痛いところを突かれて
逆ギレする

 それは遠い昔のことで今はそんな酷いことはない、とか言い訳をする人もいるが、2012年のPC遠隔操作事件で、無実の罪で逮捕され、後に警察から謝罪された19歳の大学生も、取調室で捜査官から「無罪を証明してみろ」(朝日新聞2012年12月15日)と迫られたと証言している。

 この自白偏重文化が中世の名残であるということは、そこからやや進んだ江戸時代の司法を見れば明らかだ。死罪に値するような重罪の場合、証拠がいかに明白だろうと自白を必要とした、と記録にある。さらに、自白をしない被疑者に対しては「申しあげろ。申しあげろ」とむち打ち、えび責めなどの拷問で強要した、という感じで、罪を告白するまで100日でも自由を奪う「人質司法」のルーツを見ることもできる。

 罪を吐くまで追い込むので当然、現代日本のような冤罪も量産される。名奉行で知られる大岡越前は、徳川吉宗にこれまで何人殺したかと聞かれ、冤罪で2人を死刑にしたと告白している。

 話を戻そう。ゴーン氏の代理人同様に、鋭い指摘をするドマー委員に対して、日本の代表として参加した外務省の上田秀明・人権人道大使は「この分野では、最も先進的な国のひとつだ」と返したが、日本の悪名高い人質司法などは、参加者たちの間では常識となっているので、思わず失笑が漏れた。すると、上田大使はこのようにキレたという。

「Don't Laugh! Why you are laughing? Shut up! Shut up!」(笑うな。なぜ笑っているんだ。黙れ!黙れ!)

 昔から日本は、海外から痛いところを突かれると逆ギレして、とにかく日本は海外とは事情は違うという結論に持っていって、変わることを頑なに拒んできた。

 このままやったら戦争に負けて多くの国民が死にますよ、という指摘があっても、この国は世界の中でも特別な「神の国」だと、頑なに耳を塞いだ結果、凄まじい悲劇を招いた。

 先進国で唯一、20年間も経済成長をしていないのは日本だけなので、異様に低い賃金を引き上げて生産性を向上させていくしかない、と指摘をされても、日本の生産性が低いのは、日本人がよその国よりもサービスや品質にこだわるからだ、ちっとも悪いことではない、などというウルトラC的な自己正当化をしている。

 筆者が生業とするリスクコミュニケーションの世界では、「図星」の指摘に対して、逆ギレ気味に自己正当化に走るというのは、事態を悪化させて新たな「敵」をつくるだけなので、絶対にやってはいけない「悪手」とされる。