数学好きなら一度はあこがれる「ガロア理論」。非常に難解な理論と思われがちだが、じつは一歩ずつ理解を積み上げれば、一般の数学ファンにも十分理解可能だという。
『今度こそわかるガロア理論』や
『離散数学入門』『群論入門』などの入門書を数多く書かれている芳沢光雄先生に、ガロア理論へ至る道筋をまとめていただいた。
数式なしのガロア理論の啓蒙書では物足りないという方は、ぜひじっくりと読んでみていただきたい。
本稿では、離散数学とガロア理論の接点となるような話題を紹介しよう。
きちんとした証明は拙著を参照いただくとして、この記事では「読み物」風にガロア理論を理解するために必要なキーワードを紹介していく。
正五角形で「写像」と「群」を理解する
まず、「正五角形をそれ自身に移す移動(合同変換)は全部で何個あるか」という問題を考えてみる。
動かさないものも1つの移動と考えると、下図のように全部で10個ある。
これらの移動は以下のように10個の写像として表現できる。
e=(1234512345) a1=(1234523451)a2=(1234534512) a3=(1234545123)a4=(1234551234) a5=(1234515432)a6=(1234532154) a7=(1234554321)a8=(1234521543) a9=(1234543215)
それぞれの写像e,a1,a2,⋯,a9の意味は、上段に並んだ各数字の頂点それぞれを真下の数字の頂点に移すことである。
たとえば、写像a1で表される移動は、頂点1を頂点2の場所へ、頂点2を頂点3の場所へ、頂点3を頂点4の場所へ、頂点4を頂点5の場所へ、頂点5を頂点1の場所へ移動させる。
いま、上の10個の写像からなる集合を G={e,a1,a2,a3,a4,a5,a6,a7,a8,a9} とおく。
さらに、写像の合成を「∗」で表すことにする。
写像の合成とは、たとえばa2∗a5で説明すると、a5の移動を先におこなって、次にa2の移動をおこなうことである。
具体的には、次のようになる。 a2∗a5=(1234534512)∗(1234515432)=(1234532154)=a6上の計算を説明すると、
1はa5で1に移り、次に1はa2で3に移る。
したがって、1はa2∗a5で3に移る。
2はa5で5に移り、次に5はa2で2に移る。
したがって、2はa2∗a5で2に移る。
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3、4、5についても同様に考えると、a2∗a5はa6と一致する。
写像の合成をこのように定義しておくと、Gは次の①~④の性質をもつことが分かる。
① Gの任意の元(要素)x,yに対し、x∗yはGの元である。
(たとえば、a2∗a5はa6なので、a2∗a5はGの元になっている)
② Gの任意の元x,y,zに対し、 (x∗y)∗z=x∗(y∗z) が成り立つ(結合法則が成立)。
③ Gの任意の元xに対し、Gの元eは x∗e=e∗x=x を満たす。なお、eをGの単位元という。
④ Gの任意の元xに対し、Gのある元yがあって、 x∗y=y∗x=e となる。なお、yをxの逆元といい、x−1で表す。
(たとえば、a2の逆元はa3)
一般に上の①~④を満たす集合Gと演算∗があるとき、「Gは∗に関して群である」という。したがって、正五角形の合同変換全体は元の個数が10個の群である。