オーストラリアの森林火災は、危険な「火災積乱雲」を生み出している(動画あり)

オーストラリアで発生している大規模な森林火災は、新たな“火種”を生み出している。乾燥した森に雷を落としたり、地表の燃えさしを各地に運ぶ危険性がある「火災積乱雲」の発生だ。この火災積乱雲が発生した様子、そして南米にまで煙が運ばれている状況を、科学者らが衛星写真から作成した動画で明らかにしている。

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SAEED KHAN/AFP/AFLO

ある火災科学者によると、オーストラリア全土に広がっている森林火災は過去に類を見ないというだけでなく、壊滅的な被害をもたらしている。気候変動と厳しい熱波によっていつ発火してもおかしくないほど乾ききった環境ができていたことで、ほんの小さなきっかけから森林火災が瞬く間に広がった。その激しさは、新たな独特の天候を生み出すほどだ。

科学者たちは、オーストラリアの火災による火災積乱雲の発生を観測している。ウィスコンシン大学マディソン校の気象研究者スコット・バックマイヤーによると、この恐るべき現象は、上昇気流を生み出す熱い空気の塊(今回のケースでは柱状に立ち上る濃い煙を含む空気)と、通常よりも高く上昇気流を押し上げる不安定な大気環境のふたつによって生み出されるものだ。

はるか上空まで拡散

空気の塊が高く上るにつれて煙を含む大気が冷却され、水と煙の粒が混ざり合い、上空の何マイルにもわたってそびえる火災積乱雲が形成される(誤解のないように言うと、雲自体が燃えているわけではない)。

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VIDEO BY SCOTT BACHMEIER/UNIVERSITY OF WISCONSIN-MADISON

上のGIF動画は、2本の火災積乱雲が立ち上る様子を人工衛星から赤外線撮影したものだ。上のパネルでは炎が、下のパネルでは雲の頂上の温度が示されている。赤い輝点は森林火災の温度を示し、赤紫色の輝点は雲の頂上がマイナス70℃であることを示す。温度が低いほど高度が高いことを意味するので、この低温状態から火災積乱雲がはるか上空まで拡散していることがわかる。

下の動画からもわかるように、ここでも別の火災積乱雲が生まれている。

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VIDEO BY SCOTT BACHMEIER/UNIVERSITY OF WISCONSIN-MADISON

乾燥した森に雷を落とす危険性

何百万年にもわたって自然火災と切っても切れない関係にあったのは、雷雲と落雷だ。地表の風が草木の燃えさしを何マイルも運ぶほど強ければ、どんな森林火災でも燃え広がる可能性は高い。

「火災積乱雲の上昇気流が運ぶのは大量の煙の粒です。上空に持ち上げられ、積乱雲の頂上から放出される場合もあります」と、バックマイヤーは説明する。森林火災で生じた火災積乱雲から雷が落ち、そして雨が降らなければ、瞬く間に大火災が広がるだろう。

つまり火災積乱雲は、新たな火種となる草木の燃えさしを直接地表に飛ばすわけではないが、乾燥した森に雷を落とすことは十分にありうる。また非常に強い下降気流につながり、それが地表の燃えさしを各地に運ぶ恐れもある。

さらに火災積乱雲は、煙の中の汚染物質を上空の高高度大気圏にため込んでいる。幸いなことに、これによって少なくともある程度の煙が人間の肺に入らずに済んでいる。

煙は南米にまで到達

科学者たちは宇宙からも森林火災の煙の動きをモニタリングしている。この画像では、灰茶色の煙の巨大な柱が左下に映っている。

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VIDEO BY SCOTT BACHMEIER/UNIVERSITY OF WISCONSIN-MADISON

またこの恐ろしい動画は人工衛星「GOES」が捉えたもので、高高度の煙が太平洋を渡って南米にまで達していることを示している(赤く光っているのが煙を検知した箇所だ)。

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VIDEO BY SCOTT BACHMEIER/UNIVERSITY OF WISCONSIN-MADISON

今回の森林火災は、オーストラリアの人々と野生動物に壊滅的な影響を与えている。その一方で科学者たちにとっては、大陸から煙が吐き出される様子をリアルタイムに観測する機会にもなっている。

バックマイヤーによると、火災積乱雲の研究の目標は煙の活動をより深く理解すること、つまり「煙の周囲の短期的な気候や火災の下降気流に対する影響、また気候変動に対する長期的な影響を」知ることだという。例えば、火災積乱雲はどれほどの炭素を大気中に排出するのかを調査する。「比較的歴史の浅い研究分野ですが、この現象への関心は急速に高まりつつあるのです」

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睡眠中には脳内から“毒素”が洗い流される:米研究チームがメカニズムを解明、アルツハイマー病の治療に光

睡眠中の内では、アルツハイマー病の原因のひとつとされるβアミロイドなどの毒素が、まるで洗い流されるかのように除去されている──。このメカニズムを、米大学の研究チームが解き明かした。アルツハイマー病の治療に臨床応用できる可能性がある研究結果だが、鍵を握るのはノンレム睡眠中に発生する脳脊髄液のゆるやかな「大波」である。

TEXT BY SARA HARRISON
TRANSLATION BY TOMOYUKI MATOBA/GALILEO

WIRED(US)

JAMIE HODGSON/GETTY IMAGES

ローラ・ルイス率いる研究チームは、ボストン大学のラボでいつも夜ふかしをしている。午前3時まで実験して、翌日の遅くまで寝るのがルイスの“通常運転”だ。「タイムゾーンを移動しないまま時差ボケしているような感じです」と、彼女は言う。

夜しっかり寝ることの大切さを理解していないわけではない。しかし、眠っているヒトの内で何が起きているのかを解き明かすためには、多少の犠牲はやむを得ない。「睡眠研究の大いなる皮肉です」と、彼女は言う。「研究者は、ほかの誰かの睡眠に合わせるしかないのです」

『サイエンス』誌に2019年10月31日付で掲載されたルイスらの研究論文は、わたしたちの脳が睡眠中に毒素を取り除くメカニズムを明らかにしている。この研究は、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療と予防に新たな道を開く可能性もある。

なぜ睡眠中に毒素は除去されるのか?

ヒトが眠っているとき、脳はいくつかの状態を経験する。浅い眠り、無意識に陥るような深い眠り、そして夢を見やすいレム(急速眼球運動)睡眠。ルイスの研究はノンレム睡眠に注目している。概して夜の早い時間に起きる深い眠りで、記憶保持との関連が知られている。

これに関連して、マウスを対象とした重要な研究が13年に発表されている。マウスが眠っている間に、アルツハイマー病の原因のひとつであるβアミロイドなどの毒素が、脳内から除去されることがわかったのだ。

ルイスは、毒素がどのように除去されるのか、このプロセスがなぜ睡眠時にだけ起きるのかに興味をもった。脳の周囲を循環する水のような液体である脳脊髄液がかかわっているのではないかと、彼女は考えた。しかし、睡眠中の何が特別なのかは見当もつかなかった。そこでルイスは、さまざまな変数を同時に測定する実験を考案した。
 
実験参加者は、MRI装置のなかで横になって眠るよう指示された。通常の睡眠サイクルを再現するため、実験は深夜0時からスタートした。研究チームは、参加者たちが実験開始後すぐに眠れるように、前夜は夜ふかししておくよう依頼した。

ルイスは参加者に脳波測定キャップをかぶせ、脳の電気活動を可視化した。脳波を見ることで、参加者が睡眠のどの段階にいるのか判別できる。一方、MRIは脳内の血中酸素濃度を測定し、脳脊髄液がどれだけ循環しているかを明らかにする。

「これらの測定指標が重要なはずだと直感していました。それでも睡眠中にどう変化するか、どのような相互の関連があるのかは、わたしたちにも未知の領域でした」と、ルイスは言う。

鍵となる脳脊髄液のゆるやかな「大波」

この結果、ノンレム睡眠中に脳脊髄液のゆるやかな「大波」が、脳を洗い流すことがわかった。この波がどうやって生じるのかは、脳波を見ることで判明した。ノンレム睡眠に入るとニューロンの活動は同期し始め、脳全体が同時にオン/オフを切り替えるようになるのだ。

「まず最初に、すべてのニューロンが静かになる状態が観察されます」と、ルイスは説明する。すべてのニューロンが一時的に発火をやめるため、必要とされる酸素量が減少する。これは脳への血流量が少なくなることを意味する。そして、その空白を埋めるように、脳脊髄液が大量に流れ込む様子が観察された。

「素晴らしい研究です」と、ロチェスター大学の神経科学者マイケン・ネダーガードは言う。ネダーガードは、マウスにおける睡眠時の脳内の毒素除去を初めて報告した、13年の論文の筆頭著者である。「脳の電気活動が液体を動かすなんて、誰ひとり想像もしていなかったでしょう。とてもエキサイティングです」

今回の研究はネダーガードがマウスで研究しており、ヒトにとっても極めて重要だと考えられている現象のメカニズムを説明するものだ。「睡眠は、ただリラックスするためのものではありません。独自の機能があるのです」と、ネダーガードは言う。

覚醒時には、すべてのニューロンがオン/オフを同期することはない。つまり、起きているときには脳血流量が十分に下がらないので、脳脊髄液の大きな波が脳内を循環し、蓄積したβアミロイドなどの代謝副産物を洗い流すこともない。

高齢の参加者を対象とした実験に期待

この知見は、アルツハイマー病の治療に臨床応用できるかもしれない。近年のアルツハイマー病の治療法の開発は、βアミロイドに照準を絞ってきた。ところが、初めのうちは有望に思えた薬は、どれも臨床試験で暗礁に乗り上げた。

「新しい道が見えてきました」と、ネダーガードは言う。βアミロイドという1種類の分子に働きかけるのではなく、脳を洗い流す脳脊髄液の量を増やすことにフォーカスした新たな治療法が想定される。

もし実現すれば、βアミロイドだけでなく、ほかの有害な分子も除去できる可能性がある。その一例が、アルツハイマー病患者の脳内に蓄積し、ニューロン間の接続を阻害するタウたんぱく質だ。ごみを全部まとめて一掃する方法は、問題の一部分だけを解決するよりもずっと強力となる。「加齢は、たった1種類の分子の増減の問題ではありません。すべてが衰えていくのです」と、ネダーガードは言う。

今回の発見から、さらに新たな疑問が湧いてくる。ノンレム睡眠以外のほかの睡眠ステージで何が起きているのかは、ルイスの研究の対象外だった。また、彼女の研究の参加者はみな健康で若い成人だった。

ところが、彼女がとった研究手法は完全に非侵襲的であり(ただし、たくさんの機械に接続されたままMRIの中で寝かされることを非侵襲的と言えるならの話だが)、染料を注入する必要すらない。このため神経変性疾患を発症している可能性のある、高齢の参加者を対象とした実験も実施しやすいだろう。

ルイスの研究チームにとっては、まだまだ眠れない夜が続きそうだ。

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