映画「この世界の片隅に」(2016年公開)が8月3日、NHKによって地上波放送で初めて放映された。こうの史代さんのマンガを原作とする劇場版アニメだ。主人公は、すずさん。絵を描くのが好きな18歳の女性だ。広島から呉に嫁ぎ、戦争の時代を生きる(関連記事「『この世界の片隅に』は、一次資料の塊だ」)。アジア・太平洋戦争中の、普通の人の暮らしを淡々と描いたことが共感を呼んだ。
一方、アジア・太平洋戦争中の、戦地における兵士の実態を、数字に基づき客観的に描写したのが、吉田裕・一橋大学大学院特任教授の著書『日本軍兵士』だ。「戦闘」の場面はほとんど登場しない。描くのは、重い荷物を背負っての行軍、食料不足による栄養失調、私的制裁という暴力、兵士の逃亡・自殺・奔敵、戦争神経症に苦しむ様子--。同書の記述からは、軍が兵士をヒトとして遇そうとした跡を感じることはできない。加えて、第1次世界大戦から主流となった「総力戦」*を戦う態勢ができていなかった事実が随所に垣間見られる。
*:軍隊だけでなく、国の総力を挙げて行う戦争。軍需物資を生産する産業力やそれを支える財政力、兵士の動員を支えるコミュニティーの力などが問われる
なぜ、このような戦い方をしたのか。終戦記念日 を迎えたのを機に考える。吉田特任教授に話を聞いた。
(聞き手 森 永輔)
吉田さんはご著書『日本軍兵士』の中で衝撃的な数字を紹介しています。
支那駐屯歩兵第一連隊の部隊史を見てみよう 。(中略)日中戦争以降の全戦没者は、「戦没者名簿」によれば、2625人である。このうち(中略)1944年以降の戦没者は、敗戦後の死者も含めて戦死者=533人、戦病死者=1475人、合計2008人である。(後略)(支那駐屯歩兵第一連隊史)(出所:『日本軍兵士』)
この部隊の戦没者のうち約76%が終戦前の約1年間に集中しています。しかも、その73%が「戦病死者」。つまり「戦闘」ではなく、戦地における日々の生活の中で亡くなった。敗戦色が濃厚になるにつれ、兵士たちは戦闘どころではなく、生きることに必死だった様子がうかがわれます。
戦病死の中には、「餓死」が大きなウエイトを占めていました。
日中戦争以降の軍人・軍属の戦没者数はすでに述べたように約230万人だが、餓死に関する藤原彰の先駆的研究は、このうち栄養失調による餓死者と、栄養失調に伴う体力の消耗の結果、マラリアなどに感染して病死した広義の餓死者の合計は、140万人(全体の61%)に達すると推定している*。(『餓死した英霊たち』)(出所:『日本軍兵士』)
*:諸説あり
飢餓が激しくなると、食糧を求めて、日本軍兵士が日本軍兵士を襲う事態まで発生しました。
飢餓がさらに深刻になると、食糧強奪のための殺害、あるいは、人肉食のための殺害まで横行するようになった。(中略)元陸軍軍医中尉の山田淳一は、日本軍の第1の敵は米軍、第2の敵はフィリピン人のゲリラ部隊、そして第3の敵は「われわれが『ジャパンゲリラ』と呼んだ日本兵の一群だった」として、その第3の敵について次のように説明している。
- 彼等は戦局がますます不利となり、食料がいよいよ窮乏を告げるに及んで、戦意を喪失して厭戦的となり守地を離脱していったのである。しかも、自らは食料収集の体力を未だ残しながらも、労せずして友軍他部隊の食料の窃盗、横領、強奪を敢えてし、遂には殺人強盗、甚だしきに至っては屍肉さえも食らうに至った不逞、非人道的な一部の日本兵だった。(前掲、『比島派遣一軍医の奮戦記』)(出所:『日本軍兵士』)
コメント42件
M
今回の記事で紹介された情報は、すでに何度も指摘されているものです。其のうえで掲載するのならば、開戦を回避もしくは終戦を早める為の新たな方策を提示するべきではないでしょうか。それから、戦争を批判するんしても、もう声を上げられない戦死された方
々を侮辱するような表現は慎むべきだと思います。...続きを読む佐渡の番人
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佐渡の番人
米軍、或いは豪州軍の幹部の手記を見ると、日本軍はいつも同じ戦法でやってくる。最初は突撃に驚いた、いつも迂回包囲で攻めてくる。攻め方が分かると打ち破るのは簡単だった。が、なぜか日本軍は負け続けても同じ戦法を繰り返したと、あった。
死亡した26
0万の将兵の6割が兵站の不備で(食料不足、医療不備など)でお亡くなりになったことは大変胸が痛む。...続きを読む一方では、インドネシアに残置された3000名の将兵がインドネシア独立戦争に参加し、対オランダ戦で全滅している事、血を流したことがインドネシアの親日につながっている事をお伝えしたい。また、駆逐艦”雷”の工藤艦長が戦闘直後の巡視中にも関わらず艦を停止、沈没された英国軍艦の海に漂う将兵を艦上に助け上げたこと、助けた人数が雷の乗員よりも多かったことなど、皆さんご存知でしょうか。昭和天皇の訪英時、英国では反日の動きが激しくなったが、救助された側の英国貴族の将校が雷の行為を新聞に寄稿すると、反日の怒りの嵐が静まったこともある。
戦争は悪である。私の上司が小学生のころ三重県の田舎で米軍戦闘機から面白半分に機銃照射され、たんぼ道を走って逃げたそうである。目の前の少年の頭が吹っ飛び亡くなった。一度だけ、今でも米軍は許せないと仰った。
日本だけを貶めるようなことはなく、やはり両目を開けて論じて欲しい。
けーしー
兵士を粗末に扱い戦力を棄損した事も、兵站を軽視して自滅した事も、白兵戦や精神主義に固執して空しい犠牲を払った事も、勝機が無い事を知りつつ開戦した事も、大本営発表に盲従した事も、特攻を立案し命令し、命令に服従し出撃した事も、日本人と日本人がそ
の地位に就けた指導者の無能さが引き起こした悲劇なのでしょう。悲劇をいく度か経験したとしても、日本人の個々人の本質が改まらない事には、国としての振る舞いも改まることは期待できないでしょう。高校野球を見るまでもなく、日本人の本質が先の大戦から改まっているとは思えません。もし同じような情勢になれば同じ道を歩むであろう不安が払拭できません。こうした特性はもしかすると、DNAに刻まれた脳内代謝のなせる業なのかもしれません。もしそうならば努力で克服できる類の課題ではなさそうです。...続きを読むLIonKingdom
Scientist
今.無能な経団連や経済同友会の幹部が,消費税増税を推進し,中共に協力しながら,移民政策を推進する.国民を疲弊させている様は戦争指導の誤りとダブりませんか?(私は先の戦争は日本の自存自衛のためのものと思いますが,いかんせん戦略が間違っていた.
)...続きを読むコメント機能はリゾーム登録いただいた日経ビジネス電子版会員の方のみお使いいただけます詳細
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