KDDIは、スマートフォン単体でのデータ通信が容量無制限になる「auデータMAXプランPro」を、2月1日から1500円値下げすることを発表した。料金は「2年契約N」を適用した場合で7480円(税別、以下同)。「家族割プラス」で3回線契約しつつ、固定回線とのセット割である「auスマートバリュー」を適用すると5480円になる。さらに、6カ月間「スマホ応援割」で1000円の値引きを受けることができ、期間限定ながら料金は4480円まで下がる。
あわせて、テザリングや世界データ定額利用時の通信容量も10GB増量され、30GBになる。料金を2割程度下げつつ、容量無制限の例外として設けられていた制限を緩和した格好だ。KDDIは、Netflixとのバンドルプランである「auデータMAXプラン Netflixパック」(以下、Netflixパック)を7880円、割引全適用時は4880円で提供しているが、auデータMAXプランProの値下げによって、これを下回ることになる。ここでは、KDDIが値下げに踏み切った理由や背景を考察していきたい。
もともとauデータMAXプランProは、2年契約N適用時で8980円、割引を全適用しても6カ月間5980円、以降は6980円と、スマートフォンの料金プランの中では、高めの金額に設定されていた。KDDIが主力にする、月7GBでFacebookやTwitterなどのゼロレーティングサービスが付いた「auフラットプラン7プラスN」は5480円。両者の金額差は、3500円と大きかった。2月1日からは、auデータMAXプランProが値下げされることで、この差が2000円に縮まる。
月20GBまで利用できる「auフラットプラン20N」との差額も正価で2980円から1480円に下がる。auフラットプラン20Nには家族割プラスが適用されないため、割引全適用時の料金差が480円になるのも大きい。7GBのauフラットプラン7プラスNからのアップグレードを考えたとき、auデータMAXプランProが選択肢に挙がりやすくなるはずだ。
他社と比較した際にも、auデータMAXプランProは価格の高さがネックだった。1月1日から終了期間未定で容量を30GBから60GBにアップしたドコモの「ギガホ」は、2年契約を付けるか、「dカードお支払割」が適用されたときの料金が6980円。「みんなドコモ割」で3回線以上契約し、「ドコモ光セット割」を付けると、6カ月間の料金は3980円。60GBと容量無制限の違いはあるものの、金額差は2000円と大きかった。KDDIが料金プランを改定したことで、差額は500円になる。このように見ると、ドコモの容量増加に対抗した値下げと捉えることもできそうだ。
7480円という金額は、月50GBで一部動画サービスやSNSにゼロレーティングを導入している、ソフトバンクの「ウルトラギガモンスター+」と同額。ウルトラギガモンスター+の場合、「みんな家族割+」の割引額が4人で契約すると2000円と大きくなるため、割引を全て適用した際の価格は3480円に下がるが、最大で1000円差の範囲に収まるようになった。スマートフォン単体での使い方だったゆえに、他社より割高だったauの最上位プランが、他社と同水準まで下がり、競争力が増したといえる。
では、なぜKDDIがこのタイミングで値下げに踏み切ったのか。理由の1つは、春商戦だ。新年度を迎える4月を前にした2月~3月は、携帯電話市場最大の商戦期。新規契約者が増えるのはもちろん、端末販売台数もピークに達する。KDDI広報部によると、春商戦での競争力を強化するため、auデータMAXプランProの値下げに踏み切ったという。
4月に本格参入を控えた、楽天モバイルに対するけん制という意味合いもあったようだ。KDDI広報部の担当者は「楽天の本格参入を前に、データ容量に上限のない料金の先駆者として今回の料金プランを値下げすることにした」と語る。楽天モバイルの料金水準がいくらになるのかは未知数だが、同社幹部は格安の料金プランを打ち出すことを公言している。本格参入を前に、先手を打ちたかったというのがKDDIの考えだ。
特に大容量プランは、楽天モバイルにとってハードルが高い。auのローミングに頼ると、低価格を打ち出しづらくなるからだ。ユーザー向けに公表されているローミングの単価は、1GBあたり約500円。仮に楽天モバイルが100GBプランを用意し、その全てがauのネットワークで使われてしまうと、ローミング料金は5万円に跳ね上がる。ユーザー向けの料金とローミング料金の差分を楽天が負担することになれば、大赤字は免れない。ローミングが従量制のため、大容量になればなるほど、料金を設計しづらい構造があるというわけだ。料金値下げは、ここに対し、先手を打ったとみることができる。
一般的に、携帯電話の料金は単純な値下げがしづらい。一律で料金を下げると、その料金プランの契約者数に値下げ分の金額を掛けた額が、減収に直結してしまうからだ。これに対し、auデータMAXプランProは、契約者数の比率も低かったものとみられる。主力の料金プランが7GBのauフラットプラン7プラスであることを踏まえると、auデータMAXプランProへの移行者が増えれば、1ユーザーからの平均収入であるARPAの向上も見込める。「値下げの減収影響は業績には織り込み済み」だといい、タイミングを見計らっていたこともうかがえる。
値下げは、3月に開始される5Gに向けた布石でもある。高速・大容量の5Gでは、使い放題の定額制が一般的になるといわれている。KDDIはそれに先駆ける形で、auデータMAXプランProを導入した経緯がある。5Gの魅力の1つを先行的に打ち出すことで、容量無制限を前提にしたアプリやサービスの登場を促す狙いがある。5Gではテザリングまでを含めた“真の使い放題”が実現する可能性もあり、その前哨戦として、auデータMAXプランProの値下げに踏み切った格好だ。
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