NEWS / EXHIBITION - 2020.1.21

オラファー・エリアソンの大規模個展「ときに川は橋となる」が東京都現代美術館で開催。サステナブルな世界の実現に向けた実践を見る

人間の知覚を問うインスタレーション作品のほか、環境問題についてのリサーチやプロジェクトで知られるアーティスト、オラファー・エリアソン。日本では10年ぶりとなる大規模な個展「ときに川は橋となる」が、東京都現代美術館で開催される。会期は3月14日〜6月14日。

オラファー・エリアソン ビューティー 1993 Installation view: Moderna Museet, Stockholm 2015 Photo: Anders Sune Berg Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles (C) 1993 Olafur Eliasson

 オラファー・エリアソンは1967年デンマーク・コペンハーゲン生まれ。90年代はじめから写真、彫刻、ドローイング、インスタレーション、デザイン、建築など多岐にわたる表現活動を展開してきた。なかでも自然現象を新たな知覚体験として再現する大規模なインスタレーションや、アートを介したサステナブルな世界の実現に向けた試みで国際的に高い評価を得ている。

 95年にはベルリンで「スタジオ・オラファー・エリアソン」を設立し、現在は技術者や建築家など100人を超えるメンバーで構成。スタジオでは実験とリサーチ、コラボレーションによって、様々なアイデアやプロジェクトが開発されている。また2014年には、建築家のセバスチャン・ベーマンと共同で「スタジオ・アザー・スペーシズ」を設立した。

オラファー・エリアソン 太陽の中心への探査 2017 Installation view: PKM Gallery, Seoul, 2017 Photo: Jeon Byung Cheol, 2017 Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles (C) 2017 Olafur Eliasson

 そんなエリアソンによる、日本では10年ぶりの大規模個展「ときに川は橋となる」が東京都現代美術館で開催される。会期は3月14日~6月14日。

 本展は、エリアソンの再生可能エネルギーへの関心と、気候変動への働きかけを軸に構成。植物や木を用いたインスタレーション、光と幾何学に対する長年の関心が反映された彫刻、写真のシリーズ、公共空間への介入をめぐる作品など、多くが日本初公開となる。

「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展のための新作の試作 2019 Photo: María del Pilar García Ayensa /
Studio Olafur Eliasson

 見どころとなるのは、アトリウムの吹き抜け空間と、展示室に隣接するサンクンガーデンに制作された本展のための新作インスタレーション。また、暗闇に虹を再現する初期の代表作《ビューティー》(1993)をはじめ、体験型の作品も登場する。

 またエリアソンは、幼少期に多くの時間を過ごしたアイスランドの自然現象を長年にわたって撮影してきた。《溶ける氷河のシリーズ 1999/2019》(2019)では、過去20年間の氷河の大きな変化が目に見えるかたちで示されている。

オラファー・エリアソン 溶ける氷河のシリーズ 1999/2019 2019 Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles (C) 2019 Olafur Eliasson Photo: Michael Waldrep / Studio Olafur Eliasson
オラファー・エリアソン サンライト・グラフィティ 2012 Installation view: Tate Modern, London Photo: Zan Wimberley, 2019 Courtesy of the artist; neugerriemschneider, Berlin; Tanya Bonakdar Gallery, New York / Los Angeles

 加えて、社会的な課題に取り組むサステナブルな実践の数々にも注目したい。たとえば《サンライト・グラフィティ》(2012)は、電力にアクセスできない地域に住む人々に届けられる携帯式のソーラーライト「リトルサン」に蓄えられた太陽の光で、誰もが自由にドローイングを描くことのできる作品だ。

 上記を含む作品は、ソーラーエネルギーの利用から作品の輸送における二酸化炭素排出量の削減など、展覧会の様々な側面で環境に配慮しているという。また会場では「スタジオ・オラファー・エリアソン」による、生分解性の新素材やリサイクルの技術に関する近年のリサーチの一部が紹介される。

オラファー・エリアソン Photo: Brigitte Lacombe, 2016 (C) 2016 Olafur Eliasson

 エリアソンは「リトルサン」を手に、「私はベルリンの太陽の光を日本に持ってきました。私の手の中にあるのは小さな発電所なのです」と語る。本展では、アートを介して地球環境の変化に反応し、未来を再設計する術を思考してきたエリアソンのいまを見ることができるだろう。

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NEWS / EXHIBITION - 2020.1.22

日本ファッションデザイン界のパイオニア、森英恵。その足跡を紹介する展覧会「森英恵 世界にはばたく蝶」が水戸芸術館で開催

森英恵は日本ファッション界の草分けとして活動し、半世紀にわたってオートクチュールや映画・舞台の衣装、ユニフォームを手がけてきた。その手仕事の作品を通して足跡をたどる展覧会「森英恵 世界にはばたく蝶」が、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催される。会期は2月22日~5月6日。

『蝶々夫人』(中国公演、2002) 撮影=三好英輔 提供=劇団四季

 「私の蝶は銀色に輝くジェット機のイメージよ」。こう語るのは、戦後の復興期にファッションデザイナーとして走り出し、東西の文化を融合させながら活躍してきた森英恵だ。

 森は1951年にスタジオを設立。65年にニューヨークで初の海外コレクションを発表し、77年にはパリにメゾンをオープン。オートクチュール組合に属する唯一の東洋人として国際的な活動を展開した。現在は衣装展の開催や若手の育成などを手がけ、「手で創る」をテーマに活動を続けている。

 そんな森が半世紀にわたって手がけてきたオートクチュールや映画・舞台の衣装、ユニフォームなど手仕事の作品を通して、激動の時代をしなやかに切り開いてきたその足跡を紹介する展覧会「森英恵 世界にはばたく蝶」が、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催される。会期は2月22日~5月6日。

「ひよしや」開店当初の森英恵 1951頃

 本展の重要なモチーフとなるのは蝶。森が幼少期を過ごした島根・六日市町には自然の色彩があふれ、紋白蝶が飛び交っていたという。会場では、東洋の美意識と西洋的フォルムから生み出される森の多彩なオートクチュールとともに、蝶をあしらったものにもフォーカス。思い出の原風景からオートクチュールの世界へとはばたいた森の蝶たちをイメージした、体験型の映像作品も展示される。

 また初期の仕事からは、パネルや映像を交えて映画衣装を紹介。50年代から60年代にかけて続いた日本映画の黄金期、当時20代の森は浅丘ルリ子や岡田茉莉子、石原裕次郎といった銀幕スターらの数百もの映画衣装をつくり、小津安二郎や吉村公三郎、大島渚といった名監督のもとで多くを学んだ。

2002春夏コレクション 撮影=伊奈英次 提供=島根県立石見美術館
映画『夜霧よ今夜も有難う』で使用されたセットアップ 撮影=伊奈英次 提供=島根県立石見美術館

 また、注目したいのが舞台衣装だ。森はオペラやバレエ、能、歌舞伎のほか、美空ひばりの東京ドーム公演や劇団四季の作品など、数々の舞台衣装を手がけてきた。とくに初めて訪れたニューヨークで見た『蝶々夫人』が描くかよわい日本人女性像は森の反骨精神を奮起させ、その後自らが浅利慶太とともに手がけた同公演は重要な意味をもっているという。

 そのほかにも本展では、バルセロナ五輪や大阪万博におけるユニフォームや、50年代に森がファッションデザイナーとしてのキャリアをスタートした新宿の「ひよしや」時代から現在にいたるまでの、語り尽くせない努力の数々を紹介。挑戦を重ねてきた森の半生をたどることができるだろう。

デスク周りに置かれた仕事道具 撮影=渡辺剛