暴食のモロクと色欲のアスモデウスの己の道を貫いたあんまりな死に方に放心していたベルゼブブであったが、そんな彼女の意識を取り戻させるかのようにまた慌ただしく扉が開いた。
慌ただしく部屋に入室してくる従魔。
「ボボ!ベルゼブブ様!」
「何だ!?今度は何だ!?何なんだよぉ!?もう!!」
「ボボ…ベ、ベルゼブブ様…?」
「死んだのか!?アスタロトが死んだのか!?それともマモンが死んだのか!?誰が死んだのだ!?」
従魔はあんまりの主のうろたえ様に、困惑している。
困惑する従魔の横をよろよろとふらつきながら一つの小さな体が部屋に入ってきた。
「ひ、ひどいのだな…流石に死、死んではいないのだ…」
「マモン!?」
マモン。
七大悪魔の強欲を司る悪魔 マモン。
七大悪魔達の中でも最年少を誇り、わずか100歳という歳である。
その年齢に合った小さく幼い体格を持つ少年悪魔である。
しかし今はその幼い体はぼろぼろという言葉が似合うほどに、痛みつけられていた。
バタンとそのまま倒れるマモン。
慌てて、三人がマモンに駆け寄った。
「大丈夫かね!?マモン、さあ、この従魔君秘伝のこぶっティーを飲んで元気を出したまえ!」
「衛生兵!衛生兵はまだか!?…いやー、一度言ってみたかった台詞っすwww」
「貴様ら落ち着けぇぇい!マモン、誰にやられた!?七大天使か!?七大天使が攻めてきたのか!?頼むからまともな理由であってくれ!」
「ア、アラストル…そのお茶昆布臭いから、いらないなのだ…。ベ、ベリアル…衛生兵というか、医者を呼んでくれなのだ…。ベ、ベルゼブブ…少しは余の心配をしてくれなのだ…」
三人の同僚達の言葉に見事なツッコミを入れたマモン。
しかしベルゼブブは非情であった。
「うるさい!今私はまともな理由に飢えているんだ!で、その怪我の理由は何だ!?本当に頼むからまとまな理由であってくれ!」
「ベルゼブブ…大事な事なんで2回言ったっす。必死っす」
よっぽど疲れてるんだなぁ。
と、ベルゼブブの心労の原因の一つであることを棚に上げて、ベリアルはほろりと涙を流そうとしたが、結局涙が出なかったので、まあ、どうでもいいかと開き直った。
マモンはベルゼブブの迫力に押し負けて、怪我をしていてやばいというのに、自身に起こった出来事を話す事にした。
そう、自分がどんな悲劇に見舞われたかを。
「余…余は、て…天使達にやられたのだ…」
「まともな理由がきたーーーーー!!」
マモンが己が負った傷の原因を話したというのに、ベルゼブブは喜色満面の笑顔でそれを喜んでいた。
こいつリアルでひどいのだ。
マモンは幼心に心から思った。
「いや、天使達が攻めてきたほうがよっぽどまずいのではないのかね?」
「確かに。下手すりゃ最終戦争(ハルマゲドン)の前哨戦になるっすね」
「っ!?た、確かに」
以外にも冷静な判断を下すアラストルとベリアルの言葉に冷静になるベルゼブブ。
そしてその間も治療されずにほったらかしにされるマモン。
こいつら、マジでリアルにひどいのだ。
マモンは幼心に心から思った。
「マモン、どこで天使達にやられたのだ?お前の領地でか?」
冷静さを取り戻したベルゼブブは更なる情報を得ようと、横たわるマモンに質問をする。
マモンとしては早く医者の所に連れて行ってほしい気持ちでいっぱいだったが、ベルゼブブの質問に答えなくては医者を呼んでもらえそうにないと、判断したためにしぶしぶとその質問に正直に答えた。
「ち、違うのだ…天界門(ヘブンズゲート)でやられたのだ…」
天界門(ヘブンズゲート)
それは文字通り天使達が住まう世界、天界に通じる唯一の門である。
天使達は基本自由にその天界門を通れるが、悪魔がその門を通るには、きちんとした許可書が必要となり、基本悪魔達には縁が無い場所である。
その縁が無いはずの場所でアモンは何故いたのだろうか。
「天界門(ヘブンズゲート)で?何故そんな所に…?…は!?」
ベルゼブブは思う。
もしや、マモンは天使達の魔界への進撃に気づいたではないだろうか?
一人、天使達の進撃に気づいたマモンは、血気盛んに一人で飛び出し、そしてこんなにボロボロになるまでに天使達と戦ってきたのではないのだろうか?
確かに一人で飛び足したのは浅はかな考えである。
魔王サタンが居ない今、魔界を統べる七大悪魔の一人としての自覚も足りていないだろう。
しかし、その天使達の魔の手から魔界を守ろうとする心意気はすばらしいものだと、ベルゼブブは思う。
マモンはこんな小さな体一つで魔界を守ろうとしたのだ。
(まったく…後で説教だな)
この幼い子供に優しく説教をしてやろうとベルゼブブは思った。
「そうか…頑張ったな…マモン」
「うむ…頑張ったのだ…」
慈愛溢れる聖母のような微笑を見せる、見た目幼女なベルゼブブ。
その微笑に対してマモンもまた微笑を返し言葉を返す。
「余は…余は…天界限定、天魔戦隊アクマンジャーの限定フィギアを手に入れる為頑張ったのだ…」
「………………あ?」
時がかなり止まるベルゼブブ。
それに気づかないアモンは一つの事をやり遂げた男の顔をしながら話を続ける。
「天界限定の限定フィギアを手に入れるために手続きをとって、天界に行ったというのに、ヨドハシカメラの店員が、フィギアまとめ買いを駄目だと言ってきてな…。仕方が無く連れてきていた従魔達に並ばせてまとめ買いに成功したのだ。そして天界を出ようと思い、天界門(ヘブンズゲート)まで来たのだが、そのとき余の買い方に不服を持った輩が余を追いかけてきてな…。そやつらと戦闘になり…余はこの傷を負ったのだ…」
「………………………………」
「だが安心せい、ベルゼブブ。余はフィギアをちゃんと死守したのだ。従魔達にフィギアを持たせ、先に避難させたのだ。フッ…この勝負…余の勝ちなのだ」
「……………………………………………」
「フフフ……ハハハハハ………ワーハハハハハハハハハ!!…なのだ!?」
見事な悪役三段笑いを披露するマモンに対して、ベルゼブブは情け容赦ないレバーブローを披露する。
見事なまでに炸裂したレバーブローにマモンは悶絶しながら転がった。
そんなマモンを虫けらを見るかのように見るベルゼブブ。
さっきまでの聖母っぷりが嘘のようだ。
「な、何をするのだ!?ベルゼブブ!天界から帰還した勇者にこの仕打ちはないのだ!」
「誰が勇者だ!誰が!貴様などただの馬鹿だ!愚か者だ!というか、フィギアを買う為だけに天界への入国許可書を取るな!」
「何を言うか!よいかベルゼブブ。世は強欲を司る七大悪魔なのだ。強欲を司る余は天魔戦隊アクマンジャーグッズの全てを欲したのだ!それの何が悪い!」
堂々と胸を張り、己の行いが正しいと主張するマモン。
子供は付け上がらせるとたちが悪い。
「悪いにも程があるわ!というか、腐っても七大悪魔の一人がただの天使にそこまでやられるとはどういう領分なのだ!?」
「し、仕方が無いのだ!あいつらよってたかって余をフルボッコしてきたのだ。それに余は成長する悪魔。余自身も、余が持つ、未来〈ロンギヌス〉も成長途中なのだから仕方が無いのだ!」
元来天使や悪魔は、生まれた時から完成している存在である。
生まれてから肉体的な成長や、精神的な成長はあっても、力の源である魔力の大きさや質は変わらないものなのである。
だが、その中においてある異質な存在があった。
それが七大悪魔の強欲を司る悪魔 マモンと彼が持つ未知の概念武装 未来〈ロンギヌス〉であった。
マモンは生れ落ちたとき、今よりもっと弱い悪魔であった。
最下級の悪魔同然の力しか持っていなかったマモンであったが、彼には成長する力があったのだ。
悪魔としては異能過ぎる力を持ったマモンは、その成長する力を見込まれて、七大悪魔の一人として選ばれたのだ。
故に今現在のマモンは正直な所、七大悪魔に相応しい実力を持っているとはお世辞にも言えないのが現状なのである
「だからと言って…!お前はもっと大人になれ!お前は腐れ落ちてても魔界の最高幹部である七大悪魔の一人なのだぞ!それを自覚しろ、この馬鹿餓鬼!」
「く、腐れ落ちてなどいないのだ!第一ベルゼブブに大人になれなんて言われたくないのだ!」
「何を言う、私はすでに200歳の大人だ。この前成魔式も上げたんだぞ!」
ふん、と自信満々に言葉を返すベルゼブブ。
ちなみにこの間、やり取りに飽きたアラストルは従魔の淹れる昆布茶をひたすらに飲み、ベリアルは持参していたノートパソコンで遊んでいた。
もはやこの場を収拾する気は皆無な二人であった。
「へん、何が大人なのだ!ソロモン72柱のカイムから聞いたのだ!お前が合法ロリって言われているって!」
マモンからその言葉が紡がれた瞬間、部屋に殺人的な雰囲気が漂ってきたのを、七大悪魔であるアラストルとベリアルは感じた。
ベルゼブブの瞳が緋色から金色に変化している。
しかしそれに哀れなことにマモンは気づかないでいた。
「………私が…なんだって?」
「カイムが言っていたのだ!ロリコンにとって世知辛い今の世の中でマジ、ベルゼブブのような合法ロリは癒しだって!いつまでもロリのままでいてくれって!」
「……………………………………………」
「ベ、ベルゼブブ、子供の戯言だ。気にするものではないぞ?」
「そ、そうっすよ、子供の戯言っすよベルゼブブ。はい深呼吸、ひっひっふーすよ。ほら、ひっひっふー」
「それはラマーズ呼吸ではないのかね?」
「怒りを出すんすから同じことッすよ」
「ふむ、そんなものか」
殺意の波動に目覚めたようなベルゼブブを抑えようとする、アラストルとベリアル。
しかしそれに対して哀れすぎることにマモンは気付かないでいた。
「それに余はまだ100歳!まだ成長期があるのだ!それに対してベルゼブブは200歳!もはや成長期の欠片もないのだ!お先真っ暗なのだ!ベルゼブブは永遠のつるぺったんなのだ!」
止めの言葉。
ベルゼブブの絶壁の胸を指差しながら叫ぶマモン。
そのまま陽気な声でつるぺったんの歌を歌う。
アラストルとベリアルがその指先を視線で辿ると、たしかに絶壁・平原・不毛地帯と呼べそうなベルゼブブの胸板があった。
そしてそのまま視線を上げ、ベルゼブブの顔を見たとき二人は後悔した。
そこには般若も裸足で逃げ出すようなベルゼブブの顔があったのだ。
二人は心の中でマモンに対して合掌した。
さらばマモン、せめて安らかに成仏しろ。
「つるぺったん♪………ってあれ?」
ようやくマモンが己の置かれている状況に気づいたようだ。
目の前のベルゼブブから殺人的なプレッシャーを感じる。
しかもベルゼブブの瞳がいつの間にか緋色から金色に変わっている。
あれ?もしかして今、余ってぴんち?
「ベ…ベルゼブブ?」
恐る恐る問いかけるマモン。
だが全てが遅かった。
「…………………栄光(カドュケウス)!!」
ベルゼブブが己が持つ万能の概念武具 栄光(カドュケウス)を発動させながらマモンに殴りかかる。
「あぶないのだ!?ってぶるぁ!?」
その一撃を確かにマモンは避けた。
しかしここで不思議なことが起こったのだ。
確かにベルゼブブの一撃を避けて見せたマモンなのだが、明らかに拳の攻撃を受けたのだ。
しかも一回ではない。
何発・何十発・何百発・何千発・何万発という打撃をマモンは受けたのだ。
「ひでぶ!?なのだぁぁぁ!!?」
世界は可能性に満ちている。
左手で顔を殴ったが、右腕で顔を殴る可能性もある。
左足で腹部を蹴ったが、右足で脚部を蹴った可能性もある。
世界に満ちる可能性を具現化し、幾千幾万という可能性の中から、己が手に栄光を掴み取る。
これが七大悪魔筆頭たるベルゼブブが誇る万能の概念武具 栄光(カドュケウス)なのである。
マモン自体も耐久力が弱いという事もあるが、元から天使達と戦い傷を負っていた。
そんなマモンがベルゼブブの栄光(カドュケウス)を受けたとなると、いかに七大悪魔の一人であろうと、塵へとなるのは防ぎようがない事実なのだ。
そう塵に…。
「って!?マモン!?」
正気に戻ったベルゼブブがマモンの居た場所に目を向けるとそこにはマモンの天魔核しかなかった。
マモンは文字通り木っ端微塵の塵にされたのだ。それも自分の手によって。
ベルゼブブは顔を青ざめた。
やべえ、やっちまった。どうしよう。
ベルゼブブは恐る恐るとアラストルとベリアルの方へと視線を向ける。
「何ということだ…今、我らが同胞が死んでしまった…。しかも同胞に殺されるとは…憐れマモン、成仏したまえよ。怨むならベルゼブブを大いに怨むといい。さあ、葬儀の準備だ」
「まったくす…同僚に殺されるなんて、死んでも死に切れないっすよね…グッバイ、マモンっす。タタるなら我らが筆頭のベルゼブブを大いにタタるっす。んじゃ、葬儀の準備ッすね」
「待て待て待て待て!!」
速やかに葬儀の準備に取り掛かろうとする二人の悪魔に待ったをかけるベルゼブブ。
「見ろ!これを!マモンの天魔核だ!天魔核さえあればマモンは再び復活する事ができるぞ!」
「しかし、復活するのに最低10年はかかるがね。やれやれ、今七大天使達が攻めてきたら、確実に私達は負けるだろうね」
「うぐ!?」
「はぁーこれでモロクとアスモデウスに続いてマモンも死亡っすか。あー七大悪魔に半分近く空席ができるっすね。しかもマモンの死因は、七大悪魔筆頭自らの手による殺害とは…。こりゃサタン様が知ったら嘆き悲しむレベルを超えてるッすね」
「うぐはぁ!?サタン様お許しをォォォ!?」
アラストルとベリアルの言葉に倒れこむベルゼブブ。
そして動かなくなってしまった。
どうやら気絶してしまったようだ。
軟弱な心だ。
「にしても開始2話目で主要人物7人の内3人が既に死んでるって、どんだけな話しっすか」
「うむ…もはやタイトルの七大悪魔が現れた!!が、看板に偽りありというレベルに達してるな」
「んじゃ、これからタイトルは、四大悪魔が現れた!!で、どうすか?」
「ふむ、悪くもないがもう少し捻りが欲しい所だね」
「アラストルは厳しいッすね…んじゃ四天悪魔が現れた!!で、どうっすか?」
「ふむ、まあそれでいいか」
「んじゃ、これからは四天悪魔が現れた!!って事で一つよろしくっすよ」
気絶したベルゼブブを放って置いてメタな会話をしていたアラストルとベリアルであったが、その話はまたまた慌ただしく開いた扉によって中断する。
「ドド!大変です、ベルゼブブ様!…って何この状況!?」
部屋に入室した従魔が困惑した声を上げる。
それはそうだろう。
主であるベルゼブブは絶賛気絶中であり、部屋にいるはずのマモンは居なく、代わりに天魔核があるのだ。
従魔だけでなく、誰が見ても困惑するだろう。
「あー気にしなくってもいいっすよ。それよりも葬儀の準備を宜しくっすよ」
「ドド!?葬儀!?誰の!?」
ベリアルの言葉にさらに困惑する従魔。
それにアラストルが助け舟を出すことにした。
「ああ、今のベリアルの用件は後回しでいい。所で何か報告があったのではないか?見ての通りベルゼブブは気絶中だ。私達が聞いておこう」
「ドド…あ、後回しって事はやっぱり葬儀はするんですか…ご、ご報告いたします!こちらへ七大天使の一人ラファエルが来ております!」
「何!?」
「まじっすか!?」
従魔の言葉に驚愕するアラストルとベリアル。
「何だと!?」
「あ、起きた」
そして気絶から回復したベルゼブブ。
気絶していたベルゼブブを強制的に目覚めさせる。
そして七大悪魔の三人を真に驚愕させる天使が来たのだ。
七大天使のラファエル。
神の癒しと呼ばれる天界における最高幹部の七大天使の一人である。
おいそれと一人で敵地である魔界に来ていい存在ではないのだ。
まあ…マモンという例外はさておき。
「どうするっすか、ベルゼブブ。追い返すっすか?」
「まて…おい、ラファエルは正式な魔界の入国許可を取っているのか?」
「ドド。はい、ベルゼブブ様。ラファエルが魔界への入国許可を取っているのは間違いないです」
「そうか…正式な入国許可を取っているラファエルを追い出すのは得策ではないな」
「ああ、しかし今七大悪魔の3人が死んでいる事を気取られる訳にはいかんがな」
ベルゼブブの言葉に頷くアラストル。
「わかっているさ、おい。モロクやアスモデウスの死を知っているのは誰々だ?」
難しい顔をしながらベルゼブブは従魔に尋ねる。
そしてそれに答える従魔。
「ドド。この場にいるお三方とアスタロト様、そしてその従魔達のみです」
「そうか…わかっていると思うが、この情報は極秘だ。漏洩の無いよう各自に徹底させろ。あとラファエルが着いたらこの部屋に通せ」
「ドド!!」
ベルゼブブの命令に頷き、従魔は勢いよく部屋から出て行った。
「にしてもアスタロト生きていたんすね…。なんか流れ的にアスタロスも死んでるかと思ったっす」
「これ以上、七大悪魔に死なれてたまるか」
「というか、アスタロトは死ぬようなタマではないだろう?彼は魔界最強の悪魔なのだから」
「そうっすね、あんなんでも魔界最強っすからね。いやー大変ッすねベルゼブブ。七大悪魔が問題児ばっかでwww」
「その問題児の一人である貴様が言うな!にしてもラファエルと会うのか…個人的には物凄く遠慮したい気分だ…」
「まあまあ、これも魔界の大幹部七大悪魔の仕事の一つッすよ。我慢我慢www」
「貴様は語尾にwwwマークが付きそうな軽さでいうな!」