「Windows 7」のサポートが終了、それでも企業は古いOSを使い続ける

マイクロソフトが「Windows 7」のサポートを2019年1月14日に終了した。今後は最新OSである「Windows 10」へのアップデートが求められるが、それでも企業が古いOSを使い続けるケースは少なくない。

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ニューヨークにある「Microsoft Store」。これまで「Windows 7」を使い続けてきた人の多くは、新しいOSを利用することになる。BRYAN THOMAS/GETTY IMAGES

ついに「Windows 7」を手放すことになった。個人的には「Windows 10」が嫌いというわけではないが、Windows 7には特別な“何か”があった。より洗練されていたのだ。

実際のところ、それ以前の悪名高い「Windows Vista」と比べて動作が軽快で、ハードディスクドライヴの使用容量も小さかった。見栄えもよかったので、ようやくWindowsユーザーはMacユーザーに引け目を感じる必要がなくなった。それにWindows 10は、Windows 7をインストールしていた古いノートPCで正しく動作するかも、移行にどれだけ時間がかかるかも見当がつかなかった。

しかし、マイクロソフトに背中を押されるかたちになった。マイクロソフトはWindows 7のサポート終了を1月14日としていたからだ。

「サポート終了後もWindows 7を搭載したPCを引き続き使うことはできますが、お使いのPCはセキュリティのリスクやウイルスの被害を受けやすくなります」とマイクロソフトは説明している。言い換えれば、コンピューターをランサムウェアやその他の脅威に晒したくなければ、アップグレードするのが得策、ということだ。

先延ばしにされるOSのアップデート

アップグレードを先延ばしにしていたのは、決してわたしひとりではなかった。

IT業界に特化したソーシャルネットワークのSpiceworksは2019年、IT専門家に対するアンケート調査を実施した。調査結果によると、回答者の79パーセントは依然として組織内に少なくとも1台のWindows 7マシンを所有していた。回答者の25パーセントは、いまの時点になってもアップデートが完了しない見込みであると回答していた。

どのようなアップデートであれ、大規模な組織にとっては大きな負担になる。移行計画を立てるまで数年の猶予があったが、それにもかかわらず、相当数の企業、非営利団体、政府機関が、リスクを承知でWindows 7を利用し続けるだろう。

組織には新しいOSへの移行にかかる時間を過小評価する傾向がある。Spiceworksが13年に実施したアンケート調査では、回答者の26パーセントが、マイクロソフトによるサポートが2014年に終了するまで「Windows XP」から移行する予定はないと回答していた。ところが同社の別のアンケートによれば、回答者のおよそ32パーセントが、19年の夏になっても少なくとも1台のWindows XPマシンを稼働させ続けていた。

幸いなことに、Windows 10へのアップグレードは難なく終わった。マイクロソフトによると、「延長サポート」のために料金を支払うユーザーに対しては、今後も特に重要なセキュリティ問題の修正パッチを提供し続けるという。製品の正式サポートが終了したあとも、セキュリティ修正プログラムをリリースすることで同社は知られている。

IT部門は、サポートが終了したシステムを保護するために手段を講じることができる。だがその場合には、積極的な姿勢が求められる。「組織は手をこまねいたままだと痛手を負うことになります」と、情報セキュリティ企業Exabeamのシニア・セキュリティエンジニアのクリス・ティレットは指摘する。「気づけば一部の病院が個人データを犯罪企業に送信していた、といったこともありえます」

企業がアップデートに踏み切らない理由

Windows 7は09年にリリースされた。続く12年には「Windows 8」が、15年には最新版となるWindows 10が発表された(ちなみに「Windows 9」は欠番である)。一見すると組織が移行するまで充分に時間があったように思えるが、一筋縄にはいかない。新しいハードウェアやソフトウェアにお金を使いたくない組織や、その余裕がない組織も存在するからだ。

また、伝統的な「スタート」ボタンを廃止したWindows 8は、非常に評判が悪く不人気だった。Spiceworksのピーター・ツァイによると、多くのIT部門は混乱したユーザーからの質問がヘルプデスクに殺到することを恐れ、Windows 8のサポートを望まなかったという。このため2015年までに購入したPCでは、いまだにWindows 7が動作していることがあるのだ。

ツァイによると、組織が古いOSにしがみつく最大の理由は、最新のOSと互換性がない恐れがある“レガシー”なソフトウェアを動作させる必要があるからだ。マイクロソフトにとって後方互換性は大きな優先課題だが、旧ヴァージョンのWindowsで動作したすべてのソフトウェアについて、新ヴァージョンでの動作を保証するのは不可能である。

Exabeamでセキュリティエンジニアを務めるマーク・カペルポによると、Windows 10ではセキュリティが改善されてOSの一部領域が保護されたことによって、一部の古いアプリケーションがその領域にアクセスしようとすると、正しく動作しなくなる可能性があるという。

古いソフトウェアが新しいシステムで動作することを確認する唯一の方法は、テストを実施することだが、それには時間とリソースが必要になる。アプリケーションがWindows 10で問題なく動作したとしても、組織は徹底的なテストが完了するまでアップグレードを見送るかもしれない。何十万人ものユーザーを抱える大企業では、新しいヴァージョンのOSへの移行に数年かかることもあるとティレットは言う。

こうして古いOSは動き続ける

ティレットによると、アプリケーションを別のOSに移行する作業は容易になりつつあるという。なぜなら、新しいソフトウェアはウェブベースであったり、Javaプログラミング環境などのクロスプラットフォームなツールで構築されていたりする場合が多いからだ。

しかし、産業技術セキュリティ企業のDragosでプリンシパル・サイバーリスク・アドヴァイザーを務めるジェイソン・クリストファーによると、公共事業や製造業、金融サーヴィスなど多くの業界では、依然として数十年前のソフトウェアが利用されており、交換するのは容易ではない。

数百万ドルの損失につながる可能性がある場合や人命がかかっている場合、企業は動作に問題のないソフトウェアをわざわざ交換しようとはしない。たとえ時代遅れのOSを使い続ける必要があったとしてもだ。いまだに大昔のIBM製メインフレームを所有している企業もあれば、仮想マシンでMS-DOSを動かせるようにしている企業も存在する。

古いサポート切れのソフトウェアやOSを組織で稼働させる場合、IT部門はマイクロソフトからのセキュリティアップデートに頼ることなく、システムの保護に取り組むことが多い。クリストファーによると、インターネットやほかのネットワークセグメントから時代遅れのシステムを隔離するのが、最も一般的な戦略のひとつだ。

システムの安全を確保したい多くの企業にとって、ひとつの「答え」はソフトウェアを増やすことだ。Spiceworksによると、IT技術者の59パーセントは、人工知能(AI)または機械学習を用いて、セキュリティの脅威を検出できるようになることを想定しているという。

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「反物質」の力でガンマ線レーザーが実現する? 新たな研究モデルから見えてきたこと

超高強度なガンマ線レーザーの実現に一歩近づく新たな理論モデルが、このほど米国の研究チームによって学術誌に公表された。新たな医療画像技術やガン治療への応用、そして宇宙船のレーザー推進の実現も期待できるというガンマ線レーザー。今回の理論の鍵を握るのは、「物質」と「反物質」の混合物ともいえるポジトロニウムという粒子だ。

TEXT BY SANAE AKIYAMA

laser lights

CASPAR BENSON/GETTY IMAGES

「物質」と電気的に正反対の性質をもつ「反物質」が出合うと、それらは光子や他の粒子に変換される対消滅と呼ばれる現象を起こす。電子と陽電子が対消滅した場合は、ガンマ線という高エネルギーの放射線が放出される。

この原理を基に構想されているのが、高エネルギーのガンマ線レーザーだ。その実現に一歩近づく新たな理論モデルが、このほど物理学学術誌「Physical Review A」で報告された

レーザー光とは、同じ波長の電磁波を発生させて増幅させた人工的な光のことを指す。特定の周波数をもつ電磁波の山と山、谷と谷が揃って重ね合わさった「コヒーレント光」は拡散せずに直進し、遠距離の小さなスポットに収束させることができる。収束性と直進性に優れたレーザー光は、例えばレーザーポインターのように離れた場所にある図などを指し示すことが可能だ。

レーザー光の生成は、可視光範囲の周波数のほかに、電波、赤外線、紫外線、X線など、ほぼすべての電磁波で可能である。しかしX線よりも波長が短く、最もエネルギーの大きい領域にあるガンマ線を生成するための技術と、そのために適切な物質を探し出すのは困難だった。今回、カリフォルニア大学リヴァーサイド校の物理学者アレン・ミルズ博士が提唱したガンマ線レーザー生成の理論モデルでは、ポジトロニウムとヘリウムの使用を提唱している。

物質と反物質を内包するポジトロニウム

ポジトロニウム(Ps)とは、電子とその反粒子である陽電子が電磁相互作用によって束縛されている水素に似た粒子だ。「物質」と「反物質」の混合物ともいえるこの粒子の寿命は非常に短く、すぐにガンマ線へと消滅してしまう。

この崩壊の仕方には2通りある。125ピコ秒(1ピコ=1兆分の1)でそれぞれ511KeV(キロ電子ボルト)のエネルギーをもつ2本のガンマ線に崩壊するものと、142ナノ秒(1ナノ=10億分の1)で総エネルギー1022KeVをもつ3本のガンマ線に崩壊するものだ。

ポジトロニウムからガンマ線レーザーを生成するには、この物質がボーズ・アインシュタイン凝縮体と呼ばれる極低温の状態にある必要があることが、1957年に初めて理論的に発表されている。ボーズ・アインシュタイン凝縮とは、原子集団が絶対零度近くまで冷却され最低エネルギー状態となったとき、個々の原子は別々にふるまうことなく、すべての原子がひとつであるかのようにふるまる現象のことを指す。

ボーズ・アインシュタイン凝縮体の状態にある大量のポジトロニウム原子は、揃って同一の量子状態となり、レーザー生成に向いた“コヒーレント”な状態になるという。

次なるステップは理論から実験へ

ミルズの計算では、ポジトロニウム原子を極低温(-269℃)の液体ヘリウム(4He)に混ぜ合わせることで、通常すぐに消滅してしまうポジトロニウムを安定させることができる。ヘリウムはポジトロニウムをはじくので、液体ヘリウムの中ではポジトロニウムの原子で満たされた気泡が形成されるのだという。

「わたしの計算では、液体ヘリウム中の100万個のポジトロニウム原子を含む気泡は、通常の空気の6倍の数密度をもち、物質と反物質のボーズ・アインシュタイン凝縮体として存在することを示しています」と、ミルズ博士は説明している

彼の次のステップは、この理論を実験に持ち込むことだ。ガンマ線レーザーの開発は、新たな医療画像技術やガン治療への応用のみらず、宇宙船のレーザー推進の実現も期待できるという。

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