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書類申請で消耗…「研究・開発」を窒息させる、大企業・教育現場の不合理

カッターも自由に使えないようじゃ

私は農業研究をしながら企業の研究者とディスカッションしたり、小中学校に市民講師として講義に行ったりすることがある。そうした場で気づくのは、研究を進めようにも進められない事態が進行しているのではないか、という危機感だ。

以下に紹介するのは私の経験がもとであり、日本企業のどれだけに当てはまるのかは分からない。だが、少なからぬ企業が本文と似た状況に陥っているらしい。経営者の方は、自社で似たようなことが起きていないか、いちどご確認いただきたい。行政や政治家の方は、研究開発と労務管理のあり方を、改めて研究者の方を交えて考えてみてほしい。

 

ハサミ使用禁止の学校

もう16〜17年前のこと。名古屋市の中学校に市民講師として授業をしに行った。指折りの進学校で、花びらから「リトマス試験紙」を作る授業を始めようとしたら「知ってるよ、アントシアニンって言うんでしょ。紫キャベツの汁も色が変わるんだよね」なんて声がすぐ出るようなお勉強好きの集まる学校だった。幸い授業は好評だったらしく、また次回も、と依頼があった。

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次は工作にしようと思い、カッターを用意してもらおうとしたところ、先生が「危ないのでカッターは持ち込み禁止です」という。それもそうか、じゃあハサミで、というと、「ハサミも刃物なので禁止です。生徒さんをケガなく帰す責任がありますから」。

…生徒の半分くらいは「医者になりたい」と言っていたけど? もし彼らのうち外科医を目指す子がいるなら、ぜひ家庭でハサミやカッターで遊び、腕を磨いていてほしいな、と心から祈りつつ、刃物を使わない内容に変更せざるを得なかった。彼らももう30歳。いまごろどうしているだろう。