稀代のクリエイターが語るライフワークバランス。
やりたい仕事、やるべき仕事の中で、いかに自分を見つめて決断するか。
日本独自の文化として歴史を重ねてきたアニソンというカルチャー。
いくつものヒットソングを生み出し、ムーブメントを巻き起こしてきたその裏には、クリエイティブの軽視に基づいた悪しき慣習が横たわっていた。
シーンの最前線で戦い続ける田淵智也さん、大石昌良さんの2人によって、その問題にメスがいれられた前回。
血の通った意見の先に、2人は既にクリエイティブのあるべき未来を視野に入れ始めていた。
そして、大石さんから衝撃的な告白も飛び出した。
撮影:I.ITO
「大石、作家業をセーブします!」
田淵 アニソン業界からの才能の流出は、現状のままでは止められないと思っています。それでいうと、大石さんは活動場所をアニソンから移す気はあるんですか?
大石 僕は、必要とされるならなんでもやろうと思ってる。それこそドラマの主題歌もしかり。
※大石昌良さんによる、鈴木雅之さんの新曲「たとえ世界がそっぽ向いても」。2020年1月からスタートのテレビ東京系ドラマ『駐在刑事 Season2』の主題歌に
ただ、僕の能力との親和性が高いのは、アニソン業界だとも思う。だからこそ求められてもきたんだろうし、アニソンのフォーマットはつくり慣れてもきた。
でもそうやって片っ端から仕事を受けた結果、あまりに大変になってしまったので、2020年は体制を変えようとしてます。
──それは初耳です。具体的にはどのように?
大石 作家・大石昌良としての活動をセーブしようと考えています。かねてから言っている、自分のための音楽、自分が歌う音楽に集中します(前回の対談参照)
僕は運良くアニメのヒット作品に恵まれていて、埋もれていった曲は少ない方だと思うんですが、それでもこのシステムのままでは一生懸命につくった曲が日の目を見ないことがあって、それはあまりに虚しい。
田淵 やる気が報われないほど悲しいこともないですから、やりがいを感じる方に活動を調整していくのは確かに自然ですね。
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