彼の狂気じみた頑張りを再評価すべきではないだろうか。もちろんクリスチャン・ベイルの凄さなんて散々語り尽くされている。それなのに、なぜ今になってベイルの話なのかと言うと、先日アカデミー賞の候補が発表されたからだ。(加藤よしき)

断腸の思い…ベイルさん、今回は堪忍して

フォードvsフェラーリ
左から『ザ・ファイター』Paramount Pictures、『アメリカン・ハッスル』Columbia Pictures、『マシニスト』Paramount Classics、『ダークナイト』Warner Bros.『バイス』Annapurna Pictures / PhotofestPhotofest / ゲッティ イメージズ

 ベイルが主演を務めている傑作『フォードvsフェラーリ』(2019年)が幾つもの部門で候補に入っているのだが……彼は主演男優賞に入らなかった。非常に残念である。彼が演じた頑固でユーモラスで優しいレーサー役は、間違いなく同作の魅力を支えていた。もちろん選ぶ側の気持ちもわかる。ベイルに注目していたら、たぶん彼が映画に出るたびに賞をあげることになるだろう。断腸の思いでベイルさん、今回は堪忍してつかぁさいと候補から外したのは想像に難くない。とは言っても彼が漏れたのはやはり惜しい。『フォードvsフェラーリ』が傑作だっただけに、なおさらだ。そこで今回は彼の若手時代に注目、その常に全力投球の姿勢を振り返るとともに、勝手に功績を褒め称え、「あ~ダメだったかぁ~」と風呂に入りながらクダをまいているであろう彼に日本からエールを念で送ろうと思う。

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フォードvsフェラーリ
『フォードvsフェラーリ』Twentieth Century Fox Film Corporation/Photofest / ゲッティ イメージズ

度を超えた役づくり!いつだって全力投球

クリスチャン・ベイル
全部クリスチャン・ベイル

 そもそもクリスチャン・ベイルはどういう男で、何がどう凄いのか? 一言でいうならいつだって全力投球。度を超えた役づくりで知られ、過酷な肉体改造は有名だ。体重増減は当たり前、時には歯や髪を抜いて別人になってしまう。『バットマン ビギンズ』(2005年)で筋骨隆々のバットマンを演じたと思えば、『バイス』(2018年)では20キロ増量、今回の『フォードvsフェラーリ』では再び痩せている(本物にそっくりだ)。しかし彼が本当に偉いのは、こうした姿勢がデビュー当時から一貫している点、さらに賞レースを競うタイプの映画だけではなく、いわゆるジャンル映画にも同様の姿勢で臨むことだ。  

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デビューは13歳、スピルバーグ映画

画像テキスト
『太陽の帝国』での13歳のクリスチャン・ベイル Warner Bros./Photofest / ゲッティ イメージズ

 ベイルの映画主演デビューは、スティーヴン・スピルバーグ監督の『太陽の帝国』(1987年)。まだ彼は13歳だったが、数千人のオーディションを勝ち抜いて主役をもぎとったという。だいたい子役はロクなことにならないものだが、彼は違った。このあと一時は学業に専念するものの、程なくして演技の世界に復帰。『ベルベット・ゴールドマイン』(1998年)などで順調にキャリアを積んでいき、殺人鬼を演じた『アメリカン・サイコ』(2000年)で若手実力派としての地位を確立した。

自ら激ヤセ提案→却下→撃沈

サラマンダー
クリスチャン・ベイルとマシュー・マコノヒーいう二大役者バカが揃った『サラマンダー』Spyglass Entertainment /Photofest / ゲッティ イメージズ

 ブレイクしたベイルのもとには次々と仕事が舞い込むようになる。『サラマンダー』(2002年)、『しあわせの法則』(2002年)、『リベリオン』(2002年)と、同じ年に3本も主演作が公開されているのがブレイクの証しだろう。小中規模のアクション映画の仕事も増えていくが、彼はすべてに全力投球。荒廃した近未来でドラゴンと戦う『サラマンダー』では「荒れている未来なら食料がないはず! 痩せましょう!」と自ら激ヤセを提案し(結局は却下された)、ドン底ストリートもの『バッドタイム』(2006年)では、短い撮影期間にも関わらず役づくりとしてギャングに会いに行った。こうしたベイルのアクション映画仕事の中で最も注目すべきは、今なお語り継がれる傑作となったのが『リベリオン』である。

プレステージ
『プレステージ』のクリストファー・ノーランとベイル 。「監督、この役でやっぱオレ痩せたほうがいいと思うンスよ」「え、別によくね?」という会話が交わされたかは定かではない……Newmarket/Photofest / ゲッティ イメージズ
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インパクト絶大!ガン=カタ

『リベリオン』
ガン=カタって……!『リベリオン』Miramax/Photofes

 『リベリオン』は感情を持つことが禁止された未来を舞台に、ガン=カタという銃を使った近接格闘術が炸裂するSFアクションだ。ベイルが演じるのは感情を持った人間(絵や音楽を好きになるとか)を抹殺する捜査官「グラマトン・クラリック」を務める男プレストン。最強のガン=カタ使いであり、2丁拳銃で敵を次々と葬り去ってゆく。ガン=カタのインパクトは絶大で、特に日本のアニメ・漫画業界には多数のフォローワーを生んだ。しかし監督とプロデューサーによれば、この映画は予算も時間も信じられないほど無かったという。たとえばベイルが銃をトンファーのように扱って敵を撲殺するシーンは撮影時間が30分しかなかった。かなり過酷な現場だが、ここでもベイルは全力投球。アクション映画で、しかも脱ぐシーンがあることを意識したのか、滞在先にトレーニング機器一式を持ち込んで長渕剛のごとく体型が崩れないよう常に鍛えていたという。

 なお滞在先はマンションの4階だったそうだが、エレベーターがなく、ベイルは監督やスタッフと一緒にトレーニング機器を階段で運んだそうだ。彼のいつだって全力投球なスタイルが通じるエピソードだと言えるだろう。また同作では実力派としての目撃証言も多く残されている。演技面では撮り直しをしても毎回一切変わらない演技を見せ、アクションの習得も恐ろしく速かった。たいがいのアクションは1発OKで、前述の30分で撮ったシーンも5回練習しただけで完璧に決めたそうだ。また両手に持ったショットガンを同時にガチャコンと排莢(はいきょう)するシーンは、スタントマンや監督も上手く出来なかったが、何故かベイルだけは出来たらしい。こうした彼自身の真摯な姿勢とアクションスターとしてのポテンシャルの高さがあってこそ、今なお語り継がれる作品になったと言えるだろう。

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特殊メイクでいいんだ…に気が付く

『バイス』
そっか~特殊メイクって手があったのか……『バイス』Annapurna Pictures/Photofest / ゲッティ イメージズ

 若手時代から現在まで。あるいは大作から中規模の映画まで。いつだって全力投球するのがクリスチャン・ベイルという男である。その一方、『バイス』で増量した際に『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017年)のゲイリー・オールドマンに「あなたもチャーチル役で太りましたよね? どれくらい太ったんです?」と相談したそうだが、オールドマンは特殊メイクだったので「いや、太ってないよ」と返されて、「特殊メイクの技術があんなに発展してたなんて……。増量した自分がバカみたいでしたね……」と悲嘆にくれたという。このようにドコか抜けているのも彼の魅力だ。残念ながら今回のアカデミー賞には絡めなかったが、アクションが期待できるマーベル映画への参戦が決定するなど、将来への期待は膨らむばかりである。今後も映画に出る限り、ベイルはいつだって全力投球で魅せてくれるだろう。

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