あなたの精神を壊さないこと、もし壊れたときにどうするかということ

「墓場まで持っていく悩み」を持ちかけた今回の相談者。幡野広志さんはそのペースでは「墓場まで保つのは無理」と答えます。心が壊れないようにするにはどうすればいいか、幡野さんが考えます。

この連載が書籍化されます

『なんで僕に聞くんだろう。』(幻冬舎)、2月6日発売です。ぜひ連載とあわせてお読みください。


※幡野広志さんへ相談を募集しています。専用フォーム(匿名可)からご応募ください。

墓場まで持っていく悩みでぐずぐず悩んでしまうのが辛いです

私は現在0歳の娘を育てています。
娘を授かったのは、知り合いに無理やりされて妊娠しました。お酒を飲んで動かなくなった自分を送る理由つけて2人きりになり車につめこまれて行為をされましたが、そこまでお酒を飲んだ私が悪い、相手も元々知り合いだからこれはレイプではないと思いこんでいました。

気づいた私は相手を責めましたが「最後まではしていない」という言葉を信じてしまい病院には行かなかったのです。親戚の知り合いということもあり親戚、家族にバレるのが怖く警察にも行けませんでした。

やがて妊娠したことが発覚し、エコーに映る小さな丸がピコピコ心臓を動かしているのを見ると、とても中絶することは出来ませんでした。

一番に今の夫に相談しました。
妊娠した時期から自分の子ではないと分かっていたのと、私と相手のLINEのやりとりをみて浮気じゃないと信じてくれ様々な葛藤があったと思いますが、すべてを受け入れてこの子を守って行こうと誓ってくれました。

なので、被害届を出して事件にすることよりもお腹の子を守り結婚することを選びました。 夫婦以外誰も知らない秘密です。

娘が生まれた今、愛しいと思えて安心しています。 夫も充分に可愛がってくれていると思います。

普通に考えたら、中絶して終わり、ですよね。中絶件数をみるとみんな言わないだけで、好きな人との子どもでも都合が悪ければおろしている人はたくさんいるんだろうななんて考えます。あのとき中絶できていれば、なんて娘に対して失礼な、最低なことを考えてしまいます。

憎い相手は妊娠したことを知っています。妊娠してから一度だけ会い妊娠したことを伝えました。もう産むと決めていた私はお金でもぶんどってやろうかとおもっていましたが、謝られ責任とるといわれ拍子抜けしました。ですがこの人と結婚することはどうしても考えられない、でも世間的に問題ないようにこの子を育てたいと思う私は今の選択しか出来なかったのです。本当に自分でもばかだなと思います。

困ったことに、今になって相手が許せないのです。 夜になると憎しみと、娘と夫に対する罪悪感、自分の罪の重さに押しつぶされそうになります。

菩薩のような夫は気付いて起きていてくれたり話を聞いてくれますが、もう一度相手に会ってなんか言わないと気が済まないような気持ちです。
「あのとき、どうして… 」 と何度も何て言おうか事前に脳内で繰り返してしまいます。

夫はもちろんこの子の人生に関わることだからと反対しています。私もそうおもいます。
私も覚悟をもって墓場までもっていくつもりです。ですが夜になるとどうしても気持ちが沈んでぐずぐず朝方まで悩んでしまうのです。

このままだと、自分の精神が壊れてしまうか、娘のこと愛せなくなってしまうんじゃないかと怖くなっているのですがどうしたら良いのでしょうか。

はじめて人に伝えるので文章拙く、長くなってしまい申し訳ございません。

幡野さまの文章、とても好きなのでいつもついつい読んでしまいます。これからも楽しみにしております。

(匿名 25 女性)

あまりにもすごい話でクラクラっとしました。ぼくがクラクラっとするぐらいだから、あなたの親族は気絶するんじゃない? 旦那さんの親族が知ったらあなたと離婚をするようにいうかもしれないから、黙っていたほうがいいでしょうね。

あなたも墓場までもっていく覚悟があるみたいで、意気込みはいいのだけど、でもあなたにはできないとおもいます。あなたが墓に入るまであと60年ぐらいあるけど、娘さんが生まれて1年も経ってないのに、このペースでは墓場まで秘密を保つのは無理だとおもう。

編集でボカすとはおもうけど、この相談をあなたは本名で送ってるよね。はっきりいうけど想像力が欠如してる。心に余裕がなくなって視野が狭くなっているのかもしれないけど、覚悟と行動が全く逆になってるから、もっと慎重になった方がいいです。自分がうっかりさんであることを認識しましょう。

「このままだと、自分の精神が壊れてしまうか、娘のこと愛せなくなってしまうんじゃないかと怖くなっている」

現実的にそうなる可能性がとっっっても高いとおもます。いまは菩薩のような旦那さんがいるから保てているんでしょうけど、旦那さんのような菩薩だって心の余裕が無限にあるわけじゃなくて、きっと耐えているよね。

菩薩ってなんか遠い目してるじゃん、あれたぶん誰かの苦しい話を聞きながら別のこと考えてるよ。誰かの心を支えるというのは、自分の心を削ることでもあるんです、でも削ったぶんがそのまま相手の心に上乗せされるわけでもないので、共倒れになることもあるんです。共倒れしないいい方法は遠い目をして話を本気で聞かないということです。

旦那さんはきっと話を本気で聞いているから耐えています。菩薩のように見えるかもしれないし、たしかに菩薩のような人かもしれないけど、有限の心を削ってるよ。旦那さんは菩薩じゃなくて、良質な鰹節みたいな人だよ。

あなたの精神が壊れたときに、きっと旦那さんも耐えられずに誰かに相談します。そのときに想像がつくのは離婚をすすめられることです。そんなことはない。そうおもったとおもうけど、それはあなたの希望的観測です。

結婚を選んでくれたことで、旦那さんの愛情がうれしかったのだとおもいます。あなたはしあわせを感じたとおもいます。レイプしてきた相手のことをいまほど恨んでいなかったのは、そういう理由だとおもいます。

もしもいま相手に会ってあなたの苦しさを伝えても「じゃあなんで産んだの?」とかえされるでしょう、相手も疑問におもっていることだとおもいます。結果としてあなたの後悔がトッピングされます、よりによって自分をレイプした男に。

もちろん相手を許してやれってことじゃないよ。あなたの心に余裕があるなら、ぶん殴りにいけばいいし、警察に突き出せばいいし、裁判もすればいい。でも、今それをやったらきっとあなたは壊れてしまうと思います。

いまは育児の大変さもかさなって余裕がなくなり、恨みの矛先が相手に向かってますけど、相手に会おうとおもえば会えるからですよね。相手が雲隠れをして手が届かなくなったとき、そして旦那さんと離婚をしたり不仲な状況になったとき、あなたの恨みの矛先は娘さんに向かいます。

あなたはすでに中絶していればと心の中で後悔をしているそうですが、それを娘さんにいってしまうでしょう。そして虐待をしてしまう可能性があります。

あなたは真面目で純粋な人なんだとおもうんです、別に褒めてるわけじゃありません。精神を崩しやすいとか、騙されやすいってことをいいたいんです。すこし悪くいうと真面目なバカなんです。

自己犠牲が正しいとおもっていたり、綺麗事を美しいとおもったり、正論が正義とおもってませんか? 中絶だって悪いことっておもってたでしょ。

世の中が全員アンパンマンみたいな献身的な世界ならそれもいいのかもしれないけど、世の中っていろんな人がいます。人生ってちょっと不真面目で、要領のよさをもちながら生きるぐらいの必要があります。

あなたの精神を壊さないこと、それから精神が壊れたときにどうするかということを考えたほうがいいとおもいます。受験だって本命と滑り止めを受けるでしょ、なにか問題を解決するときは最善の方法と最悪の対処の2つを用意したほうがいいです。

ぼくはなにか問題がおきたらこれで解決しています。ガンになってもうまくやれるぐらいおすすめの問題解決法なんだけど、最悪を考えることに目を背けてしまったり、物事を希望的観測でいい方向に見てしまう人にはあまり向いていません、つまりあなたのことです。

最悪を想定しつつ、ベストを目指してベターで落ち着くぐらいがいいとおもいます。ここはひとつ不真面目で要領よくいきましょう。

もし本当にあなたの精神が壊れてしまったとき、旦那さんと離婚したり不仲な状態に陥ったとき、旦那さんの精神まで崩れたとき、あなたや旦那さんの親族が事実を知りあなたにたいして怒りの矛先を向けてきたとき、周囲の支援が断たれたと感じたとき、もし、あなたが本当に娘さんのことを愛せないと感じていたら、娘さんを手放すことを検討したほうがいいとぼくはおもいます。

児童福祉施設や特別養子縁組などを検討しましょう。ぼくは児童福祉施設にたまにいくのですが、親の精神状態の悪化で育児が困難になり施設にきた子どもはとても多いです。児童福祉施設にあずけて必ずしもあなたが救われるわけではありません、でも娘さんは救われます。少なくとも共倒れを避けられます。死ぬことを防げるという意味です。

経済的に必要ならば生活保護も利用しましょう。あなたはきっと生活保護も悪いことっておもってるだろうけど、生活保護が悪いとおもってる人が生活保護を必要としたときが大変です。

生活保護もギリギリまで耐えるのではなく、まだ余裕があるときから福祉とつながりながら準備を始めてください。ガソリンが空になってから慌てて充電の少ないスマホでガソリンスタンドを探しても遅いです。

プレッシャーになっちゃうかもしれないけど、最悪を防ぐにはあなたが精神を壊さないことです。旦那さん以外に相談をできる人がいたほうがいいとおもうんです、でも友達だとか親族だとかママ友だとか職場の人だとか、そういう生活圏内の人はやめたほうがいいとおもいます、すぐに広まってしまうから。

この話を聞いた人はストレスをうけるんです、あなたを責めることでストレスの解消をする人もいます。そしてこの話であなたを責めることをたのしむ人だっているんです。

あなたの生活圏内で話が広まったときに、居場所がどんどん狭くなって、余計に苦しむことになります。娘さんが成長したときに、両親以外の誰かからこの事実を知らされて苦しむことになりかねません。

広まることを前提にして、生活圏内ではない人に相談したほうがいいので、子育て支援を専門にしている団体を探したり、信頼できるのであれば出産をした産婦人科の先生からそういうところを紹介もらったりするのがいいとぼくはおもいます。

後悔をたくさんすればタイムスリップしてやり直せるわけじゃないし、これからの人生にいかせない限り、後悔で悩んでいることほど無駄なことはありません、無駄どころか返済しない借金みたいなもので利息だけが増えます。

後悔って簡単なんですよ、情報が全てそろってどうなるか結末も知っていて、起こった事実にあーだこーだいう作業ですから。過去の自分といまの自分のセルフマウンティングなんです、大切なのはこれからを考えることです。

この話を聞いた人はストレスを感じるって書きましたけど、あなたのことを知ってる人同士がお茶に行けば、会話のネタはずっとこれでしょう。ストレス解消の簡単な手段が人に話すということだからです。

なによりもあなた自身にいろいろな感情が渦巻きストレスを感じていて、誰かにはなしたいんでしょう。きっとこの相談だってぼくに聞いてほしかったんだとおもいます。ベストを目指しましょう、でも最悪もしっかり想定してね。

今週の幡野さん

美味しいミカンを探しに愛媛の松山に行きました。外国人観光客の多いエリアのお店と、地元の人ばかりのお店ではミカンの価格差が大きくてインバウンドを感じました。


この連載について

初回を読む
幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。

幡野広志

写真家・幡野広志さんは、2017年に多発性骨髄腫という血液のガンを発症し、医師からあと3年の余命を宣告されました。その話を書いたブログは大きな反響を呼び、たくさんの応援の声が集まりました。想定外だったのは、なぜか一緒に人生相談もたくさ...もっと読む

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    コメント

    Eryyyyyyyy なんかよくわかんないけどすげー響いた - - - 6分前 replyretweetfavorite

    sadaaki いつも、この相談には返事とかまったく思いつかないよ、と思って読むんだけど、なるほどそうか、それしかないかもという提案をしてくれる幡野さん。今回はとりわけそう。 @hatanohiroshi | 9分前 replyretweetfavorite

    kathy_Lynn_kiku 優しい人の心は菩薩ではなく、鰹節。私も覚えておかなきゃいけない。 13分前 replyretweetfavorite

    rosebourbon 全く関係のない第三者なのに現実の相談として目を通すだけでもしんどいな。でも、とても現実的な回答だと思う…。 19分前 replyretweetfavorite