チョコレートダイエットは、2015年3月29日に科学ライターのジョン・ボハノンが発表した「チョコレートがダイエットに効果的である」という論文によって世界中に広まったダイエット法である。
しかし、後に「『チョコレートがダイエットに効果的である』という論文は壮大ないたずら」だとジョン・ボハノン自らが明かしている。
つまりチョコレートダイエットはデマである。
いつものスポーツジム。
「なぬ!? チョコレートで痩せるだと!!!!!」
あまりにもの衝撃に私は思わず声に出していた。
いや、叫んだと言った方がよいだろう。
今、私は休憩用のベンチで体を休めている。
そして少々手持ち無沙汰なので、私はスマホというからくりで「チョコレートダイエットをやってみた!口コミ・効果・感想」というサイトを読んでいた。
そのサイトには、チョコレートダイエットなるものの効果や感想が書き込まれているのだが、その中にはチョコレートダイエットで減量に成功したという書き込みがいくつもあった。
つまり、私はチョコレートダイエットで痩せたという書き込みを読んで驚いたという訳なのだ。
「むむむ、チョコレートダイエットで痩せるというのは本当なのか?」
これが事実なら大好きな菓子、特にざっはとるてを控えている意味がないではないか。
そう言えば、いつぞやの「てれびじょん」の番組で安井友梨という者が、おはぎという菓子にダイエット効果があるとも言っていた。
やはり甘い菓子を食べても減量には関係ないのでは?
「あら、チョコレートダイエット?」
唐突に甘ったるくて艶のある声がしたので、からくりから目を離し顔を上げた。
すると美女が立っていた。
どうやら私はチョコレートダイエットに動揺していたらしい。
女が傍にいることに全く気づかなかった。
「ああ。ところで貴様、体の具合は大丈夫なのか?」
「ええ、もう大丈夫です。その節はご迷惑をおかけして、ごめんなさいね」
「あ、いや私は何もしておらん。礼なら青年——有佐トレーナーに言うんだな。あのとき応急措置をしたのは有佐トレーナーだからな」
「そうみたいですね。でも、あのとき貴方もいたでしょう? だからごめんなさい」
そう言って美女は私に頭を下げた。
この美女、どうやら見た目だけでなく中身も美しいようだ。
「で、そのチョコレートダイエットですけど止めておいた方がいいですよ」
「なぬ!? それは本当か?」
「はい。チョコレートダイエットは、確か2015年3月29日に科学ライターのジョン・ボハノン氏が発表した「チョコレートがダイエットに効果的である」という論文によって世界中に広まったダイエット法なんです。ところが、後に『チョコレートがダイエットに効果的であるという論文は壮大ないたずら』だと、ジョン・ボハノン氏自らが明かしています」
すらすらとチョコレートダイエットについて美女は説明し始めた。
説明する美女の様子は、まるで私にいろいろ教えてくれる青年のようだった。
この物語は、地球のどこかにある町に落ち延びた、肥満体型の魔王が魔界を奪還するために少しずつ減量する様子を描いたコメディである。
チョコレートダイエットの効果
「そして論文もでたらめなので、チョコレートダイエットに効果は認められませんよ」
「論文がでたらめ?」
あ、いつもの調子で、つい聞き返してしまった。
「はい。実はボハノン氏のチョコレートダイエットに関する論文には3つのおかしい点がありました。それは統計の人数が極端に少数だったこと、期間も短く恣意的にデータを抽出していたこと、チョコレートダイエットの根拠が開示されていなかったことです。つまりチョコレートダイエットの論文は、十分な量のデータを取らずに根拠もなく効果があるという結論に至っているものなんですよ」
「であるか」
恐れ入った。
順序立てた説明のしかたまで青年にそっくりだ。
「しかし、チョコレートダイエットで痩せたという者がおったが、それはどうしてだ?」
「それはチョコレートが直接の原因ではなく、他に何か痩せる要因があったのではないでしょうか? 例えば脂質や食事の摂取量が少なくなったとか、正しく糖質制限を行ったとか。ところで、その読まれたサイトの成功者の口コミにデータを添えて根拠を示したものはありました?」
「いや、なかった」
説明する美女には鬼気迫るものがある。
おそらく普通の人間なら美女の気迫に気圧されてしまうだろう。
「つまりチョコレートを食べて痩せたという結果はあっても、チョコレートを食べて痩せるという根拠はないということです。それはジョン・ボハノンさんがしたことと同じですよね? そんな根拠のないことを信じるのは危険だと思いませんか、あなたは?」
「確かに貴様の言うとおりだな」
「分かっていただけて嬉しいです! そのような訳でチョコレートダイエットはしない方がいいですよ」
説明しよう!
2015年3月29日に科学ライターのジョン・ボハノン氏は「チョコレートがダイエットに効果的である」という論文を発表した。
ジョン・ボハノン氏の研究は被験者を低炭水化物ダイエットを行うグループ、低炭水化物ダイエットと並行して毎日42グラムのチョコレートを与えるグループ、そして好きなものを食べさせるグループの3つに分けて行われた。
そして実験を開始した数週間後、被験者の体重とBMI、ウエスト対ヒップ比を計測したところ、低炭水化物ダイエットをしながらチョコレートを与えたグループが一番効果的にダイエットできたという結果が出たというのだ。
ところが論文で使われたデータは本物だったが、実際の被験者は15人に過ぎなかったことを後日ジョン・ボハノン氏はブログで明かした。
研究とは本来大人数で行って、その効果が確かにあるのか検証しないといけない。
また論文は 統計上、必然ではなく偶然である可能性だと推測される結果を、意図的に「たまたまうまくいったデータ」のみ抜き出して構成されており、明らかに研究とは言い難い。
しかもチョコレートを食べた低炭水化物ダイエットをしたグループが、どうして痩せたのか根拠が示されていないのである。
だが、この騒動の問題点はデータの改ざんではなく、ちゃんと論文を読めば分かることを世界中のマスメディアと大勢の人間が信じたことである。
この騒動から数年が過ぎた今もなお、ボハノン氏が行ったことを教訓とせず、むしろ悪用している人物や団体が大勢いるので、あなたも気をつけていただきたい。
しかしチョコレートには様々な効果があると言われている
「でも、カカオの含有量の高いチョコレートはGI値やGL値が低いので、食生活に上手く取り入れれば脂肪を増やさずに済みますよ」
「なぬ!?」
「例えばダークチョコレートを朝食と一緒に食べるとか。あ、その前に1日で食べるダークチョコレートの量が1日当たりの食事量に加わるから、その分1日当たりの食事量を調整する必要はありますけど。そう言えば『筋トレがよくわかるブログ』の筆者の朝比奈宗平さんも一時期チョコレートやプロテインバーのベイクドビターを食生活に取り入れていたそうですよ。」
「であるか!」
この全てを否定せず、違う面から見た利点を説明する姿は、ますます青年の説明に似ている。
「それにチョコレートには血流の循環緩和、ストレスの緩和、代謝の促進、冷え症の改善、食物繊維による便秘解消、食欲の抑制といった科学的根拠もあります。なので広い目で見ればチョコレートは健康によい食べ物と言えますね。だからと言ってチョコレートばかり食べたり、食べ過ぎたりしないようにしてくださいね。太るだけでなく体を悪くしちゃいますよ」
甘ったるい艶のある声で女は言った。
たぶん女に免疫のない男なら、この声だけでメロメロになるだろう。
それはともかくとして、この美女は青年の女版だな。
気に入った!
まとめ
チョコレートダイエットは、2015年3月29日に科学ライターのジョン・ボハノンが発表した「チョコレートがダイエットに効果的である」という論文によって世界中に広まったダイエット法である。
しかし、後に「『チョコレートがダイエットに効果的である』という論文は壮大ないたずら」だとジョン・ボハノン自らが明かしている。
つまりチョコレートダイエットはデマであり、チョコレートを食べると痩せるという直接的な根拠はない。
だが、カカオの含有量の高いチョコレートはGI値やGL値が低いので、食生活に上手く取り入れれば脂肪を増やさずに済む。
また、チョコレートには血流の循環緩和、ストレスの緩和、代謝の促進、冷え症の改善、食物繊維による便秘解消、食欲の抑制といった科学的根拠もあり、広い目で見ればチョコレートは健康によい食べ物と言えるだろう。
だからと言ってチョコレートばかり食べたり、食べ過ぎたりしないように気をつけること。
日課になっている筋トレ記録に私はチョコレートダイエットについて書き留めた。
よし、これでまた一歩、王座奪還に近づいたぞ!
「あ、そうそう。チョコレートダイエットは、ジョン・ボハノン氏の論文が発表される十数年前の日本でも少しブームになっているんですよ」
美女が甘ったるく言う。
「なぬ、そうなのか?」
なぬ!?
まだ続くのか今回は?
「ええ、そのとき楠田枝里子さんがチョコレートダイエットという本を出版されたみたいですよ」
「くすだえりこだな?」
筋トレ記録のチョコレートダイエットの頁に追記した。
「はい。これでチョコレートダイエットのお話は終わりです。分からないところはありませんでしたか?」
「うむ、別になかったぞ。いろいろ教えてくれて助かった」
「また分からないことがあったら聞いてくださいね」
そう言って美女は去っていった。
その際にいい香りがふんわりと鼻をくすぐる。
ううむ、良い女だったな。
ジムの男どもが意識するのも無理もない。
お、いかんいかん休憩が長くなってしまったぞ。
長い休憩を終えた私はトレーニングを再開することにした。
了
ナレーション:筋トレがよくわかるブログを書いている朝比奈宗平