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INSIGHT - 2020.1.13

大英博物館からグッゲンハイム美術館まで。ストリートビューで“行ける”美術館・博物館

Googleが提供するアートプラットフォーム「Google Arts & Culture」。ここでは、世界各地の美術館博物館をおなじみの「ストリートビュー」で訪問することができる。PCやスマートフォンから行ってみよう。

 

ストリートビューより、大英博物館のグレートコート 出典=Google Arts & Culture(https://artsandculture.google.com/)

 Googleが提供するアートの巨大プラットフォーム「Google Arts & Culture」をご存知だろうか? このサイトは、Googleと世界各地の美術館・博物館が協力し、様々なアーカイブを蓄積。インターネットにつながっていさえすれば、世界のどこからでも異国の美術館・博物館の情報にアクセスできる。

 Google Arts & Cultureには、ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめ、オルセー美術館、メトロポリタン美術館、ゴッホ美術館、アムステルダム国立美術館、TATE、ムンク美術館など名だたる美術館のコレクションが掲載されているだけでなく、バーチャル展覧会作品の高精細画像など、Googleならではのコンテンツも揃っている。

 そんなGoogle Arts & Cultureで楽しめるのが、Google MAPでおなじみの機能である「ストリートビュー」を使った美術館散策だ。

 まずはイギリスを代表する博物館のひとつである大英博物館へ。大英博物館は1759年開館。古今東西の美術品を収蔵するこの世界最大級の博物館では、地下2階から5階まで、8フロアがストリートビューで収録されている。エジプトの巨大な石彫やミイラの木棺、中国の陶磁器など大英博物館が誇るコレクションはもちろん、同館のアイコンであるノーマン・フォスター設計の屋根付き中庭「グレート・コート」も自由に行き来できる。

大英博物館のストリートビューより
大英博物館のストリートビューより

 続いては、パリのオルセー美術館へ。1848年から1914年までのフランスを含むヨーロッパ、アメリカの美術品を収蔵する同館。名物であるガラスドームと大時計はもちろんのこと、フィンセント・ヴァン・ゴッホの《自画像》(1889)や《アルルの寝室》(1889)がある2階の展示室や、エドゥアール・マネの《草上の昼食》(1862〜63)がある5階の展示室など、オルセーのハイライトを楽しみたい。

オルセー美術館のストリートビューより
オルセー美術館のストリートビューより、手前がフィンセント・ヴァン・ゴッホ《自画像》(1889)

 ヨーロッパでは、アムステルダム国立美術館にも訪れたい。オランダ黄金時代の作品を数多く所蔵するこの美術館。2018〜19年に日本で行なわれ、68万3485人の入場者数を記録した「フェルメール展」の出品作《牛乳を注ぐ女》(1660年頃)を含むフェルメール作品のほか、現在公開修復作業が行われているレンブラント・ファン・レインの名画《夜警》(1642)などを公開。5フロアを存分に探索しよう。

アムステルダム国立美術館のストリートビューより、ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》(1660年頃)
アムステルダム国立美術館のストリートビューより、レンブラント・ファン・レイン《夜警》(1642)

 アメリカでは、フランク・ロイド・ライトによる螺旋状の建築で知られるグッゲンハイム美術館をチェックしよう。中央の吹き抜けから天井を見上げると、その特徴的な建築を堪能できるが、その複雑な構造上、ストリートビューではスムーズな移動が難しい。気になる作品があればその前までジャンプしてほしい。

グッゲンハイム美術館のストリートビューより

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INSIGHT - 2020.1.18

実業家が建てた美術館「ザ・ブロード」はなぜ人々を魅了するのか?

2015年にロサンゼルスのダウンタウンにオープンした「ザ・ブロード」。金融と建設事業で大きな成功を収めた富豪イーライ・ブロードとその妻エディスのアートコレクション約2000点が収蔵・公開されている。オープン以降、圧倒的な人気を誇る同館の魅力を取材してきた。

文=國上直子

ザ・ブロードの外観 Photo by Mike Kelley, courtesy of The Broad

予測の3倍、1年間で82万が来館

 選りすぐりの現代美術が無料で公開されるということで、「ザ・ブロード」はオープン当初から大きな話題を集めていた。同館は、金融と建設事業で大きな成功を収めた富豪イーライ・ブロードとその妻エディスのアートコレクション約2000点が収蔵・公開されている美術館。セレブリティらによって、特徴的な建物や、草間彌生の「インフィニティー・ルーム」などの様子が、ソーシャル・メディアで拡散されると、普段アートに興味がなかった層にも同館の存在が知られるようになる。開館から1年間で来館者数は82万人を記録。これは美術館の事前予測の3倍となるものだった。

イーライ・ブロードとエディス・ブロード Photo courtesy of The Broad

 最初の半年間の来館者分析では、「6割が非白人、7割が34歳以下、その多くが現代美術についてほぼ知らない」ことがわかった。これは、「美術館来場者のコア層は中年の白人」という、それまでの通念を覆す結果であった。

 オープンから4年あまりたったいまも、ザ・ブロードには年間80万人以上の人々が訪れている。通りの反対側にある、ロサンゼルス現代美術館の年間来館者が28万人(2018年度)であるのと比較すると、ザ・ブロードの人気の高さがうかがえるだろう。現在、ザ・ブロードはロサンゼルスに欠かせないアート・スポットとしての地位を確立している。

息を呑むプライベート・コレクション

 ザ・ブロードは、特徴のある建物の外観がよく知られている。蜂の巣のような外壁は、数百メートル先からでも見紛うことがない。ロサンゼルスの文化施設の代名詞的に、建物の写真が利用されることもある。設計を担当したのは、ハイラインや新しいニューヨーク近代美術館(MoMA)を手がけた、ディラー・スコフィディオ+レンフロ。総工費1億4000万ドルをかけた建物は、ロサンゼルスのダウンタウンの1区画を丸々占め、その佇まいは一流美術館そのものとなっている。

ブロード夫妻のコレクションが展示される3階へ続くエスカレーター部分は、洞窟を奥に進んでいくような構造になっており、別世界に連れて行かれるような演出が施されている

 ブロード夫妻のコレクションが展示されているのは3階部分。展示室に着くと、一気に解放された空間が広がる。まず目に飛び込んでくるのは、中央エリアに惜しみなく置かれる巨大作品群。これらが、プライベート・コレクションだという事実を飲み込むのにしばらく時間がかかる。

ジェフ・クーンズとマーク・ブラッドフォードの巨大作品が並ぶ中央エリア

 展示室内は、フリースタンディングの壁で仕切られ、アーティストごとに作品がまとめられている。ブロード夫妻は、200を超える現代アーティストの2000以上の作品を所有しており、訪問時は、ジャン=ミシェル・バスキア、アンディ・ウォーホール、草間彌生、村上隆、ロバート・ラウシェンバーグ、バーバラ・クルーガー、サイ・トゥオンブリーらをはじめとするアーティストの作品が展示されていた。

アンディ・ウォーホールの作品展示エリア

 作品を1点ずつ見ていくと、それぞれの「質の高さ」に目を見張る。例えば、ギャラリー・トークや校外学習などで作品鑑賞を行う際、形式論、記号論、社会的背景、作者の生い立ち、心理的状況など、多角的に作品についてディスカッションを行うことになる。ザ・ブロードの場合、展示されているどの作品も、そうした踏み込んだ鑑賞に耐えうる「厚み」を持っている。他の有名美術館にも、もちろんそうした「良質」な作品は存在するが、ザ・ブロードのように、次から次へと隣同士に並んでいるようなことは珍しい。その点で、ザ・ブロードはエデュケーターの理想郷のような場所に見える。

ロバート・ラウシェンバーグとジャスパー・ジョーンズの作品展示エリア
サイ・トゥオンブリーの作品展示エリア

 現代美術を展示する場合、アート・ムーブメントごとやフェミニズム、ポスト・コロニアリズム、マイノリティ、大量消費社会、身体など、定型のテーマでくくられることが多いが、これらは、なじみのない人々にとっては、現代アートへの興味を削ぐ御託になりかねない。ザ・ブロードでは、アーティストごとに作品をまとめて展示することで、こうした「ナラティブ(文脈)」はかなり抑えられている。実際のところ、お仕着せの解説から解放されたザ・ブロードの展示は清々しいものがあり、見る側として、普段どれだけこれらの「ナラティブ」に縛られているか、実感する機会ともなった。

展示風景より、ジェフ・クーンズ《マイケル・ジャクソン・アンド・バブルス》(1988)
マーク・タンジーの作品展示エリア
展示風景より、ロバート・テリエン《アンダー・ザ・テーブル》(1994)

ザ・ブロードはなぜ無料なのか?

 ブロード夫妻のミッションは「可能な限り幅広い観客に現代アートを紹介すること」。深い鑑賞が可能な作品を厳選しつつも、キュレーションによる過度な意味付けを避け、より多くの人に現代アートを楽しんでもらおうとする強い意図が感じられた。ここが、ザ・ブロードが他の美術館と一線を画す点かもしれない。

ジャン=ミシェル・バスキアの作品展示エリア
ジェニー・サビル(左)、グレン・リゴン (中央奥)、セシリー・ブラウン(右)の作品展示エリア

 「ほんとうにいい作品は美術館にではなく、プライベート・コレクションにある」と言われることがあるが、ザ・ブロードを見ると、この説が説得力を増す。これだけの作品を集めたアート・コレクターとしてだけではなく、さらに多くの資金を投じ、無料で作品を一般公開する場をつくり上げた、慈善家としてのブロード夫妻にも圧倒されるばかりである。ザ・ブロードは夫妻のミッションとレガシーが、余すところなく体現された、一般の美術館とは似て非なる場所として、特別な存在感を放っていた。

マーク・ブラッドフォードの巨大作品が複数並ぶ中央エリア
1階には、特別展示室とショップがある
インパクトのあるロゴを用い、ブランディングもしっかりと行なわれている