七大悪魔が現れた!!   作:みなみZ

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4話

「…………すまない…もう一度、言ってくれないか?」

 

ラファエルのお医者さんごっこがしたい発言に固めた決意と覚悟が崩壊した後、ベルゼブブは思わず聞き返してしまった。

 

 

「ええ、いいですよ。もう一度言いましょう」

 

それに対してラファエルは微笑みを浮かべながらもう一度己が要求を伝える。

 

頼む、私の聞き間違いであってくれ。本当に頼むから聞き間違いであってくれよ。むしろ聞き間違いではなくては駄目だ。目の前で微笑んでいる天使は唯の天使ではない。

腐り捻っていても天界における最高幹部のたる七大天使の一人である神の癒しのラファエルなのだ。地上界においては、聖書はもちろん、ゲームや漫画にひっぱりだこなネーミングバリューを誇る男なのだ。

そんな男が己が奇跡の代償に、自分とのお医者さんごっこを要求するはずが無い。

そう、あり得るはずが無いのだ!!

 

 

ベルゼブブは本当に心の底から思った。

 

 

「ベルゼブブ、私は貴女とお医者さんごっこがしたい!!!!」

 

そしてそんなベルゼブブの思いを木っ端微塵にするラファエルの言葉。

ベルゼブブは現実逃避に半分意識が飛んでいた。

 

 

「ベルゼブブ、私は貴女とお医者さんごっこがしたい!!!!」

 

 

大事な事なのでラファエルは同じ事を二度言った。

そこまでしてお医者さんごっこがしたいのかラファエル。

ベルゼブブは現実逃避に完全に意識を失いそうになった。

 

「あー。ラファエル。本当に聖人〈メメント・モリ〉の代償がベルゼブブとのお医者さんごっこでいいんすか?」

 

「ええ、勿論ですよ。ベリアル。」

 

ベリアルが確認するように尋ねる。

その問いにラファエルは自信満々に頷いてきた。

天使なんて滅べばいいのに。

ベルゼブブは本気で思った。

 

「やったっすね!お医者さんごっこをするだけで、聖人〈メメント・モリ〉を使ってくれるなんてついてるっす!!」

 

「ふざけんなァァァァァァァァ!!!!」

 

「って、ぶるぉぉぉぉっす!?」

 

喜色満面な顔でこちらをふりむいたベリアルの顔面に間髪いれず栄光〈カドュケウス〉を叩き込む。

しかし、栄光〈カドュケウス〉がベリアルの顔面に炸裂する直前に、ベリアルは己が持つ最硬の概念武具 領域〈アイギス〉を発動することによって、ベルゼブブの魔手から逃れる事に成功するのだった。

腐り落ちてても魔界最高の防御力を誇る領域〈アイギス〉を破ることができなかった。

くそ、生きていやがる。

ベルゼブブは舌打ちを打った。

 

「何するっすか!?ベルゼブブ!!今のは危うく死ぬところだったすよ!?」

 

「うるせぇ!今の私はいっぱいいっぱいなんだ!!畜生!!何で死んでないんだよ!!!!サタン様の馬鹿!!私を抱きしめて!!!!」

 

「ベルゼブブ…。ファビョってるっす…どーどーっすよ!!アラストル、例の物を頼むっす!!」

 

「ほら、ベルゼブブ。君のお宝のサタン様のブロマイドや写真集。そして今月発売の月刊サタン様。それに就寝や入浴時の盗撮写真だ。これを見て落ち着きたまえ」

 

「何故私の宝を知っているんだよ畜生!!嗚呼それでも癒される私の心…サタン様素敵…って、はぁ!?」

 

 

秘蔵中の秘蔵のサタン様グッズを見て心を落ち着かせたベルゼブブはごほんごほんと、わざとらしい咳払いをし、ラファエルと向き合う。

 

「見苦しい姿を見せてすまなかった」

 

「いえいえ、貴女ならばどんな姿であっても魅力的ですよ。ベルゼブブ」

 

にっこりと王子様スマイルを浮かべるラファエル。

その視線は愛しい者をみるかのごとく、暖かなものだった。

 

その言葉と笑顔にベルゼブブは顔が紅潮するのを自覚できた。

 

 

「な、何を言うか!この馬鹿者が!!」

 

紅潮した顔を見られまいと恥ずかしそうに顔を俯くベルゼブブ。

そんなベルゼブブを見て、尚更愛しい視線を向けるラファエル。

さらに俯くベルゼブブ。しかも何だかもじもじしている。

秘蔵のサタン様グッズにより、心落ち着いたと思っていたベルゼブブであったが、そうではなかったようだ。

度重なる心労により、七大悪魔の中で唯一まともだと思っていた自分を見失っているようである。

完全に二人の世界である。

何だ?この空間は。

 

 

「すげえっす。お医者さんごっこをしたいという上級者発言から、何故かこんなイチャコラ空間が広まってるっす。なんすか?この展開は」

 

「うむ。少女漫画もびっくりな展開だ。果たして今だかつて、お医者さんごっこをしたいという言葉から始まるラブ・ストーリー等あったのだろうか?」

 

お医者さんごっこ、はじめました。

 

何故か、そんなリリカルな魔法少女物語が始まりそうなフレーズがアラストルとベリアルの二人の脳裏に浮かぶ。

流石の二人もこの展開は予測できず、尚且つ付いていくのが難しかったようだ。

そしてそんな二人をおいて、世界は加速する。

 

「そ…その、お医者さんごっこをしたいと言っていたが…」

 

「ええ、何回でも言いましょう。ベルゼブブ、私は貴女とお医者さんごっこがしたいと。ベルゼブブ、私は貴女とお医者さんごっこがしたい!!!!と。大事なことなので念のため二回言いました」

 

「また二回言ったっす。ラファエルは正しくお医者さんごっこに全てを賭けた漢っす」

 

「うむ。モロクと云い、アスモデウスと云い、漢の生き様が目に染み渡るものだね」

 

「と、いうかベルゼブブはどうしたっすかね?普段のベルゼブブなら怒り狂ってるはずっすよね」

 

「おそらく度重なる心労で自分を見失ってるいるのだろう」

 

「うーん。哀れベルゼブブっす。でも、まあいっか」

 

 

 

 

 

 

「そ、そうか。それは私だからしたいのか?」

 

絶賛自分を見失い中のベルゼブブはもじもじしながら、顔を俯かせながらもちらちらとラファエルに視線を向ける。

付き合いの長いベリアルやアラストル達でもそんなベルゼブブの姿は滅多にお目にかかれるものではない。

アラストルとベリアルは各々のスマホやデジカメを使い、そんなベルゼブブの姿を撮影する。

何かあったらこの時の録画映像は大いに使えると判断したのである。

自分たちって本当に仲がいいなぁ。

と、ほのぼのと二人は思った。

 

「ええ、勿論です。私は貴女だからこそ、お医者さんごっこをしたいのです」

 

その言葉を聞き、恥ずかしそうに、でも嬉しそうな表情を浮かべるベルゼブブ。

正気に戻ったときが怖い。

 

「と、言うか。私は貴女としかお医者さんごっこができないのですよ」

 

「ん?何でベルゼブブとしかお医者さんごっこができないんすか?」

 

その言葉に首をかしげるベリアル。

ラファエルはロリコンだがこれでも天界の最高幹部たる七大天使の一人である。

天界の主であるルシフェルや、七大天使筆頭のミカエル等の次の最高権力者の一人である。

そんな彼がベルゼブブとしかお医者さんごっこができないという状況に疑問を抱いたのだ。

 

「それには深く悲しい理由があるのです。正しく悲劇の中の悲劇が」

 

ラファエルは絶望に濁った瞳をし、悲しげに俯きながら己が身に襲った悲劇を語りだした。

 

「知っての通り、私は七大天使の任務を帯びながら、副業として医者をしております。ちなみに小児科です。そして私は自慢ではありませんが、天界最高の医師だと自負しております。しかし何故かくる患者は男児ばかり。何故か女児が来ないのです。天界最大の謎です」

 

そりゃお前がロリコンだって全天使達に知れ渡っているからだ。

三人の悪魔は同時に同じ事を思った。

 

「女児と合法的にお医者さんごっこをする為に、医者になったというのに、この仕打ち。正しく神の試練です」

 

天界の最高幹部たる七大天使の一人にして、天界最高の医者のあんまりな志望動機にベルゼブブは天界の未来が心配になってきた。

 

「しかし神の試練とは常に乗り越えられるもののみなのです。私は近所の小学校の健康診断の日に学校に侵入したのです。そして診断をする予定だった医者を拘束しました。そしてその医者になりわかり、私が麗しき小学女児達の健康診断を行うようにしたのです」

 

天界の最高幹部たる七大天使の一人にして、天界最高の医者のあんまり過ぎて、切な過ぎる事件にベルゼブブは天界の未来が本気で心配になった。

 

「しかし、いざ麗しき青い蕾を診断しようとした時、私が拘束していた医者が学校の教師達に見つかってしまいましてね。警察に通報されてしまい、駆けつけてきた警官達に取り押さえられて、そのまま現行犯逮捕されてしまったのですよ」

 

いやー、あの時はまいりましたよ。

と言いながらラファエルは必殺の王子様の微笑を浮かべた。

 

「その後裁判となりましてね。その結果私は12歳未満の女児に半径500メートル以内に近づいてはいけないと判決が下されましてね。私はもう幼女へと近づけないのです。しかも王者の嘆きを設定されてしまいましてね」

 

ラファエルの最後の言葉にベルゼブブ達は目を見開いた。

 

「お、王者の嘆きを受けたのか!?」

 

ベルゼブブの驚愕の言葉に、ラファエルはにこりと微笑んで頷き返した。

 

「ええ。受けました。もし私が幼女に近づいてよからぬ事を考えたら自動的に、ミカエルの正義〈ブリューナク〉が発動し、私を貫くでしょう」

 

 

 

ニコニコと微笑みながら告げた言葉に戦慄する三人の悪魔達。

 

 

王者の嘆き。

 

王者とは七大天使筆頭たる神の如き者のミカエルの事である。

七大天使筆頭たるミカエルにはある一つの権限がある。

この権限は天界の天使全てのものに扱う事ができるものである。

その権限とは、天使に誓いを立てさせ、もし破る事があれば、ミカエルの誇る 王者の形成武具 正義〈ブリューナク〉が自動的に発動し、誓いを破るものを貫くという恐ろしい権限だ。

しかし、それは七大天使筆頭のうちに、一度しか使えない権限なのである。

ゆえに、おいそれとは使えないものであり、よっぽどの事が無い限りは使われない権限なのである。

ちなみに、七大悪魔筆頭たるベルゼブブも同じ権限を有しており、それは栄光の翳りと呼ばれている。

 

 

「王者の嘆きをこんなことに使うとは…」

 

「うーむ。ミカエルも色々と溜まっていたのかもしれないね。ほら、七大天使達は皆問題児ばかりだから」

 

「そうっすねwwwまったく、七大天使達もマモンを除けば優等生な俺達七大悪魔を見習って欲しいっすよwwwねっwwwベルゼブブwww」

 

「……………あれ?何でだろう?何故か私の目から勝手に涙が溢れて止まらないんだが…今すぐ私もお前達に対して、栄光の翳りを認定したくてしかたがないぞ…………」

 

ミカエルの境遇と自らの境遇に涙するベルゼブブだった。

 


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