日本人はタンパク質が足りていない、もっとタンパク質を!
糖質制限の流行と共に、高タンパク食もよく謳われるようになりました。糖質制限では炭水化物を減らした分、タンパク質と脂肪を増やそうという基本的な概念がある(お腹いっぱい食べて良しとする人もいる)ので、糖質制限をする場合は高タンパク食になるのが一般的です。
しかし、高タンパクな食事法に変えても血液検査はいつもタンパク不足という結果が出ていませんか?
それはもしかするとタンパク質を摂りすぎているせいなのかもしれません。
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高タンパク食と低タンパク食ではどちらが筋肉合成能力が高まるのか?
オランダのマーストリヒト大学で行われた実験。
平均62歳の男性24人を対象に、2週間の介入試験が行われました。[1]
参加者は二つのグループに分けられ、一つのグループは一日のタンパク質を体重1㎏あたり0.7gを摂取(LOW PRO)、もう一つのグループは1.5gを摂取(HIGH PRO)。
これを2週間にわたって行いそれぞれの食事方に身体を適応させました。
試験終了後に全員実験室に来てもらい、どちらのグループにも25gのタンパク質を摂取させたのち、食後の筋肉タンパク質合成率、食餌性タンパク質由来のアミノ酸の取り込み、食餌性タンパク質の吸収および吸収動態を評価しました。(動態、代謝の評価のためにいくつかのアミノ酸の静脈注射を行っていますが、詳しい原理はよく分からないのでここでは省きます)
試験前の参加者のデータは以下の通り。
Systolic BPは最低血圧、Diastolic BPは最高血圧。
参加者はみな健康でグループ間での違いはほとんど見られませんでした。
各グループの食事の摂取量の平均は以下の通り。
総摂取エネルギーは同じですが、HIGH PROグループではLOW PROグループに比べ、炭水化物の摂取量が減り、脂肪の摂取量が増えています。ざっくり言えばゆるやかな糖質制限と言われるPFCの割合でしょうか。
二週間後の結果
アミノ酸の動態と代謝
設定された食事を二週間続けた参加者たちに25gのホエイプロテインを摂取させその後の血液を調べました。
まずは、血中に現れるアミノ酸(フェニルアラニン)の可用性について。
食事後2時間後、5時間後までのアミノ酸の可用性はLOW PROグループの方が高くなっていました。
より詳細な代謝を比較してみると、さらに興味深い結果が。
まず、グラフの説明から。
縦軸は必須アミノ酸の一つフェニルアラニンの量。著者らはこの量を見ることでタンパク質の合成速度を評価することができると報告しています。
Basalとはここでは食前。Postprandialとは食後のこと。各項目の左二本が食前のデータで右二本が食後のデータということになります。
まずBreakdown(分解)とSynthesis(合成)から見てみます。
タンパク質を摂取するとどちらのグループもアミノ酸の分解率が減少し、合成が高まっていることが分かります。
次に、Oxidation(アミノ酸の酸化→つまりは分解)を見てみるとこちらもタンパク質摂取後にどちらのグループも高くなっていることが分かります。
アミノ酸の分解、合成、酸化から足し算引き算をして、正味(Net)の合成量を比較してみると、なんとLow PROの方が合成量が高くなっていることが分かります。(一番右の白と黒の棒グラフ)
つまり、摂取したタンパク質から合成されたアミノ酸の量はLOW PROを続けていた人たちの方が多かったという結果。
筋肉タンパク質合成
筋肉になったタンパク質の量も比較しています。
フェニルアラニンとロイシンについて筋原線維の合成速度を比較したものが下のグラフ。
フェニルアラニンは食前の段階では同等でしたが、食後ではLOW PROの方が高くなっています。この傾向はロイシンでも同様。
筋原線維がどんどん作られるのはこれまた意外にもLOW PROの方。
最後に、フェニルアラニンのMPE( myofibrillar protein-bound L-[1-13C]-phenylalanine enrichments : 筋原線維の増量?[mol%])を比較したのが下のグラフ。
このデータの詳しいことに関して私はよく分かっていないのですが(MPEを検索してもこの用語の解説が出てこない)、実際にアミノ酸(フェニルアラニン)から筋原線維が作られた量を計算して比較しているのかなと理解しています。
まあ、そう理解して話を進めると、ここでも5時間後にはLOW PROの方が高くなっていることが分かります。
以下、著者らのまとめです。
Habituation to LOW PRO (0.7 g · kg–1 · d–1) compared with HIGH PRO (1.5 g · kg–1 · d–1) augments the postprandial availability of dietary protein–derived amino acids in the circulation and does not lower basal muscle protein synthesis rates or increase postprandial muscle protein synthesis rates after ingestion of 25 g protein in older men.
高齢男性においては、HIGH PRO(1日1.5g/kg)に比べてLOW PRO(1日0.7g/kg)への適応は、タンパク質25gを食べた後の循環中の食餌性タンパク質由来のアミノ酸の可用性を増大させ、基底状態(食前)の合成率を下げることなく、食後のタンパク質合成率を増加させる。
とても不思議で興味深い結果ですね。
カラミ的まとめ
今回紹介した論文は、タンパク質の摂取量を減らした食事と増やした食事に体を適応させた場合に、アミノ酸の合成率や筋肉タンパク質の増加量がどのように変化するのかを調べたもの。
結果は、タンパク質を減らした食事を続ける方が筋肉タンパク質の合成率も速度も高まるということがわかりました。タンパク不足を改善するために、闇雲に高タンパク食にすることは逆にタンパク不足を招きかねないという面白い結果です。
特に私が興味深いなと思ったのは、基底状態のNetバランスがHIGH PROの方が低くなっているという点。
普段高タンパク食を続けていると身体がそのリズムになれてしまって、まるで「また入ってくるのなら早めに分解しておこう」と身体が考えているようにも思えてきます。
Dr. Jason Fungのあるブログ記事で「家に新しい家具(タンパク質)を入れるためには古い家具を捨てなければならない」という例えがあったのですが、高タンパク食に身体を慣らすというのは新しい家具を買い続ける人の家の中では捨てることにも大忙しになっている状況なのかもしれません。
一方のLOW PROグループは古い家具も新しく入ってくる家具もできるだけ大事にしようとするタイプ。
まあ尤もこの論文は平均62歳の男性に対して行われた実験であり、若い世代に対してはどうのような結果になるかは分かりません。またタンパク質の摂取量に関しても両極端に設定されてますので、合成率の最適値は0.7と1.5gの間に存在しているのかも知れません。
ところで、タンパク質の同化作用を高めるには高タンパク食は間欠的に行う方が良いという論文を以前紹介しました(対象は高齢女性)。
タンパク不足を解消するために摂取回数を増やすことは実は同化作用を弱めているかもしれないということについて、今回紹介した論文の結果とも関連があるように思います。
それにしても、前回紹介した論文でもそうでしたが、ファスティング中に運動したからと言って筋肉が分解されるわけでもなく、タンパク質をたくさん摂ればその分同化率も高まるというわけではないというような予想と逆の結果を見るたびに人体って本当に不思議だなと思わされますね。
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