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【社説】

トヨタの新都市 未来に「つながる街」

 トヨタ自動車が、モノやサービスがつながる「スマートシティー」の建設構想を打ち出した。自動運転車などを駆使し新しい街のあり方を模索する場だが、住民データの適切な管理も不可欠だ。

 豊田章男社長が今月、世界最大の家電IT見本市「CES」が開かれた米ラスベガスで表明した。静岡県裾野市の子会社工場跡地(約七十万平方メートル)に道路を敷き、トヨタが開発している自動運転の電気自動車(EV)「e-Palette(イーパレット)」が人を運ぶほか、移動店舗としても活用される。

 住宅などの建物は木材で造り、屋根には太陽光発電パネルを設置する。家庭用ロボットの支援で快適な暮らしを提供し、人工知能(AI)による健康チェックも行うという。来年初めにも着工。当初はトヨタ従業員や科学者ら約二千人が入居し、徐々に住民を増やしていく計画だ。

 トヨタは近年、異業種との連携で生活に関わる技術を積み上げ、街づくりにまで事業領域を広げつつある。豊田氏は、今回の構想について「ゼロから街をつくる非常にユニークな取り組み。さまざまなものがつながり合い、持続可能な未来のインフラを作り上げる」と意義を強調した。

 各地で計画が持ち上がり、政府も後押しするスマートシティーは「諸課題に対し、新技術を活用して整備、管理される持続可能な都市」というのが大まかな定義だ。以前は省エネに目的を特化したケースが多かったが、最近はあらゆるモノがネットワークでつながる「IoT」の普及で、健康増進、防災など多様な分野をカバーする計画が増加。トヨタの新都市は、この流れに沿った動きだ。

 工場跡地に建設されたスマートシティーとしては、パナソニックが神奈川県藤沢市で稼働した事例がある。テーマに賛同する住民が集まり、新サービスを導入しやすいという。自動車メーカーのトヨタが設計から主導すれば、自動運転車などを活用し、渋滞解消といった交通面の課題を解決する都市開発にもつながりそうだ。

 一方、膨大な住民データを収集するため、監視社会を助長するとの懸念もある。実際、米グーグル系企業がカナダ・トロントで進めていたスマートシティー計画は、住民の強い批判にさらされ、大幅な見直しを迫られた。便利な現代社会の裏側に潜む弱点も克服してこそ、住民に寄り添った街づくりを実現できる。

 

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