その采配は、われわれ担当記者の間でも賛否が分かれた。エース級を次々とつぎ込んだ巨人に対して中日は、ブルペンで準備もしたこの年の沢村賞・山本昌や、最優秀防御率の郭を使わなかった。必死で勝とうとした継投ではなかったという否定派。継投が敗因ではないという肯定派もいた。計6失点のうち、先発・今中が5失点。2番手・山田が代わりはなに本塁打を浴びるとすぐに交代させ佐藤、野中が無失点でつないだからだ。
ただ気になったのは、試合前の首脳陣ミーティングで高木さんが話したとうわさされた言葉。「勝つわけにはいかんだろ」。長嶋監督は13年間の浪人生活を経て1993年に復帰、2年目で初めて優勝のチャンスを手にしていた。その邪魔をしてはならないという忖度(そんたく)が、采配にも影響したのか。
「前のときは、何をやっていたんだ、と自分で思います」。2011年12月、2度目の監督就任が決まった高木さんはこう言った。それが10・8の「勝つわけには…」のことを指しているのか。それともその発言は事実ではないのか。ついに尋ねることはできなかった。(高木第1次政権中日担当・中村浩樹)