私はこれまで、いくつかの出版社と仕事をしてきました。かつては出版業界に関する知識がまったくなかったため、出版社の人と知り合うたびに、「貴社ではどんな小説を出しているのですか?」という質問をしていました。出版社といえば、文芸小説を出版するものと思っていたからです。
ところが、あるとき、とある出版社の方に質問をしたところ、「うちは小説は出せないんです」という答えが返ってきました。
というのも、ビジネス書はある程度の部数が売れるという見込みが立つそうですが、小説は当たれば大きいものの、そのヒット率は低く、多くの文芸書は残念ながら売れずに終わるというのです。出版社にとって、小説を出版することはそもそも非常にリスクが高いのだそうです。
一方、大手の出版社は、雑誌やマンガでコンスタントに利益を出しているため、小説を出版するというリスクを取ることができるのだそうです。
しかし、これも10年以上前の話です。では、現在はどうなっているのでしょうか。
最近、ある出版社の経営者とお話ししたところ、「最近、雑誌が本当に売れなくなってきています。あと5年もすると、各社の看板雑誌の多くが無くなるかもしれません」とおっしゃっていました。
「では、マンガはどうか」というと、「マンガも売れなくなってきています。読者がスマートフォンでマンガを読むようになったので、マンガ雑誌も、コミック本も、以前のように売れなくなってきています」と。
時代の変化にともなって、かつての出版社を支えていた収入源が、どんどん失われているようなのです。では、なぜ大手出版社は、いまだに小説を出版し続けることができているのか? 私は疑問に思いました。
率直に尋ねると、「不動産です」との答えが返ってきました。会社が以前より保有している不動産を貸し出すことで、安定した利益を得ているのです。
出版不況の危機を救っているのが、不動産賃貸業であることを知り、私は「出版業界もやはりそうなのか」という感想を持ちました。