現代背景に挑戦してわかったこと
──夕日をはじめ、光の印象が強い背景ですが、何か明確なコンセプトがあったのでしょうか。
神谷制作初期に、現代世界をアート的に背景で表現する方法についてはずっと相談をしていましたね。それで背景担当の山下大地くんに実際に描いてもらったのですが、思った以上にアーティスティックになってしまい、悩んでいたようです。
前納でも、キービジュアルを含め、当初に考えていた雰囲気は残っていると思いますよ。
神谷そうだね。「ワンカラーで統一して、光がきれいな感じで」というお願いは残っていますね。でも、最終的には背景スタッフのセンスで成し遂げられています。『ドラゴンズクラウン』など、いままでは2Dの背景でしたが、本作は初めて3Dで奥行きも あるので、背景にもすごく時間がかかりました。
平井過去のファンタジー作品なら、奥行などをデフォルメしやすいのですが、現代の背景ではそれはすごくおかしなことになるという問題もありました。
神谷それに関係しますが、『朧村正』の杉林は、同じ背景の使い回しでも、さっきとは別の場所として認識できるんですね。ですが、たとえば歩道橋のある現代の交差点だとそれができないんです。「ここ、同じ場所じゃん!」と、 すぐにバレてしまうんです(笑)。いま考えると、当たり前なことなんですが。
──流用できないということですか。使い回せるとしたら、教室や廊下などでしょうね……。
前納弊社はスタッフが少ないので、リソースが限られているなか、なんとか背景を使い回して違うシーンを作るということをいままでやってきたものですから、その手段が使えないのには苦労しました。
神谷シナリオ面でも手段を封じられた感じになって。芝居の台本みたいに決まった背景で話を作っていましたが、パーツの決まったアニメーションに芝居をさせるのにも限界があり、それらを解消しようとすると全部グラフィックに跳ね返るんですね。それを極力防ぐために、“演技が固定されている芝居を演出する”ということをひたすらやっていました。
──でも、それほど固定されているように見えません。「こんなモーションを持っているんだ」とハッとした瞬間も多かったので。
前納そう思っていただけたらうれしいです。
“崩壊編”のデザインコンセプトとUI
──青で表現されているコックピットのキャラクターは、どういうところからのイメージでしょうか。
平井神谷さんが「青がいい」と言っていました。冬坂が搭乗している最初の絵がすでに青だったので。
神谷あの絵をベースにしてくれていたのか。青ならカメラ映像っぽいし、なんか『エイリアン』(※)っぽくもなるのでいいなと思っていました。
※リドリー・スコット監督による1979年のSFホラー映画。主人公たちが乗り込む宇宙貨物船のレーダー画面が青基調。また、宇宙船の船内自体が青っぽい光で演出されている部分が多い。
──ロボットやフィールドの無機質さとも相まって、SFの雰囲気を強く引き出していると思います。
神谷バトルパートは、「作戦モニターっぽく」という方針だったので、背景など全体的にそういう雰囲気にしてくれたみたいです。
──怪獣が独特のホログラフ風に描かれていますが、そうした理由は何だったのでしょうか?
神谷最初はもっとドットの記号的な怪獣だったんですが、シガタケくん(※)がノリノリで、立体ホログラムみたいにしてくれたんです。
※ヴァニラウェア所属のデザイナー。愛らしいキャラクターが得意で、『くまたんち』のディレクターでもある
前納怪獣は、企画当初から抽象的な表現にするということになっていたと思うんですが、それにはどういう理由があったんでしたっけ?
神谷理由は何個かあって……。戦略ゲームなので、「イージス艦のCIC(戦闘指揮所)の戦略画面みたいにして、ミサイル迎撃ゲームみたいにできたら燃えるんじゃないか?」という考えがまずありました。
──フォトリアルではないだろうと。
神谷そうですね。考えたのはいいけれど、「こんな画面でも許されるのかな?」と悩みました。そのときに『ガンパレード・マーチ』(※1)の戦闘画面を見て、「こんな感じでもイケるぞ」と強行したんです。爆発などは『ファンタビジョン』(※2)みたいに、景気のいい花火みたいなのが上がるといいなと……。
※1 2000年にソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)が発売したプレイステーション用ソフト。正式タイトルは『高機動幻想ガンパレード・マーチ』。幻獣軍と戦う使命を与えられた学生兵士たちが、生き残りを懸けて日々を送るシミュレーションアドベンチャー。
※2 2000年にソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)が発売したプレイステーション2用アクションパズルゲーム。夜空に打ち上がる花火がモチーフで連鎖などをさせる。
前納『ファンタビジョン』! 懐かしい(笑)。
神谷「きれいだったら女子も遊んでくれるんじゃないかな」と思って。そんなワケないか(笑)。
一同 (笑)。
もうセリフは変えちゃダメです
──素朴な疑問ですが、本編に先駆けて発売された『十三機兵防衛圏 プロローグ』のクラウドシンクにはキーワードのボイスがありませんよね。体験版でボイス付きになったのは、作業工程の事情ですか。
山本ボイスの収録自体は終えていたので、『プロローグ』にも実装することは可能でした。ただ、本編のクラウドシンクに声が当てられるかがその時点で不明だったため、『プロローグ』では見送りました。
神谷僕は最後の最後までセリフを調整したかったので、「発売日が延期にならないなら、ボイスはナシにしませんか?」と何度も提案したんです。でもボイスはありで、発売日も変えられないと。
──ギリギリまで作業されていたと。
神谷シナリオが書き上がったら即収録という感じで、「もうこのキャラクターは収録し終わりましたので、セリフは変えちゃダメです」と言われたこともあって。オチで登場させる予定だったのに、それができなくなったから、別のオチを考えなくちゃならないなど、初めての経験もありましたね(笑)。
──ということは、マスターアップするギリギリまで声優さんの収録は続いていたのですね?
前納そうなんです。確か、5~6回くらいに分けて収録していました。
神谷そういう忙しさが10月アタマまであって。だから僕がシャバに出たのは、つい最近ですよ(笑)。
山本とにかく、東京ゲームショウが終わっても作業していましたね。
神谷東京ゲームショウのタイミングは、まだバトルパートのセリフを書いていましたからね。「『十三機兵防衛圏』が日本ゲーム大賞のフューチャー賞をいただいたから、授賞式に出てください」と言われましたが、もうそれどころじゃない状態でした。
もうこんなゲームは二度と作れない
──改めて、『十三機兵防衛圏』とはどんなゲームなのでしょうか。発端は『グリムグリモア』のRTS部分をリベンジしたかったということでしたが。
神谷『グリムグリモア』はRTS+アドベンチャーとして考えた企画だったんですが、制作時間が足りずに単にドラマを見ているだけになってしまったので、もう一度そこにきちんと向き合いたかったんです。あとはロボットとSFの全部乗せをがんばってみました。最後までちゃんとしたものを作っているので、安心して遊んでいただければいいなと思います。
──神谷さんが学生時代に体験したこと、好きなことの集大成なのですよね。
神谷そうですね。僕の中ではいいものばかりで固めて、デコレートしています。
──とするとターゲットは神谷さんと同世代の人々?
神谷それは先ほども言いましたが、もともとわりと小規模で考えていた企画が、途中で大きくなって性質が変わってしまったので……。僕くらいのオッサンなら絶対にフックはあると思いますが……。
山本『十三機兵』は、神谷盛治というクリエイターがこれまでに出会って惹かれてきた、さまざまなコンテンツが織り込まれたモザイク画のような作品です。その「好き」の部分に共鳴することもあるでしょうし、13人の主人公たちいずれかの視点で物語をたどるプロセスが、いつのまにか自分自身の体験にリンクしていく感じもあります。言ってみれば誰にもフックする物語。ですから15歳以上の方は、皆さん手に取ってほしいんです!
──さまざまなコンテンツの要素を詰め込みつつも、ひとつの作品として完成していると。
山本『オーディンスフィア』のときから僕は、「こんなド直球で愛を語るシナリオってあるか?」と思っていましたが、『十三機兵』にはそれらの倍以上の主人公がいて、それぞれの愛憎が入り乱れているさまが描かれています。それらを俯瞰で見たときに、戦後から物語の時代にまで及ぶ、人の営みに対する慈愛の視点を感じたんですね。僕の勝手な受け止めかたですが、「人はさまざまな課題に直面するけど、乗り越える意志を持っていれば、歩みを止めなくていい」と励まされている気がして。
神谷すごい。そんな作品なんだ(笑)。
山本主人公たちの歳である16歳前後って、社会の構成員となる手前。急に社会のしがらみと直面するころですよね。彼らが対峙する社会は汚い大人たちが作り上げた醜悪な世界なんだけれど、参画せざるを得ない。思春期って「そんなのは嫌だ!」と葛藤するものだとも思うんです。だからその瞬間というのは息苦しくて生きづらいけど、「それはすべての世代の少年少女が通過してきたことであって、君だけで抱えるものじゃない。世界には醜いものだけではなくて美しいものもある。そしてそれは前の世代から引き継いだ宝物であり、前の世代を恨んでいても人間の課題は解決しないし、いずれ君の世代がつぎの世代にバトンを渡す日が来る。君の今日の営みはそのためのものになっているのかい?」と僕はこの作品をプレイして、そう問われているような気がしました。
神谷すごいですね。僕もびっくりしましたけど。
一同 (笑)。
山本ゲームというメディアに限らず、いろいろな創作物の中で、ここまでの視点で、ここまでのボリュームで、ここまで広く深い愛を提示している作品がほかにありますか? 僕はないと思うんです!
神谷ちょっと、こわ、怖いです(笑)。
山本と、引かれるくらいにヤラレています(笑)。
──ロボットと少女マンガというフィルターの先に、ごく普遍的な人類愛が込められているということですね。
山本魅力的なキャラクターがいて物語として楽しめるのはもちろんなんですが、プレイし終えたときに、僕自身、プレイヤー自身の人生までも包容する帰結を感じたと言いますか、全部がつながって、明日の糧になった感じがしたんですよね。
神谷ありがとうございます(笑)。とにかく『十三機兵』は時間がかかりすぎたプロジェクトなので、反省点ばかりが思い出されますね。2018年の東京ゲームショウ後の食事の席で、あまりの足踏み状態にアトラスさんに怒られ、見切り発車をするしかなかったこととか、3年ほどプロットを書き直し続けて気が触れそうになって夜中に叫んだりとか。「完成してよかった!」というバイアスのせいで、山本さんみたいな話ができないのかも(笑)。
山本僕もこの作品に人生を捧げた当事者としてのバイアスがかかっていて、全肯定しかできないのかもしれません(笑)。でも、登場人物たちの視点の中にきっと寄り添える価値観があって、そこに乗っかって物語を紐解いていくと得られる肯定感があると思います。「僕みたいなオッサンにも、これほど心に刺さる作品だ」ということは伝えたいです。
一同 (笑)。
──じつに心を揺さぶられるお話でした。山本さんの熱意に動かされ、ひとりでも多くの人がこの作品をプレイしてくださるといいですね。
神谷だけど、“愛を描いた”はちょっと違うような気がするかな(笑)。じゃあ何だったかと言うと……確実に僕向けではあるんですが……。
前納僕たちは近すぎてわからないのかもしれませんね。でも、絶対にこんなゲームはほかに出てきませんし、直接の続編は絶対作れない。死ぬほど貴重だと思います。よく完成した、という感じなので。
平井奇跡。
神谷もし、間違って売れても、僕はもう作れませんよ。アトラスさんも許可しないでしょ(笑)。
一同 (爆笑)。
応援次第で拡張コンテンツの可能性!?
「完成したことが奇跡」と語り終えた皆さんに、今後の展開について想定はあるのか尋ねたところ、「制作途中ではダウンロードコンテンツをやりたいという話があった」と、ワクワクする答えが返ってきた! 確定ではないが、声援があれば実現するかもしれない。
──ダウンロードコンテンツなどは……?
神谷『十三機兵防衛圏』の本編はこれで完結です。でも、現代ものを作るチャンスはそうないと思うので、背景やモブキャラクターを使って、別のゲームが作れるかなと思って。
前納本編とは異なる短編の別ゲームですね。『朧村正』のDLCとはまた違った感じで。
神谷僕としては『ファイナルファイト』や、『くにおくん』みたいなものを作ったりしたいですね。あとは、『夕闇通り探検隊』みたいなサスペンスものだとか、猫のライブシミュレーターみたいなものとか。いろいろなものができそうだなと……。
──劇中劇とは違う楽しさがありそうです。
山本ぜひ実現させたいですね!