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2004年 6月1日
龍谷大学 瀬田キャンパス
爽快に晴れた初夏の平日だった。
龍谷大学社会学部の1回生・土田テツヤは授業をサボり、キャンパスのベンチで訝しげに煙草を咥えていた。
「おっ、テツじゃん。なんだお前授業サボりかよ~」
土田のもとに現れたのは同回生同学部、そして同じサークルメンバーの男だった。
釣りさがった目尻にまだ若さの抜けないアゴヒゲ。周りから「シゲ」と呼ばれている人物である。
「出席は頼んであるから余裕やしよ~」
「全く相変わらずだなテツは。今日のサークルの飲み会、もちろん参加するだろ?」
「おぅ。まあ行くかな…」
「頼んだぜ、宴会部長!」
挨拶程度のやり取りののちシゲは去っていった。
再び一人で煙草の煙をくゆらせる土田。
「なんか、つまらんなぁ…」
キャンパスは今日も、平和そのものだった。
***
その日の晩。
JR瀬田駅周辺の居酒屋チェーンにて、土田の属するオールラウンドサークル「スピニッシュ」の飲み会は行われた。
「それじゃ、前期も残り半分がんばっていきましょ!カンパーイ!」
宴会部長である土田の音頭によって飲み会は幕をあげられた。
「スピニッシュ」は土田とその友人たちが立ち上げた新規サークルのため、上回生はおらずメンバー全員が1回生で構成されていた。
そのため、新規の人間関係や上下関係などの気苦労とは無縁であり、土田たちにとって非常に居心地の良い空間が形作られていた。
「しかし、俺らも大学生になってはや二ヶ月かぁ…」
サークルメンバーであり、土田の高校からの友人でもある工学部のナオトがそう呟いた。
「1組の他の奴らはどうしてるんやろなぁ」
早くも顔を赤くしているのは高校からの友人にしてクラスメイトでもあった筑摩ユウキだった。
「1組で京都行った奴って誰やったっけ?えーっと、翔と…」
「桑原とオオヒロちゃんやな」
「なんか冴えんメンツやなぁ。まあ今頃滋賀が恋しくなっとるんちゃうけぇ?」
「山川も、絶対下宿する!通いとか終わってる!とか言ってたのに、結局通っとるしなあ」
「まあ、その辺とかとはもうあんまり絡む機会もないやろ」
ナオトが冷淡にそう言い放った。
「もうすぐ夏か…文化祭から、もうすぐ一年やな…」
「やめろやテツ~~!切なくなるやんけや~~!」
筑摩はいつも通りハイテンションだった。
「どうしたそこ~!北高ばっかりで固まってんな~。テツ、飲んでるか~?」
乱入してきたシゲは、既に顔を真赤にして出来上がっていた。
「お、おぅ…」
「ほら飲んで飲んで~!」
「はぁ・・・」
土田はなんとなくため息を漏らした。
***
2ヶ月前―――
2004年4月 滋賀県立安曇川高校
「なんだよ田邉!またお前と同じクラスかよ~!」
教室中に響き渡る大声の主は、安曇川高校いちのお調子者・斎藤ケイタだった。
「それはこっちのセリフだよ」
「ちょっと男子、静かにしてくれない~?」
「ゲッ!高橋お前も同じクラスだったのか」
「私達今日から三年生なんだから、自覚をもってほしいわ」
斉藤をたしなめる長身の女子は高橋志穂。安曇川高校いちの秀才である。
「担任誰だったっけな…確か、今年から新しく来た…」
斉藤達が騒いでいるのをよそにこのクラス、三年一組の教室に担任となる教師が入ってきた。
「皆さん、はじめまして。私が今日からこの三年一組の担任となる…隼瀬です」
絵に書いたような堅物の教師だと―そう斉藤は第一印象を抱いた。
「私のモットーは、清く、正しく、美しく。皆さんと一緒にそのようなクラスを目指していきたいと思います」
その時田邉の脳裏に少しばかりの疑問が浮かんだ。
(あれ…この先生、前にどこかで見たことあるような…)
西尾ワカメ新連載 ウォーターボーイズ10周年記念企画
―キョンシー達のセレナーデ―
第1話 After Summer
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