デフレの勝ち組として不動の地位を築いた「ユニクロ」「無印」だが、業績の下方修正や在庫の肥大など、ここへきてさまざまな課題が露呈しており、SPAとしての根源的ビジネスモデルにも疑問符が付き始めている。

「ユニクロ」も「無印」も業績予想を下方修正

 ファーストリテイリングは1月9日に発表した20年8月期の第1四半期決算で売上収益が3.3%、総利益が3.7%、営業利益が12.4%、前年同期より減少し、20年8月期の業績予想を売上収益で600億円(2兆4000億円→2兆3400億円)、営業利益で300億円(2750億円→2450億円)、下方修正した。

 

 ジーユー事業こそ売上収益が11.4%、営業利益が44.4%も伸びて好調だったが、全社売上げの37.4%を占める国内ユニクロ事業が暖冬や消費増税で売上収益が5.3%減少し、同45.0%を占める海外ユニクロ事業も韓国と香港が大幅な減収減益で売上収益が3.6%、営業利益が28.0%減少したのが響き、下方修正を余儀なくされた。韓国と香港は政情不安というカントリーリスク、国内ユニクロは消費増税という国策リスクに直撃されたとはいえ、不動の勝ち組と言われた「ユニクロ」が業績の大幅下方修正に追い込まれたショックは大きく、発表直後は株価も大きく下げた。

「無印良品」の良品計画(連結)も1月10日、20年2月期の業績予想を下方修正している。第3四半期までの累計で営業収益と売上高がともに7.9%増にとどまって営業利益が14.5%減となり、通期の売上高を4554億5100万円から4437億円に2.6%、営業利益を452億9600万円から378億円に16.5%下方修正し、一転しての減益予想に株価はストップ安となった。

 

 業績見通しの下方修正で株式時価総額も減少したが、ファーストリテイリングと良品計画では桁が違う。時価総額が企業の将来評価だとすれば、6兆8226億円のファーストリテイリングは5795億円の良品計画の11.8倍(売上高は5.3倍)の企業価値が評価されていることになる。ポスト「ユニクロ」の本命と注目されるワークマンは売上高は669億円(チェーン全店売上高は930億円)でも株式時価総額は7972億円と、良品計画を4割近く凌駕する。そんな見方をするなら、株式時価総額が3000億円を割り込んだしまむらなど、既にマーケットは見放している。※株式時価総額は各社とも15日の終値。

 それだけ市場の評価は良品計画に厳しいが、成長性という点では「無印良品」が「ユニクロ」を凌駕している。「ユニクロ」はなぜ伸び悩むのか、「無印良品」はなぜ収益が悪化しているのか、両者を比較すればデフレに直面する小売業の戦略が見えてくる。

伸び悩む「ユニクロ」

 同じ下方修正といってもファーストリテイリングと良品計画では事情が異なる。ファーストリテイリングは売上高の伸び悩みが収益を低下させ、良品計画は売上高は伸びているのに収益が低下しているという対局の構図が見られる。ここからは市場性もにらんだ比較とするため、両者とも国内事業に絞って検証してみたい。

 

 国内ユニクロ事業の売上収益は16年8月期以降、2.5%増(既存店0.9%増)、1.4%増(同1.1%増)と伸び悩み、18年8月期は6.7%増(同6.2%増)と巻き返したものの、19年8月期は再び0.9%増と停滞している。20年8月期第1四半期(9〜11月)は消費税の増税もあって5.3%減と失速し、12月も直営全店とECで5.5%減と低迷を深めている。

 第1四半期(9〜11月)はユニクロにとって一番の稼ぎ時で、18年8月期は541.13億円と年間営業利益の45.8%も稼いでいたが、今第1四半期の385.57億円では37.4%ほどにしかならず、次いで利益貢献の高い第2四半期も12月が5.5%減では大幅減益が避けられない。

 第1四半期はEC売上げ247億円を含んでも前期から131億円落としたが、そのEC売上げも4.1%増と急失速しており(18年8月通期は32.0%増)、状況の深刻さが伺える。前期の売上げシェアは第1四半期が28.2%、第2四半期も28.1%あったから、このペースでいくと上半期で前期から260億円以上、売上げを落とすことになる。

 どうしてそんなに売上げが低迷しているのか、売上げの中身を見ると推察がつく。第1四半期の既存店+ECの売上前年比は4.1%減だったが、客単価は4.5%落ちても客数は0.4%とわずかながら増えている。「ユニクロ」人気は落ちていないが、消費増税による高単価品の買い控えに暖冬による高単価防寒アウターの販売不振が加わり、売上げを落としたと思われる。

 それだけなら良いのだが、ユニクロの店頭を見るにつけ、防寒アウターなど高品質なのかもしれないが、“大衆”の手が届く価格を逸脱している。周囲には、もっと味があるのにユニクロより手頃な商品が氾濫しており、ユニクロはかつての百貨店平場NB的な中級品と位置付けられ始めている。その認識が臨界点まで行った時、劇的なユニクロ離れが始まるのかもしれない。

 19年8月期で46.7と前期から1.7ポイント落とした荒利益率を今第1四半期(9〜11月)では2.3ポイントも上昇させたのも良品計画とは対照的で、利益確保が優先され、価格を抑制しようという戦略意思を欠いている。グローバルなお金持ち企業になって庶民感覚から乖離してしまったとすれば、国民的カジュアルの座もいずれ危うくなる。

 社会負担と増税で手取りが目減る中での2%の消費増税は庶民には残酷で、「無印良品」も「ワークマン」も内税で消費増税をのみ込んだのに、「ユニクロ」だけは外税で顧客に転嫁したことも微妙に影響したと思われる。もはや庶民の痛みなど分からない上から目線のお金持ち会社と見なされ、親近感を抱けなくなったとすれば、ユニクロの失ったものは計り知れない。

収益が陰る「無印良品」

 業績予想を下方修正したとはいえ、良品計画の売上げは好調を継続しているが、販管費と在庫の負担が収益を圧迫している。

 

 良品計画の国内事業は19年2月期こそファミリーマートへの商品供給の終了もあって5.9%増と減速したが、16年(2月期、以下同)は9.8%増、17年は8.6%増、18年も9.5%増と順調に売上高を伸ばしてきた。直営店売上げも16年は11.1%増、17年は8.2%増、18年は11.4%増、減速した19年も6.8%増と堅調で、17年3月以降、19年4月に直営既存店が99.5と落とした以外は全社でも直営全店でも直営既存店でもプラスを続けており、売上げに陰りは見られない。

 ただしWEB(EC)は16年が18.1%増、17年が11.6%増、18年が3.9%増と減速しており、回復した19年も10.1%増と大手アパレルチェーンと比べると伸びが鈍い。店舗販売の方が伸び率が高いぐらいで、EC比率も17年の7.0%(174.9億円)から18年は6.5%(181.7億円)、19年も6.6%(200.0億円)と伸びず、18年8月期には国内ユニクロ(7.29%/630.6億円)に抜かれ、19年8月期は9.53%(832.3億円)、20年8月期第1四半期は10.6%(247億円)と伸ばすユニクロに引き離されている。

 売上げが200億円を超えると自社運営ECの経費率は店舗販売の6〜7掛けまで低下するはずで、とりわけ1人当たり売上額は店舗販売の10倍を超えるから、WEB売上げが伸び悩むということは収益改善、とりわけ人件費負担の軽減が遅れることになる。

 売上げが伸びているのは客数が増えているからで、19年2月期は7.9%増、19年3〜8月も9.8%増、消費増税の9〜11月も16.8%増、12月も19.7%増と加速している。社会負担増と増税で手取りが目減りし生活消費財のデフレ要求が高まる中、取り扱い全7000品目中、18年春に2400品目、19年秋に1100品目を値下げした効果は絶大だった。ユニクロと違って内税で増税をのみ込んだことも好感を得たのではないか。

 今期に入ってどのカテゴリーも好調に加速しているが、衣料品の客数の伸びが際立つ。19年2月期で11.8%、今上半期で12.1%、9〜11月では18.0%、12月は23.2%も客数が伸びている。その分、客単価は落ち続けており、19年2月期で3.8%、今上半期で5.6%、9〜11月では10.8%、12月は12.0%も落ちている。それは全体でも同様で、19年2月期で3.5%、今上半期で5.8%、9〜11月では7.1%、12月は8.3%も落ちている。

 消費者のデフレ要求に真っ向から応える大判振る舞いだが、その分、荒利益率を大きく落としているわけではない。19年2月期は前期から1.3ポイントダウンの39.1だったが前々期の37.7よりは高く、今期も第3四半期までで38.5と前年同期より1.6ポイント落としているが、政策的な許容範囲と思われる。値下げで消化率が高まって値引きが減り、値入れを削った分の大半を埋めたと推察されるが、ぜひとも参考にしてほしい“大実験”だ。

 利益を圧迫しているのは販管費で、19年2月期は33.1%と前期から1.3ポイント肥大したが、そのほとんどは人手不足下であえて適正配備まで増員した人件費で、11.4%と1.2ポイントも上昇している。増員当初は作業効率が低く人件費負担が重いが、慣れてくればスキルも上がり、客数が増えて売上げが上がる分、増員してよかったという結果となるのではないか。そのコスト増を相殺するにはWEB売上げの拡大が急務で、顧客利便に応えるためにも店舗拠点のC&Cが急がれる。