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  • 2020/01/23

囲碁王者に勝利したDeepMindの人工知能は、なぜ次の挑戦に「戦略ゲーム」を選んだのか

囲碁の名人に勝利して話題を呼んだグーグル傘下の人工知能(AI)開発企業「DeepMind」だが、同社が次に取り組んだのがリアルタイム戦略ゲーム「スタークラフト2」だ。同ゲームはそのリアルタイム性に加えて、敵チームに関する情報が与えられないという点で、その意思決定は極めて複雑とされる。なぜAI開発力で注目を集めた同社は「囲碁の次」に戦略ゲームを選んだのか。そこにはグーグルの深謀がありそうだ。

佐藤 隆之

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スタークラフト2のプレイ画面

囲碁王者に勝利したDeepMind社がなぜ「リアルタイム戦略ゲーム」か

 2016年3月、グーグル傘下DeepMind社の開発した人工知能(AI)ソフト「AlphaGo」が囲碁の世界チャンピオンであるイ・セドルに勝利したのは、世界に衝撃をもたらした。それまでコンピュータが人間に勝つのが難しいと考えられていた囲碁で、AIが人間を初めて超えたこともあり、AIブームの火付け役の1つとなった出来事と言えるだろう。

 そのDeepMind社が次の研究対象として選んだのは「スタークラフト2」という人気ゲームだ。一作目は最も多く売れた戦略ゲームとしてギネス認定を受けており、2010年に発売されたスタークラフト2も世界中から人気を集めた。

 昨今では「eスポーツ」としても採用され、総額数百万ドルの賞金がかかったスタークラフト・ワールド・チャンピオンシップやグローバル・スタークラフト2・リーグといった大会が開催されている。

 スタークラフト2は、あらかじめ定められた3種類あるチームの中から一つを選択し、広大な土地をめぐって戦争を繰り広げる。各チームで強み・弱みが異なるため、プレイヤーはその特徴に合わせて戦略を立てる。チームの拠点を建築・防衛したり、敵陣を攻撃したりして、ゲームが進む。また、敵陣の構成や位置を把握するよう「偵察」を行う。

 ゲーム攻略という視点では、戦闘を有利に進めるため、いくつかの戦術が研究されてきた。

 序盤から攻勢に出る「ラッシュ」、防衛施設を固めて反転攻勢を期する「防衛」、自軍の蓄えを増やし相手に先んじる「マクロ」、機動力のある軍を少数差し向けて相手を妨害する「ハラス」、遠隔攻撃やハラスで徐々に被害を与える「包囲」、定石を外して奇襲をかける「チーズ」などの選択肢がある。

 大人が楽しめるような本格的な戦略要素が含まれていることが分かるだろう。



ロジスティクス企業の経営と比較されるほど高度な知的能力が必要

 では、なぜDeepMind社は、スタークラフト2のチャンピオンに挑戦したのだろうか。

 まず、囲碁や将棋に比べて、実世界の状況に近い点が挙げられる。スタークラフト2はリアルタイムにゲームが進行する。囲碁は自分と相手の手を交互に打っていくが、リアルタイム戦略ゲームは時々刻々と変化する状況に応じて、戦略を変更しなければならない。

 打ち手の効果がすぐに分かるわけではなく、時間を経てから、その有効性が分かるため、長期的な視点に立った戦略思考が求められる。

 また、囲碁や将棋では相手が持っている駒がすべて把握できるのと比較し、スタークラフト2では相手の戦略や戦力の配置を「偵察」しなければ、見ることができない。これは「不完全情報ゲーム」と呼ばれ、最適な戦略が簡単に決まらず、意思決定の難易度が高いとされる。

 ニューヨーク大学でAI研究を行うJulian Togelius氏は「スタークラフトをプレーするのは、(行動と結果で時差が発生する)ロジスティクス(物流網)を持った企業の経営に似ている。適切な資源、研究開発、構成員を最適な場所とタイミングに配置しなければならない」と述べ、AIが同ゲームに挑戦する意義を評している。

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「不完全情報ゲーム」は意思決定の難易度がさらに高いという
(Photo/Getty Images)

 具体的に数字で示すと、囲碁で考えられる局面数は10の170乗通りあるのに対し、スタークラフト2は最低でも10の270乗通りあると言われる。囲碁以上に複雑な選択肢の中から最適な行動を選択するのは、AIの新たな可能性を示すものと考えられた。

【次ページ】チャンピオンさえも驚かせる戦略を考案したAIプログラム

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