俵まで追い込まれてから「1・17」への思いと大関の責任感が、逆転の一手につながった。貴景勝は立ち合い、御嶽海に体を寄せられて突き押しの手が伸びない。後退しながら右からの押しで血路を開き、するりと回り込んで突き落とし。1敗を守った。
「精神的にどっしり構えて堂々と取れた。武器を持たずにまわしだけだから、気合しかない。(けがを)考えたら、何もできなくなっちゃう」
昨年夏場所で2場所連続休場の原因となった右膝を、同秋場所で左大胸筋をそれぞれ痛めた一番と同じ相手。下がる相撲は、古傷への不安が呼び起こされる嫌な流れだったが、気持ちだけで乗り越えた。
阪神・淡路大震災発生から25年の節目のこの日、兵庫県芦屋市出身の大関は「俺は阪神(生まれ)だから。経験してないから、語るのは良くないけど」と前置きした上で、思いを語った。
震災後に生まれた23歳にとって、真っ二つになった高速道路や縦揺れは、映像で見たり家族から聞かされたもの。悲惨さは被災者しか分からない。それでも「一生懸命やる中で、光というか精神的な支えに自然となれるように」と信じている。
より被災地に寄り添うため、やるべき事は分かっている。「まだ力不足。相撲を極めて、土俵で頑張って訴えるものがあればと思う」。真っ向勝負でつかむ白星が、一番の勇気になる。