2020.01.24
登山愛好家のみなさん、こんにちは。山岳写真家の山写です。
山岳写真というと稜線のイメージが強いですが、山行で考えると樹林帯を歩いている時間の方がほとんどなケースも少なくありません。
そして低山では山頂付近も樹林帯であり、広い空や広大な稜線を撮ることができない山域も多くあります。
そこで今回は、一眼レフカメラやミラーレスカメラを使った山岳写真術のスタートとして、ほぼすべての山にあると言っても過言ではない「森」にスポットを当て、美しい自然を撮るための技術をご紹介します。
森を思い通りに表現できるようになれば、どんな山、どんな天候でも山岳写真を楽しむことができるようになります。
山写
山岳写真家
PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED
それが分からないうちから登山に必要ないものを背負って山に登ると遭難のリスクが高くなります。そこで連載の第1回では「スマホでキレイな写真を撮ってみよう」という写真撮影としてはリスクの少ない方法をご紹介しました。
毎年多くの山岳遭難が起きていることから、撮影機材を背負うのはキチンと登山ができるようになってからでないと危ないことがわかるのではないでしょうか。
そこでおすすめしたいのが、まず森で写真撮影の練習をすること。森からはじめて徐々に山の奥に入っていくことで撮影の練習と登山の練習、装備の調達も順序よく行うことができます。
登山口の周辺や林道の散策がメインになりますので、危険だと思ったらすぐに避難できますし、本格的な高山や雪山に挑戦するのが怖い人も雰囲気を知るためにちょっとだけ山に入れるのでハードルが下がります。山行を終えてからカメラを片手に散策するのもいいですね。
登山初心者の方なら、森の写真を楽しみながら徐々にステップアップして本格的な登山を目指すこともできるでしょう。
稜線からの景観を撮影しようとすると悪天候時では真っ白で何も撮れないことも多くあります。
しかし森の中なら逆に美しい景観が生まれます。森の写真を撮りに行こうという気持ちを持つだけで雨天の山にもウキウキ気分で行きたくなります。
そして登山目的だと積極的には楽しめない雨天時の行動の経験もすることができます。それはこれから目指す3000mクラスの山での山岳写真でもきっと役に立つ経験です。
今回使用したのは一眼レフのPENTAX K-1 Mark IIとミラーレス一眼のNikon Z 6。
山の中にはスマホで写真を撮る人、本格的なカメラで撮る人、色々な人がいますが一眼カメラを選ぶ人は表現の自由度、階調の豊かさを求める人ではないでしょうか。
今回YAMAP MAGAZINEではじめて一眼カメラについて触れますので、前回のスマートフォンの撮影術と比較しやすいように作例はすべて未加工のものを使用しています。
スマートフォンの写真と一眼の写真に違いがあるか、違いはないか。それは皆さんが作例を見て感じてください。
森や山で行動するときにカメラにネックストラップつけて首からぶら下げる携行方法はあまりおすすめできません。長時間歩くと首に負担がかかり痛くなってくることに加え、歩行や登攀でカメラが揺れるため岩にぶつけやすくもあります。
それを防ぐために片手でカメラを支えながら歩き、転倒時に怪我をしやすくなるという悪循環に陥りやすいのです。
そこで必要になってくるのがカメラをザックに装着して携行できるホルダーシステムです。
私が愛用しているのはPeak Designのキャプチャープロ。軽量コンパクトでありながら一眼レフも支えることができます。
撮影時にサッと取り出すことができ、ホルダーに戻すと自動でロックされるので前かがみになっても落下させる心配がありません。
一眼カメラの魅力は露出(明るさ)や被写界深度(ボケ)のコントロールが繊細で、使いこなせば自在な表現ができることです。
美しい光の表現をするためにはカメラの設定やシャッタースピード、F値(絞り)を覚える必要があり練習が必要ですが、まずは楽しく撮影するために設定のすべてをカメラに任せるプログラムオート(Pモード)を使って見ましょう。
デジタル一眼カメラには光をとらえる能力を表すISO感度があります。この数値を増やすと電気信号が増幅され、2倍の数値にすると明るさも2倍になります。この機能を使うことで夕方のような暗いシーンでも高速にシャッターを切ることができるため手ブレ写真が少なくなります。
ISO感度の数値が高くなるほど写真にノイズが入ったりディテールが潰れてしまうデメリットもありますが、この設定をオートにすることでカメラが自動で手ブレを起こさないようにシャッタースピードとISO感度のバランスを取ってくれます。
この機能を使用すればほとんどのシーンで手ブレが起こさずに写真を撮ることができるようになるため一眼カメラの練習におすすめです。
プログラムオートにしただけでは、思うような写真が撮れないことも多いです。
それは写真の適正な明るさをカメラが決めてしまうからです。カメラの考える正しい明るさと、私達の考える正しい明るさが一致しないことがよくあります。
そのときに「もう少しだけ明るくして」「もう少しだけ暗くして」と指示を与えるのが露出補正という機能です。
このようにカメラが設定した露出(明るさ)からどのくらい変化を加えるかを指定することができます。
Nikon Z 6 + NIKKOR Z 24-70mm f/4
このように露出補正を使うことで明るさのコントロールができるようになります。
まずはこのプログラムオート+露出補正でまずは思う通りの明るさで撮れるように練習してみましょう
プログラムオートでの撮影に慣れたら絞り優先モード(メーカーによって表記が異なります)にチャレンジしましょう。
このモードは絞り(F値)の設定により被写界深度(ボケ感)を自分でコントロールできるため、遠近感の強調や被写体に注視させる事ができます。
PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA 70-200mmF2.8ED DC AW
作例では光が差し込んでいる落ち葉に注目して欲しいので、F値を小さくしてボケを大きくしています。
F値を大きくするほどシャッタースピードが遅くなっていく仕組みなので、慣れないうちはプログラムオートのときと同じようにISO感度をオートにして、手ブレしないシャッタースピードを維持すると失敗が少なくなります。
PENTAX K-1 Mark II + FA31mmF1.8AL Limited
「今日は雨だから登山は止めておこうかな」と思うような天気でも登山口付近の森では美しい世界が広がっています。奥に向かうほど霧がかかり自然と奥行き感が生まれ、淡い光になることでコントラストも強く出すぎず美しいグラデーションが生まれます。
こういった色の繊細さ、深さがあらゆる場所に出現します。
Nikon Z 6 + NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
この写真は様々な要素が重なり合って奥行き感と空間を作っています。
まずは基本的な遠近法で手前から消失点に向かって収束するような構図になっています。
それに加えて奥に行くほどかすみがかかり立体感と空間を表現しています。
そして最後に「光」。
上から美しい光がサッと降り注いで葉っぱを照らしています。山の奥に誘うように1つの線を作っているのがわかります。
すぐに避難できる環境だからと雪や雨対策を怠ると体調不良を引き起こします。
例えば撮影に夢中になりレインウェアのフードを被らずにいると、すぐに髪が濡れて身体が冷えてしまいます。
MAMMUT Shelter Glove + finetrak フロウラップグローブ
冬の森に入るのであればグローブをしていないと指先が冷たく我慢できなくなります。カメラは金属部分も多いのであっという間に冷えて行ってしましますので、必ずグローブを着用しましょう。
撮影と保温を両立させるのであればこのようなミトンと薄手のグローブの組み合わせが便利です。
finetrack ポリゴン2UL ジャケット
森の中の散策は運動負荷が高くなく楽に歩くことができますが、その分身体が冷えやすいため行動保温着として薄手のインサレーションジャケットを着用すると快適です。
少し雪が深いところに足を踏み入れると登山靴を履いていても、靴の中に雪が入ってきてしまします。足が濡れている状態での行動は危険ですので、冬季はゲーターも携行しましょう。これで撮影範囲が広がります。
山の中の撮影はリスクがたくさんあります。体温維持や行動に関しては連載第一回目の記事「山岳写真の世界へようこそ#01|スマホでキレイな写真を撮ってみよう」でご確認ください。
PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA 70-200mmF2.8ED DC AW
写真撮影には露出や構図といった「テクニック」と呼ばれるものがあります。
今回は線遠近法と光を使った空間の構築、被写界深度(ボケ)で視点を定めたり誘導する技術をご紹介しました。
けれどもそのテクニックは自分が美しいと感じたものを表現するための手段にすぎません。
Nikon Z 6 + NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
クライミングが好きな人、釣りが好きな人、縦走が好きな人…山は多くの人を受け入れる広さがあります。山への関わり方は人によって違い、それだけ美しいと感じるものも違ってきます。
手本をなぞることも大事ですが、自分の世界を追求していくためのトライアンドエラーに目を向けていただけると嬉しいです。
美しいと感じた山の景色を表現するための撮影技術であり、そこにテンプレートやプリセットは存在しない。大事なのは何を撮りたいと思ったのかです。
あなたが好きな山の姿、思い描いたキレイなものが表現される。そんな写真を追求してみてはいかがでしょうか。
PENTAX K-1 Mark II + HD PENTAX-D FA 70-200mmF2.8ED DC AW
例えば私は森の中では光を見ます。
森はたくさんの光があり刻々とその姿を変えていきます。その光が作り出す美しさを追いかける。それが楽しくて仕方がない。
その繊細な光を捉えるために、まずはプログラムオート設定で撮ることからはじめ、F値をコントロールしてボケの表現を覚える。試行錯誤を繰り返せば、すべてを自分でコントロールするマニュアル設定で思い通りの写真を撮れるようになります。
多くの写真家が「写真は光」を言うように、光はとても奥深く、難しく、それでいて心を掴んで離さない魅力があります。たくさんの光を見ることができる森はその練習に最適な場所であり、そこで得た技術や経験はあらゆる写真撮影で応用できます。それはもちろん北アルプスなどの3000m峰の稜線でもです。
この「森を一眼カメラで撮影してみよう」の後編では、さらに「光」を掘り下げるため写真家・瀬尾拓慶氏と共に「光を探す旅へ in YAMAP MAGAZINE」としてお届けしたいと思います。