なぜ固まらない? 生姜牛乳プリンは自作難易度高し!
みなさんは、生姜牛乳プリンを作ったことがあるだろうか?
ゼラチンなどを使わずに、凝乳酵素ジンジベインを含む生姜のすりおろし汁で牛乳を固めてプリンにする、ちょっと化学実験みたいな意外性がウケて、手作りする人の多い人気スイーツだ。
筆者もこの生姜牛乳プリンが大好きで、これまでたびたび自作してきた。
ところが、ネット上では「レシピ通りにやっても牛乳が固まらない~!」という悲鳴が絶えない。
じつは生姜牛乳プリン、自作したときの失敗率の高さでも知られており、「生姜牛乳プリン」と検索エンジンに入れると「生姜牛乳プリン 固まらない」とサジェストキーワードが出てくるほど。
筆者も最初はなかなか固まらず、悩みに悩んで試行錯誤を繰り返した経験がある。
はじめて牛乳が「ぷるるんっ」と固まったときは、嬉しさのあまり小躍りした。さらに、それを匙ですくって口にはこび、生姜のスパイシーな風味と牛乳のやわらかな甘味があいまった、あのなんとも言えない美味しさを味わったときの感動は、今でも忘れられない。
というわけで今回は、生姜牛乳プリンを愛してやまない筆者が個人的に実践している「固まらないときのトラブルシューティング」を解説しつつ、生姜牛乳プリンの作り方を紹介しよう。
さらに、記事の後半では、生姜とは違う材料で牛乳を固める別種類の牛乳プリンも作ってみたい。
別種類の牛乳プリンとは、まだネットで日本語のレシピがあまり紹介されていない北京の伝統スイーツ「宮廷牛乳プリン(宮廷奶酪 ゴォンティンナイラオ)」である。
まずは、生姜牛乳プリンの作り方を紹介しよう。
そして、その前に生姜牛乳プリンのルーツについて、かるく解説しておきたい。
食は広州にあり。生姜牛乳プリンのルーツも広州にあり
もともと生姜牛乳プリンは中国・広東省広州市発祥のスイーツ「薑汁撞奶(キョンジャッゾンナーイ)」がオリジナルで、本来は水牛のミルクで作る。香港やマカオでも定番のデザートだ。
マカオに本店がある牛乳プリンの有名店「義順牛奶公司」は、香港にも支店が何軒かあるので、行ったことがある人もいるかもしれない。筆者がはじめて生姜牛乳プリンをはじめて食べたのも、同店のマカオ本店だ。
最近は、東京・高田馬場にも庶民的な雰囲気の広東スイーツ専門店「良縁糖水」がオープンし、本場出身の人が作る、本場の味が手軽に楽しめる。
お店で生姜牛乳プリンを実際に食べてみるとわかるが、カスタードプリンのような固さはなく、言うなれば茶碗蒸しくらいの柔らかな固まり具合である。
通常、広東スイーツ店のメニューにのっている牛乳プリンには、薑汁撞奶(キョンジャッゾンナーイ)という生姜牛乳プリンと、もうひとつ双皮奶(シュヮンピィナィ)という牛乳プリンの2種類があり、看板メニューの双璧をなしている。
卵白で牛乳を固める双皮奶も美味しいが、これについては、また別の機会に詳しく紹介したい。
成功のカギは生姜の酵素と牛乳のタンパク質
さて、さっそく本題の生姜牛乳プリンを作ってみよう。
用意する材料は以下の4つ。分量は後ほどご紹介する。
- 牛乳
- 生クリーム
- 砂糖
- 生姜
牛乳について: 成分無調整の牛乳を使用する。乳脂肪分に関しては、スーパーやコンビニでふつうに買える3.5%前後のものより、もし手に入れば、ジャージー牛乳など乳脂肪分4.5%くらいの牛乳のほうが固まりやすい。とはいえ、今回は誰でもすぐ手に入る3.5%前後の牛乳を使ってみた。
生クリームについて: 生姜牛乳プリンのオリジナル「薑汁撞奶」は水牛のミルクで作ると書いたが、水牛のミルクは牛乳より脂肪分とタンパク質が多く含まれるという。生姜の酵素でタンパク質を固めて作る生姜牛乳プリンには、やはりタンパク質多めの材料のほうが良いに違いない。ということで、固まらないときのトラブルシューティングのために、牛乳の脂肪とタンパク質を凝縮した生クリームを用意しておく。今回使ったのは乳脂肪分47%のもの。
砂糖について: 練乳や蜂蜜で甘味をつけるレシピもあるが、今回はシンプルに白砂糖を使用。
生姜について: 生姜の品質によって、固まり方が違う。生姜の値段と、固まりやすさは関係ないと思う。以前、ふつうの生姜(中国産/高知県産)、オーガニック生姜(奄美産)、新生姜(奄美産)の4種類を使って比較してみたが、高知県産のふつうの生姜がいちばんよく固まった。今回も、手に入りやすく、固まりやすかった実績もある、高知県産をスーパーで買ってきた。
それでは、さっそく作ってみよう(分量は1人分)。
1. 生姜をすりおろす。ひとつ前の材料写真に写っている生姜をすべてすりおろし、茶こしでこしたら、おおよそ大さじ8~10くらいの生姜汁がとれた。
2. 茶こしなどでこした生姜汁を容器にそそぐ。分量だが、最初はネットなどでよく見られる一般的なレシピにならって、大さじ1(1人分)で試してみよう。
3. 1人分の牛乳の量は150~200mlほど。今回は180mlで作ってみることにした。砂糖は好みでOKだが、だいたい1人分につき大さじ1くらいだろうか。
4. 砂糖を混ぜた牛乳を鍋で70℃に温める。できれば調理用の温度計ではかって、なるべく正確に。
5. 温めた牛乳を生姜汁を入れた容器にそそぐ。牛乳をそそいだあとは、静置すること。かき混ぜたりはしないように。そそぐ過程で生姜汁とミルクを混ぜる感覚で。
5~10分ほど置くと固まってくる。なかなか固まらない場合もあるが、15~20分待って固まらなければ、残念ながら失敗とみていい。
失敗に次ぐ失敗。そんなときのトラブルシューティングとは?
ミルクを生姜汁に注いでから、20分経過。さて、どうだろうか……。
う~ん、悔しい! 失敗。
まったく固まっていない。完全に液体のままだ。
単なるホット生姜牛乳ができてしまった。
ま、ホット生姜牛乳も、これはこれで美味しく、風邪のときなんかは体に良さそうなドリンクではあるんだが、筆者はもうこれまで何度も飲んでおり、いいかげん飽きているので(笑)、今回はこれで紅茶の茶葉を煮出してチャイにしてみた。
話を生姜牛乳プリンに戻そう。
この分量で固まる場合もあるのだが、今回は全然ダメだった。ここが生姜牛乳プリンの難しいところだ。やはり、生姜に含まれる酵素の分量のばらつきのせいなのだろうか? これについては科学的分析ができるわけじゃないので、よくわからない。
そこで、経験的トラブルシューティングを紹介しよう。
方法は単純で、下記の2ポイント。
1. 生クリームを混ぜる
2. 生姜汁を増やす
これだけである。
さっそく、上記のレシピに対して、生クリームを大さじ1追加、生姜汁を大さじ2に増やした分量で試してみよう。
砂糖と、さらに生クリームを追加した牛乳を70℃に温め、あらかじめ大さじ2の生姜汁を入れた器に注ぐ。
そして、15分ほど待つ。
さて、どうか!
固まることは固まったが……、まだゆるいなあ。
トロトロしていて、これじゃとても「プリン」とは呼べない。
今度は思い切って、生クリームを大幅に増やしてみることに。材料180ml中、50mlを生クリーム、130mlを牛乳、という分量にしてみた。
そして、生姜汁を大さじ3に増量。
生姜汁の量については、1人前大さじ3が上限かもしれない。これ以上多いと、固まり加減の問題とは別に、味が生姜っぽくなりすぎてよろしくない。
さあ、この分量でどうだ!
固まった様子なので、レンゲですくってみる。
おぉ。これは大成功!
生クリームたっぷりなので、濃厚さもあって美味しい。生姜も効いているので、全体のバランスとしては甘味をもう少し強くつけてもよかったかもしれない。
ちなみに、香港やマカオで食べた、生姜牛乳プリンのオリジナル「薑汁撞奶」は、生姜味がけっこう強くピリッとした味わいだった。もしかして、生姜汁の分量はこのくらいでも良いのかも?
冷蔵庫で冷やして食べても美味しいが、ホットのまま食べるのが基本だ。
【筆者が固めることに成功した生姜牛乳プリンの分量】
- 牛乳 130ml
- 生クリーム 50ml程度
- 砂糖 大さじ1程度 お好みで
- 生姜 すりおろして茶こしでしぼり、生姜汁を作る。大さじ3程度
北京伝統「宮廷牛乳プリン」は甘酒で牛乳を固める?
さて、次に紹介したいのは「宮廷牛乳プリン(宮廷奶酪)」。
宮廷奶酪の「奶酪」とは、中国語で「チーズ」の意味だが、実際食べてみるとまさに牛乳プリンと言えるプルンとした食感。北京の宮廷料理にルーツを持つ伝統スイーツだ。
この記事では、あえて「宮廷牛乳プリン」と呼ぶことにする。レシピ解説に入る前に、本場の宮廷牛乳プリンはどんなものか、北京の様子をお伝えしておこう。
宮廷牛乳プリンと言えば外せない北京の有名店は「奶酪魏」。プレーンの宮廷牛乳プリン以外にも、カスタードやストロベリーなどフレーバー付きの牛乳プリンもある。
「文字奶酪店」や「奶酷酪坊」もよく知られたお店で、宮廷牛乳プリン以外にもミルク系のスイーツが食べられる。ほかにも、たとえば焼売専門店のデザートとしてメニューに載っていたり、宮廷牛乳プリンは北京市内いたるところで味わえる定番スイーツという感覚だ。
宮廷牛乳プリンは冷やして提供される。ヨーグルトのような酸味と甘みが爽やか、かつプリン的な楽しい食感で病みつきに。
広東の生姜牛乳プリンに加えて、北京で出会った宮廷牛乳プリンも自作して、二大中華牛乳プリンを自宅で味わいたい! というわけで、さっそく手作りにトライ。
……と意気込んだものの、ネット上に日本語のレシピが見当たらない。
そこで中国語のサイトや動画を参考にしてみる。多くのレシピでは、中国の甘酒である「酒酿」(ジョウニャン)をしぼってこした液を牛乳に混ぜ、それを器ごと蒸し器に入れて蒸し上げ、プリン状に固める手順だった。
この中国甘酒には呼び名がいくつかあり、宮廷牛乳プリンの本場北京では「米酒」(ミージョウ)と呼ばれている。米酒の名のとおり、蒸したもち米に中国の麹を混ぜて甘く発酵させる、まさに甘酒だ。
北京のスイーツ店のスタッフに訊ねたところ、やはり「米酒」を使っているのだと言っていた。
日本の甘酒では固まらない? 代わりにもっと日常的な材料でOK
しかし、なんで甘酒で牛乳が凝固するのだろう?
謎は残るが、モノは試し、日本の甘酒で代用してみたが、案の定ぜんぜん固まらない。
そもそも、甘酒で牛乳が固まる理由がわからないので、酒や麹などに詳しい専門家に訊いてみた。
いわく「牛乳が固まるのは酸のせいではないか」とのこと。
ちょっと専門的になるが、甘酒の酸について解説しておこう。発酵などに興味がある人は読んでほしい。そうでない人は、以下の数ブロックを飛ばして読んでも全然OK。
じつは、日本と中国では麹として使用されている微生物の種類が違う。
日本の麹はニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)を選択的に利用する一方、中国の麹には主にクモノスカビ(Rhizopus属) やケカビ(Mucor属)など複数の微生物が混在している。
ニホンコウジカビの糖化酵素は活性温度帯が比較的高く、60℃前後で活発にデンプンを糖に変える。日本の甘酒を作るとき保温するのはこのためだ。一方、中国の麹は30℃くらいの常温で米のデンプンを糖化する。
常温の場合、カビの糖化酵素だけでなく、乳酸菌など他の微生物も活発に働くため乳酸などの酸も生成され、その結果、酸っぱい甘酒になりやすいのだそうだ。
つまり、酸を含む中国の甘酒なら牛乳が固まるが、酸をあまり含まない日本の甘酒では難しい、ということだろうか?
さらに中国語のサイトを調べると、中国甘酒にプラスして、酢も加えるレシピも見つかった。これは、牛乳を凝固させる酸を強めるためかもしれない。
さらなる調査のため、宮廷牛乳プリンを提供している東京都内の北京宮廷料理店に食事に行ってみた。
さすが高級店、とても洗練された宮廷牛乳プリンがサーブされる。
爽やかな酸味と甘みがある。甘酒っぽい味わいは……特に感じられない。
念のため、牛乳を何で固めているのかサービスのスタッフに訊ねてみた。
「お酢です」
なんと!
お酢だけでいいのいか!
このお店では宮廷牛乳プリンを酢だけで固めているそうで、中国甘酒は使っていないらしい。
由緒あるお店のスタッフが言うのだから信頼できるだろう。
それに、中国の麹や甘酒を入手するのは比較的面倒なので、試しに酢だけで固めるバージョンの宮廷牛乳プリンを自作してみることにした。
上手に固めるポイントは「熱したらかき混ぜない」
宮廷牛乳プリンの材料は3つ。
- 牛乳(180ml/1人前)
- 砂糖(お好みで)
- 酢(小さじ1~2/1人前)
作り方は以下のとおり。
牛乳と砂糖と酢を分量どおり混ぜる。酢に関しては、今回は米酢を使用した。
材料を混ぜたものを、器に入れる。
鍋の水を加熱しない状態で、材料の入った器を蒸し器にセット。
写真のように中国式の蒸籠である必要はまったくなく、蒸すことができればどんな道具でもOK。
蒸し器の蓋をして、加熱スタート。
加熱を始めてからは器は動かしたり、材料をかき混ぜたりしない。必ず器を静置すること。蒸している間に材料を揺らしたり、かきまぜたりすると……
このように、おぼろ豆腐のごとくモロモロに凝固してプリンにならない。
蒸し上がりの目安は、水が沸騰してから10~15分。
うまくプリン状に固まったら蒸し器から取り出し、粗熱をとって冷蔵庫に。
冷たくなったら食べる。
美味しい~。
酸味も甘味もちょうどよく、固まり具合もグッド。
みなさんにも、ぜひ北京伝統の宮廷牛乳プリンを自宅で味わってほしい。
ひとまず、広東式生姜牛乳プリンと北京式宮廷牛乳プリンの手作りを楽しむことができた。
宮廷牛乳プリンについては、酢で固めるレシピと甘酒で固めるレシピがそれぞれあると知って、気になるところだ。
また、砂糖ではなく、日本の甘酒をしぼった汁で甘味をつけ、酸味づけと牛乳を固めるために酢を入れる、というハイブリッドレシピも良いかもしれない。
ところで、筆者が運営するferment booksは、麹研究家おのみささんと共著で『発酵はおいしい!』というタイトルの本を出した。
日本と世界の、さまざまな発酵食品についてイラストでわかりやすく解説する本だが、中国の発酵食品「米酒」を使うスイーツとして「宮廷奶酪」も掲載。
さらに日本の麹などに関しても紹介しているので、興味があればぜひ手に取ってみてほしい。
そして、いろいろ実験してみて成果が出たら、また『メシ通』でも報告したいと思う。
よろしければ全国の牛乳プリン愛好家の皆さんの試行錯誤も教えてほしい!
それでは、また次回!
書いた人:(よ)
『味の形 迫川尚子インタビュー』などを発行するマイクロ出版社「ferment books」の編集者で、ベトナム大好きのアジア料理フリーク。ただいま発酵食品についての書籍を製作中。3ヶ月に一度開催されるECODA HEMでのイベント「ろじものや」では「発酵書店」としてポップアップ書店も展開している。
- Twitter:@fermentbooks