PBRと株価の関連性を完全解説する。PBRの目安と一倍以下の真実を公開する
一般的には、PBRが高い方が割高とされ、株価の上昇が見込めないとされているが、実際の所はどうなのだろうかというのを検証していこうと思います。
また、PBRの高低差は時期によって株価の上昇に差が出てくるのかという所を考えていこうと思います。
条件
TOPIX500のうち金融、不動産セクター、当期純利益が赤字銘柄、債務超過、経営危機に陥っている銘柄、翌年5月までに上場廃止になった銘柄を除く400銘柄のちPBRが中央値以下の銘柄を低PBR銘柄とし、PBRが中央値以上の銘柄を高PBRとします。
結果
結果を見ると、大きく分けて3つのことが分かります。
①基本的に高PBR銘柄の方が投資成績が良い。
②暴落が起きた年のリターンは、高PBR銘柄、低PBR銘柄共にリターンはマイナスになっているが、低PBR銘柄の方が暴落の影響をもろに受けている。
③低PBR銘柄が強い上昇をする時期には、大きな上昇トレンドが発生する初動の時期と重なる傾向にある。
具体的に何が影響して株価の上昇をもたらしているのか
ここで何が影響を及ぼして株価の上昇や下落をもたらしているのか?という疑問が浮かびます。
なので、今回は残余利益モデルという計算式を用いて、暴落時期と暴騰時期のリターンやリスクはどの部分が影響しているのかというのを考えていこうと思います。
計測方法
残余利益モデル(式1)を用いて年度リターンを3つに分解(式2)していく。
引用先:https://www.nli-research.co.jp/files/topics/56572_ext_18_0.pdf?site=nli
残余利益モデルとは株主に帰属する企業価値を、会計利益を用いて算定するモデル
具体的には、親会社株主に帰属する当期純利益から、株主の期待利益 (株主資本コスト×株主資本簿価) を差し引いた残余利益を株主資本コストで割り引いて算出される。
引用先:https://glossary.mizuho-sc.com/faq/show/272?category_id=58&site_domain=default
①業績寄与度
業績の寄与度は、1年間で得た利益(配当と自己資本の増加)による株価の上昇。
②残余利益の成長寄与
今後の業績予想に変化に対する株価の変動。
③バリュエーションの変化
実際の利益成長では無く株価に織り込まれている予想利益の変化
つまり、成長期待に対する株価の変動という意味合いになる。
資本コストと残余利益成長率の求め方は、ROEとPBRの関係式から推計する。
期初に今期予想ROEを被説明変数、PBRを説明変数としたクロスセクションの回帰分析(式4)を低PBR銘柄と高PBR銘柄で行う。
サンプルに異常値がある場合には回帰分析の結果は異常値の影響を大きくうけるため、回帰分析前に異常値処理を行った。異常値処理として、今期予想ROE、PBR共に「平均値±3・標準偏差」から外れる銘柄は回帰分析のサンプルから除外する。
引用先:https://www.nli-research.co.jp/files/topics/56572_ext_18_0.pdf?site=nli
日経平均株価が2017年のような株価暴騰時期のリターン分解図
2017年のような暴騰があった時期というのは、高PBR銘柄の成長寄与度の影響が強く出ていることが分かります。
成長寄与度というのは、1年間で得た利益(配当と自己資本の増加)による株価の上昇なので、前年に好業績で大きな利益を残していて自己資本が大きく膨らみ、資本コストが少ない銘柄の株価が上昇するという事が分かります。
資本コストとは
資本コストとは、企業の資金調達に伴うコスト。 具体的には、借入に対する利息の支払いや、株式に対する配当の支払いと株価上昇期待である。 資本コストの代表的な計算方法としては、WACC(加重平均資本コスト)がある。 これは、借入にかかるコストと、株式による調達にかかるコストを加重平均したものである。
引用先:https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12235.html
分かりづらいので、一言で言うとROEとROAが高い銘柄が暴騰時期には株価が上がると言うことになります。
あえて基準を設けるならばROE,ROA共に15%以上ある銘柄というのが分かりやすくて良いかもしれません。
また、バリュエーションの変化は大きなマイナス要因になるので、その年に大きく株価が上昇している場合、リスクがあるという事になります。
バリュエーションの変化は、資本コストが上昇(低下)したらマイナス(プラス)になります。また成長率については、残余利益がプラスで PBR が 1 倍を超えている場合は成長率が上昇(低下)したらプラス(マイナス)になります。逆に、残余利益がマイナスで PBR が 1 倍割れしている場合は、成長率が上昇(低下)したらマイナス(プラス)になります。
まとめると、2017年のように日経平均株価が強い株価の上昇を伴う時期というのは、高PBR銘柄でROE,ROA共に15%以上の銘柄が株価の上昇をしやすいということになります。
ただし、高PBR銘柄はPBRが1倍を超えている事がほとんどなので、株価の上昇と共に資本コストの上昇でリターンが減ります。
日経平均株価が2018年のような株価暴落時期のリターン分解図
2018年の暴落時期というのは、成長寄与が大きくマイナスを出していることが分かります。
これは、前年の2017年に大きく株価が上昇していた反動もありますが、それ以上に暴落時期には成長寄与は機能しないという事がわかります。
成長寄与が機能不全を起こしていると言うことは、高PBRの好業績銘柄は総じて大暴落をするという事に繋がります。
逆にバリュエーションの変化は高PBR銘柄の場合プラスに寄与していますが、これは単純に株価の暴落によって高PBR銘柄の場合、自己資本の膨らみが高く株価上昇期待と共に金利低下による資本コストが割安になり一定数株価の下支え効果(株価上昇期待)があったと捉えることが出来ます。逆に低PBR銘柄の場合、外需関連株が多く占めているため金利低下の資本コスト低下よりも2018年の円高進行により資本コストが上昇したことによりバリュエーションはマイナスになったと考えられます。
2018年の業種別騰落ランキングでは、電気ガスの1業種のみ値上がりが確認できています。
電気ガス関連株は円高による業績の改善期待(バリュエーションの変化)があったと考えられます。
円安恩恵+巨額借り入れ企業が多い輸送用機器では-20.32%と株価が振るわなかったことがわかります。
2018年:東証33業種 騰落率(%)
1. 電気・ガス(0270) +11.11
2. 陸運業(0271) -0.12
3. 水産・農林業(0251) -3.77
4. 精密機器(0268) -4.35
5. 医薬品(0258) -6.90
6. 小売業(0277) -8.07
7. サービス業(0283) -10.13
8. 不動産業(0282) -10.59
9. 卸売業(0276) -11.80
10. 保険業(0280) -13.65
11. 情報・通信業(0275) -13.95
12. 空運業(0273) -14.32
13. 化学(0257) -15.85
14. 食料品(0254) -16.00
15. その他製品(0269) -16.60
16. パルプ・紙(0256) -17.06
17. 倉庫・運輸(0274) -17.90
18. その他金融業(0281) -17.96
19. 輸送用機器(0267) -20.32
20. 石油・石炭(0259) -21.11
21. ゴム製品(0260) -22.64
22. 建設業(0253) -23.13
23. 繊維製品(0255) -24.03
24. 電気機器(0266) -24.87
25. 証券・商品(0279) -27.64
26. 銀行業(0278) -27.96
27. 機械(0265) -29.42
28. ガラス・土石(0261) -30.32
29. 鉄鋼(0262) -31.17
30. 鉱業(0252) -31.39
31. 金属製品(0264) -35.17
32. 非鉄金属(0263) -36.13
33. 海運業(0272) -38.92
なぜ、低PBR銘柄有利の年があるのか
最初の方に話を戻しますが、低PBR銘柄が有利な年があるというのは、低PBR銘柄の資本コストの低下する時期と一致します。
資本コストというのは借入に対する利息の支払いや、株式に対する配当の支払いと株価上昇期待の中で、唯一関係ありそうなのが株価上昇期待の部分になります。
実は、低PBR銘柄の平均PBRが1倍を切ると高PBR銘柄に資金が回らず低PBR銘柄に資金が行きやすくなるという結果があります。
流れとしては「1倍以下のPBRになる→株価上昇期待で資本コストが下がる→株価が上昇しやすくなる」
「1倍以下のPBRになる→株価上昇期待で資本コストが下がる」の間には1年程度のラグがあることを注意しなくてはいけません。
まとめ
複数の条件があり、分かりづらい部分も多いと思うので結論だけまとめておきます。
①基本的には高PBR銘柄の方が株価の上昇力は高い
②TOPIX500銘柄のうち下半分を低PBR銘柄とした時、低PBR銘柄の平均PBRが1倍を切ると低PBR銘柄有利で株価が上昇する
③日経平均株価の株価暴落時には業績など関係なく株価の暴落が起きる
④日経平均株価の暴落時には低PBR銘柄の方が下落率が大きくなりやすい
⑤低PBR銘柄有利の時は上昇トレンドの初動の可能性がある。
⑥「1倍以下のPBRになる→株価上昇期待で資本コストが下がる」の間には1年程度のラグがある
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