女性が食事やデートに付き合う対価として、男性から金銭を受け取るのがパパ活。この言葉が誕生する2015年以前からこうした活動に励み、とりわけ金払いのいい「太パパ」だった人気マンガ家と結婚した女性がいる。パパ活という言葉が爆発的に広まる中、今では夫婦となった元「パパ」と「パパ活女子」に、お金ありきの出会いから結婚生活までをあけすけに語ってもらった。(全2回の1回目/後編に続く

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パパ氏(44) 成人向け作品で人気のマンガ家。学生時代は体育会系の部活に打ち込み、会社員を経てこの道へ。美咲さんに対して結婚までに貢いだ額は1000万円を超える。

 

美咲さん(30)=仮名 大学時代にキャバクラで働き、就職後、かつての客やネットで知り合った男性などを相手に「パパ活」に励む。中小企業社長から月10万円のお手当を4年間もらっていたことも。2017年にパパ氏と結婚、現在は主婦で2児の母。

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15歳の頃から“お小遣い”をもらっていた

――美咲さんのパパ活の源流は10代の頃にあるそうですね。

美咲 中学2年生だった14歳で携帯をゲットして、15歳の頃には、ネットで知り合った年上の人からお小遣いやほしい物が自然と手に入るようになっていったんです。当時使ってたサイトは「ふみコミュニティ」とか「ハンゲーム」。

パパ ハンゲームはネットのゲームコミュニティだよね。ゲームがいっぱいあって、チャットもできる。


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美咲 そう。そこで知り合った人たちと集まって遊ぼうという話になって、私が「お金持ってない」って言ったら、主催者の20代半ばくらいの男の人が「交通費出してあげる」みたいな感じでお金と、当時好きだったキティちゃんグッズを2000~3000円分ぐらい買ってくれて「じゃあばいばい」みたいな。

パパ 僕の頃は援助交際もまだ身近な話じゃなかったし、ようやくポケベルが出てきた頃だから、アポをとるのだって一苦労だったな。家の電話、下手したら手紙の時代だから。ミクシィは使わなかった?

美咲 ミクシィは18歳以上しか使えなくて、でも年上の友達の協力で高校生の時にはデビューしてた。

パパ 僕がその頃20代後半。ミクシィくらいは触れたけど、何が面白いのか全然わからなかった。

「たかられてるだけだと思った」

美咲 今のネットに依存する10代と感覚は一緒かな。家がつまらなかった。母がいわゆる毒親で、「あなたはお父さんに似てるから大嫌い」ということばかり言ってくる。父の転勤で転校もあったし、誰かと仲良くなっても人間関係すぐリセットみたいな感じで、他人に対する気持ちが入らない。

パパ 基本的に人のことを信用しないもんね。

美咲 本当に信用しなかった。24歳になる年にこの人に出会った時も「なんだこのジジイ」みたいな。

パパ 僕も、たかられてるだけだと思った。露骨だったから。出会った当初はパパ活という言葉はなかったけど、今でいうと完全にそうだよね。

美咲 一番の高額出資者だと思う。

新宿の出会いパブに入り浸った高校時代

――10代の頃からネット環境があってお小遣いが簡単に手に入ったことで、後のパパ活への抵抗が薄らいだのかもしれませんね。高校以降はどうですか?

美咲 高校3年間はビジュアル系バンドにハマって。新宿の出会いパブに年齢ごまかして入り浸って、おじさんにお小遣いをもらっては、追っかけに使いつつ叙々苑とか行ってましたね。ファンの間ではバンドマンに貢ぐのが流行ってたけど、私は人にお金をあげるのは絶対に嫌だった。自己肯定感が低いからイケメンと付き合うのは無理だと思ってたし。

パパ イケメンのことも信用しない。

美咲 愛情は諦めてたんだろうね。私はお金や物をもらうほうがわかりやすくていい。大学生になってからは、働いてお金を稼ぐということを知った。平日はコンビニのバイト。週末はイベントコンパニオンで1日2万円くらい稼ぐ。大学生にしたら破格だけど肉体労働ですよ、ヒール履いてパツパツの服ばかり着て。それで就活も終わった4年生の時、楽して稼ぎたいなとキャバクラを始めて。時給2500円で、4時間働ければ1万円。ただ結局雑費を引かれて、手元に残るのは月20~30万くらい。

パパ でも物をいっぱいもらったんでしょ?

美咲 現金だと返せと言われた時に怖いから、キャバクラでは物でもらってた。同伴で相手をファッションビルに連れてっては服を買ってもらって。

パパ 後々僕もよく連れて行かれた店だ。

4年間、月10万円のお手当をくれていた“社長さん”

――自分の何が、物やお金と交換できる価値だと考えていました?

美咲 10代の頃から、しゃべると面白い、一緒にいると楽しいと言われていたんですよ。体を売るのは無理というのはあったんですけど、トークで頑張って、食事や交通費をもらうところから始まって、どんどんエスカレートしていった感じ。

――パパ活が本格化したのは、大学卒業後、社会人になってからですか。

美咲 はい。会社勤めをしながら、土日でパパ活をやるのにランチ枠、ディナー枠、モーニング枠と設定して、日曜の午後にようやく彼氏と会うみたいなスケジュール。体の関係なしのデートで月10万円のお手当をくれていた40代の中小企業の社長さんが一番長くて、4年間続きました。相手は童貞だったと思うし半分恋人気分で楽しかったんだろうけど、私はだんだん怖くなって。基本嘘で塗り固めて、名前も大学も嘘だし、どこかでボロが出ないか常にハラハラしながら、携帯に話した内容をメモする。

――親しくなってからも何も明かさなかった?

美咲 全部嘘ついてました。後に出会った主人にも嘘ついてて。

パパ 結婚の直前までね。

美咲 大学の学部は真実に近いものを選んで、何を勉強したかという話でウケがいいのは児童心理。


パパ 嘘にかけては天才的というか、基本嘘だらけ。初めて会った時、彼氏いないって言ってたじゃん。

美咲 キャバクラの頃は「彼氏できたことがない」で通したけど、主人には「今はいない」って言ったのかな。

――年齢も嘘をついていた? 

美咲 そこは平成元年生まれを売りにしてたので。

パパ 虚実入り混じってるからこちらも何が本当かわからなくなっちゃうんですよ。

出会いは「コミケの売り子」のバイトだった

――お二人のなれそめは?

美咲 私のパパ活最盛期だった6年くらい前に、ツイッターで主人がコミケの売り子募集をしていたんだよね。それ以前にも売り子をしたことがあって、4~5時間で1万5000円もらってオタクはちょろいと味をしめて。それでお金がほしくてまた調べたら主人のツイートにヒットして、応募して当日会ったら、キモいオタクじゃなかったんです。これは金づるとして期待できないなとがっかりしていたら、会場に4時間もいなかったのに、色をつけて2万円くれた。打ち上げにも参加させてもらって、私、すごい食べて。

パパ あれは見ていて気持ちよかった。

美咲 二人ともコミケの直後が誕生日だったので、もう1回会おうかという話になり、ラッキーと。

パパ で、カニが好きだというので、ちょっといいところで食おうかとカニ懐石の店に連れて行ったら、実はあんまり高級店は得意じゃないみたいなことを言い出して。

美咲 そのあと二次会で鳥貴族に連れて行って。

パパ 「ここは私がおごります」と言うんです。この子いいなとグッときました。

パパ活しながら彼氏と同棲

――美咲さんの作戦ですよね。しかも当時、美咲さんには彼氏がいて同棲していたんですよね。

美咲 完全に悪いやつですよ。いまだに言われますからね。

パパ これは一生言ってやろうと思ってる。出会って3カ月くらいして、本人が言い出したんですよ、引っ越してこい、そうしたら彼氏からの乗り換えも考えると。それで僕が月20万円台の新築マンションを借りたら、「きれい、素敵」って毎週末来るようになって。でも平日は別の男の家に帰る。家賃やら色々買わされるお金はどうでもいいんですけど、どちらかに決めてと話したら、じゃあ向こうの家に戻ると。付き合う相手はサラリーマンじゃないと嫌だって言って。

美咲 言いましたね。で、距離をおいた期間は私もパパ活に励んでお金を稼いでた。それまでは遊びに行きたいけど交通費が足りないって言えばポンともらえてたのが、金づるがいなくなってどうしよう。やっぱりOLの給料だけだと精神的にきついって。

パパ ネットで見つけた他の男のところに行くとかやってたんだよな。

美咲 でも私から先に連絡取って再会したんだよね。

「そのうちに、結婚したことがバレた」

パパ そこからまた、どっちつかずで1年半くらい引っ張られた。

美咲 そのうちに、同棲してた人と結婚したことがバレた。

パパ さすがにそれを知った時は別れ話をしたけど、いや、ちょっと待ってくれと。それなら次の家賃の更新日までは待とうかと伝えたら、その翌週くらいにLINEが来て、「私どこにいると思う? 北欧」。おまえ、それ新婚旅行じゃねえかって。よくも俺に連絡してきて。

美咲 頭おかしかったよ。まあ言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、別にそのときの旦那さんと二人で旅行に行きたいというよりは、普通に旅行に行きたかった。

パパ それも壮大なるパパ活じゃない? 今思うと。結婚式させて、旅行も行かせて。

パパと一緒に離婚届を提出

――それで半年ほどで離婚、と。

美咲 その旅行で再確認したんです、前の旦那はよくも悪くも普通というか、つまらないと。じゃあ離婚まで持っていかなきゃいけない。そこからは頑張ったね。

パパ 頑張ったっていうか……そこからもごちゃごちゃ言ってたし。さすがに俺もついていけないから、一緒に仕事している友達に全部話して、3人で会うことになって。その友達がこの子に「いい加減はっきりしてくれ、一番迷惑かかってるのは全然関係ない僕だ」と伝えて、その言葉でようやく目が覚めてね。

美咲 目が覚めましたよ。私、人に迷惑かけてるんだって。

パパ かけてるよ!

美咲 こんなに全然関係ない人が私のことで迷惑して、私のことを気にかけたり怒りを感じたりしてるということに人生で初めて気づいて。

パパ 男たぶらかして色々してもらっても、人に迷惑かけてる自覚がなかったんですよ。その日まで。

美咲 主人とこの友達くらいですよ。私が人に心配されてると思えたのは。自分の生活の大半をかけて心配してもらったことって、初めてだったんですよ。

パパ こんなに女に金かけたこともないよ。

美咲 そこで、前の家を出てね。キャリーケース一つで。一緒に暮らし始めた。

パパ 離婚届も一緒に出しに行った。信用できなかったから。

美咲 嘘はそれまでに全部吐いたんだけど。ただ最後、もう今から家出ますって時に、私はあなたにまだ一つだけ大きな嘘をついてると。

パパ そうそう、何!? って。俺、子供でもいるのかと思って。

美咲 そしたら、立教と偽ってたのが、全然知らない大学だったという話。

パパ ほっとしたね。まだ何か出てくるのかと思ったら、なんだこんなことかと。

(後編に続く)

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「文藝春秋」1月号および「文藝春秋digital」では、「2020年の『パパ活女子』 援助交際と何が違う?」と題し、パパ活当事者の男女の生々しい証言などを取材したルポを掲載している。記事からは、パパ活という曖昧な「流行語」が生み出した男女の関係が、そして援助交際など既存の言葉との違いが見えてくるはずだ。

「搾取されて搾取されて……」14歳年下の“パパ活女子”と結婚した44歳男性は、いま幸せなのか? へ続く

(秋山 千佳/文藝春秋 2020年1月号)