名の無き人の、名も無き地図

世間知らずが、世間知らずなりに考えたことをまとめ、書いていきます。

「スクールバスの幅寄せ騒動」に浮かぶ疑問 | 必要なのは、自転車へ向けた配慮だけ!?

つい最近、自転車への「バスの幅寄せ騒動」が話題になっている。
事の発端は、とあるUberEatsの配達員がTwitterに投稿した動画である。配達員の胸に取り付けられた小型カメラが、雨の都内を自転車で走行中、バスがギリギリのところを追い抜いてゆく様子を捉えていたのだ。


バスの運転が悪質であることは言うまでもない。だが、「バスが悪い」とだけで片付けてよい問題でもないと思うのだ。バスが悪いという意見が多くある中で、僕は自転車側にも問題点があると思わずにはいられなかった。



バスの運転も問題だが...
まず、動画のバスの運転は非常に危険であり、悪質である事に異論はない。バスの運転手は「お前がトロトロ走ってっからだろうが」と言っているが、だからといって無理な追い越しをして、配達員の命を脅かしていい訳がない。「(自転車は)歩道を走れ歩道を」という発言からも、運転手の道路交通法に対する甘い認識が露呈しており、プロの意識として重大な問題があると言わざるおえないだろう。
また、上に掲載したツイートにおいてバスを叩いたことを批判するリプがあるが、バスを叩いたことに関しては仕方がないだろう。自分たちが危険であることを一刻も早く運転手に知らせる必要があるのだから、至って合理的な判断である。バスが停車してから叩いたことに関しては余計であると思うが、おおむね妥当な行動であると言えるだろう。
だが、自転車側に全く問題が無かったかといえば、そういうわけではない。自転車側にも気になる点がいくつか確認できる。
まず、動画開始直後を確認すると、横断歩道から車道に入っていることが伺える。自転車は車道を走らなければならないから、停止線の後ろか、せめてその近辺で停車していなければならないはず。不自然な入り方にもかかわらず、手信号も無し。このような入り方は、後ろのバスにとって快いものではなかっただろう。

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上記ツイートの動画より

また、バスを叩いた所まではよい。しかし、問題はこの後だ。バスの停車後に左側をすり抜けていったこと。これはいただけない。あれほどバスに接近した場所ならば死角に入っている可能性が十分にあり、もし、再びバスが発進したらならば更に危険な状況になってしまう。
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上記ツイートの動画より
バスの危険な運転に対して文句を言う割には、自身は危険な場所へ何のためらいもなく侵入していく。「自分の身は自分で守る」という意識が希薄で、自身の安全を他人任せにしていると言わざるおえない。
また、運転手に向かって「危ないだろバカ」としか言わなかったことも流石に擁護できない。「何がおかしいんだよ」という運転手の質問(運転手の言い方にも問題があるが)に対してまともに取り合わず、会話を成立させようという態度がまるで見られない。運転手も配達員も、共にただ一方的に罵るだけで、相手に苛立ちをぶつけるだけに終始していた。「自転車側のスペースが無くて危なかった」と、冷静にかつ具体的に伝えられなかったのだろうか。
また、警察を呼んだりせず、状況が有耶無耶なまま立ち去ってしまったことも良くないだろう。Twitterに動画を乗っけて事態を大きくし、後から「告訴も考えている」などとグチグチ言うのならば、その場で決着してしまえばよかったのに。
走行中のバスとの接触や、運転手にリュックサックを掴まれるなどしたのだから、警察を呼ぶための合理性は十分にあったはずだ。


バスの運転手に悪意はあったのか
様々なメディアやSNSの投稿では「バスが悪意を持って幅寄せをした」ということにしてしまっているが、客観的に考えると疑問符が付く。
動画を確認すると、現場の車線は狭く交通量が多いことが確認できる。このような状況なので、自転車のために残せるスペースがどうしても少なくならざるおえなかったのだろう。

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上記ツイートの動画より
確かに、運転手は自転車のために作れるスペースが少ないと判断して、無理な追い越しをするべきではなかった。ただ、おそらく運転手にそれほど明確な悪意はなかったのではないだろうか。
そんな中、配達員から「危ないだろバカ」と乱暴に言われれば、バスの運転手が「頭のおかしい男が喧嘩を吹っ掛けてきた」と思っても致し方ないのではないだろうか。もしかしたら、バスの運転手にしてみれば「サイクリストにちょっかいを出され、一方的に罵られた」と思っていたかもしれない。配達員が、せめて「運転手に悪意は無いかもしれない」という意識を持ち、それに準じた言動を取れば、ここまで大きなトラブルには至らなかっただろう。


必要なのは想像力
この動画や一連のツイートを見る限り、バスの運転手も、配達員も共に想像力が欠如していたと言わざるおえない。そして、このトラブルは両者の想像力の欠如によって引き起こされたのだろう。運転手はスレスレで追い抜かれ、命の危険を感じた自転車側の気持ちを汲み取るべきだったし、配達員もバスがおかれている状況から運転手の意思をもっと想像するべきだった。両者とも頭に血が上り、相手に対し一方的な思い込みをしていた。
このような想像力や冷静な思考、判断の欠如は、つまらないトラブルを引き起こすだけにとどまらず、道路を利用するにあたって悲惨な結末をもたらしかねない。「ここで前の車をすり抜けたら、ドライバーはどのように感じるだろうか」「前方の歩道を走行する自転車は、車道に入ってきそうか」といった想像を怠り目測を誤れば、大きな事故に繋がってしまう。それが、立場が大きく異なる乗り物同士ならなおさらだ。
交通ルールを守ることはもちろんであるが、それだけやってりゃ安全が保証されるとは限らない。常に周囲の状況に注意を向け、相手の振る舞いを想像し、気を配ることではじめて安全が生まれる。バスが自転車に気を配ることは当たり前だが、自転車にだって必要なことなのである。
もし、バスが無理な追い抜きをしなかったら。そして、自転車はバスが追い抜けないことを確認して、次の交差点あたりで歩道に逃げて、バスに道を譲っていれば。もしくは、青信号で発進する時点でバスを見送っていれば、あんなトラブルは起こらずに済んだはずだ。
以前書いた歩きスマホの記事の最後に、互いが譲らなければ譲り合いは成り立たないと書いたが、まさしくこの場合にも通ずる話であるだろう。動画を投稿した配達員は「次からは車道の真ん中を走って追い抜けなくしてやろう」なんて投稿をしているが、そのような者に誰が気を配ってやろうと思うだろうか。


このような傲慢な態度に基づいた行動を路上で行えば、それは相手が自らに向けてくれる気配りを妨げ、やがて自分の首を閉めてしまう。それでは、決して安全はやってこないだろう。


自転車側の工夫や配慮も必要
残念ながら、日本の道路事情は自転車にとって良い環境でない。僕も毎日交通量の多い道を自転車通学で使っているし、趣味でよくツーリングに出掛けた経験があるからよく理解できる。バスやトラックに怖い思いをしたことだって山ほどある。だが、それにブリブリ文句を言っていても、すぐに状況がよくなるわけではない。
もちろん、車のドライバーに対し配慮を呼びかけたり、行政に自転車専用レーンの整備を進めてほしいと求め、声を上げることも大切だ。だが、現状を鑑みて、今の環境をある程度飲み込み、それに応じた乗り方をすることもまた大切であると思うし、それが安全への近道でもあるとも思うのだ。日本の狭い道路では、自転車のために残せるスペースには限界があり、どうしても自動車側が配慮しきれない領域ができてしまう。だから、道路を安全にかつ円滑に利用するためには、自動車が自転車に対して配慮する一方、自転車だって自動車に対して配慮し、自衛する必要がある。
例えば、交通量が多く道幅が狭い道路を避けるとか、回りの車が予測しえない不可解な走行を避け、手信号を活用し、自転車の意思を汲み取れるようなふるまいをするとか、どうせすぐ車に追い抜かれ、そのたびに危険な思いをするのだから、信号待ちでむやみやたらにすり抜けをしないとか、信号で停車するたびに後方を確認し、車の台数や大型トラックがいるかをチェックするとか、そこで大型トラックやバスがいるならば自転車を降り、歩道に逃げるとか...。
そして、ある程度接近した場所で車が通りすぎることについては、そういうもんだと割り切るしかない。それらの工夫や我慢ができないのならば、交通量の多い都内や細い峠道で自転車に乗ることは控えておいた方が良いだろう。
車のドライバーが自転車に対して細心の注意を払い、自転車の安全を脅かしてはならないことに関しては言うまでもないし、動画のバスのような運転が非常に悪質であることに異論はない。だが、自転車に向けられた気配りだけを宛にしたり、調子に乗ってもいけない。車が自転車に対して注意を向ける一方、交通弱者も相手に対する気配りが必要だ。
そして、動画にあるような「アイツが何がなんでも悪いのだ!」という傲慢な態度は、決して安全をもたらしてくれない。そのような態度は、せいぜい不要なトラブルを引き起こしたりするのに役立つだけなのである。