初回上映作品のセレクトにまつわる意外な真実

 現在は熱海市在住の永田さんですが、生まれは九州・福岡で、中学生の終わり頃に東京へ引っ越したといいます。

 幼少期から大の映画好きで、それが高じて東京時代はテレビ制作会社のディレクターをしていたそうです。

 熱海市民になったのは3年前のことで、「東京からすぐなのに自然が豊かで温泉もある」という立地の良さが気に入って月イチペースで通ううちに本気で移住を考えるようになり、夫人も賛成してくれたので実行に移したといいます。

 移住後は地元で映像制作会社を起ち上げて、熱海の魅力を外部へ発信する活動も精力的に行っているそうです。

 熱狂的なマニアとまではいかないものの幼少期から特撮作品に慣れ親しみ怪獣映画も好きだったという永田さんは、行きつけの酒場で知り合った熱海在住の脚本家・伊藤和典さん(アニメ「うる星やつら」「魔法の天使クリィミーマミ」や「平成ガメラ3部作」などを担当)らと「熱海は怪獣の聖地である」という話で大いに盛り上がったといいます。

 熱海が「キングコング対ゴジラ(以下、キンゴジ)」や「大巨獣ガッパ(以下、ガッパ)」などの舞台となったこと、かつては映画館が7軒もあった「銀幕の街」だったことなどを教えられて永田さんは驚いたと同時に、「だったら熱海で怪獣の映画祭をやればいい!」という思いが一気に燃え上がったのだとか。

 お酒の勢いも借りて(?)話が盛り上がったのが2017年12月でしたが、翌年10月に第1回目が開かれるまでには数々の難関が立ちはだかったといいます。

「資金調達の壁」はもちろんのこと、基本中の基本である「上映するための壁」が高かったのだとか。

 ここからは私の「外野のお気楽な物言い」になりますが、熱海怪獣映画祭のウワサは当初「熱海城をバックに臨む野外スクリーンでキンゴジを上映するらしい!」という風に伝わってきたのです。

 なにしろキンゴジは「西洋の雄・キングコングと東洋の猛者・ゴジラが熱海城を破壊しながら最終決戦をする」という「熱海と最も縁の深い怪獣映画」ですからね、そんな極上のシチュエーションで鑑賞できるとしたら、もうファンは感謝感激感涙必至なわけなのであります。

山の上から市街地を睥睨する熱海のシンボル(?)「熱海城」

 とはいえ、実際に上映されたのはキンゴジではなく、北海道が舞台の「ガメラ2 レギオン襲来」でした。

「何で熱海でレギオンなんだよ!?」という失望感を抱いたマニアは少なくなかったと思います。

怪獣マニアにさまざまな思いをもたらした第1回目の上映作品

「あ~あ、つまりキンゴジの上映ができなかったので、仕方なく『伊藤さんのコネが通じる作品でお茶を濁した』ってわけなのね……」という落胆・失望の声もありましたが、それが的外れな批判であることを、今回の取材を通じて私は知りました。

 永田さんによれば「キンゴジが条件的に上映できなかったのは紛れもない事実」だそうですが、しかしレギオンもまたれっきとした「熱海にゆかりのある怪獣」の一体だったのです。

 伊藤さんが熱海移住後に初めて書いたのが同作の脚本で、そういう意味ではレギオンは「熱海生まれの怪獣」なのでした。

 実は私もレギオン上映に否定的な身勝手マニアの1人だったのですが、この事実を知って熱海怪獣映画祭スタッフの皆さんに心よりお詫びをしたくなりました。

2年目で早くも「県の文化プログラム」に選定

 全国の怪獣ファンから「クラウドファンディング」で120万円を調達して約300人を集めたという第1回目は、10月27日(土)1日のみの開催ながら、レギオンの特技監督・樋口真嗣氏を招いてのトークショーなども行われて一定の成果を上げました。

 その「実績」が評価され、2年目となる2019年は11月22日(金)から24日(日)までの3日間開催となり、映画上映以外のイベントも併催されて盛り上がったのでした。

 上映会場は前回と同じく「かつては東宝の映画館だった」という「国際観光専門学校熱海校」だったんですが、今回はそれに加えて、芸者さんたちの稽古場である「芸妓見番歌舞練場(以下、見番)」と、名だたる文豪たちの定宿として有名な「起雲閣」も併催イベント会場として使えるようになったんです。

 見番で開かれた音楽イベント「ゴジラ伝説 熱海絶対防衛ライブ」では、熱海出身で映画祭メンバーでもある音楽家・井上誠さんが、かつて所属していたバンド「ヒカシュー」のメンバーとの競演(地元・熱海のゴスペルチームも参加したスペシャルバージョン!)を披露しました。

井上誠さんは昭和期からゴジラを題材とした作品を制作

 また、「起雲閣」ではオープニングシンポジウムや熱海のご当地ヒーローショーなども開催され、熱海怪獣映画祭が地元の方々にも徐々に認められつつあることを証明してくれました。

 こうした好ましい流れを今後につなげていくべく、永田さんらは「地元有志の集まり」だった熱海怪獣映画祭を2019年4月に「一般社団法人」へ格上げしました。

 これによって責任は確かに増しますが、それ以上に「信頼度が飛躍的に高まる」という大きなメリットがあります。

 実際、熱海怪獣映画祭は「静岡県文化プログラム」に選定され、費用面・人材面・広報面で県の援助が受けられるようになったといいます。

 念願だったキンゴジの上映もでき、さらには熱海が舞台となった「ウルトラマン」の第11話「宇宙から来た暴れん坊 ~ギャンゴ登場〜」も今回は上映できました。

 また、9月にはプレイベントとしてガッパの上映会も開かれて、映画祭としてのハクはますます付きました。

 第1回目の時点では様子見の状態だった地元業者の中にも、協力体制をとる店が増えたといいます。

 各店が工夫を凝らした創作料理(怪獣メニュー)を1カ月にわたって提供したり、人気ゲストハウスの協力で「宿泊+上映チケット+交流会参加権+特典グッズ」がセットになった「映画祭満喫プラン」が販売されたりと、まだ2年目ながら早くも「継続は力なり」という言葉を感じさせてくれている感じです。