ご立派なアインズ様   作:みなみZ

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GWの更新ラッシュ…!乗るしかない…!このビックウェーブに……!!
―――乗れなかったよ。ビッグウェーブに………。


そして今回も模造だらけ。
でも、後悔はしていない。だって自分はあれを言わせたいが為に、この作品を作ったんだから(錯乱)


(さ)後編(後)

円形劇場(アンフィテアトルム)は正しく混沌の中にあった。

デミウルゴスの女性NPC達にアインズの子供産んでもらう発言から始まり、戦闘メイド(プレアデス)達のまさかの8P宣言。

それに対抗するために愛ゆえに暴走するアルベドはまさかの自分の姉妹を用いた4P宣言。

さらにはそれに対抗するために暴走するシャルティアの提案により、アウラとマーレの三人でチーム・ぶくぶくチーノの誕生。

正に正に円形劇場(アンフィテアトルム)は混沌の中にあったのだ。

 

 

 

そんな混沌な円形劇場(アンフィテアトルム)の中にあって、ある一人の人物は万感の思いを持って、眺める人物がいた。

その人物は第七階層守護者たるデミウルゴスである。

 

この混沌を作った張本人と言えるデミウルゴスの胸中をある思いが支配していた。

 

デミウルゴスの胸中を支配する感情―――それは歓喜であった。

 

今此処にいる皆が皆、(アインズ)の御子を授かるために、あらゆる手を模索している。

ナザリック地下大墳墓の未来の為に、シモベ(同胞)達は正しく一つになっているのだ。

 

デミウルゴスは自分達シモベ(同胞)達は忠義の輪で繋がっていると思っている。

ナザリックのシモベ達は至高の四十一人――そしてナザリック地下大墳墓の為に自らの身を捧げる事等一片も惜しくない。デミウルゴスはそう信じて疑っていなかった。

そしてそんなデミウルゴスの思いを証明するのが目の前の光景なのだ。

 

微笑を浮かべながら、目の前の狂騒を眺めるデミウルゴス。

 

「デミウルゴス」

 

そんな彼の前に、二人の人物が現れた。

 

「やぁ。コキュートス。セバス」

 

現れたのは、デミウルゴスの交友関係において対極に値する二人であった。

守護者同士であり、気の置けない友人であるコキュートス。

デミウルゴスとはいがみ合う事が多い、対極の存在とも言えるセバスである。

 

「少々騒がしくなってしまっていますね。デミウルゴス、止めなくても宜しいのでしょうか?」

 

セバスのその言葉にデミウルゴスは眼鏡を指で押し上げながら眉をひそめた。

目の前の自らの思いを証明する光景を止めろというセバスに、デミウルゴスはつくづく自分とセバスの相性は最悪だなと、改めて確認した。

 

「問題ないでしょう。今アインズ様もナザリックにはおりません。ならば多少の騒がしさ程度ならば、お許しいただけるでしょう。それに見てみなさい―――」

 

デミウルゴスの視線の先を辿ると、そこには円形劇場(アンフィテアトルム)の中心に集める女性NPC達から逃れるように、円形劇場(アンフィテアトルム)の端に寄っている男性NPC達の姿があった。

 

「古来より、女性達の話し合いに男性が立ち入って、良かった事は殆ど無かったようですよ?特に恋愛面に関しては――― 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ。とまで言われているそうです。此処は、巻き込まれない様に、大人しく静観するのが賢明かと私は思います」

 

デミウルゴスの言葉に、コキュートスの脳裏にある一つの出来事を思い出す。

この世界に転移したばかりの時、アインズの召集によって、守護者達やセバスが円形劇場(アンフィテアトルム)に集結した時の事だ。

その際、セバスはアインズの傍付きをする為に、早々に退席したので知らないだろうが、コキュートスはその後起こった、アルベドとシャルティアの一触即発の揉め事を思い出したのだ。

 

そしてセバスも普段、戦闘メイド(プレイアデス)に接する事が一番多い男性NPCと言える。

そんな彼も女の怖さというのを感じた事を思い出したのだ。

 

確かに巻き込まれたくない。

 

「―――ウム。ソノ通リダナ。流石ハ、デミウルゴス」

 

「では、もし何かあった場合のみ、止めに入るということにしましょう」

 

コキュートスやセバスはデミウルゴスの提案を全面的に受け入れるのであった。

チキン?言いたいものはどうとでも言うがいい。男には決して立ち入りたくない場面というのは、この世に確かに存在するのだから。

 

 

「シカシ、コノ騒ギハ何時マデ続クノダロウナ?」

 

「全NPCの頂点であり、守護者統括のアルベドが率先して騒いでいますからね。アルベドが率先しているということは、ある意味騒ぐ許可を得たようなものですからねぇ。暫く収まる事はないでしょう」

 

「確かにそうですね。所でデミウルゴス。少し貴方に相談したい事があります」

 

「君が私に相談?」

 

デミウルゴスはセバスの意外な発言に驚きの声を上げた。

セバスとデミウルゴスの仲は正直最悪と言っていい程である。それは彼らの創造者たる、たっち・みーやウルベルト・アレイン・オードルから受け継ぐ因縁とすら言える。

ナザリック地下大墳墓の仲間ではあるが、お互いに最も嫌な相手と思っている。セバスとデミウルゴスが口を開けば険呑な言葉が舞い散る。それが二人の常識ですらあった。

 

そんな不倶戴天とすら言える関係であるセバスがデミウルゴスに相談事とは―――珍しいを通り越して、もはや天変地異ではないかとすらデミウルゴスは思ったのだ。

 

「ふむ。相談とは何かな?セバス」

 

「アインズ様の御子のお世話の件です」

 

セバスの言葉にナザリック随一の叡智を誇るデミウルゴスは納得の意を覚えた。

 

「それは、アインズ様の御子のお世話役が足りなくなる可能性があると言う事だね?」

 

デミウルゴスの言葉にセバスは頷きながら話を続けた。

 

「ええ。御子がお一人やお二人ならば、何ら問題はありませんが、この様子ですと、何十人と御子が同時に誕生する可能性があります。まして妊娠したとなれば、出産まで一時的に母親は暇を出さなければならないでしょう。そうなれば、更に手が足りなくなる可能性があります」

 

至高の四十一人の生活面を支える最高責任者であるセバスの言葉はデミウルゴスとて納得する物であった。

 

アインズの御子は、この世界のどんな宝よりも勝る正に至高の宝である。勿論世話役・教育係り・護衛等々万全な体制を整えなければならない。アインズの御子が一人、二人ならば問題はないが、アインズの寵愛を受けたシモベ達が一斉に妊娠したとなれば話は変わってくる。

 

デミウルゴスが提案すべきことは、シモベ達がアインズの寵愛を受け、妊娠するペースをしっかりと管理し、護衛達に無理が出ないように管理する事だ。

しかし、今現在発狂するが如く、歓喜している女性NPC達にそれを言うのは酷なものだ。

デミウルゴスは冷酷で残酷無比な悪魔である。それは彼が運営している牧場―――聖王国両脚羊達へのこの上ない愛を込めた地獄がそれを表している。ナザリック外の全ての命の価値は虫けら同然。ナザリックの役に立つ存在ならば、骨までナザリックの為に、有効活用する悪魔なのである。

が、それはあくまで、ナザリック外の生命体に限る話である。シモベ(同胞)達に対しての思いは、ナザリック随一とも言える悪魔なのだ。

 

「ふむ…兼ねてから考えていた…あれを実行するべきか…」

 

顎に手を当て、俯きながら思考していたデミウルゴスは顔を上げた。

デミウルゴスの視線の先には、ある意味において自分の宿敵とも言えるセバスの姿がある。

そしてセバスは―――自分の提案を最も早く行えるであろう人物である。

 

「セバス―――貴方がナザリックに連れてきた人間ですが…」

 

「――ツアレが何か?」

 

その瞬間、セバスから怒気と殺気がデミウルゴスへと放たれた。ピシリと空気が悲鳴を上げる音が聞こえる。

守護者であるコキュートスや守護者統括であるアルベドと並ぶ、ナザリックの誇る100レベルの戦士である鋼の執事たるセバスの殺意は凄まじいものである。いつぞや、王都にてたまたま出会った兵士であるクライムに向けた殺意を何十倍にも濃密にした規格外の殺意を放ち、セバスとデミウルゴスの周囲は一種の殺意空間と化している。

しかし、相対するはこれまた規格外の存在。同じく100レベルの守護者たる炎獄の造物主であるデミウルゴス。

デミウルゴスはセバスから放たれる殺人的な殺意を微笑すら浮かべながらそよ風のように受け流す。

 

「おやおや、怖いですねぇ。セバス。貴方が私に向けている感情は、とても仲間にむける感情とは思えませんね」

 

「黙りなさい。デミウルゴス。ツアレはアインズ様の名前で保護されている存在。いかに貴方でもおいそれと手を出していい存在ではありません」

 

セバスはデミウルゴスを睨みながら宣言する。

 

ナザリックに所属するシモベ達は人間種に対する好意は基本的に無い。一部の数少ないシモベのみ、好意的に思っているだけである。

そしてその数少ないシモベであるセバスはデミウルゴスにある危惧を抱いていた。

 

セバスが以前リ・エスティーゼ王国に潜入調査していた王都リ・エスティーゼにて、一人の女性を保護した。

その女性がツアレニーニャ―――ツアレである。そしてツアレは、本人は知る由も無いが、アインズと間接的にではあるが、ある繋がりを持っていのだ。

それゆえに、アインズは己の名を持って、ツアレの保護を確約してくれたのである。

 

だが、今目の前にいる悪魔は、そのアインズより一時的にナザリックの全運営権利を委ねられた存在。

その確約を破棄できる可能性を持つ存在である。

 

ゆえにセバスはデミウルゴスに牽制を込めた視線を向ける。

牽制というには相応しくない濃密な殺意も含まれていたが。

 

「誤解しないでほしいですね。私はツアレに―――否、貴方とツアレにお願いしたい事があっただけですよ」

 

「―――私とツアレにお願い?」

 

「ええ、ええ。そうです。貴方とツアレにお願いがあるのです」

 

「何ですか?そのお願いとは」

 

意外なデミルウルゴスの言葉に思わず言葉を漏らすセバス。

そんなセバスに対してデミウルゴスは、薄い微笑みを顔に浮かべ、両手を大きく開きながら頷いた。

何処か、セバスを馬鹿にしたかのような仕草にセバスは青筋を立てながら、強い口調でデミウルゴスに問いかけた。

 

「―――何。簡単な事ですよ。貴方達二人で子供を作って欲しいだけですから」

 

主の子供産め発言に次ぐ、同僚に子供産め発言。

デミウルゴスはこのセクハラ上等過ぎる発言を、気軽にまるで今夜の晩御飯の材料の買い物してきて欲しい。

そんな気軽な感じで、デミウルゴスはセバスにとって、ある意味簡単で、そしてとんでもなく難しい頼み事をしてきた。

 

「な、な、な…!?な、何を貴方は言っているのですか!?」

 

デミウルゴスのあまりの発言に狼狽するセバス。そんなセバスにデミルゴスは微笑みながら語りかける。

 

「君とツアレが子供を作れるというのは大きな意味を持っているのだよ」

 

「私とツアレが子供を作れるのが大きな意味を持つ…?」

 

「ああ、その通りだよ」

 

デミウルゴスの言葉の意味を確認するかの如く、言葉を繰り返すセバス。

デミウルゴスは頷きながら言葉を続ける。

 

「私はアインズ様のご命令の下、一つの牧場を経営しておりましてね。その牧場の運営の一つに、交配実験を試しているのですよ。おや?セバス。どうしました?何やら険しい表情をしていますねぇ」

 

「いえ…何でもありませんよ。デミウルゴス」

 

満面の笑みを浮べながら告げたデミウルゴスの言葉に、セバスはその牧場を思い浮かべ、嫌悪感に表情を強張らせる。そんなセバスを見て、更に嬉しそうに言葉を続ける。

 

「では続けますね。この交配実験はそもそも、人間種・異形種で子供を作れるか―――?つまりは私達シモベでも人間種達と子供を作れるかという、ことの立証を立てたいのですよ。そして貴方はナザリックの唯一の竜人。そんな貴方がツアレと―――人間と子供を作れるかという立証は、大いに価値がある」

 

確かに自分とツアレが子供を為したとなれば、ナザリックに一つの投石を投げる結果となるであろう。

しかし、自分とツアレの子供が竜人と人間の交配実験の結果となる。

自分とツアレの子供が交配実験の為に、作るというニュアンスとも取れるデミウルゴスの言葉にセバスは大いに反感を覚えた。

セバスはデミウルゴスを睨みつけながら、言葉を発する。

 

「デミウルゴス…私はアインズ様の御子の世話役の相談をしているのです…。貴方の交配実験の話に付き合うつもりはありません」

 

「おやおや、私はその世話役の話をしているつもりなのだがね」

 

セバスの殺意が篭った言葉と視線に、デミウルゴスは、肩を竦めながら、嘆くような表現をしながら言葉を発した。

 

そんなデミウルゴスの言葉にセバスは眉をひそめる。

今この悪魔は何と言った?世話役の話をしているだと…?話したのはこの男が好む下種な話しだ。決して御子の世話役の話しなど…?

その時、セバスの脳裏にある考えが浮ぶ。

 

「ま、まさか…」

 

その考えに思わず言葉を出したセバス。

そんなセバスを見ながらデミウルゴスは嬉しそうに―――悪魔らしく語りだした。

 

「気付いたようだね。恐らく君の考えている通りだ。世話役が足りないなら、新しく作ればいいのさ。私達の子供としてね」

 

単純な話だ。(アインズ)の御子の世話役が足りないというのならば、新しく増やせばいい。

そしてその為に、自らに子供を作れと目の前の悪魔は言っているのだ。

 

「し、しかし、それは」

 

「ちなみに言わせてもらうが。私達の子供であれば、母体が弱い存在であろうとも、子供はレベルが高い存在である可能性が高い。高レベルのシモベ達に次々に母体に子供を孕ませる。それはアインズ様の子供の世話役だけではなく、単純にナザリックの戦力増強へとも繋がるのさ。

まさかアインズ様の御子の世話役を外から連れてきた下賎な存在に任せられるはずがないだろう?」

 

セバスが何か別の提案をする前に、デミウルゴスは逃げ場を閉ざすように言葉を発した。

逃げ場を失ったセバスはうめき声を上げながら俯く。

 

いや、自分とて理解している。デミウルゴスの提案が一番だと理解しているのだ。

しかし自分はツアレを娘のように思っている。周囲がどう思おうがこの思いは間違いないのだ。

ツアレは自分を受け入れるだろう。ツアレからされた接吻。あの時の彼女の表情、思い。彼女は自分に恋慕の念を抱いている。

しかし、セバスは思う。ツアレは―――ツアレニーニャは自分に恋慕の念を抱いているのではなく絶望的状況で救われた感謝の気持ちを愛情と勘違いしていると、セバスは思うのだ。

(アインズ)世話役を作る―――ナザリックの戦力増強の為にという名目でツアレを抱けるであろうか?

それはツアレニーニャに対する侮辱である。

しかししかし、デミウルゴスのいう事にも一理ある。

それがセバスを迷わせるのだ。

 

ナザリックに所属するシモベとして責務と、ツアレに対する思い。二つの思いに挟まれるセバス。

 

「シカシ、デミウルゴス。子ヲ作リ、世話役ヲ増ヤスノハ良イ案ダト思ウガ。

ソレデハ子供ガ成長スルマデ使イ物ニハナラナイデアロウ?時間ガ掛カリ過ギルノデハナイカ?」

 

そんなセバスに救いの手を差し出したのは、守護者の良心であるコキュートスの一言であった。

そう、デミウルゴスの提案は確かにナザリックにとって有益なものだ。しかし、子供がある程度成長するまで、どんなに短くても5年は必要となるであろう。

 

「うん。コキュートス。君の危惧する通りだ。この案は長期的に見てという事案である」

 

コキュートスの指摘にあっさりとデミウルゴスは肯定した。

だが、悪魔は話を続ける。

 

「だが、長期的だからこそ、速やかに計画を進行し、その長期的計画を少しでも短くしなければならない。その為にもセバス。君は早くツアレと子供を作ってくれたまえよ」

 

デミウルゴスのぐうも出ない完璧な理論。

しかし、セバスはある反論材料を持っていた。

 

「―――ナザリック地下大墳墓の維持運営費用は完璧なバランスを誇っているはず。それを崩す結果となってしまう事になるかもしれません」

 

そうこのナザリック地下大墳墓の維持運営費用は完璧である。

ナザリック地下大墳墓には自動的に出てくるシモベがいる。だがそれは至高の四十一人の一人が厳密な計算の上で、沸き出るシモベを出現させているのだ。

現に、ナザリック地下大墳墓に招く新たな種族の条件は『自給自足が即座に出来る者』なのだ。

そんな中で、自分達が子供を作り、その完璧なバランスを崩すのはシモベとして許されるものではない。

 

「ふむ。中々いい指摘だね。だが、その点に関しても考えている事があるのだよ」

 

「考えている事――?」

 

「アインズ様からお聞きしたのですが、至高の四十一人の御方々の中でナザリック地下大墳墓の中に学園を作ろうという意見があったそうだ」

 

「至高ノ御方々ガ―――学園ヲ?」

 

デミウルゴスからもたらされた、至高の四十一人の新たな情報にコキュートスは驚きの声を上げる。

それはセバスも同じ思いであった。

 

「そう。学園だよ。子供達を一つの箇所にまとめて、管理し、一度の授業で多くの子供に教育を受けさせる…。これを私は作ろうと考えている。ナザリックの一流所に講師役を行ってもらい、徹底的に教育、そしてナザリックへの忠義を植えつけるのです。至高の御方が学園のデーターを作っているので、それを用いさせていただければ、学園自体もすみやかに設立できるでしょう。

そして留学してきた生徒はこちらの好きにできる…。有能であれば、ナザリックに取り込むのも良し。私の支配の呪言で操り人形にするのも良し。もしくはあえて何もしないで、他国の人間に疑心暗鬼に陥らせるのも良しですよ」

 

「しかし、デミウルゴス。先ほども言ったように、ナザリック地下大墳墓の維持運営費用は完璧なバランスです。私達が子供を作り、更には学園を作るなどしたら、そのバランスを崩すのは明白です」

 

セバスの指摘にデミウルゴスはやれやれと言いたげに大げさに首をニ、三度振った。

その動作にぴしりと青筋を立てるセバス。本当にこの二人の相性は最悪である。

 

「話は最後まで聞きたまえ。このナザリック地下大墳墓の中に作るのは難しい…それならば、外で作れば良いのです」

 

「ナザリックノ外ニ!?」

 

驚愕するコキュートスとセバス。

そんな二人にデミウルゴスは頷きながら答えた。

 

「ええ、外にです。それに外に作るのには他にも利点があります」

 

眼鏡のつるを押し上げながらデミウルゴスは言う。

 

「それは他国からの生徒を受け入れる―――つまりは留学ですね。」

 

「留学―――?」

 

「ええ、留学です」

 

デミウルゴスは微笑みながらコキュートスには可愛い生徒に説明するように、セバスには馬鹿な生徒に説明するかのように、見事な使い分けを行いながら説明を続ける。

 

「ナザリック地下大墳墓に学園を作った場合、外からの人間を受け入れるのは難しいでしょう。外の人間からすれば、敵国の本拠地の城の中に学園が出来たから生徒を送る。等、普通は無理です。まあ、間諜狙いならば逆にうってつけでしょうが。そして私達もナザリックに下賎な者供が土足で踏み込むのは、よろしいものではありません」

 

確かに。デミウルゴスの説明は的を得ていると、コキュートスとセバスは思った。

他国から留学生を招くのはいいが、その肝心の学園が敵国の本拠地のど真ん中に学園を作っても、相手は警戒して生徒を送ろう等思わないだろう。

今現在、アウラとマーレが守護する第六階層『ジャングル』には、リザードマンとの戦争の後、連れて来た10体のリザードマンやアウラが連れて来た、自給自足が即座に出来る者としてとして、トレントやドライアードが移住していた。

このナザリック地下大墳墓は至高の四十一人とその至高の存在達が創造した、自分達にとっての聖域である。

その聖域に外から来た者達に踏み込まれるのは、一部のシモベを除き、殆どの者は良しとはしない。

 

「しかし、いくら外に学園を設立したからといって、すんなりと他国の者が生徒を送ってくるでしょうか…?」

 

「それはどうとでもなる。今後起こるであろう、戦争でナザリックの力を魅せつけ、自分達との実力差を大いに見せ付ける。それができれば、良いのさ。私達の力を知りたいと誘導させても良し、従属させ、生徒を送らせるのも良し。この状況まで持ち込めれば、それこそ、どうとでもなるのさ」

 

にやりと口元を大きく歪ませながら、デミウルゴスは己の考えを話した。

 

「まあ、この提案は、まだ私の勝手な考え。アインズ様に提案するのは、アルベドやパンドラス・アクターと協議し、もっと案を煮詰めてから―――おっと、噂をすれば何とやらだね」

 

デミウルゴスの視線の先には、円形劇場(アンフィテアトルム)の壁に寄りかかり、腕を組みながら思考するかのように顔を俯けている、軍服を纏ったドッペルゲンガーの姿があった。

先ほど話しの中に出てきた一人である、パンドラズ・アクターである。

 

 

「パンドラズ・アクター」

 

「………おや、デミウルゴス。それにコキュートスとセバスまで」

 

デミウルゴスの呼びかけにパンドラズ・アクターは三人に今始めて気付いたようである。

ゆっくりとした動作で壁から離れ、三人に近づいてくる。

 

「パンドラズ・アクター。貴方とアルベトとの三人で相談したい事があります。後で時間をいただけますか?」

 

「………そうですか。了解致しました」

 

「―――パンドラズ・アクター?」

 

デミウルゴスの提案にパンドラズ・アクターは頷きながら、言葉少なく了承した。

その返答に、直ぐにデミウルゴス達はパンドラズ・アクターの様子がおかしい事に気付く。

 

先ほどからパンドラズ・アクターはパンドラズ・アクターらしく無いのだ。

彼は常に大仰な振る舞いを行う。自らの感情を口上で、身振り手振りで大袈裟に、まるで演技を行うかのように振舞うのだ。

誰も彼もが彼から目を逸らせない。それが良い意味なのか、悪い意味なのかはわからないが、彼は一流の俳優(アクター)なのである。

しかし、今現在。そんな一流の俳優(アクター)であるはずの、パンドラズ・アクターはただ凡庸の言葉と振る舞いしかしていない。非常に彼らしくない行動である。それは彼を少しでも知るものから見れば、異常事態といっていい程だったのだ。

 

「どうしたのですか?パンドラズ・アクター。先ほどからの貴方の行動は、非常に貴方らしくないと思うのですが…」

 

「これは失礼しました。考え事に気を取られ、我が創造主たるアインズ様の定めた振る舞いを行えていなかったようです。このパンドラズ・アクター。痛恨の極みです」

 

セバスの指摘に、パンドラズ・アクターは嘆くかのように、己の埴輪顔の額に片手を当て、大仰にニ、三度頭を振った。

 

「―――貴方がアインズ様が定めた、振る舞いを行うのを忘れる?」

 

ようやくらしさが戻ってきたパンドラズ・アクターの言動。

しかし、それに対してデミウルゴスは激しく疑念を覚えた。

 

彼らシモベ達にとって、創造者達が定めた設定は絶対である。

創造者が、汝、悪で在れ。そう設定(命じ)されれば、悪であるのが当然なのである。創造者が、汝、ナザリックの支配権を狙え。設定(命じ)されれば、ナザリックの支配権を狙い続け。汝、ビッチであれ。と、設定(命じ)されれば、ビッチになるのは至極当然の事なのである。

そしてパンドラズ・アクターは創造者たるアインズに、定められた設定通りに動けなかったという。

勿論、自分達シモベ達が定められた設定通りに完璧にできない事はある。

メイド長である、ペストーニャ・S・ワンコは、語尾にわん。と付ける設定をされているが、頻繁に語尾を忘れ、時間が経ってから思い出したように付けている。

守護者たるシャルティア・ブラッドフォールーンも、廓言葉を使うことを設定されているが、激昂したときはその設定を忘れ、非常に荒々しい口調となる。

 

しかし、デミウルゴスが知る限り、目の前のパンドラズ・アクターは完璧にアインズの設定した通りの言動を行ってきた。そんなパンドラズ・アクターが設定どおりに行えない、何かが起こったのではないか?

 

「パンドラズ・アクター。何かあったのですか?今思えば、貴方は先ほどの集会の途中から大人しかった。それは非常に貴方らしくないと思うのですが」

 

デミウルゴスが緊急招集に応じたシモベ達に感謝の言葉を述べたときに、反応したパンドラズ・アクターは非常に彼らしい言動だった。

だが、その後、アインズに子供が出来る可能性ができた。と告げた後、パンドラズ・アクターの様子が変わったようにデミウルゴスは感じていたのだ。

 

勿論、自らの創造主が子供を残せるようになったというのは衝撃的事実である。それにパンドラズ・アクターが動揺を覚えるのは何ら可笑しい事ではない。だが、ナザリック随一の叡智を誇るデミウルゴスにはそれだけとは思えなかったのだ。

 

「………流石はデミウルゴス。ナザリック随一の叡智を誇り、我が創造主たるアインズ様よりナザリックの全運営権利を委ねられる存在です。その観察眼には脱帽ですよ」

 

デミウルゴスの指摘に、パンドラズ・アクターは感心したかのように、一つ頷き、両腕を大きく広げながらデミウルゴスを賛辞する。

 

「貴方の言う通りです。私は今日という誉れ高き日に、とある事を知ったのです」

 

「トアル事トハ?」

 

 

コキュートスの疑問の言葉に、パンドラズ・アクターは静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

「―――私が、生まれた理由をです」

 

 

 

 

 

そして、パンドラズ・アクターは埴輪顔の上に、全てを悟った、聖者のような穏やかな表情を浮かべながら、その答えを発した。

 

「貴方が…生まれた理由?」

 

セバスが戸惑った声を上げる。

それは当然の事だ。自分達が生まれた理由。そんな事は決まっている。

至高の四十一人とナザリック地下大墳墓に忠誠を誓う為だけに自分達は創造されたのだ。

果たしてそれ以外の何があるというのだろうか?

セバスだけではなく、コキュートス。そしてナザリック随一の叡智を誇るデミウルゴスですら、パンドラズ・アクターの思考が読めなかった。

 

「……それはどういう意味かな?パンドラズ・アクター」

 

「―――貴方方はこのナザリック地下大墳墓のシモベ達の頂点の一角。私の存在意義を話すには相応しい相手でしょう。しかし、それを説明する前に幾つか尋ねましょう。―――貴方方は私の役職をご存知ですか?」

 

「無論ダ。オ前ノ役職ハ、宝物殿領域守護者。至高ノ御方々ガ集メラレタ秘宝ヲ管理シ、守護スル領域守護者デアロウ」

 

「ええ。その通りです。我が役職は、宝物殿領域守護者。故に、このナザリックに存在する秘宝に関しては最も詳しい存在だと自負しております」

 

パンドラズ・アクターの要領の得ない質問に、コキュートスが答える。

その答えに満足したパンドラズ・アクターはその答えに肯定の意を出しながら次の質問を出してきた。

 

「では、次の質問です。私の能力をご存知ですか?」

 

「君の能力?それは至高の四十一人の御方々の外装をコピーし、八割程度の力を使うことが―――!?」

 

パンドラズ・アクターの能力。

それは至高の四十一人の外装をコピーし、八割程度になるが、その力を行使する事ができる、ドッペルゲンガーの力。万能の個の力である。

 

パンドラズ・アクターの答えに訝りながらも、答えようとしたデミウルゴスにある閃きが走った。

 

 

「デミウルゴス?」

 

急に言葉を途絶えさせたデミウルゴスに、セバスとコキュートスの訝る声を上げる。

しかし、それに応える余裕すらなく、デミウルゴスは自らの思考に没頭していた。

 

 

 

 

―――アインズの子供が作れる可能性。

―――パンドラズ・アクターの役職たる宝物殿領域守護者。

―――パンドラズ・アクターの能力。

 

 

 

 

――――――パンドラズ・アクターの生まれた理由。

 

 

 

「―――まさか、いや。そんな事ができるのか?しかし、それが出来るならば…!?」

 

ナザリック随一の叡智を誇るデミウルゴスはある考えに至る。

パンドラズ・アクターの生まれた意味。それは―――つまり!!

 

輝く宝石の目を極限まで見開き、デミウルゴスはパンドラズ・アクターを凝視する。

 

「流石はデミウルゴス…。気付いたようですね。恐らく、貴方の考えている通りだと思いますよ」

 

デミウルゴスの穴が開かんばかりの視線を一身に受けながら、パンドラズ・アクターは静かに頷きながら、言葉を発した。

 

 

「おぉ…おおぉぉ!!」

 

パンドラズ・アクターの言葉に、デミウルゴスは両腕で己の身体を抱きしめながら、崩れ落ちる。

 

「何という……!何という事だ……!!」

 

「デ、デミウルゴス?」

 

―――ウルベルト様。

 

デミウルゴスは友であるコキュートスの戸惑いの声に応える事無く、崩れ落ちながら、己が創造者の名前を呟いた。

デミウルゴスは全身から湧き出る震えを抑える事が出来なかった。

憤怒の振るえ?否、それは違う。

悪魔たる自らの身を震わす感情の正体――それは歓喜であった。

デミウルゴスを襲う圧倒的歓喜。それは常に冷静を心がけ、滅多に感情を揺るがさないデミウルゴスの身を震わせているのだ。

 

 

「一体何ダトイウノダ?二人ダケで分カリ合ッテイナイデ、私トセバスニモ説明シテクレ!」

 

デミウルゴスの突然の行動に、コキュートスは温厚な彼らしくない、戸惑いと苛立ちを多大に含んだ声を上げる。

それは、話に置いて行かれている、セバスも同意見であった。

 

「これは失礼しました。では説明の続きをしましょう」

 

パンドラズ・アクターは未だ崩れ落ちているデミウルゴスを尻目に、コキュートスとセバスに一つ頭を下げてから、説明を続ける。

 

「私の能力、役職は今説明したとおりです。ドッペル・ゲンガーの能力に特化した私は、アインズ様を含む、至高の至高の四十一人の御方々の外装をコピーし、力を振るうことができる。そして宝物殿領域守護者の任に就く私は、このナザリック地下大墳墓において、最も秘宝に詳しい存在です。

では、次の質問です―――今、この大墳墓の宝物殿には、転性の実と変化の実。これらが幾つあると思いますか?」

 

「それは…わかりませんな」

 

セバスの言葉はある意味当たり前の言葉である。

 

ナザリック地下大墳墓の宝物殿。このナザリックの中で最も高いセキリティで守られた領域に足を踏み入れたシモベは過去四人しかいない。

目の前の宝物殿領域守護者であるパンドラズ・アクター。守護者統括のアルベド。戦闘メイド(プレアデス)のユリ・アルファとシズ・デルタの四名だけなのである。

 

以下にナザリックの頂点の一角たる、コキュートスとセバスとて、踏み入れたことのない領域の、更にその領域に保管しているアイテムの数などわかるはずがないのだ。

 

「申し訳ございません。これは難題―――というか、答えるのは無理な質問でしたね」

 

パンドラズ・アクターはコキュートスとセバスに一つ頭を下げてから、答えを告げた。

 

「転性の実が十一個。変化の実が二十九個―――合わせて、その数は四十個となります」

 

「四十…?それが何の意味を持つというのですか?」

 

「ええ。四十という数字は私達にはあまり馴染みのない数字ですね。では、逆にこれはどうでしょう?ナザリックの者達にとって、最も大事で馴染みのある数字と言われれば、どんな数字を思い浮かべますか?」

 

「ソレハ勿論、四十一ダ」

 

ナザリック地下大墳墓のシモベ達にとって、最も大事で馴染みがある数字。

それは勿論自らを創造された至高の御方々の人数である四十一という数字である。

それはナザリックに所属するシモベ為らば、それ以外の数字を答える筈がない。

 

「ええ。その通りです。ナザリックに所属するシモベ達にとって、最も大切な数字は四十一です。質問は次で最後になるでしょう」

 

かつ、かつと郡靴が奏でる音を立てながら、パンドラズ・アクターはセバスとコキュートスに近づく。

そして眼球の無い目で、目の前の二人の目を覗き込むような仕草をし―――残酷な事を告げた。

 

 

「―――このナザリックを去られた至高の御方々は何名ですか?」

 

瞬間。

突発的にセバスとコキュートスにパンドラズ・アクターに対する殺意が沸き起こる。

その衝動のままにセバスは己の拳にあらんかぎりの力を込め、その拳でパンドラズ・アクターの顔面を打ち砕かんとする。

コキュートスは装備した斬神刀皇を振り上げ、一気に切っ先を振り下ろし、パンドラズ・アクターを脳天から一刀両断にしようとする。

 

レベル100の前衛職である二人の同時攻撃。常人ならば死を受け入れるしかない状況。しかし、相手はパンドラズ・アクター。同レベルの100レベルである。ましては、彼は至高の四十一人の力を振るう事ができる万能の個。

粘着盾とすら言われ、防御に特化した、ぶくぶく茶釜や、防御と回復に特化した防御ヒーラーであり、タンクすらできる、やまいこ等に変化すれば、この攻撃を無傷とは言えないが、防げるであろう。

しかし、パンドラズ・アクターは己の命を刈ろうとする二つの攻撃を、ただ静かに見つめるだけであった。

 

そして拳と刀は、パンドラズ・アクターの命を刈らんと迫り―――接触する直前でピタリと止まった。

パンドラズ・アクターは自分の眼前にある拳と刀を静かに見つめる。

 

「……パンドラズ・アクター。申し訳ございません」

 

「……スマナイ。パンドラズ・アクター。」

 

仲間であるパンドラズ・アクターに不意打ち同然の攻撃を叩き込む寸前だった。

仲間として。執事として。武人として。何より、自らの創造者(正義の味方・武人)を穢す行いに、深い後悔を胸に抱き、セバスとコキュートスの二人はパンドラズ・アクターに謝罪する。

そんな二人にパンドラズ・アクターは首をニ、三度振りながら言葉を発した。

 

「お二人とも、謝罪は必要はありません。解っていました。先の言葉を、この『私』が言えば、お二人がどのような行動を起こすかは解っていましたとも」

 

パンドラズ・アクターが何らかの方法で先の二人の攻撃を止めた?否、パンドラズ・アクターは何もしていない。

しかし、ナザリック随一の叡智を誇るパンドラズ・アクターは解っていたのだ。

自分が、先の質問をすれば、二人が自分を攻撃しようとするであろう事を。そして、その攻撃を寸前で止めるであろう事も。

 

ナザリック地下代墳墓に所属するシモベ達は忠誠心という名の、深い絆で結ばれている。デミウルゴスやセバス等の個人の相性が悪い等はあるが、ナザリックに忠誠を誓い合う者同士繋がっているのは間違いない。

それは、パンドラズ・アクターも同じである。

しかしパンドラズ・アクターに限っては、同じではあるが―――決定的に違うのだ。

 

 

「このナザリックにおいて、唯一、創造主が残られている私が、先の質問をすれば、どうなるか等」

 

パンドラズ・アクターが他のシモベ達と決定的に違う点―――それは、ナザリック地下大墳墓に創造者が残っているという事実だ。

至高の四十一人は、纏め役であったアインズを除いて、全てリアルへと去っていかれた。

慈悲深きアインズが残ってくれた事。これだけが、ナザリック地下大墳墓に所属するシモベ達の希望となっているのだ。

だが、パンドラズ・アクターに対する思いは複雑だ。

どうしても思ってしまう。パンドラズ・アクター自身に問題があるわけではない。ただの逆恨みに近いとも理解している。

だがどうしても心の奥底で思ってしまうのだ。

 

何故―――お前の創造者だけが残り、自分達の創造者は居ないのだと…。

 

それは恥ずべき感情。醜い嫉妬である。

 

先の質問をデミウルゴスから問われたのであったならば、セバスもコキュートスもあんな行動を取ることはなかったであろう。

デミウルゴスの創造者たる、ウルベルト・アレイン・オードルもこのナザリック地下大墳墓を去った者故に。

しかし、パンドラズ・アクターの創造者たるアインズは今だ、このナザリックに居てくれている。

居てくれているからこそ―――パンドラズ・アクターからの先の質問に対し、感情が爆発してしまったのだ。

攻撃が当たる直前になって、止めたのはパンドラズ・アクターが仲間であるという事を思い出し、とっさに留まった結果であった。

攻撃は止めた。だが、それでも仲間を不条理に攻撃しようとしたとの思いが、二人を蝕む。

 

自らの行いに深く後悔し、うな垂れるセバスとコキュートス。

そんな二人にパンドラズ・アクターは両手を大きく広げながら、歌うように明るく声をかける。

 

「お二人とも。お気にかけずいただきたい。お二人ならば、私に攻撃を食らわせる前に、止めてくれるとわかっていました。私に対する複雑な思い。しかしそれすらを超えて、結ばれている仲間の絆!!このパンドラズ・アクターの胸には歓喜の思いで満ち溢れておりますともぉぉぉ!!」

 

身振り手振りを交え、無駄にビブラートを効かせたパンドラズ・アクターの演出過多の言葉。

パンドラズ・アクターは今日も絶好調である。

 

「ちなみに、相手がシャルティアであったならば、全力で防御していましたね。はい」

 

その言葉にセバスとコキュートスの二人は苦笑いを浮かべた。

脳裏にその光景が容易く浮んでくるのは何故だろうか。

 

「落ち着いた所で…先ほどの質問の答え―――答えていただけませんか?」

 

「答エモ何モ、四十。ニ決マッテ―――!?」

 

そう。このナザリックを去った至高の存在の数は四十。

そして先ほどの話では、変化の実と転性の実の所有数は合わせて四十。

セバスとコキュートスは、パンドラズ・アクターのこれ魔。デミウルゴスの突然の豹変。

今までの出来事がある一つの可能性に繋がる。

二人の脳裏に浮んだ可能性―――。

 

「―――ま、まさか!?」

 

自分達の思い浮かんだ可能性に、セバスは驚愕の声を上げる。

 

まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。

 

まさか!?

 

 

「気付いたようですね。そう。私の生まれた理由。それは―――」

 

 

 

驚愕の視線を向ける二人に頷きながら、パンドラズ・アクターは答える。

 

 

 

 

 

 

「このナザリックを去られた、至高の御方々の子供を産む為です」

 

 

 

 

自らの創造理由を―――生まれた意味を。

 

 

 

 

 

 

「――――――」

 

 

絶句。

パンドラズ・アクターの言葉に、セバスとコキュートスは言葉を失い、立ちすくむしかできなかった。

 

 

「私がドッペルゲンガーとしての力を使い、至高の方々の姿を真似る。そしてその際、変化の実か転性の実を使い、妊娠が可能な状態とし、アインズ様と交わり、子を宿し、出産をする。これを四十回繰り返せば、至高の御方々の子供を残せる事となります。長期的プランとなりますな。まさに家族は計画的にです」

 

一人頷くパンドラズ・アクター。

 

「シ、シカシ。ソレガ本当ダトシタラ。アインズ様ノ狙イガ至高ノ御方々ノ子供ヲ残ス事ダトイウナラバ、何故御自身デ子供ヲ作ロウトシタノダ?

アインズ様ガ御自身ノ子供ヲ作レルカハ、マダ、アインズ様御本人ニモ解ラナイノダロウ?

ソレニ長期的プラントナルノナラバ、少シデモ早イ方ガ良イダロウ?早急ニ、オ前ニ、別ノ者ト交アイ、子供ヲ作ラセナイデイタノダ?」

 

「では、コキュートス。貴方に逆に尋ねますが、私が武人建御雷様の姿を模写し、誰かと交わり、子を成したとしましょう。どう思いますか?」

 

「ドウ…思ウトハ?」

 

「貴方はその子を―――自らの創造主たる武人建御雷様の子と認めますか?」

 

「―――」

 

認められるはずがない。パンドラズ・アクターが自らの創造者たる武人建御雷様の姿を模写し、為した子供。

武人建御雷様に創造された事を誇りに思う身として、そんな存在を認められるはずがない。

いや、むしろまるで武人建御雷様の偽者のように見え、創造者が穢されたとすら思い、自らの手でその子供を―――。

 

「―――殺してしまうかもしれない。違いますか?」

 

「――!?」

 

己の思考の海に潜っていたコキュートスであったが、己の思考を全て読んだかのような、パンドラズ・アクターの言葉に驚愕の意を覚えながら、思考の海から帰還する。

 

だが、考えてみれば驚愕するまでも無いことであった。

目の前にいるパンドラズ・アクターは、第七階層守護者であるデミウルゴスや、全NPCの頂点たる守護者統括のアルベトと並ぶ智謀の持ち主なのだ。

武に趣きを傾けている単純な自分の思考を予測するなど容易いことであろう。

 

「―――ソウダナ。恐ラク、オマエノ言ウ通リノ行動ヲ取ルダロウナ」

 

罪無き子供を殺す。

武士としては許されざる行動。

だが、武人建御雷様から創造された身としては決して許せない存在である。

 

「素直に答えていただき、感謝致します。セバス。貴方はどうですか?同じように、たっち・みー様の姿を模写した私が子供を為した時、貴方はどう思いますか?」

 

「………生まれて来る命に罪はありません」

 

セバスはそれ以上の事は口に出さず、俯く。生まれてくる命に罪は無い。だが―――。

それ以上の答えを言いたくないが為に。

 

「……このナザリック地下大墳墓の中でも、カルマ値が高い貴方達でも、拒否を示すのです。他のシモベ達から見てもそれは同じでしょう。ですから―――」

 

「―――ですから、アインズ様の血が必要なのです」

 

「デミウルゴス」

 

いつの間にか衝撃から立ち直ったデミウルゴスが、パンドラズ・アクターの説明を引き継ぐかのように、声を上げた。

 

「仮にパンドラズ・アクターがナザリックのシモベと交わり、子を為したとしても、私達は至高の御方々の子供として認められないでしょう。ただ、悲劇が生まれるだけです。しかし―――アインズ様との子供となれば話は別です。至高の存在たるアインズ様の血を引いた子供―――。しかも私達の創造者達の力を受け継ぐ正真正銘の至高の存在が生まれ落ちるのです……」

 

 

デミウルゴスは感極まるかのように宝石の目から涙を流しながら宣言した。

おお…と。セバスとコキュートスは感嘆の声を上げながら、デミウルゴスと同じように涙を流す。

己が創造者の力を持つ、主人の子供を想い。

 

「流石は…アインズ様。パンドラズ・アクターは始めからこの事を想定して、創造されていたということか…」

 

「ええ。その通りです。私のこの力はナザリックでも異端の力。至高の御方々の力を振るう事ができる私は、正しく万能の個といえる戦力でしょう。だが、私の真なる存在意義はそんな事では無かった…無かったのです」

 

「去られた至高の御方々の血と力を後世まで残す。それは私達シモベ達にとって至上な喜びであります。間違いなくパンドラズ・アクターの製作は、私達残されたシモベを哀れに思った末の事だったのでしょう…。流石はアインズ様。やはり智謀は私はアインズ様の足元にも及ばない。そして…何たる深き慈しみ。何たる慈悲深き御方…」

 

この事実を知った守護者達と執事は、この場に居ない己が主の、あまりの慈悲深さに感嘆の念を抑えきれずにいた。創造者が居なくなり、深い悲しみにいるであろうと、私達シモベの事を想ってくださった事。何たる慈悲深きことか。

改めて、このナザリック地下大墳墓のシモベとして創造された事の喜びに打ち震えるのだった。

 

 

 

 

 

だが、そんな中。鋼の執事たるセバスだけはある懸念を胸の中に抱いていた。

パンドラズ・アクターの創造理由は理解できた。それは自分達シモベ達にとって歓喜極まりない事である。勿論セバス自身もそうだ。自らの主たるアインズの子供であり、しかも自らの創造者たる、たっち・みーの力を受け継ぐ者の子供が誕生するのは何たる喜びか。

 

だが、パンドラズ・アクターの創造理由を聞いたセバスはある懸念を胸の中に抱く。

それは、パンドラズ・アクター自身がそれで良いと納得しているのか?との思いだ。

 

シモベ達は自らの創造者に対して、誰よりも忠誠心を持つ。

セバスも己の創造者たる、たっち・みーを至高の四十一人の誰よりも忠誠心を持っている。

もし至高の四十一人の誰かに仕えろと、命じられたならば迷わず、たっち・みーを選ぶであろう。

 

だが、セバスがたっち・みーに抱く思いはあくまでも忠誠心。

たっち・みーに対して深い忠誠心は持つが、寵愛を受け賜ろうとは間違っても思えない。

 

パンドラズ・アクターも創造者たるアインズに向ける感情も同じであろう。

 

ナザリックの中で唯一の極善のカルマを持つセバスには、そこがどうしても引っかかるのだ。

だが、それを今この場で指摘するほどセバスは野暮ではない。その鋼の口は何も言葉を発さず、ただただ、喜びを共有しようとする。

 

「セバス……貴方の懸念は何ら問題ありません」

 

だが、セバスの表情から、ナザリック随一の叡智を誇るパンドラズ・アクターはセバスの懸念を読んだようだ。

その言葉に、デミウルゴスもセバスの懸念を読んだようで、忌々しそうにセバスを睨みつける。

コキュートスは一人、不思議そうに首を傾げた。

セバスとしては言うまいと思っていたが、此処まで心を的確に読まれては、言わざるを得ない。

セバスは、この場に居る守護者達と、後々険悪になる事を覚悟しながら、言葉を発しようとする。

 

「パンドラズ・アクター…私は―――」

 

「所で、皆さん。私の名前の由来を知っていますか?」

 

だが、覚悟を決めたセバスの言葉を遮るように、パンドラズ・アクターは声を張り上げる。

唐突な話題の提供にいぶかみながらも、博識なデミウルゴスが答えた。

 

「確か……ある神話に登場する、パンドラと言う登場人物から取っているのではありませんか?」

 

「ええ、その通りです。神話に登場するパンドラは、神々から決して開けてはならないと言われた、禁断の箱を持っていました。しかし、パンドラは箱の中身が何なのか知りたいという、好奇心に負け、箱を開けてしまう。

開けた箱からは様々な、災いが飛び出し、世界は、災厄に満ち、人々は苦しむ事となる。

だが、パンドラの箱の中には最後の希望だけは飛び出す事無く、パンドラの手元に残っていたという話です」

 

パンドラズ・アクターの語りは続く。その話を皆静かに聴いている。誰も止める気はない。否、誰も止められない。

 

「私は今、自らに刻まれたこの名前を誇りに思います。そう―――確かにこのギルド。アインズ・ウール・ゴウンには災厄があった。災厄とは、至高の御方々が去られたという事。アインズ様にとって、圧倒的な、途方も無い大災厄。だが、私という希望は残った」

 

ナザリック最後の希望は、全てを悟り、全ての決意を秘めた頑固たる眼を同胞達へと向ける。

 

「かつて、聖母マリアは神の子を産んだという。私はパンドラ(最後の希望)パンドラズ・アクター(最後の希望の役者)。アインズ様が望むのならば、この名に賭して演じて見せましょう。アインズ様が望むのならば、産んで見せましょう。神の子を。希望の子を。そう………全ては―――」

 

パンドラズ・アクターはある行動を行う。それは敬礼。

パンドラズ・アクターが好んで良く行う行動。だが―――何という美しさ。

パンドラズ・アクターの覚悟、決意が溢れた敬礼は、デミウルゴス達の心を震わすには充分であった。

 

 

そしてパンドラズ・アクターは堂々と、誇り高く、世界に宣言する。

己の主から与えられた言葉を。己を表す言葉を。己の全てを。

 

 

 

我が神のお望みとあらば(Wenn es meines Gottes Wille)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、この場にアインズが居たのならば、全力で否定しただろう。

そして、パンドラズ・アクターを再び、即座に宝物殿へと叩き込み、封印していただろう。それだけの決意が沸いて来るのが、今のアインズの現状だ。

だが、悲しいかな。アインズは今、ご立派様を克服する為に絶賛修行中。

つまりは、パンドラズ・アクターの言葉を否定する者が誰も居ないという状況。そうして否定する者が居ないと言う事は、発した言葉が事実として認識されて行く状況。

 

つまりはアインズは詰んだのかもしれない。

 

こうして、アインズの周辺でどんどんとまずいものが、出来上がり、詰んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「とは、言ってもまだまだ試さなければいけない事は多々ありますがね。私が至高の御方々の姿を模写した上で、変化の実や転性の実の効果があるかを試さなくてはいけないですし」

 

「ダガ、アインズ様ガ可能性ガ有ルト思ワレタノダ。恐ラク大丈夫デアロウ。ソレヨリモダ、パンドラズ・アクター。御子ヲ作ル際ハ、是非トモ、武人建御雷様ノ御子ヲ一番ニデモ作ッテ欲シイト私ハ希望スル」

 

「コキュートス。一番は我が創造者たる、たっち・みー様の御子を希望します。それは、譲れません」

 

「何をいいますか。ギルド、アインズ・ウール・ゴウンは悪徳の華。ここは、誰よりも悪であられた、ウルベルト・アレイン・オードル様の御子が一番に決まっているでしょう」

 

「御子の順番に関しては、私の意見よりも、アインズ様の判断でしょうね。私ではなく、アインズ様に陳情をしてください」

 

「ムゥ…。アインズ様ガ、ゴ帰還サレタナラバ、直グニデモ陳情シナクテハナ」

 

 

 

 

 

 

これからの未来を同胞達と語りながら、デミウルゴスは己が創造主であり、この世で最も偉大な悪魔を心の中で思った。

 

 

ウルベルト様。

ウルベルト・アレイン・オードル様。

貴方様が愛した、このギルド、アインズ・ウール・ゴウンは。悪徳の華は咲き続けるでしょう。

未来永劫。いつまでもいつまでも永遠に大輪の華を咲き続けるでしょう…………。

 

 

デミウルゴスは、このナザリック地下大墳墓の希望と栄華に満ち溢れた未来を確信したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、デミウルゴス達は失念していた

世界とは表裏一体。

光ある所には影がある。影がある所には光がある。

大輪の華が咲き続けるのならば、その輝かしい華を狙う毒蟲もまたあるという事を。

 

 

「ふむふむ…。なるほど。至高の御方々の力を受け継ぐ、アインズ様の御子…か」

 

円形劇場(アンフィテアトルム)の隅にて、男性使用人達が、円陣を組み外から中央を見れないように、隠している。

その中央には謎のバードマンがいた。

その謎のバードマンは、如何なる方法を用いてか、デミウルゴス達の会話を盗聴する事に成功したようだ。リアルタイムに彼らの会話が聞こえてくる。

 

「ふふふ。これは素晴らしい…いや、素晴らしすぎる情報だ」

 

謎のイワトビペンギンは己が手にした情報のあまりの大きさに歓喜に震えていた。彼自慢のフリッパーもぷるぷる震えている。

 

「私がナザリックを支配する時、この御子達は絶対に必要となってくる。少なくとも飴ころもっちもっち様と、各階層守護者の創造者達の御子は私の支配下に置かなくてはな…」

 

謎の執事助手は、己の考えを纏めると、円陣を組み、己の姿を隠していた、配下の男性使用人に命令を下す。

 

「おい。私を抱えて移動しろ。行き先は大図書館(アッシュールバニパル)。急げ。今のうちに、児童書を確保しておかなければ…!」

 

男性使用人の小脇に抱えられた、謎のエクレア・エクレール・エイクレアーは己の未来予想図に心を躍らせながら図書館へと移動するのであった。

 

 

ナザリックの闇は深い。果たしてナザリックに待ち受けるのは、栄華溢れる大輪の華を咲かせる未来か。

それとも、大輪の華を貪られ、毒蟲が躍り出る未来になるのか。

それは、今現在では誰にもわからない事であった…。多分。

 




りっぱ『小僧の旅も終わりが近づいてきおったわ。果たして小僧がどのような旅路の果てを迎えるか!刮目して待つがグワッハッハッハァー!
決して言うことがないから、短いわけではないぞ。ほ、本当だぞ!?』

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