『歌唱部にて』

※あくまで二次創作であります。公式とは違いますので設定等変わっている所もあると思いますのでご注意くださいませ。

ACTORS二次創作ショートノベル

『歌唱部にて』

木々はすっかり葉を落とし、スライヴセントラルにも本格的に寒さが訪れたある日、美化推進部の一乗谷羚は早足で歌唱部部室に向かっていた。今度行われる持久走大会コースの美化の協力を頼むためだ。

放課後、キャンバスを生徒たちがせわしなく行き来している。部活棟に向かう道はかなり混んでいた。主に部活に向かう生徒たちの波ではあるが、部活動ポイント取得を狙い、最後の授業が終わると管理課にある依頼掲示板をチェックしに急ぐ者もかなりいた。

そのため生徒の流れはさまざまで、道が交わる場所などは特に混んでおり、気を付けないと怪我をしてしまうため注意喚起の立て看板が置かれるほどだった。

そんな場所を羚はストレスなくするするとすり抜けていく。スマートに混雑を交わす事は羚にとって美しい行為だ。また羚の存在に気付いた生徒たちが道を譲っているのも一因だった。その程度には羚は学園でも知名度が高い。道を譲った生徒には逐一礼をしているので好感度はすこぶる良かった。

羚は部室棟ではなく専門教科用の棟を四階まで上り、突き当たりの部屋のドアをノックする。そして特に返事を待たずドアを開き入っていく。

「失礼する。水月はいるか?」

羚は歌唱部に入ると、部長の水月を探す。しかしそこにたるのはソファーで惰眠を貪っている金髪の生徒がひとり。

「おい、五月女」

「ん、んん……」

燎は羚の声に反応したものの、寝返りをうって反対側を向いてしまう。

「まったくこの男は。五月女起きたまえ」

「うるせぇな……誰だよ。あ? なんでお前がここにいるんだよ」

いかにも不機嫌といった具合にむくりと起き上がる。

「水月はまだ来てないのか? 用があるのだが」

「ああ、まだ来てねぇよ。つってももう来るんじゃね?」

「そうか。なら待たせてもらおう」

「好きにしとけ。俺は昼寝の続きするからよ」

そう言うと燎はまた横になってしまった。

羚は手近にあった椅子に腰掛けると足を組んだ。

「おい五月女」

少し間があいた後、羚はふたたび燎に話しかけた。

「んだよ、まだなんかあんのかよ」

「五月女はここで普段何をしているのだ?」

「何って……なんもしてねぇよ」

「このように寝ているだけか」

「まぁそうだな。何もなきゃ寝てるわ」

そう答えた燎に、羚は眉を曇らせる。

「ほかの部活動に口を出すつもりはないが、五月女、もう少し水月の役に立ってやったらどうだ?」

「俺は水月からこうしてていいって言われてんだよ。それになんかあったらちゃんと活動してるぜ」

「そういう約束か。しかしそれは最低限というものだろう?」

「随分からんでくるな……喧嘩売ってんのか?」

流石にイライラして来た燎。

「勿体無い」

「はぁ? 勿体無い? なんだそれ」

「勿体無いのだよ五月女。お前は水月の傍にいながら言われなければなにもしないなど勿体無さ過ぎるのだ」

「何がだよ。訳分からん」

「傍にいるという事はいくらでも貢献できるという事だ。たまには水月を喜ばしてやってもいいだろう? ああ、実に勿体無い」

「はぁ……」

嘆く羚。困惑する燎。
するとドアが開き、水月が入ってきた。

「おや? 羚、ごきげんよう。どうしたのかな?」

「おお! 水月待っていたぞ」

「燎と話をしていたようだけど、ふたりが話しているなんて珍しいね」

「ああ、五月女が水月のペットのようだと話していたところだ」

「俺はペットじゃねぇ! それにそんな話してたか?」

「ところで水月、今日は歌唱部の力を借りられるか相談に来たのだ」

羚は燎の問いには答えず、会話相手を水月に切り替える。

「羚が僕たちの協力を仰ぎに来るって事はそれなりに大きな案件かな?」

「そうだ。これが思いのほか緊急を要する話でな」

「おい! 俺を無視すんな……ったく、寝るぞ」

「ふふ、燎は寝てていいよ」

不貞寝する燎を見てつい微笑んでしまった水月。

「この時期に緊急という事は、天翔学園持久走大会に関するものかな?」

「ご明察だ。率直に話させてもらうと、持久走コースの美化の協力要請をしたい」

「おや、あれは確か実行委員会のほうですべてまかなうのはなかったかな? 僕はそう聞いているけど」

「当初は水月の言う通りだったんだが、行き違いがあって委員会のほうで人を集め切れなかったらしい」

「それで羚の美化部に声がかかったという流れだね」

「うむ。しかし持久走用のコースは10kmあるからな。時間があれば我々でもなんとかできるが何分緊急でな。ひとりでも多く助っ人が欲しいのだよ」

天翔学園の持久走大会はコースの半分は敷地内から外に出て住宅街と商店街を通るため、事前にゴミを掃除したりするだけでなく、道路の設置物や駐車された車といった危険物になりそうな障害物を事前に排除しておく必要があった。

そのため美化でもあったため、交渉役が必要であり羚はそのための要員として水月を選んだのだった。

「協力するよ。羚の頼みだものね」

水月は間も置かず即答する。

「そうか! ありがたい!」

「部活動ポイントも稼いでおきたかったからね。こちらからもお願いしたい」

「それに関しては大丈夫だ。すでに交渉済みで報酬は同じような案件のものより3割増になっている」

「さすが羚だね」

「はは水月に褒められるとむず痒いな」

「ほかに人手は必要かな? あるなら鷲帆先生にも頼んでみるけど」

「助かる。多い事に越した事はないからな。それは頼んでいいか」

「うん。了承したよ」
頷く水月。

「そうだな……あとは清洲らにも声をかけてみるか。水泳部もポイント取得に苦労しているようだからな」

「燎、美化部の手伝いしっかり頼むね」

「お、おうよ」

素直に返事をする燎。その様子を水月は不思議に思った。
そのふたりを見ていた羚は満足そうな顔をした。

「では、私は失礼するよ。詳細は本日中にメールする」

「了解。僕も考古学部には連絡入れておくよ」

「ありがとう水月。ではまた」

そう言うと羚は退出していった。

「燎、君にしては珍しいね。美化の手伝いを嫌がらないなんて」

しばらく落着いた時間をすごした後、水月は横になったまま漫画を読んでいる燎に先ほどの反応について尋ねた。

「まあな。たまには真面目に部に貢献しなきゃなと思ってな」

「それは嬉しいね。積極的に活動してくれると部の維持がしやすくなるよ」

「寝床の維持費分はちゃんと稼ぐわ」

「ふふ、ありがとう」

「感謝される覚えはねぇよ」

燎は水月に視線を向けることなく、ぶっきらぼうにそう答えた。

(たぶん羚に何か言われたんだろうね。どんな話だったのかな……まぁ、尋ねるのは野暮だろうね)

「さっきの話だと考古学部に連絡入れるんだろ。しなくていいのか」

「そうだねそろそろ連絡を……」

水月がそう言いながらスマホを取り出そうとしたとき、部室のドアがまた開く。
歌唱部に来る前に、依頼をチェックしに行った陽太と颯馬が入室した。

「こんにちは! 遅くなりました!」

「水月先輩、申し訳ありません。依頼なのですがめぼしい物を見つけられませんでした」

「ごきげんよう、ふたりとも」

「颯馬、今日は空振りで大丈夫だぞ。依頼はさっき引き受けたからな」

「もしや水月先輩が貰ってきたんですか?」

「いや僕じゃないよ」

「な!? 燎……成長したじゃないか。驚きだぞ」

ありえないといった表情の颯馬。

「一乗谷が助けを求めてきたんだよ。あと先輩を呼び捨てにすんな」

「なんだ……ようやく水月先輩のペットを卒業したと思ったんだが。思い違いか」

「てめぇまでペット呼ばわりかよ!」

「その様子だと一乗谷先輩にもペットと呼ばれたようだな」

「おいこらいい加減にしろ」

「ちょっとちょっと! ふたりともダメですよぉ」

燎が立ち上がろうとしたため陽太が慌てて割って入る。

「颯馬、今回の依頼は燎もやる気になっているんだからそのぐらいで止めておくれ」

「ほう。一体どのような依頼なのですか? 燎がやる気になるなんて初めてではないですか」

「もうすぐ実施される持久走大会コースの美化の協力だよ。人手が足りないとの事でね」

「美化ってことは掃除なんですね」

「そうだね。陽太にも頑張ってもらうよ」

「はいっ」

「そんな仕事でやる気になったとは。燎、成長したじゃないか。賞賛に値するぞ」

「後輩のくせに上から言うな!」

「ほかにも鷲帆先生に頼んで考古学部にも協力してもらうつもりだからね。今、僕から連絡しようと思っていたところだよ」

「おっと、余計な時間をとらせてしまい申し訳ありません」

「あ、鷲帆先生なら考古学部にいると思いますよ。さっきそう言ってました!」

「ありがとう陽太。なら、今から考古学部に行って直接話をしてくるよ。そのほうが手っ取り早そうだ。では行ってくるよ」

「いってらっしゃい!」

部室から出て行く水月。

「俺も行くわ」

すると歌唱部から出た水月の後を追うように、燎も立ち上がると走っていった。

「水月ー、待ってくれ俺も行く!」

「ふふ、本当にやる気があるようだね。じゃあ一緒に行こうか」

「腹減ったからパン買いに行くついでだっての。俺が行ってもやるこたぁねぇだろ」

廊下から聞こえる声。そしてふたりは話をしながら考古学部に出向いていった。

「んーなんだこれは」

「どうしたの? 颯馬くん」

「あいつは何か悪いものでも食ったのか?」

「あはは……とりあえず、収録の手伝いお願いしたいんだけど、いいかな?」

「了解。しかし……理解に苦しむな……気でも狂ったとしか思えん?」

陽太は困惑している颯馬に苦笑しながら部室に設置された録音ブースに入っていったのだった。

END

執筆作業中の息抜きに書きなぐったヤツです。仕事で絵を描く人が息抜きに絵を描くじゃないですか? あれやってみたいなと。完全創作だと思考の切り替えが大変なんですけどこれなら去年すでにエンジンかけたあとですからね。余計な頭使わないので。まぁまた気まぐれに投下します。

そういや一週間で消すとかいってた様な気がしますがいつから一週間なのか考えてないんですよね。なんて。