価格が安い、売り先が限られているなど不動産会社が扱いにくい空き家などを、オーナーと購入したい個人が直接商談、決まれば仲介するという事業を立ち上げ、徐々に取引数を伸ばしている家いちば(東京・渋谷)。オーナーと潜在顧客の出会いの場を “売ります買います掲示板”としてネット上に用意、その気軽さが受けている。使われない不動産のオーナーが入れ替わるだけで資産が生き、地域も潤うという仕組みづくりに懸ける思いを聞いた。
事業内容を教えてください。
藤木哲也氏(以下、藤木):活用されていない空き家や空き地、いわゆる遊休不動産を売買するサイトを運営しています。不動産情報サイトには、不動産会社が広告を出す「SUUMO」や「アットホーム」などがありますが、これらとは根本的に異なります。
公共施設などに、不要になったものを個人が売りものとして張り出す掲示板がありますよね。家いちばで扱うものは不動産に限っていますが、これと同様の掲示板をネット上に用意しているのです。それを眺めて興味を持った方が、掲示した人に直接問い合わせてもらう。そういう仕組みです。
家いちば株式会社代表取締役CEO。1993年、横浜国立大学建築学科卒。ゼネコンで現場監督、建築設計事務所で設計、住宅デベロッパーを経て、不動産ファンド会社にて不動産投資信託やオフィスビル、商業施設などの証券化不動産のアセットマネジメントに携わる。豪ボンド大学提携のビジネススクールにてMBA(経営学修士)を取得後、2011年に家いちばの前身となる不動産活用コンサルティング会社、エアリーフローを設立。15年に「家いちば」サイトをスタート、19年、家いちば設立(写真:清水真帆呂)
空き家だけに特化しているわけではないのですが、結果として空き家が多く掲載されているのは、私たちのサービスが空き家の特質とマッチしているからです。
通常、不動産は不動産会社に相談しないと売却できません。個人では、SUUMOのようなサイトに物件情報を掲載できないからです。ところがこのようなサイトでは、不動産を掲載する際に物件を選んでしまうのです。
例えば「これは売れませんよ」とか、「更地にしたほうがいいですね」「家財の片付けくらいはしてください」と、事前に売れないと判断されたり、売れる条件を整えるようにアドバイスされたりするわけです。
物件を売ろうと思えば、このアドバイスは正しいのです。ところが、片付けをするにしても専門事業者に依頼すれば作業代が何十万円も掛かります。なので、売り主は急いで売る必要がなければ、そこまでお金を掛ける気になりません。だから放置され、空き家問題が起こっています。
無条件であらゆる不動産を対象に
家いちばでは、無条件であらゆる不動産を売買の対象にすることができます。雨漏りしていても草ぼうぼうでもいいのです。当社で掲載する物件を審査することはありません。
このようなメッセージを明確に打ち出してみたところ、「それなら載せてみようかな」という方が大勢いて、この場に集まってきました。空き家に限らず、過疎地の郵便局のような、用途がなかなか思い付かないような物件もよく掲示されます。
要は、不動産会社が売れない、売りにくいと言われる不動産ばかりを集めていたら、売れるようになったんです。今はそうした物件の駆け込み寺になっています。この構図はアウトレットモールに近いかもしれません。売れなくても季節外れでも、安ければ買おうかなという人が集まるのです。
ちなみに廃虚のような物件も売れますし、“負動産”と呼ばれるようなバブル期のリゾートマンションも実はよく売れています。マスコミで言われていることと事実は意外と違っていたりします。
コメント3件
iwa
会社員
夢のある話だ。
特に、経済効果云々よりも幸福度が上がる視点がいい。
行政の仕組みとして活用してもいいのでは。
IRとかよりも優先順位が高そうな案件だ。
オイラ524
万年課長
書いている人の経歴がイイね、言ってる言葉に説得力がある。
けーしー
最近実家の近隣でも空き家や、相続不動産の処分が問題になりつつあると聞いた。決して過疎ではない普通の地方都市の市街地での話だ。
子、孫の世代が家を出て別に住まいを構えていると、祖父母、親の世代が亡くなった場合それまで普通に暮らしていた家が、
即座に負動産に変わってしまう。その街に総数では住宅需要があっても、新築の建売やマンションには買い手が付くが、昔ながらの造りの中古住宅を購入する向きは少なく、賃貸住宅の供給も飽和気味なので、そのまま家を貸すのも、解体して賃貸に建て替えるのもままならず、もてあますことになる。古くからの街の住宅は敷地が狭かったり、街並みが古びていたりして、更地にしても、新しく整備された宅地に比べて見劣りすることが多く、買い手も付きづらい。借り上げ契約の破たんや、アパートローンの不正貸付問題などの逆風で、賃貸住宅の経営も条件が整わなければリスクでしかないとの認識も普及している。
...続きを読む80年代のバブルを知る者にとって、土地は手に入るなら無理してでも欲しい財産だったが、それが今では、使い道が無ければ捨てやられる負担になったことには隔世の感がある。それでもなお、適切に利用すれば利益を生む資産であることも間違いないので、実家の扱いについては熟考しようと思っている。
そうした時、この家いちばのような仕組みがあると、既存の不動産流通に乗りにくい物件や、外れた売買条件でも相対で取引が成立できる余地が広がるので、大変ありがたいと感じる。
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