スピン経済の歩き方:なぜマスコミは、企業の倒産を「社会のせい」にしてしまうのか (6/7)

» 2020年01月21日 08時05分 公開
[窪田順生ITmedia]

「中小企業=社会的弱者」に迎合

 中小企業基本法制定に尽力したのは、「所得倍増計画」で知られる池田勇人首相だが、実はこの人物、今でいうところの「失言炎上」で、マスコミや世間からボコボコに叩かれ、大臣辞任に追い込まれた過去があるのだ。

 50年、吉田茂内閣で大蔵大臣を務めていた池田氏の「失言」が新聞の一面にドーンと出た。どういう内容かは同日、国会でこの問題を追及した議員の言葉を引用しよう。

 「記事は各紙によりましてその取上げ方が多少違つているように考えますが、内容は共通いたしまして、国家財政を建直すという基本政策のためには、中小企業者の五人や十人が倒産しても、自殺しても、いたしかたがないという文句があります。それからいま一つは、今は企業の整理期であるから、多少の問題はあつても、そのため財政政策をかえるべきでないと言い切つておられます」(昭和25年3月2日 衆議院予算委員会)

 池田氏は「中にインフレになれて当然落伍しなければならない人があるかもわからない、そういう人は倒産することがあるだろう、と言つているのであります」(同上)と釈明したが、社会から冷酷だとボコボコに叩かれる。

 そして52年にもこの失言を蒸し返され、どっかの大センセイのような安定感で再び似たような失言を繰り返し、ついには野党が不信任決議案を提出した。拘束力のない閣僚不信任案だったが、世論の反発に配慮して池田氏は大臣を辞したのである。

 このおよそ8年後、池田氏は首相となって、「中小企業救済法」を進めることになる。倒産する中小企業を「落伍者」扱いしていた池田氏が首相になった途端、なぜ「中小企業=守るべき弱者」という人にコロッと変わったのかというと、「支持率」のためだ。

 安保闘争でボコボコに叩かれた岸内閣からバトンを受け継いだ池田首相は「経済政策」を前面に押し出して総選挙を圧勝する。その経済政策の中で「中小企業保護」は目玉だったのだ。

 今の安倍首相を見ていただけば分かりやすいが、基本的に首相のやることはすべて「選挙」に関係している。選挙で負ければクビが飛ぶので、政策も理念もへったくれもないのだ。

 それは今も昔も変わらない。ということは、日本のゆきすぎた中小企業保護政策は、池田氏が社会から猛烈なバッシングを受けた苦い過去から学習して、有権者の支持を集めるため、マスコミの唱える「中小企業=社会的弱者」に迎合した結果という可能性もあるのではないか。

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