AIの学会に論文を続々と投稿するなど、先端技術の研究を進めるウォルマート。世界最大の小売企業は今、テクノロジー企業へと変貌を遂げようとしている。日本企業も経営の根幹を変えるほどの覚悟がなければ、衰退は免れない。
2019年12月、カナダのバンクーバーでAI(人工知能)の有力な学会である「NeurIPS」が開催された。一般的に国際的な学会での論文の採択率は20%程度といわれるが、NeurIPSはそれよりも厳しく、およそ15%だ。
米グーグルや「AlphaGo」を開発したことで有名な同社傘下の英ディープマインド、米マイクロソフトといったIT企業が数多くの論文を通す中で、ウォルマートのエンジニアが出した、AIによるデータ学習を効率化する手法の論文が2通採用された。スーパーを手掛けているアマゾン・ドット・コムを除けば、小売業で論文の採用を確認できるのはウォルマートのみ。もちろん日本の流通業の姿はない。
天井に1000台以上のカメラ
NeurIPSはAIの主要な手法である機械学習や人間の脳の構造を模したディープラーニング(深層学習)の専門学会だ。「NeurIPSで論文が採用されると、研究者の間で一目置かれる」(日本のAI研究者)というほど権威のある学会に、ウォルマートが論文を続々と投稿している。NeurIPSで露出すれば、有力なエンジニアの獲得も期待できる。同社の動きは、AIの活用がこの先の小売業にとって避けては通れないものになっていることの証左にほかならない。
「ウォルマートはAI活用の世界的なリーダーになる」。デジタル技術などで新たな買い物の手法や店舗のあり方を研究する社内プロジェクト「インテリジェント・リテール・ラボ(IRL)」のマイク・ハンラハンCEO(最高経営責任者)はこう豪語する。IRLはウォルマートの中で先端技術の活用を研究する組織「ストアナンバー8」に設置されている。ジェットブラックやインホーム・デリバリーといった新たなサービスもこの組織から生まれた。
ウォルマートはAIの研究を進めているだけではない。店舗での活用も既に始めている。
ニューヨークの中心マンハッタンからクルマで東に1時間強。ロングアイランドの中央部に、AIの実験場となっているウォルマートのレビットタウン店がある。中型店「ネイバーフッドマーケット」の中で最も忙しい店舗の一つを選び、19年4月、AIによる店舗の完全デジタル化を開始した。
レビットタウン店に入ると圧倒されるのが、天井からつり下げられた無数のカメラだ。各棚の上に1.2m間隔で配置されている。詳しい数は非公表だが1000台以上あるという。カメラが捉えた画像を店舗内のデータセンターに送り、リアルタイムのAI画像処理でどのような物体が映っているのかを把握する。
コメント2件
K.Gotou
情報処理従事者
うーむ。これは、こんなことが起きる前兆なのかも。
「朝起きたら、ウォルマートの売り場に居た」。
ウォルマートは、人の夢の中まで入ってきてそれらしい商品がでてくるシーンをいくつか映し出して一番反応した商品の売り場へ、自動運転のベッドが運んで
いくのですよ。
...続きを読む目の前に「欲しい」が並んでいる。寝ぼけているから「買います」といっただけで、ベッドの下にある買い物かごへ商品が放り込まれ、安心して二度寝をして起きたら自宅にいる・・・。
もうね、人間なんてベッドがありゃいい。ベッドに自動洗浄(お風呂と同等機能で乾燥付き)トイレまでついているからすっぽんぽんでも構わない。シーツにくるまって、「欲しい」「必要」だけ考えてればいいんです。
だけど、買って何をする?起きるのも面倒です。だから、また、眠る。そうすると、どこかのウォルマートに連れ出され、使われない商品は棚へ戻っていく。そして、あたらしい買い物が始まる。
そう、ウォルマートは「買いたい」欲望だけを満足させる企業となるのです。商品は新品でも中古でも。「食いたいもの」も夢の中でたらふく食わせて満腹中枢を刺激してあげるサービスを展開。
未来は、ただひたすら「マネー」が動く世界なのであります。
石田修治
定年退職
「日本企業も経営の根幹を変えるほどの覚悟がなければ、衰退は免れない。」は面白い表現だが、的を射ていると思う。日本の経営者の多くは、IT技術者に「DXを実現して欲しい」と頼めば出来ると思っているのではないか。結局、IT技術の真髄を理解している
経営者が自ら変革を起こさなければ、DXに乗ることは出来ないと思う。...続きを読むコメント機能はリゾーム登録いただいた日経ビジネス電子版会員の方のみお使いいただけます詳細
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