「やさしい日本語」には、文を分かち書きにするというルールがあります。ここでは、掲示物等で「やさしい日本語」を使用する際の分かち書きの仕方について、詳しく説明しています。
この分かち書きルールは外国人留学生21人にアンケートを行い、確実に情報が伝わるかや、誤解を生じることがないかなどについての検証を行いました。
また、この分かち書きルールは社会言語学研究室が提案する「やさしい日本語」のための分かち書きルールですので、一般に使われる学校文法のそれとは少し異なる点があります。
「やさしい日本語」のための分かち書きルールには2つの基本ルールと1つの例外ルールがあります。
基本ルール 1
文節の間に余白を空けて区切り、分かち書きにする
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●文節とは・・・文章を意味のまとまりで区切った単位のことです。
●分かち書きとは・・・文節の切れ目ごとに余白を空けることです。

分かち書きにすることで、外国人は文の意味を理解しやすくなります。
それでは、ある一文をどのように分かち書きにすればいいのでしょう。
研究室が発行した『「やさしい日本語」作成のためのガイドライン』(2013年公開http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/ejgaidorain.html)などでは、文の途中に「ね」や「さ」などのことばを入れても不自然にならないところで分かち書きにすると説明しています。
例1)津波が来ます
⇒津波がね 来(ます
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これを文法的に説明すると、自立語の前で区切るということになります。
≪自立語と付属語≫
文法的な面からもう少し詳しく解説します。
ひとつの文は複数の文節から成立します。
そして、文節は自立語だけ、あるいは自立語プラス付属語から構成されています。
つなみ き
津波 が 来ます
自 + 付 自
※自・・・自立語
付・・・付属語
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自立語とは、その語だけで意味を持ち、文節を構成することができる語のことです。具体的には、名詞、動詞、形容詞、形容動詞、副詞、連体詞、接続詞、感動詞を指します。
付属語とは、自立語に対して、その語だけでは文節を構成することができない語のことです。助詞や助動詞を指します。
≪文節の区切り方≫
文節とは、文章を意味のまとまりで区切った単位のことです。つまり、文節は一つの自立語のみ、もしくは自立語とそれに連接する付属語によって構成されていると言えます。言い替えると、文節は必ず自立語から始まるということになるので、文節は自立語の前で区切ると考えましょう。
このことを踏まえて「やさしい日本語」の文章を分かち書きしてみました。難しい語の言い換えや、ルビも加え、「やさしい日本語」の表記にしています。
つなみ たか なみ き
例2) 津波<とても 高い 波>が 来ます |
基本ルール 2
「つなげる語群」は分かち書きにしない
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基本ルール1では、文節を自立語の前で区切って分かち書きにすると説明しました。しかし、自立語である名詞、動詞、形容詞には、その語本来の意味や独立性が弱くなっていて、おまけのように使われているものがあります。 それらは補助動詞、補助形容詞、形式名詞などと呼ばれています。
例えば、「痛くなる」の「なる(補助動詞)」、「壊れやすい」の「やすい(補助形容詞)」、「食べること」の「こと(形式名詞)」などです。これらを漢字で書くと、「成る」「易い」「事」なのですが、使われ方を見てもわかるように、その語が持っている本来の意味が弱まってしまっています。すなわち語としての独立性が弱いと考えるわけです。
動詞や形容詞、名詞は自立語ですから、基本ルール1に則って、文節として独立させるべきです。しかし、補助動詞、補助形容詞、形式名詞を含む「つなげる語群」(※後述)は、その意味の弱まりから、「やさしい日本語」では文節として独立させず、前の節に続けることとしました。分かち書きをしないことで、外国人にとって意味が取りやすくなると考えたためです。
また、「病気になる」の「なる」や、「仕事をする」の「する」といった助詞に続く「なる」と「する」も、アンケートでは分かち書きをしないほうが外国人にとってわかりやすいという結果になりました。そのため「なる」と「する」も「つなげる語群」に含んでいます。
~間違えやすい代表例Best3~
1位:準備を して ください
⇒正解は・・・「準備をして ください」
(※「して」は「する」の活用なので「して」も分かち書きをしません)
2位:熱中症に ならないように 気をつける
⇒正解は・・・「熱中症にならないように 気をつける」
3位:止まるかも しれません
⇒正解は・・・「止まるかもしれません」
(※「しれない」は「知る」という本来の意味が弱まっているため分かち書きをしません)
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≪つなげる語群一覧≫
ここでは、「やさしい日本語」で使用されることが考えられる「つなげる語群」について説明します。「つなげる語群」とは、「やさしい日本語」の文において、前の語と必ず連接することばのグループです。それらを具体的に挙げます。
~おく ~ある ~みる ~いる ~くれる ~しまう ~する
~いく ~くる ~あげる ~なる ~やすい ~にくい
~ない(「ぬ」に言い換えられないもの) こと ところ とき もの
人 ~のよう ~のため くらい
※「気をつけて」の「つけて」と、「~かもしれない」の「しれない」も独立性が弱まっていると見なし、分かち書きをしません。 |
~「ある」と「いる」コラム~
「ある」と「いる」は、「困っている」や「置いてある」のように状態を表している場合と、「医者がいる」や「そこにある」のように存在を表している場合があります。
状態を表す「ある」と「いる」は先ほどの「つなげる語群」に含まれているため、分かち書きはしません。しかし、存在を表す「ある」と「いる」は本来の意味がそのまま使われている独立性の強い語であるため、基本ルール1に則り分かち書きにします。
このように、同じ語であるのに場合によって分かち書きのルールが変わってしまうのは、みなさんにとって分かりづらいものとなります。
そこで、存在を表す「ある」と「いる」は、助詞の「は」「も」「の」「が」「に」に続くことから、
「刃物蟹(ハモノガニ)」に続く「ある」と「いる」は分かち書きをする
というように覚えると、分かりやすくなります。 |
例外ルール 1
「ください」と「ところ」は分かち書きにする
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「~くれる」の敬語である「ください」は、本来「つなげる語群」に含まれる独立性が弱まった補助動詞ですが、前の節につなげると一文節が長くなってしまいますので、分かち書きにすることとしました。
また、「ところ」は「やさしい日本語」で使用するとき、「出かけるところだ」のような時間の一地点を示す使い方ではなく、「楽しいところがある」のような場所を示す使い方をする場合ほとんどです。そのため、「やさしい日本語」で使用する場合には、語の独立性はそれほど弱くないと考えました。
以上のことから、「ください」と「ところ」は例外的に分かち書きにします。
それでは、「やさしい日本語」文を分かち書きにした例を見てみましょう。
[例 1] コンビニが開いています
あ
コンビニ/が 開い/て/い/ます
名詞/助詞 動詞/助詞/補助動詞/助動詞
「開いています」は「開いている」の丁寧な表現です。この「いる」は本来の意味が弱まっているので、分かち書きをしません。 |
[例 2] 頭の上に気をつけてください
あたま うえ き
頭/の 上/に 気/を/つけ/て ください
名詞/助詞 名詞/助詞 名詞/助詞/補助動詞/助詞 補助動詞
「気をつけて」の「つけて」は語としての独立性が弱いため、分かち書きをしません。「ください」も語の独立性は弱いですが、前の語と連結させてしまうと一文が長くなってしまうため分かち書きをします。 |
[例 3] 建物が壊れやすいです
たてもの こわ
建物/が 壊れ/やすい/です
名詞/助詞 動詞/補助形容詞/助動詞
「壊れやすい」の「やすい」は「易い」という本来の意味が弱まっているので、分かち書きをしません。 |

分かち書きルールに基づく分かち書き一覧
「やさしい日本語」の分かち書きルールを一覧表にしてみました。また、例外ルールを適用するものと同じ語彙でも分かち書きルールが変わるものには網かけをしています。
| 語彙 |
使用例 |
| する |
・準備(を)する
・用意して
・仕事をさせる |
| なる(成る) |
・必要になる
・取らなければならない |
| ある(有る) |
・置いてある
・臨時便が あります |
いる(居る)
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・ 困っている
・医者が いる |
| くる(来る) |
・ 逃げてくる |
| ついて(就いて) |
・放射線について |
| しれない(知れない) |
・危ないかもしれません |
| いく(行く) |
・持っていって |
| ない(無い) |
・カードなどがなくても |
| はじめる(始める) |
・つくりはじめる |
| くれる |
・紹介してくれる |
| あげる |
・助けてあげる |
| もらう(貰う) |
・払ってもらう |
| とる(取る) |
・受け取る |
| しまう |
・壊してしまった |
| ~にくい |
・流れにくく |
| ~やすい |
・なりやすい |
| こと(事) |
・使えること |
| とき(時) |
・帰ったとき |
| もの(物) |
・必要なもの |
| 人 |
・背が 高い人 |
| よう(様) |
・絵のように |
| ため(為) |
・ならないために |
| くらい(位) |
・どのくらい |
| ところ(所) |
・作った ところ |
| ください(下さい) |
・行かないで ください |
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