設定が絵を生み、絵が物語を創る

──13人の主人公について聞かせてください。

神谷制作初期では、『十五少年漂流記』をベースにしようとしていたころもありました。郷登はゴードン、黒州(薬師寺の前身)はクロッスから。

前納もじっているんですよね。ほかに名前に数字を入れようと言っていたころもありました。

平井……主人公を100人くらいにすると言っていた時期もありませんでしたっけ?(笑)

神谷ええ? そんなこと言ってた? もういろいろ言いすぎて、自分では忘れてしまった(笑)。

──(笑)。平井さんは、神谷さんからどのようにキャラクターデザインを依頼されたのですか?

平井『十五少年漂流記』と言われていた段階で、いちおうテキストで書かれたプロフィールをいただきました。でも、その後はとくにありませんね。

神谷「なんか描いてくれ」みたいな感じ(笑)。

平井「昭和何年のキャラクターで、真面目な奴」程度の、フワッとした指示を口頭で(笑)。そこからイメージしたものを描いて提出すると、神谷さんからより具体的に指示があるので……。

──明確なイメージが頭の中にあるのですね。

神谷いえ、絵から決まるものもありましたから、そういうわけでもないですよ。たとえば保健室にいる森村先生は、平井さんから上がってきたものを見て、「このキャストに話をつなげる構造を作ったら成立するな」と思いましたし。猫(しっぽ)なども、「ヴァニラウェアと言えば猫だから」と言って、薬師寺が抱いている立ち絵を描いてくれたので、そこからキャスト化しました。

平井じつは、薬師寺は制作途中で東雲のデザインと入れ換わったんですよ。当初の東雲はいまのか弱そうな感じじゃなくて、元気というか、気が強そうな子でした。一度決定していたのに、ひと晩明けたら「やっぱり髪はストレートのほうが、冬坂のウェーブと対比になっていい。白と黒というのもいい」と、神谷さんが(笑)。

神谷魔女っ子メグちゃん』(※)みたいな対比(笑)。あのアニメも、ライバルはストレートヘアなので。

※1974年の魔法少女アニメ。主人公はウェービーな赤毛。ライバルは青いストレートヘア。

平井キャラクターは対になるようなデザインがけっこう多いですよね。沖野と比治山とか……。キャラクターは木田さん(※)がデザインしたものもあります。「とりあえず描いてみて」と言われて描いたものの中から、「これはいいね」と神谷さんが選んだものが、いまの鷹宮になったりもして。

※ヴァニラウェアのデザイナー、木田恵美可氏。『ドラゴンズクラウン』の各種アートワークなどを担当。

前納その時点の鷹宮はまだ、いまみたいな『スケバン刑事』(※)でもなかったんですよね?

※同名のマンガの1985年の実写化ドラマ。主人公の麻宮サキを斉藤由貴が演じた。

神谷おとなしい、寺の娘とかだったような。でも、寺の背景を用意するのがたいへんなのでやめました。

前納こんな感じでコロコロと設定が変わるんです。

神谷南と緒方は幼なじみで、家が隣りどうしで。パジャマ姿の南が隣りの家の窓を見ると、緒方が覗いている、みたいなシーンもありましたけど。こうして言葉にするのは簡単ですが、グラフィックにしようとするとすべて専用素材になりますから。

──2013年の年賀状に描かれていた3人の女の子のデザインは、ほぼ継承されていますね。

平井あれが『十三機兵防衛圏』のコンセプトアートなので、ここから大きく外してはいけないと思い、要素を引き継いで13人の中に入れ込んでいます。いまは左から薬師寺、冬坂、南になっていますね。

──その女の子のチャームポイントというのも、神谷さん好みのフィルターがかかっているのですか?

神谷設定はそうですが、デザインに関しては平井さんに任せています。……まあ、僕が妄想で言うことを、がんばって形にしてくれたんですね。

平井たとえば南の部室のシーンでは、「着替えシーンがあればいいなあ」とか、ありましたね(笑)。

神谷“健康少女”だとは言っていたよね(笑)。

──少女マンガというコンセプトもありますし、やはり女の子がメインなのでしょうか。

神谷そうですねえ。冬坂などはアートワークの印象に反しておっちょこちょいなんですが、滑稽なシーンは、やはり女の子より男の子のほうが、おもしろくしやすかったですよ。

何をやってもうまくいかなかった

神谷話の構成は、『中学生日記』(※)のようにしようと決めていました。生徒ひとりひとりにスポットを当てる長寿番組で、討論形式だったりしておもしろかったんですよ。あの人数でドラマが成立しているのだから、主人公が増えても大丈夫だと思いましたが……甘かった(笑)。

※エピソードによって主人公が入れ替わる、中学生の学校生活、家庭生活にまつわる諸問題を描くドラマ。1972年から40年間NHKで放映されていた。

前納たいへんでしたね。

神谷「アメリカのドラマっぽく展開したら、絶対にウケる! なぜ誰もやらないの?」と言っていましたが、そりゃ、やらないワケです。

前納僕がプレイステーション Vita版の『朧村正』のダウンロードコンテンツを担当していたときは、神谷さんがシナリオを書いて、僕がスクリプトを組んでいたんですね。だから今回も同じくイケると思ったのですが……。

神谷やってもやってもうまくいかなくて、原因がわからないまま1年が過ぎました。そうしている途中にも『ドラゴンズクラウン・プロ』などを制作しましたが、そちらでもパッケージを描かなければならなかったりして、なんやかんやと僕の手が止まってしまうんです(笑)。それで「構想から何年も経っているのに、作りかたさえわからないのはアカン」と、僕がスクリプトを触ることになりました。

──それで原因は判明したのでしょうか?

神谷“成立しない問題”があることがわかりました。キャラクターのアニメパーツは、“歩く”や“待機”といった基本動作用のものを活用していました。つまり、シナリオをもとに作ったわけではなかったために、組み合わせたときに違和感が出ていたんです。たとえば真面目な三浦が謝るシーンがあったとして、セリフでは心から謝っているんですが、動作は腰に手を当てているんですね。それで渋い表情をしているから、どうも反省していないように見えるという。

──基本動作では十分な演技に対応できないと。

神谷これを解決するには、手を下したポーズを作ってもらうか、シナリオを変えるしかないんですよ。その判断ができるのは、けっきょくシナリオ担当の僕だけです。だから僕がスクリプトで試して、うまくいかなかったらシチュエーションやセリフを変える。それでもダメだったらグラフィックを発注する、ということを、工数を見つつ判断していきました。ぶつかりながら掘る、という感じですね。

──それは……ものすごい決断でしたね。

神谷スクリプトのコマンドも実験段階で、使ってみないとわからないことが多くて。新しいコマンドを応用してみるのも、デバッグも僕だったんです。

──かなり時間がかかるのではないでしょうか。

神谷そうなんです。でも、「迷っている時間があったら掘れ!」と、ひとりでガリガリやりましたね。

──アドベンチャーとシミュレーションを合わせることも、最初の構想にあったのですか?

神谷ありました。もともと『グリムグリモア』で実現できなかったことをやるつもりでしたので。あと、アドベンチャーパートは、『シェンムー』みたいな感じにしようと考えていました。

前納時間制限とかがありましたね。

神谷そうそう。強制的につぎのシーンに移行する、タイムアップなんてのもありました。僕はいい案だと思っていたんですが、スタッフには不評で(笑)。「正解のルートが見つからないと総当たりになるから、なんだかデバッグをしているみたいだ」と。

前納30秒経つと新しい生徒が教室に入ってくるとか。そんなの待っていられないですよね(笑)。

神谷そういうことを実験していたのが2017年の夏で、けっきょくアドベンチャーゲームのツリー構造のような形になりました。僕としては、よくある形になって、世界で通用するか不安でしたけどね。

必然的に構築された独自のシステム

──ゲームを“追想編”、“崩壊編”、“究明編”と切り分けたのはなぜでしょうか。

神谷最初の構想では、アドベンチャーの合間にバトルが挟まれていましたが、これも「強制されるのがストレスになる」とスタッフに不評だったんです。

前納シナリオ的にアドベンチャーとバトルがつながることを想定していたのですが、ある段階からそれがつながらないように変える判断をしました。

神谷当時リアルタイムストラテジー(以下、RTS)パートも迷走していたんですよ。海外ではきびしめ、日本では緩めの難度が好まれるために、どっちつかずのものになってしまうということは、『グリムグリモア』で感じていましたので。であれば、RTSベースでタワーディフェンスにすれば、まだ日本のプレイヤーにも敷居が低いかなと思いまして。そこにロボットのカットインを入れようとしていたんですが、…… じつは、ロボットを描けるスタッフが少ないという衝撃の事実がわかって(笑)。

前納そもそもリアルタイムのゲーム性とカットインは、合わないということもあります。

神谷ゲーム全体が見通せておらず、どのくらいのカットインが必要なのかということもわからない時期でしたし……。アドベンチャーを優先すると設定がゲーム性を制限する可能性があったので、まずはRTSを好きに作ってもらい、それをアドベンチャーにフィードバックするスタイルを取ることにし直し、RTSも一度すべて作り直しました。

前納アドベンチャーパートでは、各主人公のシナリオに謎の断片が詰まっていて、それを追うことで共通世界の謎が解けるように設計されています。でも実際にプレイしてみると、謎が謎を上書きして、頭に入り切らなくなってしまうんですよね。

神谷書いている本人もよくわからない(笑)。

前納(笑)。だから、ゲームではその感覚を楽しんでもらって、あらためて復習しながら考察を深めてもらえたらと思い、“究明編”を作ったわけです。

──取材前に、人と事件を時系列の表組みにしたメモを作って進めていましたが、その後“究明編”を見たら、きれいにまとめられていたので驚きました(笑)。

山本じつはアトラスでも、テストプレイで、お話とまったく同じような表組みを作っていました(笑)。

前納時系列の矛盾をチェックするときに、そのアトラスさんの表組みが重宝されたんですよね。

神谷“聖典”と呼んでいました。シーンを成立させるために、シチュエーションをどんどん変更したので、「鷹宮との初対面が二度あります!」みたいな時空のねじれが発生したりするんですよ。そういうときは「聖典で確認して!」と(笑)。どの主人公の視点からも謎は一部しか解明されません。ゆえに誰から進めてもいい、というものを目指したのですが、めまいがするほど難しかったですね。

前納つまり、体験する順番が違うことで、プレイヤーにバイアスがかかるようにしたかったんです。

神谷“誰を選ぶかによって印象が変わる、間口の広いもの”を、ということですね。あとは、アドベンチャーゲームで話をおもしろくしようと考えたなら、内容を絞り込むのは必須と思い、いまの落としどころになっています。

──“クラウドシンク”もかなり特徴的ですね。

神谷“調べる”や“アイテム”といったコマンドをキーワードという形にして、管理を一元化できないかと考えたのが最初でした。途中段階では、リングコマンド(※)になっていた時期もありましたよ。

※スクウェア・エニックス『聖剣伝説』シリーズで採用されている、サークル状に展開するUIデザイン

前納設定的にはすべて“一度頭に浮かんだ文字”ということで、UIもいろいろ試作しました。でも、いま表示されている数より多くてたいへんでしたね。

神谷「どれくらいの量なら人間が扱えるのか」とか、「どういうものがいいのか」と試行錯誤しましたが、フラグが関係するためにめちゃくちゃになりましたね。僕は探偵ものみたいな感じで、“ザ・アドベンチャー”的な使いかたをしたかったんですけれど(笑)。

──アイデアを実現させるのは難しいですね……。

神谷しかもすぐに20~30個に膨れ上がるんです。ボタンを押すとブワーッと表示されて、「うーん、ここからアレを探す作業か」となる。だから多くとも12~13個に留めて、話題から逸れたら消えるようにしました。こういうシステムはほかに例がないので、これで正しいのか悩みましたね。

──でも、実際にはすごくシンプルだと感じます。

神谷アドベンチャーパートは、なるべくUIをなくして自然にしたいというコンセプトがあったんです。

──人物や事象に干渉できる回数を示す、画面右上のアイコンも『十三機兵防衛圏 プロローグ』ではありませんでしたね。

前納そうですね。足しました。

神谷あのアイコンがないと「その場所で何をしたらいいのかもわからないし、どういう行動が残されているのかもわからないので総当たりになる」と指摘があって、プログラマーが追加してくれたんです。