ナイフ鋼材いろいろ(その2) | 陽炎と刃

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日々の出来事からナイフの紹介までいろいろ書いていこうと思います。


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組成表では字数制限の関係でベンチメイド社の組成表を載せましたが、本当はスパイダルコ社の組成表を使いたいところです(乗っている鋼材の種類が多いため)。なので各論ではベンチメイドの組成表には載っていないものが出てきたりします。


・D2(日本規格ではSLD)

よく炭素鋼と間違われますが、それは誤解です。クロム量が11~13%と標準よりやや低いためセミステンレスと呼ばれたりします。

本来は冷間ダイス鋼と言われ、量産品の金型に用いられる素材です。量産品を作るためのものなので

・摩耗しにくい

・破損しにくい

という性質を備えています。大型の剣鉈やマシェットに向いている鋼材ですね。

焼き入れ硬度は結構高めでHRC硬度60~62程度になります。ただナイフ鋼として使うにはややもろいのか、刃持ちはそこまでよくありません。また、ミラー仕上げにも向いていないようです(研磨してもぽろぽろはがれてしまうため)。

炭素鋼とよく間違われるように耐食性が低いとよく言われますが、使ってる感じでは154CMとそんなに差があるようには思えません。きっちりメンテナンス&水場での使用を控えておけば問題ないでしょう。



・440A、440B、440C

この3つはほとんど組成は同じです。炭素量が

440A(0.7%)<440B(0.9%)<440C(1.1%)

となっているためこの中では440Cが最も刃持ちがいいです。

ベアリングや海辺で使用されるような鋼材で、クロムが18%含まれているため通常のステンレスの中では最も錆に強いです。

HRC硬度も58~60と研ぎやすい硬さなので、普段使いでは最も優れた鋼材ではないでしょうか。154CMが現れるまでは最高級のナイフ鋼材と言われていましたし。

・420系ステンレス

これは440系ステンレスの1ランク下のステンレスですが、アメリカではいまだに普段使いの主力だそうです。低炭素鋼(0.5%ほど)なので研ぎやすいためでしょうか。

・AUS-6、AUS-8、AUS-10

愛知製鋼が生産している日本製ステンレス。6が440A、8が440B、10が440Cに対応していると考えていいでしょう。こちらも高級感はありませんが通常使用にはもってこいだと思います。

サンドヴィック社製鋼材

これはフランス製鋼材で420系と440系の中間のような鋼材です。

・N690

オーストリア製の鋼材で、440Cとほぼ類似の性質です

と、似たような性質の鋼材が多かったので440系でまとめて書きました。



・154CM

かつてボーイング707のジェットエンジンのシャフトにも用いられた鋼材。そのため耐摩耗性にすぐれ、HRC硬度も59~61と高めです。ATS-34の登場までは最高級鋼材と言われていました。

さすが刃持ちは文句なしにいいです。ただ研ぎはちょっと難しく、粘り気が強いのでバリが出やすいです。

耐食性はまぁまぁ。ピンホール孔食(表面では小さな点のように見えても、かなり根深く錆びている状態)ができやすいので要注意。

・CPM-154CM

米国クルーシブル社が154CMを粉末鋼化したもの。使ったことはありませんが、組成が同じ以上極端に性能が上がるとは思えません。おそらく耐食性諸元の性能がやや向上した、くらいではないでしょうか。154CMの後継として作られた鋼材の一つなのかもしれません。

・ATS-34

日本製。154CMに銅等の添加物を加えたもの。組成を見る限りそんなに差があるようには思えませんが…。焼き入れ硬度はHRC61がベストだそうです。

ATS-34の由来には諸説ありますが、かのラブレス氏が使い始めたことがきっかけのようですね。



ここで一旦区切ります。次は粉末鋼・その他編へ。