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スクリーニング検査の落とし穴

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尿一滴の癌検査が話題です。疫学と診断のシステマティック・レビューを行う観点からその解釈をコラム的にまとめてみました。ご笑覧ください。

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スクリーニング検査の落とし穴

  1. 1. スクリーニング検査研究の落とし穴 作成者:辻本 康
  2. 2. 会の目的 参加者(以下、メンティー)が、レターから 始めて、SR論文を投稿した上で、 メンタリングを実施できるようになる 2
  3. 3. 今日の目標 1. 感度特異度と、陽性/陰性敵中率の解釈 を説明できる 2. 感度を上げる方法、特異度を上げる方法、 両者を上げる方法を説明できる 3. 偽陽性と過剰診断を説明できる 3
  4. 4. 診断検査の指標 疾患あり 疾患なし 検査陽性 真陽性 偽陽性 検査陰性 偽陰性 真陰性 4 疾患 検査
  5. 5. 診断検査の指標 疾患あり 疾患なし 検査陽性 真陽性 偽陽性 検査陰性 偽陰性 真陰性 5 疾患 検査 感度 = 真陽性/疾患あり 特異度 = 真陰性/疾患なし
  6. 6. 診断検査の指標 疾患あり 疾患なし 検査陽性 真陽性 偽陽性 検査陰性 偽陰性 真陰性 6 疾患 検査 陽性適中率 = 疾患あり/検査陽性 陰性適中率 = 疾患なし/検査陰性
  7. 7. 感度特異度は臨床的に解釈しづらい 感度=検査陽性/疾患あり 特異度=検査陰性/疾患なし 臨床的に解釈しやすいのは、検査陽性(陰性) であったときの疾患がある(ない)確率 つまり、陽性適中率と陰性適中率 陽性適中率=疾患あり/検査陽性 陰性適中率=疾患なし/検査陰性 7
  8. 8. 感度特異度と、陽性/陰性適中率の関係 介入研究のリスク比とリスク差に似た関係。 リスク比0.5と言っても、イベント減少効果が 2/10000→1/10000 の小さい効果 2/10→1/10 の大きい効果 なのか不明 リスク差1/10000は10000人に1人イベント を減らす意味であり、解釈しやすい 8
  9. 9. 陽性適中率と陰性適中率 臨床的には解釈しやすいが、 有病率:全体の中の疾患ありの割合 によって大きく変わる。 そのため、研究結果を実臨床で適用しづら い。 9
  10. 10. 感度と特異度 一方、感度特異度は有病率に左右されない。 よって、質の高い研究から得られた感度特 異度を用いて、自分の適用したい集団の有 病率をもとに、陽性/陰性適中率を計算して、 臨床に応用するとよい。 10
  11. 11. 感度特異度のトリック 感度=検査陽性/疾患あり 特異度=検査陰性/疾患なし 感度100% =何でもいいから全て陽性にす れば達成。 特異度100% = 全部陰性にすれば達成。 通常、感度と特異度は相反する動きをする。 11
  12. 12. 感度特異度のトリック 感度98% =2人適当に陰性にして、残り陽 性にすれば達成 特異度99% = 1人適当に陽性にして、残り 陰性にすれば達成。 流石に、感度と特異度の両方高い値を達成 するのは無理?? 12
  13. 13. できちゃいます 13 https://www.tspot-tb.jp/product/performance/ T-SPOT
  14. 14. T-SPOT 14 このように感度と特異度の計算をするために使う 集団を変えれば、感度特異度の両方を上げるこ とができます https://www.tspot-tb.jp/product/performance/
  15. 15. 感度と特異度の算出のための集団が違う 15 2ゲートデザイン ケースコントロールデザイン と呼ばれ、検査の性能を過大評価することが知られている。 (Risk of Biasが高い) 研究結果を見る際は、このようなバイアス評価が必要です。 バイアス評価のツールとしてQUADAS-2ツールがあります。詳 細は別トレーニングで。 Ann Intern Med. 2011;155(8):529-536.
  16. 16. 知りたいのは、明らかに疾患あり/なしの人の結果ではない 明らかに疾患が疑わしいのであれば、 スクリーニング検査は不要で確定診断がで きる検査、または治療へ進めばいい 明らかに怪しくなければ、検査不要で経過 を見ればいい 2ゲートデザインは臨床に沿わない 16
  17. 17. 知りたいのは、あるかないか微妙な症例 17 より詳しい検査が簡便ではなく、検査するべきか悩 むから、スクリーニングをかける。 より詳しい検査がスクリーニング検査と同等の簡便 さなら、そもそもそのスクリーニング検査は無意味。 疾患あり疾患なし このあたりの人達を対象にした結果(感 度特異度)が知りたい
  18. 18. 実際のT-SPOT 結核か迷うような症例540人を対象 T-SPOTの活動性結核は 感度: 76.7% 特異度: 76.4% 18 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4486813/
  19. 19. では、こんな感度特異度はどうか? 尿1滴で癌がわかる!! 19 https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a =20200116-00430457-fnn-soci http://エヌノーズ.com
  20. 20. 我々一般人における癌の可能性 罹患率=784/10万人 (厚労省統計2016) 感度と特異度両方とも85%として 20 疾患あり 疾患なし 検査陽性 666 14883 検査陰性 118 84333 検査陽性でも、癌がある可能性 4.3% 検査陰性でも、癌がある可能性 0.14% 検査しない場合、癌がある可能性 0.78% https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000553552.pdf
  21. 21. 95.7%の偽陽性の人たち 何の癌か分からないけど陽性と言われた、癌のない人たち (偽陽性) ここから検査検査の積み重ねが始まる。 その追加検査も感度特異度があるし、侵襲的な検査だと合併 症や負担がある。 21 疾患あり 疾患なし 検査陽性 666 14883 検査陰性 118 84333
  22. 22. 95.7%の偽陽性の人たち 最終的には、検査した範囲ではなさそうです(あるか もしれません)と言われる可能性が高い。 検査を受けている時の不安、時間の拘束、金銭的な負 担 そして、検査陽性なのに見つからない、まだ検査して ないところがあるのではないかという不安を将来的に 抱えるかもしれない 22
  23. 23. つまり、尿一滴で簡便な検査であるが 4人の癌を見つけるために、96人の偽陽性 者は様々な検査や負担を受ける犠牲になる。 自費で受け、検査陽性となって、我々のと ころに来院したら、癌を見つけにかかる検 査は、保険診療なのか? このような検査について、非常に危惧して おります。 23
  24. 24. さらに言うと、早期に癌が見つかれば、寿命は延びるのか? 検査には 偽陽性の他に 過剰診断 という問題 24
  25. 25. 過剰診断とは Overdiagnosis = diagnoses that ultimately cause more harm than benefit 診断することが、診断しないことより害に なること 25 Brodersen J, Schwartz LM, Heneghan C, et al. Overdiagnosis: what it is and what it isn’t. BMJ Evidence-Based Medicine 2018;23:1-3.
  26. 26. 尿一滴で癌が見つかった4人を例に 検査有効 • 検査を受けていない人に比べて寿命やQOLが上がる 過剰診断 • 早期に治療を受けたが、検査を受けていない人も後に発見 され、結局のところ寿命やQOLなどは変わらない(早期診 断した分、負担) • 癌の治療を行って、その流れの中で命を失う(合併症など の害) • 癌の治療を行ったものの、癌が原因ではない出来事で亡く なり、見つけなくても、その人の予後は変わらない(治療 を受ける負担、苦しみ) 26
  27. 27. 尿一滴で癌スクリーニング 4人の診断に96人の偽陽性者をつくり、 さらにその4人は全員見つかってよかったと は限らない。過剰診断も含まれる。 27
  28. 28. 当院の過剰診断の症例 80代後半透析患者、定期CXRで肺に陰影が 見つかり肺癌の診断。手術を希望され紹介 し手術。 しかし1年以内に吐血で死亡 もちろん予後がわからないので、経過に問 題はなかった。しかし、もし定期CXRを受 けていなかったら、手術で苦しむ必要はな かったかもしれない。 28
  29. 29. メッセージ 検査では事前の確率が大事。 感度特異度という数値だけでなく、陽性的中率や陰性適 中率を考える。 感度特異度を出した研究にもバイアスの恐れがある。 疾患の疑いが強いなら、スクリーニング検査は不要で、 確定診断の検査をする方が良いかもしれない。 疾患の疑いの低い人へのスクリーニング検査は偽陽性や 過剰診断の恐れがあるため、検査の効果が示されている もの以外は控えるべき 29
  30. 30. 30

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