楽しかったイベント&酒蔵巡り
というワケで「おでんナイトニッポン」でへべれけに呑んだくれつつ、改めて神奈川県に存在する13の酒蔵を巡り、その日本酒を味わうことができた。イベントはもちろのこと、酒蔵巡りも思っていた以上に楽く夢中で周ることができた。
いずれの酒蔵も規模は小さめながら、それぞれ個性ある日本酒を醸していることが分かったし、これからはもっと身近な地酒を積極的に呑んでいこうと思った次第である。

2019年11月15日に神奈川県の中央部に位置する海老名市で「おでんナイトニッポン」なるイベントが開催された。ニッポンと大きく銘打ってはいるものの、地元の感謝祭といった位置付けの、ややローカルなイベントである。
しかしながら、このイベントでは神奈川県にある酒蔵13蔵の日本酒が集結し、リーズナブルな価格で楽しむことができるのだ。せっかくなので、呑んだくれてきた。
海老名市のJR海老名駅西口で開催されたこのイベントは、去年から始まり今年で二回目だ。寒くなってきた冬の初めの時期に、野外であったかい食事とおいしいお酒を楽しもうというコンセプトである。



この辺りにはかつて何もなかったのだが、近年になって開発がなされた発展目覚ましい新興地区である。駅前の通りには幅の広いプロムナードが設けられており、そこがイベント会場となっているので帰宅する人の目にも付きやすく、通り掛かりの人をも巻き込んで盛り上がるというワケだ。
私が到着したのはイベント開始直後の16時過ぎであったものの結構な人がおり、特に地元海老名市の酒蔵である「泉橋酒造」のブースには、先着300人に地酒1杯(50ml)がセットになったオリジナルグラスが300円で手に入るということもあって、既に行列ができ始めていた。私もグラスが欲しかったので並ぶ。



グラスとセットの日本酒は、できたばかりだという新酒を頂いた。とても爽やかな味わいでスッと入ってしまい、胃の中に火がともる。よーし、エンジンがかかってきたぞ。
とはいえ、さすがにこれ以上すきっ腹に日本酒を入れると効きすぎてしまうので、イベントが本格的に始まる前に食事を済ませることにした。食事の出店も色々あるのだが、ここは「おでんナイト」というイベント名の通り、おでんを頂くことにしよう。




プロムナードに並べられたテーブルの片隅に陣取り、おでんを突っついてるうちに特設ステージの方が賑やかになってきた。どうやら、そろそろ乾杯が始まるらしい。私もまたステージへ移動することにしよう。


乾杯で場が盛り上がる中、二杯目の新酒をキュッと頂く。いやぁ、実に楽しいイベントではないか。
食事も乾杯も済ませたことだし、そろそろ本格的に楽しませて頂くとしよう。神奈川の酒蔵13蔵の日本酒で呑んだくれるのだ。
さぁ、いよいよこれからが本番だ。鼻息荒く日本酒のブースへ向かうと、そこには全13蔵の一升瓶が私を待ち構えていた。


神奈川県というと横浜や川崎といった繁華街や市街地の印象が強く、昔ながらの酒蔵が残っているというイメージはあまりないのかもしれない。
しかしながら、神奈川県の北西部には決して涸れることのない水瓶こと丹沢山地が広がっており、水資源は潤沢だ。県央を流れる相模川や南西部を流れる酒匂川沿いには水田に適した低地も多く、むしろ酒蔵が存在して当然の土地柄だと言える。
いずれの酒蔵も古くから存在する町や村に位置しているのだが、市街地化が著しい茅ヶ崎市や海老名市にも残っていることには驚かされた。
全体的に昔と比べて水田の面積が減ったので、現在は新潟県や東北産の酒米を使っているところが多いそうだが、仕込み水はほとんどの蔵が現地の地下水を使っているようだ。
……とまぁ、酒蔵についてのウンチクはとりあえず置いといて、なにはともあれまずはお酒を頂くとしよう。

このイベントは去年から始まり今年で二回目だと最初に述べたが、実をいうと私は初回の去年にも参加していた。なので今回はお酒の提供方法が前回と異なることに少々面食らった。
去年は50mlのみで、泉橋酒造のグラスに直接注いでもらうことができたのだが、今回はそれはダメでプラカップのみでの提供となっていた。前回はかなり大雑把な感じだったので、二回目の今回はルールをキッチリ詰めてきたのだろう。

今回、新たに登場した120mlは50mlよりオトクなのだが、いかんせん量が多いのですぐに酔いが回ってしまう。なので色々飲み比べたいのであれば50mlにすべきだろう。

とまぁ、そんなこんなで準備が整ったところで、満を持して13種のお酒を頂いていくことにする。……のだが、イベントでは手あたり次第、それこそ次から次にカッパカッパと呑んでいたので、ぶっちゃけ味についての記憶がほとんどない。
その反省の意味を込めて、改めて全13蔵の日本酒を味わうべく、すべての酒蔵を巡ってみた。
一番手はイベントの開催地である海老名市の酒蔵「泉橋酒造」だ。これまでも度々名前を出してきた蔵元であるが、創業は安政4年(1857年)と江戸時代後期にまで遡る。さてはて、そのお酒はどのような味だろう。





泉橋酒造の裏手には田んぼが広がっており、使用している酒米の一部はそこで育てているそうだ。水も米も海老名産ということで、隣の綾瀬市に住んでいる私としては、こんな身近な場所で日本酒が作られているとはまったくもって知らなかった。
辛口とのことだったので少し身構えていたのだが、口に含むとうまみが広がり、甘い香りが鼻を抜ける。喉に通すとピリッとしつつもスッキリ消える、確かに辛口だと分かるドライな後味であった。うまい。
続いては、海老名市から相模川を挟んだ対岸の厚木市に位置する酒蔵だ。丹沢山地の東端に位置する七沢という地区に、文政元年(1818年)創業の「黄金井酒造」が存在する。ここも歴史ある蔵元である。





こちらは香り少なめでスッキリした感じだが、うまみはちゃんと感じる。後味はまろやかでドライな感じない。クセがないのでどんな料理にも合うだろう。これもうまい。
お次はサザンビーチで有名な茅ヶ崎市の香川という地区にある「熊澤酒造」だ。その創業は明治5年創業(1872年)。
近くには小出川が流れており、かつては周辺に水田も多かったのだろうが、現在は完全に住宅街の中に埋没しており、こんなところに酒蔵があったのかとビックリした。




店員さんに聞いたところ、このお酒は丹沢の伏流水を使っているということなので採水地は別にあるのだろうが、商品によっては茅ヶ崎の米と水だけを使ったお酒もあるようだ。
口を付けてみると、華やかな味わいで驚いた。複雑なうまみと香りがあり、甘みも感じるけどべたつく感じはなくスッキリ消える。天青の名の通り、実に爽やかな味わいだ。やはりうまい。

さて、今度は県北地域の酒蔵である。相模原市西部の山間、平成の大合併前は津久井町であった地域にはふたつの酒蔵があり、そのうち中心市街地に位置しているのが「清水酒造」だ。その創業は江戸時代中期の宝暦年間(1751年)と、神奈川県に現存する最古の酒蔵である。




辛口というだけあってキリッとした口当たりだけど、うまみもしっかりあって香りも豊か。寒さが厳しい冬が終わり、春の芽吹きを感じる味わいであった。良い感じにうまい。
旧津久井町の東側に聳える津久井城跡の南麓、根小屋という地区にもうひとつの酒蔵「久保田酒造」は存在する。市街地にある町家風の清水酒造とは異なり、小さな集落にたたずむ農家風のたたずまいだ。その創業は弘化元年(1844年)と、こちらも十分に歴史がある。





ほぉ、これはこれは。甘みも強く、芳醇な香りでうまみも凄い。これまでは辛口のドライなお酒が多かっただけに、余計に濃厚に感じられた。後味も複雑で香味の余韻が残る。これは寝酒に良いのではないだろうか。いやはやうまい。
お次は相模原市の南隣、愛川町の田代地区にある「大矢孝(おおやたかし)酒造」だ。この田代地区には無料でキャンプできる公園があることから度々訪れたことがあり、全13蔵のうち唯一ここだけは最初からその存在と場所を把握していた。
そのキャンプでは、愛川町中心部のモツ屋で購入したシロモツ(シロコロホルモン)をここのお酒で頂くのが定番となっており、個人的に思い入れの強い酒蔵である。




うん、贔屓目を除いてもやっぱりおいしい。口にすると香りとうまみが弾け、軽やかな甘みがやってくる。辛口とは一線を画す芳醇な味わいだ。とてもうまい。
ここからは丹沢山地の南麓にある酒蔵である。昔から雨ごいの山として信仰の対象であった大山の麓に位置する伊勢原市の住宅街に、大正元年(1912年)創業の「吉川醸造」が存在する。




おぉ、これはかなりの辛口だ。酒蔵のたたずまいやラベルから伝わる実直なイメージ通り、実にマジメなお酒である。とても澄んだ味わいの奥に風味や香りも感じられる。堅実にうまい。
続くは伊勢原の西隣、秦野市にある「金井酒造店」である。明治元年(1868年)の創業であり、元は秦野市中心部の元町に位置していたそうだが、より良い水を求めて昭和61年(1986年)に郊外の現在地に移転したそうだ。
秦野は神奈川県で唯一の盆地に広がる町であり、丹沢山地の伏流水があちらこちらから湧き出す水の郷でもある。さぞおいしいお酒ができることだろう。




こちらも口当たりはスッキリとした感じだが、原酒なので度数が高くガツンと来る。うまみも強いけど、何か食べながらチビチビ呑まないとヤバそうだ。イカの塩辛とか合いそう。これはこれでうまい。

富士山麓から丹沢山地の南西部を経て城下町小田原へと流れる酒匂川(さかわがわ)は、酒が匂うという名の通り酒蔵が密集する酒造地帯。残る五軒はすべてこの地域に存在する。

酒匂川の流域のうち、大井町の上大井地区には二つの酒蔵が存在しており、そのうちのひとつが明治3年(1870年)創業の「石井醸造」だ。




これは凄く濃ゆい。うまみと甘みがガッツリ出てるのは原酒ならではだろうか。度数高めなのでたくさんは呑めないが、やはりチビチビやるには良さそうだ。というか、二連続での原酒はかなり効く。それでもうまい。
「石井醸造」からJR御殿場線の線路を挟んだ西側には大井町のもう一つの酒蔵「井上酒造」があるのだが、これが道幅の狭い路地に面していて驚いた。
創業は寛政元年(1789年)とのことで、かつての街道沿いに店を構え、近世の道幅のまま、拡張されずに現在まで至ったのだろう。




おぉ、スッキリとした口当たりながらも華やかな風味がしつつ、うまみと香りも適度に感じられてバランスが良い。原酒が続いたこともあってかとても軽やかに感じる。常飲するお酒に良さそうだ。しみじみうまい。
酒匂川沿岸の三軒目は大井町の北隣、松田町の中心部に位置する「中澤酒造」だ。創業は文政8年(1825年)、JR御殿場線「松田駅」のすぐ裏側にあり、まさに町の老舗といったたたずまいである。




なんだろう、不思議な味だ。いや、うまい、うまいんだけど。甘みが感じられる割にキレが良く、スッキリ呑めるけど芳醇な感じもする。ふわふわしつつ絶妙なバランスを保ってる感じで侮れない。とにかくうまい。
いよいよ残すところは二軒である。松田町から酒匂川をさらに遡り、丹沢山地に片足踏み込んだ山北町に創業明治30年(1897年)の「川西屋酒造店」がある。




おー、おいしい。スッキリ呑めるけど味わい深い。少しピリッとしつつも、遠くにチョコレートのような甘みが感じられる気がするが、全体的にはマジメで一本気な感じである。滞りなくうまい。
いよいよ最後の酒蔵である。山北町・大井町から酒匂川を挟んだ対岸に位置する開成町。その田園地帯の中に「瀬戸酒造店」が存在する。
その創業は慶応元年(1865年)とのことだが、昭和55年(1980年)に自家醸造を中断しており、平成30年(2018年)の3月から仕込み水の井戸と醸造施設を一新し、新たに酒造りを始めたそうだ。歴史ある酒蔵ながら新進気鋭というワケである。



対応してくれたお兄さんは「まだ二年目です」と謙遜していたものの、お酒について聞くと「うちの本醸造は吟醸並みに手間をかけてますよ」とニヤリと笑い自信が感じられた。
確かに本醸造にしては華やかな香りとうまみがあり、少し甘口で飲みやすいので女性にもウケそうだ。これは次はぜひとも純米酒を頂いてみたいと思った。どこまでもうまい。

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