(前回のあらすじ:1573年夏、戦国時代に転生した姑オババと歴女アメリッシュ。アバターとなった戦国時代の母娘を生かすため兵隊になる決意をした。明智光秀の配下、足軽小頭である古川久兵衛の下で働く。織田信長が大嶽砦を攻めるという歴史上の知識から、彼と共に信長に会いに向かい、朝倉軍の敗走する兵に巻き込まれる)
1573年晩夏、浅井長政と朝倉義景を順調にこれから滅ぼす予定の織田信長。
天下人になるはずの信長側にいた私だけど、でも下端の足軽だから、どうでも替えがきく立場だってこと気づいてはいる。
これは、私がこの世界では異質な立場だから理解できることなので、
もし、この時代に生まれたなら夢をみただろうか。
夢が叶うのは戦国時代と現代では、どちらがより可能性として高いのだろうか、なんて思っちまう。
例えば、マイクロソフトを築き世界最高の金持ちになったビル・ゲイツ。
このオタク男子が戦国時代の庶民に生まれたら、羽柴秀吉になれただろうか?
激動の混乱した時代だからこそ、庶民には振幅の激しいチャンスが多かった。仲間となった足軽小頭、古川久兵衛が夢をみるのも理解できるんだ。
むちゃくちゃな世界で混乱したなかで、一発勝負をかける。
久兵衛はそんな思いなんだろう・・・
ところで、今、この時、勝ち組の信長軍じゃなくて、間違いなく滅ぶ予定の負け組、朝倉義景の陣地にいるって、私、倒産間近のブラック企業にいるよりマズイかもしれない。
別にいたかったわけじゃないけど、流れでそうなっただけだけど。
ボスである古川久兵衛とはぐれ、ものすごく心細かったんだ。
その心細さから、最高の案を見つけた時は、もうね、よっしゃと思った。
でもって、大抵の最高の案というのは、例えば、ブログで今日は神回内容と思って、後で読むと思いっきりコケてて、それ、すごく凹むけど、ま、言っちゃ、そんな意味の最高の案だったんだ。
攻めるな、皆の者。私はアホなことしでかした。それは深く反省して認める!
それでもって、皆さん、ブコメでいろいろ言ってくださった。
大吉 (id:best-luck)さん!
「ハカだ! ここはもうハカしかない(^q^)」
一瞬、図に乗ってやるとこだった!
真っ暗で、誰にも見えないからね。兵に囲まれ動ける場所も狭いし。
声だけだから威嚇にもなんないかもって思ってやめました。
ねこせんにん (id:Since1974) さん
「申し上げます!」暑中お見舞申し上げます~ まぶたに口づけうけてるみたいな~♪」
みたいな〜〜じゃ、ないから。でも確かに夏、暑中見舞い申し上げますは心惹かれたけど。
で、一番多かったご意見がこれ!
モッピー(id:shimausj)さん代表として、どうぞ
「何を言ってくれるんでしょう〜(^^) 楽しみです♪」
う〜〜〜! そんなぁ、丸投げしないで考えとくれよ。ともかく、この時点で、私、全く何言ったらいいかわかってなかったんだから。
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このとき、
大雨のなか、濡れた雑草で滑りやすい斜面を、ひたすら転ばないように遁走する兵に並走して走った。息が切れて喉が痛くなって、過呼吸で、だから頭ん中は真っ白で。
ゼイゼイいいながら、はぐれた久兵衛に見つけてもらうには、どうしたらいい。あ、そうか、この方法しかないって、そうパッと閃いたんだ。おお天才的だって思いながら。
朝倉義景が見張り台に立ったとき、5日後には、この人の命はもうないって思い、ま、いいかって、私、大声を出したんだ。
「殿!」って。
私の声を聞けば、久兵衛が見つけてくれるって・・・
で、見張り台に立つ、やたら几帳面な武将が答えてくれた。
いいよ、もうね、そんな一介の足軽風情の女に気を使ってくれなくても。
でも、奴、しつこく聞いてくるんだ。
「申してみよ!」って。
武将、2回目の声は更に大きくなってた。
苛立っているのはわかる。敗戦の色が濃いとき、半端な気持ちじゃないよね。特に、そこに白い寝巻き姿で立っている朝倉義景は・・・
え? あれ、義景さん、もう舞台から消えてる。
いつのまにか奥に引っ込んでる。
私の答え、聞かなくていいの?
いや、聞いてもらわなくてもいいけど。
ともかく、なにか言わないとって思った。たとえ、殿が引っ込んでも、みんな聞きたいかもしれない・・・
で、この時に返答が、義景がいないって思った瞬間、
また、ぱっと浮んだんだ。
我ながら天才だって、こんときも思った。
「あ、あの!」
「申せ!」
「ト、トイレじゃない・・・
厠(かわや)はどこですか?」
言葉の途中で、いきなり背後から羽交い締めにされ、私は転ぶように引きずられた。
な、なに?
誰、なによ!
バタバタと襟首を抑えられ門のところまで下がると耳元で声がした
「まったく巫女どの、命知らずか」
「久兵衛!」
「静かに」
「探すより、見つけてもらったほうが早いと思って」
チッ!という音が唇から漏れた。
久兵衛、呆れてるのか。
「皆の者、屯所で休め!」という声が聞こえてくる。
ほら、トイレ作戦、いつも通り何事もなくうまくいった。
これね、学校でさんざん使った奥の手なのだよ。ある意味、最強!
翌日、嵐が抜けたあとの、見事な青空が広がっていた。
「起きよ!」
板戸が開いて、足軽頭が怒鳴っている。
その声に目覚めると、足がつって痛んだ。
マチの頑丈な体でも、やはり限界があるようだ。
「すぐに起きよ! ただちに出発じゃ!」
多くの兵が目をこすりながら、起き上がった。
私は隣で起き上がった久兵衛に囁いた。
「久兵衛、手柄が欲しいと言ったな」
「ああ、言った」
「逃げるぞ」
「こっからか」
「そう、この軍は逃亡兵が増える。それに乗じて逃げる!」
「手柄とは」
「信長は敗走する兵のための先攻を決めていた。けど柴田たちは失敗する」
久兵衛は頭をかいた。
「巫女の御宣託か」
「そうだ。信長に朝倉の敗走を教えよ。すれば、手柄になる」
史実によれば、信長は朝倉が逃げたら、すかさず討てと命じていた。
下知は明確だったんだが、柴田や丹羽など、多くの大将格の者たちは、朝倉の敗走を見逃した。
のちに信長はこの失敗を厳しく叱責したんだけど。
「よし、わかった」
彼はあっさりと同意すると立ち上がった。
私は不思議な気持ちになった。
「なあ、久兵衛。自分で聞くのも変だが、なぜ、私の言葉を信じる」
彼は眉を上げた。
それから、顔中のシワを寄せて笑った。
「お主が、それを聞くのか」
・・・つづく
これまでのお話は下記、目次サイトにあります。読んでいただければとても嬉しいです。
登場人物
オババ:私の姑。カネという1573年農民の40代のアバターとして戦国時代に転生
私:アメリッシュ。マチという1573年農民の20代のアバターとして戦国時代に転生
トミ:1573年に生きる農民生まれ。明智光秀に仕える鉄砲足軽ホ隊の頭
ハマ:13歳の子ども鉄砲足軽ホ隊
カズ:心優しく大人しい鉄砲足軽ホ隊。19歳
ヨシ:貧しい元士族の織田に滅ぼされた家の娘。鉄砲足軽ホ隊
テン:ナイフ剣技に優れた美しい謎の女。鉄砲足軽ホ隊
古川久兵衛:足軽小頭(鉄砲足軽隊小頭)。鉄砲足軽ホ隊を配下にした明智光秀の家来
*内容は歴史的事実を元にしたフィクションです。
*歴史上の登場人物の年齢については不詳なことが多く、一般的に流通している年齢などで書いています。
*歴史的内容については、一応、持っている資料などで確認していますが、間違っていましたらごめんなさい。
参考資料:#『信長公記』太田牛一著#『日本史』ルイス・フロイス著#『惟任退治記』大村由己著#『軍事の日本史』本郷和人著#『黄金の日本史』加藤廣著#『日本史のツボ』本郷和人著#『歴史の見かた』和歌森太郎著#グーグル検索#『村上海賊の娘』和田竜著#『信長』坂口安吾著#『日本の歴史』杉山博著#『雑兵足軽たちの戦い』東郷隆著#『骨が語る日本史』鈴木尚著(馬場悠男解説)#『雑賀の女鉄砲撃ち』佐藤恵秋著#『夜這いの民俗学』赤松啓介著#「足踏み洗い」から「手揉み洗い」へ―洗濯方法の変化に関する試論― 斉藤研一 藤原良章・五味文彦 編ほか多数
NHK大河ドラマ『麒麟がくる』
あと2日で大河ドラマがはじまります。
衣装デザインを担当する黒澤和子氏によると、歴史上、戦国時代が最も派手な色使いを競ったそうです。
武将たちは華やかに着飾り、互いに競った。
確かに、伊達男という言葉にもなった伊達政宗も戦国武将でしたね。
「麒麟がくる」では、はじめての4Kフル撮影。
特殊メイクの専門家も雇い、美しい映像だそうで、見所の興味がつきません。