ターン制カードゲーム、先攻と後攻の話
ターン制カードゲームには先攻後攻という概念がある。
先攻は「先に攻める」、後攻は「後に攻める」という文字通りの区分であり、おおむね先攻側はゲームの先導者となり主導権を手放さないまま勝利することを第一とし、後攻側はそれに対するリアクションを行っていずれかの時点で攻守を逆転し勝利へと向かうのが、このターン制カードゲームの醍醐味と言える。
・先攻の優位性
私が長らくプレイしてきた、限定的ではあるがマナ積み上げ式(1ターンに1つずつ使えるマナが増える)の祖であるターン制カードゲーム「Magic ; the Gathering」では様々なフォーマットで先攻が重宝されてきた。それは多くのプレイヤーが先攻の利点と後攻の利点を比較し、その上でこのフォーマットでは先攻の利点の方が優れていると捉えたためである。「Magic ; the Gathering」における先攻の利点と欠点を以下にざっくりとまとめる。
・利点
対戦相手よりも先に同コストのカードをプレイできる権利を得る。
・欠点
1ターン目のターン開始時に「デッキからカードを1枚引く」効果をスキップする(後攻と比べて1枚手札が少ない状態でゲームを開始する)。
特に1ターン目に関しては一部の例外こそあれど、先攻側の1ターン目に後攻側は何もできない状態でゲームが開始される。なので先攻側は1ターン目に致命的なカードをプレイできればそのまま勝敗が決するレベルの破壊力を相手に叩きつけることができる。
”自分が先攻なら《ゴブリンの従僕》を打ち消せていたのに…。”
”残念ながら、そうはいかないね。”
上記の例は極端ながらその最たる例だ。
もう一つ例を挙げよう。カードを複数枚引くカードは盤面に直接干渉はしないが、その後のプレイの選択肢を増やし、優位を築くために使用されるカードだ。
《予言》は1枚のカードを使用して2枚のカードを引くことができる、手札を増やすことができるカードだ。しかしプレイには3マナを使用する必要があり、3ターン目に《予言》をプレイすると実質的にそのターンはパスとなる。
先攻が3ターン目に《予言》をプレイした場合のリスクは、盤面を1ターン放棄するため相手が3マナ分を盤面強化に使えることだ。攻め手と受け手が事実上入れ替わる形になるが、次のターンには先攻側は4マナ分のカードを使用できるため、相手の3マナの動きを4マナの動きで潰しに行くことができる。相手よりも多いマナで相手のカードを受けることができるので先攻側が優勢のままだと見ることができる。
しかし後攻側が《予言》をプレイするとなるとこの図式は一気に崩れ、苦しいものとなる。相手の3ターン目の行動を無視して受け止めつつ、尚且つ次のターンの4マナの動きも併せて最大7マナ分のカードを自身の次ターンに使える4マナで対処しなければいけなくなる。並のデッキではこのビハインドを覆すことができず、後攻3ターン目の《予言》プレイは敗着に繋がる一手となるだろう。
このようにカードに書いてある効果自体は先攻後攻どちらでも変わらないが、カードの破壊力や打ちやすさは先攻後攻で大きく変わってくる。こういった構図は様々な状況で当てはまった。そして黎明期に先攻優位の情報が広まり、その状況を覆すことができなかったカードゲーマーの中で「負け先」(負けたら次のゲームは先攻を取る、取りたい)という造語が使われるようになった。
・勝率100%を目指すイノベーター(革新者)達
先攻が必ず勝つゲームなら全プレイヤーの勝率は50%に収束する。何故なら人が先攻を取る確率は50%に収束するからだ。
しかし、絶対的な勝ちに執着するカードゲーマー達が、そんな状況を甘んじて受け入れるはずがない。そもそも大会で優勝するためには目の前に座る対戦相手全てに勝利を収めなければいけないのだ。彼らは己の勝率を100%に近づける方法を必死に模索し始めた。そしてゲームをリリースしている側もその想いは同様であり、解決の方法をカードセットの中に散りばめていた。
例えば、相手よりも早く多くのマナが使えるようにデッキをデザインする。
例えば、相手の良いアクションを抑制し続け、自分だけが良いアクションを行う権利を得る。
例えば、統計的に多く相手が使ってくるデッキに対して強い、相手が無警戒のデッキを使う。
例えば、リアクションに優れたカードを沢山投入し、そこで得たマナ差で優位を確立する。
その時代その時代で、最適解を見出すプレイヤーやデッキビルダーが、鮮やかな勝利を歴史に刻んできた。
”鳥は見たら焼け”
先攻後攻を入れ替える《極楽鳥》はマスト除去クリーチャーの筆頭だった。
このように「Magic ; the Gathering」では25年の中で様々なアプローチが試され、時には実を結び、時には暴走し、成功者を生み、そしてそれは知見となって私たちの前に積み上げられ、そして今も更新され続けている。
その知見は現在リリースされているターン制のデジタルカードゲームにも脈々と受け継がれている。彼らの25年の足跡は現代のデジタルカードゲームでも間違いなく通用するだろう。
・歴史は繰り返す、だからこそ面白い
2018年現在、国産のマナ積み上げ式ターン制デジタルカードゲーム「Shadowverse」では参加者1万人規模の競技シーンが整備され、多くのイノベーターが登場し始めている。
その中には過去のカードゲーム経験を駆使して成功を収めるプレイヤーもいるが、「Shadowverse」からカードゲームを始めたプレイヤー達が結果を出しているのも非常に興味深い。
また、毎日のように「先攻が」「後攻が」という愚痴にも似た話が飛び交っているが、そんな彼らも大会で優勝するためには「Magic ; the Gathering」のイノベーター達のように勝率100%を目指さなければならない。つまり先攻でも後攻でも勝利する必要があるのだ。
先日開催された「RAGE Shadowverse 2018 winter」ではロイヤルクラスの躍進が注目されていたが、そのデッキリストを見ると先攻での勝ちやすさは当然として、しっかりと後攻でも勝つための工夫がなされている。
リアクションカードとして優秀な《簒奪の蛇剣》、2面処理に貢献する《魔導狙撃士・ワルツ》、そして後攻4ターン目で最も破壊力が増す《先陣の騎兵》が3枚ずつ搭載されているリストが上位で多数見られた。
今回の記事で私が強く言いたいのは、どのゲームでも勝ちたいと思っている競技プレイヤー達は、きちんとゲームのシステムに向き合っているということだ。そして事実、その努力の結晶が勝利へと結びついているように思える結果だった。
もしかすると「Shadowverse」は「Magic ; the Gathering」のプレイヤー達の試行錯誤と苦悩の歴史をなぞっているだけかもしれない。ただその先に本当の最適解と勝利の栄冠が待っていると私は信じてやまない。だからこそ見届けたいと思うし、カードゲームは面白いのだ。
ちなみに「Magic ; the Gathering」のその場でパックを開封して出たカードのみでデッキを作成する、所謂限定戦、特にシールド戦においては後攻の方が優勢にゲームを進められる、という有力プレイヤーからの突然の戦略情報が世界を駆け巡った際の衝撃が今でも忘れられない。カードパワーが低いデッキ同士の戦いになれば強力カード1枚の差で勝負が決することも少なくないため、また序盤の動きの安定性を考慮に入れての後攻戦略だったと記憶しているが、当時はそれでも先攻優位論が根強かったし、未だに後攻を宣言すると驚かれることもあるくらいだ。この考え方も実は「Shadowverse」の2Pick戦に確かに受け継がれている。
たまにはカードゲームの歴史をひも解くのも、思わぬ発見があって面白いかもしれない。
この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。
コメント1件