斎藤工「シン・ウルトラマン」で集大成 庵野秀明氏“やっと見つけた”脚本当て書き
【俺の顔】俳優の斎藤工(38)は、軽いフットワークで映像の世界を駆け巡っている。「いろいろな現場を味わうことが一番の醍醐味(だいごみ)」と自負し、わずかな出番でもインパクトを残すべくプラスアルファの演技をするための努力を怠らない。「映画へのフレックス感」と自称する心持ちで独自の道を切り開いてきた。その一つの集大成が、来年公開の「シン・ウルトラマン」になるかもしれない。
映像製作会社勤務の父親に連れられ、幼少の頃から撮影現場を訪れ高校までは映画の製作側に興味があった。映画学校に願書も送ったが、その父親から「一日も早く現場に出て、吸収した方が合っている」と背中を押され俳優志望に。モデルとしてキャリアをスタートさせ、同時に海外一人旅をするようになる。香港で知り合った撮影監督が来日した時に誘われたパーティーが、デビュー作「時の香り~リメンバー・ミー~」につながった。
「そこで出会ったプロデューサーが、韓国映画をリメークしようとしていて、ユ・ジテの役のイメージに近いから監督に会ってほしいと突発的に言われたんです。そのまま付いていってなぜか参加することになって、流れ着いた感じのデビューでした」
その後、ミュージカル「テニスの王子様」などに出演し経験を積むが「インタビューでよく言われる」という長い下積み時代に入る。
「世の中的には、バイトの有無で線引きがあるみたいですね。でも、バイトの時間で吸収できるものもたくさんあったし、新聞配達では余ったスポーツ紙で同世代の役者が羽ばたいていくさまを見ていると、悔しさもあるしすがすがしさもあった。結果論ですが、自分らしい道筋だった気はしています」
だがその間、姉が夫の地元・大分で結婚する際に映画の撮影が入り、急きょ結婚式に出席できなくなったことが奮起を促した。
「姉が初めて、電話越しで泣いたんです。嫁ぎ先の方々も親族が来ないなんてありえない、何をやっているヤツなんだとなって、俳優としては知られていないですし、先方を納得させられる理由も成立しない。申し訳なくて、向こうの親族に知ってもらう俳優にならないと姉の涙は報われない。九州で放送されるものに凄く意識を向けました」
光明が差したのが、11年のNHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」への出演。そして、14年のフジテレビ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」で人気が全国区となるが、今度はイケメンというワードに苦悩することになる。
「特徴がないから、そうくくられるんだということは骨身にしみていました。何か特化したものがあればそこをフィーチャーされる。ここを抜けなければ何も残らない、大勢の中の一人のままだという思いがずっとあって、取材をしていただいて見出しなどで(イケメンの)4文字が付随してしまうとまだまだだなという、一つの目印にしていました。そういうひがみ精神みたいなものが反動のエネルギーに変換できて、今の自分につながっているんです」
スケジュールが許す限り出演を重ね、昨年に公開、放送された映画、ドラマは実に11本。役柄も多岐にわたる。その柔軟なスタンスで、庵野秀明監督(59)企画・脚本、樋口真嗣監督(54)の「シン・ウルトラマン」の主人公「ウルトラマンになる男」を引き寄せた。きっかけは2人による16年の「シン・ゴジラ」への出演だ。
「現場ではそんなに指示もなく、庵野さんも目を合わせてくれなかったんです。でも、樋口さんが言うには、ウルトラマンの企画はゴジラより前にあって、庵野さんが“ウルトラマンをやっと見つけた”とおっしゃってくれたそうなんです」
そして届いた脚本は斎藤に当て書きしたもので、自然と頬が緩み改めて喜びがこみ上げた。その作品が、デビュー20周年となる節目に公開されるのも運命的だ。
内容に関してはカラータイマーのないウルトラマンのビジュアルが公開されたものの、ストーリーは厳重なかん口令が敷かれている。斎藤も「言うなって固く言われているんです」と苦笑いするが「でも、めちゃくちゃ面白いですよ」と期待感も抱かせる。
「大杉漣さんや光石研さんらバイプレーヤーズの皆さんに憧れがあって、僕はセンターのようでセンターではないと自覚しています。その感覚を庵野さんがあえてセンターに置いてくれたような脚本だと思いました。当てがあるようでない旅を続けてきて、たまにご褒美のような出来事が起こるんだなって」
慢心は一切ない。「勘違いをして選びだしたらそこで終わりだと思います。過信したらアウトだということは肝に銘じているので」。なんとも頼もしい限りだ。
≪高畑充希とダンスも 2・7封切り「ヲタクに恋は…」≫斎藤が出演する映画「ヲタクに恋は難しい」が、2月7日に封切られる。高畑充希(28)と山崎賢人(25)のオタク2人の恋を描くミュージカル・コメディーで、2人が勤める会社の先輩を演じた。「銀魂」などの福田雄一監督(51)とは初タッグだが「未知のものを開拓していかないと役者として味が一つに固まってしまうと常に感じているので、飛び込もうと思いました」という。高畑とのダンスシーンにも挑戦。「福田さんには明確な狙いがあって、緻密に構築して物語を作るパーツとして演出してくれました。そして最後は、生身の人間に託してくれる名シェフでした」と満足げに振り返った。
◆斎藤 工(さいとう・たくみ)1981年(昭56)8月22日生まれ、東京都出身の38歳。2001年、映画「時の香り~リメンバー・ミー~」で俳優デビュー。18年、初の長編映画監督作「blank13」で、上海国際映画祭アジア新人賞部門の最優秀監督賞を受賞。映画館のない地域の子供たちへ映画を届ける移動映画館「cinema bird」も主催している。
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