はじめに
オリエンタルラジオで知られる中田敦彦氏による“中田敦彦のYouTube大学”というチャンネルをご存知だろうか。
このチャンネルでは、歴史・経済・哲学などのテーマから毎回1つを取り上げ、中田氏が素人にも分かるように明瞭かつ面白くプレゼンしていく。
2019年4月より始められたこのチャンネルは、早くも同年9月には登録者数100万人を突破するなど、圧倒的なスピードで人々からの支持を受けている。
これは自らの専門分野ではないテーマについて事前に知識を仕入れ、それをほぼ毎日アウトプットし続ける中田氏の努力の賜物だろう。
しかし最近ネット上でこのチャンネルへの批判の声が相次いで聞こえてくる。
どうやらこのチャンネルには、高校教科書レベルの内容の誤りがいくつか存在するようだ。
チャンネルの2つの問題点
内容の誤り
事の発端は、イスラム思想研究家である飯山陽氏の↓のツイートだ。
最近人々が「中田敦彦のYouTube大学」なるもので「教養」を身につけているらしいと聞いたので、イスラム教の「解説」なるものを聞いてみたら、実に酷かった。宗教の知識として不正確であるということを、誰かが指摘する必要があると思う。https://youtu.be/mIJLIbIvnTg
ご覧の通り飯山氏は、中田氏のチャンネルを痛烈に批判している。
そしてこの投稿を皮切りに、中田氏のチャンネルへの批判が相次いでなされるようになった。
今回の炎上の主要因は、人物名の誤り(ムスタファ・ケマルをムスタファ・タマルと間違える)や事実誤認(独ソ戦開戦経緯の史実とは異なる説明)などの内容の誤りに由来する。
しかし個人的に、内容の誤り以上に深刻であると思われる問題点を挙げたい。
内容の偏り
歴史、政治思想や経済政策などについては様々な角度からの解釈があり、ただ一つの正解など存在しない。
例えば新聞一つとっても、政権寄りの記事を書く産経新聞があれば、反政権的な見解で筆を取る朝日新聞などもあり、情報供給者の解釈や政治的意図、方向性によって情報の伝わり方は変わってくる。
従って我々は、単一の情報媒体に頼るのではなく、多方面に渡る情報媒体から知識を仕入れる必要がある。
そして各々を比較検証した上で、自らの解釈を確立するしなければならない。
しかしながら中田氏は、自らが読みやすいお気に入りの著者(池上彰氏など)の著書ばかりを情報源として選出し、視聴者に対してそれをあたかも唯一の正解として提供する傾向がしばしば見られる。
さらに著書の内容の中でも自分が理解できない難解な箇所は放置して解説しない、という姿勢も存在する。
恣意的に選択された偏りのある情報を供給することで、視聴者の思考能力を奪ってしまっている現状が果たして健全といえるのだろうか。
チャンネルの素晴らしさ
ここまで中田氏の動画への“ディスり”を行なってきたわけだが、何も私は中田氏の動画を全面的に批判しているわけではない。
むしろ私は、“中田敦彦のYouTube大学”をあらゆる人々に対して知識への門戸を開いている極めて良質なコンテンツと認識している。
以下このチャンネルの3つのメリットを簡単に紹介したい。
チャンネルがYouTube上で無料で公開されている
このチャンネルは、ネット環境さえあれば誰しもが無料で視聴できる。
まさに知識を得るための敷居を大きく下げたといえる。
難解な事実が分かりやすく解説されている
さすが一世を風靡したお笑い芸人なだけある。
中田氏のプレゼンは要所要所で笑いを交えて進められるため、見ていて全然飽きない。
また以前NHKの高校地理講座のMCを担当していた経験も生きているのだろう。
非常にスムーズだ。(この講座で初めて彼の存在を知った当時の私は相当情報に鈍かった)
学校の長ったらしい退屈な授業に辟易としている中高生にとっては、まさに救世主とも言える存在だ。
社会への興味を抱くキッカケとしての役割
中田氏のチャンネルは、これまで社会問題などには全く関心のなかった人達に対して興味を抱かせる効果がある。
これは非常に尊いことであり、このチャンネルの最大の存在意義でもある。
twitterやYouTubeのコメント欄を見ても、中田氏のチャンネルにより学びが楽しくなったと述べる人々は大勢存在する。
チャンネルの未来
以上このチャンネルのメリットおよびデメリットを述べたところで問いたい。
“中田敦彦のYouTube大学”は今後どうあるべきであろうか。
各々自分の考えをお持ちだろうが、私の主張は以下となる。
これほど良質なコンテンツを絶対に潰してはいけない。
しかし現状の問題点を解決させるべく、後述する処置を取る必要がある
確かに中田氏のチャンネルには偏りや誤った情報も多いが、これらは以下2つの施策を講じることで解決に導けると信じているからこその主張である。
中田氏が講じるべき2つの施策
配信前の外部チェック
勿論これはボランティアではない。
毎回相応の対価を払った上で、有識者に内容のチェックを依頼する必要がある。
この策を適切に講じることで、“誤った知識の伝達”という事態は今後回避されるだろう。
皆さんの中には、以下のような疑問が浮かぶ人もいるかもしれない。
「毎回テーマが異なるのに、その都度異なる専門家からチェックを受けるなんて現実的ではない」
確かに最もな疑問だ。
しかしここで思い出してほしい。
今現在、中田氏は頼んでもないのに既に多くの識者たちから誤りを指摘されまくっている事実を。
しかも完全無料の大サービスである。
これは中田氏のチャンネルの影響力の絶大さゆえに生じた事態である。
さらに金も人脈も豊富に有する中田氏にかかれば、今後相応の対価を払って識者の助けを得ることなど朝飯前であることをも証明している。
相反する主張を含める
1つ目の手段を講じることで確かに内容の誤りを極力無くすことは可能になるが、それだけでは不十分である。
繰り返すが現状では、中田氏のチャンネルでは恣意的に選択された偏った情報が世に流れている。
そこで提案したいのが、対立する2つの主張を含めた内容の配信だ。
具体的にいうと、今後中田氏は対立する主張が記される2冊の本を毎回読み、双方の主張を理解した上で、それを両方ともプレゼンに落とし込むべきということだ。
例えばカジノ法案の是非について扱うのならば、カジノ推進派のAさんが記した本およびカジノ反対派のBさんが記した本いずれも読んだ上で、双方の解釈を発信するということだ。
そうすることで、視聴者に提供する情報の偏りを大幅に阻止することができる。
勿論2冊というのはあくまでも最低限度であり、チャンネル名に“大学”と謳っている以上は本来少なくとも10冊は参照すべきだと思う。
しかしそれによりチャンネルの更新頻度が極度に下がることは、初学者へのキッカケ作り、というチャンネルの性質に支障が出ることを意味する。
従ってこの点は考慮したい。
まとめ
以上偉そうに私見を述べてきたわけだが、私は当然ながら中田氏のスポンサーではないばかりか、熱心な視聴者でも歴史家でもない。
たかが1人の傍観者に過ぎない分際で何をいっているのか、と思われる方もいるだろう。
中田氏のチャンネルのファンの方であれば、冒頭部分で気を悪くされた方もいるだろう。
申し訳ない。
しかしながら、私が今回少なくない時間を要して当記事を書き上げたのには、1つの理由がある。
それは、中田氏の動画が今後日本の未来への希望ともなり得る存在、だと信じているからだ。
中田氏が制作するチャンネルに対して、これまで勉強とは無縁であった多くの人々が熱中していることは紛れもない事実なのだ。
そんなチャンネルは日本中探してもどこにもない。
この貴重なチャンネルを世の中から消してはいけない
そんな思いに駆られてここまで長々と書き連ねてきたわけだ。
いわば中田氏のチャンネルは、シェールガスの採掘を達成した新技術のようなものだ。
シェールガスとは長年の間技術の未発達により人々が泣く泣く採掘を諦めていた、貴重な天然資源だ。
それが新技術の開発により、人間はついに手に入れることができたのだ。
確かにシェールガスは湧き出た。
しかしまだシェールガスはその十分な便益を我々の生活にもたらしてはいない。
それどころか、環境への悪影響が報告されてすらいる。
中田氏の今後のあり方に注目したい。