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あたしの可愛いモン娘たち 作者:クロべぇ
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05.あたしの信じる道

 いろいろな儀式やらが終わり、あたしはリリアさんと長い階段を降りている。

 あたしはなんだか楽しくなっているのでスキップしたい気分。


「勇者様、ご機嫌ですね」

「うん、あたしの力がすごそうなんだもん」

「そうですね、期待しています。でも、足を踏み外さないよう注意してくださいね」

「だいじょーぶ。あ、それよりさ……あたしのことは勇者様じゃなくて名前で呼んでほしいな」

「わかりました。ユウナ様」

「うん、やっぱり名前がしっくりくるな」


 様無しで呼んでほしいけど、それはきっと断られるかな。

 とりあえず、おいおいでいこう……。

 今からの予定は、お昼ご飯を食べてから街を案内してもらう。

 いきなり異世界で戦いをするのはストレスがたまるだろうから、まずはゆっくりさせてくれるらしい。

 いい待遇だ。

 しかし、階段を降りると……なにか違う空気になった。

 屈強そうな兵士が4人ほど、緊張した顔で待っていたのだ。


「勇者様、これより護衛に入らせていただきます」

「え?そんな話は聞いていませんが……。それに、今日は街を案内するだけですよ」

「護衛を強化するように言われました。窮屈と思いますが、我慢ください」


 えっと……リリアさんも戸惑ってるね。

 この平和そうな街で護衛なんているの?

 というかあたしを見張ってる?

 あたしが危険そうな力を持っているから?

 やっぱり疑われてるんだろうな。

 あたしの力が女神アルティアナのものでないって。

 はあ……楽しかった気分が台無しだよ。


 お昼ご飯は素敵なレストランだったんだけど、正直味がわからなかった。

 なんなの?この護衛と言いはる見張りたち。

 せっかくリリアさんと2人きりのデートだっていうのにさ。

 まるで囚人気分だよ……。

 リリアさんもやりにくそう。

 あたしに対して申し訳なさそうな顔をしてるのかな。

 リリアさんは悪くないよー。


 昼食を終えた後、街がざわざわしていた。

 なんだろうな?

 兵士が1人やってきて、護衛の兵に話しかけていた。

 その護衛の兵があたしたちに何があったか教えてくれる。


「どうやら前線の砦にて魔物を生け捕りにしたらしく、連れ帰ってきたようです」

「なるほど。今砦にいる勇者様の活躍でしょうか?」

「おそらくそうでしょうね」


 先輩の勇者は砦に行ってるんだ。

 捕まえた魔物、見に行ってみたいな。


「リリアさん、魔物を見てみたいんだけど」

「はい、行ってみましょう」

「では、私が話を通します」


 うーむ、邪魔だと思ってた護衛の兵が少し役に立っている。

 それでも評価はマイナスだけどね。

 護衛の兵士さんを先頭にあたしたちは進む。

 この兵士さんの1人はちょっと偉い人みたいで、魔物を見せてもらえることになったようだ。


 あたしは捕えられた魔物を見て言葉を失った。

 2人いるんだけど、とても可愛いのだ。

 猫型の魔物なのかな?

 基本的には人の形なんだけど、かわいい猫耳としっぽがある。

 服を着ているけど、体毛はたくさんあるみたい。

 あ、肉球もあるのかな?

 2人はよく似ているけど、男の子と女の子に見える。双子?

 そのかわいい魔物?が手枷に繋がれて、兵士にロープで引かれて歩かされているのだ。

 とても絶望的な顔をしている。

 あたしの世界の住人に、どっちが悪者に見えるか聞いたら、10人中9人が兵士と答えるだろう。


「あの子たち、なにをしたの?」

「砦から少し離れたところに崖がありまして、その下に兵が落ちていたのです。その兵士にまとわりついていたところを勇者様が捕えたということです。おそらく魔物が崖から兵士を落としたのではないかと」

「その兵士さんはどうなったの?」

「幸い、かすり傷程度だそうです」


 まただ。魔物が何かしたという証拠が一切ない。

 あたしは名探偵ではないけど、ひとつ推理させてほしい。

 兵士がなにかの事故で崖から落ちて、この子たちが介抱してたんじゃないの?

 そもそも魔物が凶悪だったら、その兵士はとっくに死んでないとおかしいんだ。

 そもそも崖から落ちてかすり傷って運がよすぎでしょ?

 この世界の人達は、魔物を凶悪と決めつけてるからそんなこと考えもしないのだろう。

 あたしはこのかわいそうな猫っ子たちを何とか助けたいと思った。


「この子たちはこれからどうなるの?」

「しかるべき場所で、魔力を吸い取ります」

「そして殺しちゃうの?」

「いえ、死なせないようにしながら魔力を奪い続けるのです」


 それって、殺すよりひどい拷問だよね。

 なんとかならないものか……。

 とりあえずそれを見せてもらっておくべきか。

 場所も知りたい。


「今後の参考に、どうやって魔力を奪うのか見せてもらっていいかな?」

「勇者様ならば、おそらく許可が出ると思います」

「じゃあお願い」

「わかりました」


 兵士さんはなかなか話が通じた。

 任務に忠実なんだろうな。

 最初に嫌な奴らだと思ってごめんね。

 嫌なのは上司たちだな。


「許可が出ましたので、一緒に向かいましょう」

「うん、ありがとう」


 あたしたちは兵士さんに連れられて、連行されていく魔物?の後に着いて行った。

 それにしても、後姿だけ見てもやっぱりかわいいよね。

 しっぽが完全に垂れさがっているのがとても可哀そう……。

 あれを凶悪と言うこの人達はなんなのだろう?

 連行してる兵士達もやけに緊張した顔だから本気なんだろうな。

 やはり価値観の差かな。

 というか宗教観かな?


「あの魔物、あたしには凶悪そうに見えないんだけど、みんなにはどう見えてるのかな?」

「勇者様はお強いですから、怖く感じないのでしょうね……」

「我々にはあの耳も尻尾もおそろしいです」

「あの爪でひっかかれたらと思うと……」

「ちゃんと牢に繋ぐまでは緊張しますね。何が起きるやら」


 はあ……聞かなきゃよかったよ。

 あたしとの感覚の違いが余計に感じられただけだ。

 うーん……あの子たちを逃がしてあたしも逃げたい気分……。

 あたしが召喚する麒麟の力があればそれもできそうなのに。

 この腕輪さえなければなあ。

 なんて考えてる間に到着した。光の届かない地下だ。


 魔物?の2人は頑丈そうな牢屋に入れられ、見動きが一切できない状態に拘束された。あんなにする必要あるのかな……。

 そして目隠しをされ、声も出せないよう口になにかを噛まされた。

 その次に出された道具、あれはなんだろう?

 針のようなものを2人の腕に差し込んだ。

 苦しそうにうめく2人。痛そう……。

 その針はよくわからないなにかに繋がっている。

 あれが魔力を吸い取る装置だろうか?


「ユウナ様、これより魔力を奪います。このようにしてためた魔力で勇者様達を召喚しているのです」


 リリアさんが説明してくれる。

 暗い中気付いていないだろうが、あたしの顔色はきっと蒼白だろう。

 正直吐き気もしている。

 だけど、逃げずに見ておかないといけない気がした。

 兵士が装置を動かし始めたようだ。


「ううううううううううう!!!!!!!!」

「んんんんんんん!!!!!!」


 声を出せない2人が絶叫している。

 あたしはそれを絶望的な思いで聞いていた。

 あたしはこうやって貯めた魔力で召喚された。

 あたしが元の世界へ帰るにはこれをしなければならない?

 嫌だ……。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

 無理無理無理無理!!

 あたしはそのまま意識を失った……。








 目が覚めると、ベッドの上だった。

 このふかふか感。昨日も寝た領主さまのお屋敷かな?


「ユウナ様、お目覚めになられましたか」

「リリアさん……」

「申し訳ありません。いくら魔物とはいえあの拷問のような光景はおつらかったですよね?止めておくべきでした」

「いいよ。あたしが見たいって言ったんだから」

「ですが……」


 ふう……リリアさんが気を遣ってくれるのは嬉しいけど、それを少しでいいからあの魔物達にわけてあげてほしいな。

 でも無理なんだろうな。

 それはきっとリリアさんのこれまでの人生を否定するくらい難しいことなんだ。

 あたしはどうしたらいいんだろうな……。

 この世界に相談できる人がいない以上、1人で考えるしかないか。


「リリアさんごめんね、もう大丈夫だから1人にしてくれる?」

「はい……。ごゆっくりお休みくださいね」


 リリアさんが悲しそうに去っていく。

 ごめんね、心配かけて。

 さて、1人で考えるか……。


――我のことを忘れていないか?――


 え?今頭に響いた声は……麒麟?こうやって話できるんだ。

 1人じゃないってわかると、なんだか安心してきた。

 でも、相談に乗ってくれるのかな?


――我はユウナの望みを叶えるために呼び出された存在だ。頼るがよい――


 そっか、嬉しいな。

 でもあたしの望みって叶えるの難しいんだよ。

 あの囚われた2人を助けるなんて無理だよね。


――余裕である――


 え?そんなあっさりと言ってくれるんだ。

 でもさ、あたしの左腕にある腕輪、これがあるから変なことはできないんだよ?


――我は一度召喚されたならば、例えユウナが動けなくなろうと3日は活動可能だ。意味がわかるな?――


 つまり、あたしが動けなくされたとしても麒麟が目的を達してくれるわけか。

 これを言って相手を脅迫することも可能かな。

 でも、もしあたしが動けなくなったらさ、麒麟だけで目的達成できる?

 大きいから牢屋にいる子たちを助けたりできないよね?


――我には分身がいる。犬程度のサイズで動きまわれるぞ。試しに呼んでみるがよい――


 そうなの?

 麒麟の小さい分身ってことはちび麒麟でいいかな?

 呼んでみよう。


「ちび麒麟、召喚!」


 あたしの体から少しの魔力が流れ出し、小さい何かの形がつくられる。

 現れたのは、麒麟がデフォルメされたかのような、ちび麒麟。

 まるでぬいぐるみ?一言でいえば超可愛い。

 この子、とっても役に立ちそうだよ」


――その分身が10体は生みだせる。小さいが、人1人くらいなら咥えて運ぶことも可能だ――


 10体も……。

 これはやれること広がるね。

 うん、なんだかいけそうな気がしてきたよ。

 でも助けた後どこへ行けばいいの?


――北にある氷の女王ヴェリアのところに行けばよい――


 そっか、魔物を助けるんだからちゃんと帰してあげないとね。

 あの子たち喜んでくれるかな……。

 そしたら、もふもふさせてもらえるかもしれないなあ。

 よーし、細かい作戦を立てよう。


――うむ。だがよいのか?人間達を裏切ることになるぞ――


 うーん、ちょっとつらいかな……。

 リリアさん優しくしてくれたし。

 でもさ、あたしに力をくれた存在が言ったんだよね。

 お前の判断で行動して、世界を救ってくれってさ。

 これはつまり、人間だけでなく魔物も救ってほしいってことじゃないの?


――ふむ、さすがは我が創造主が見込んだ勇者よ――


 褒められちゃった。

 その創造主って誰なの?

 女神ではないよね?


――いずれわかる――


 ふーん、まあいいか。

 あたしに害のある存在じゃないってのがなんとなくわかる。

 創られた麒麟もこんないい子だしね。

 あ、そうだ。人間は傷つけないでほしいんだけど、できるかな?


――無論だ。我はこの世界のありとあらゆる生き物を守護するために創られた存在。人間も魔物も傷つけたくない――


 うんうん。麒麟もだし、創った神様もあたしと気が合いそうだよ。

 なんか、こっちのほうが勇者って感じだ。

 なんだか嬉しい。


――我も嬉しいぞ――


 あたしはすっかり元気を取り戻した。

 今日は元気になったり落ち込んだり忙しい1日だったなあ。

 この後、細かい作戦を立てて寝ることにした。

 麒麟、今日はありがとうね。明日はよろしく。

 おやすみなさい。


――うむ。しかしその我の分身は戻しておくのだ。他の人間に見られるとパニックになるぞ――


 えー、一緒に寝る気満々だったのに。

 あたしは召喚してからずっとこの子を抱っこしたままでいたのだ。

 残念だけど、仕方がない。戻ってね。

 あたしの腕の中から消えていくちび麒麟。


――それではゆっくりと休むのだぞ、ユウナよ――


 うん、明日はよろしくね。

 あたしはこのまま寝ることにした。

 夕飯は食べてないけど、まあいいか。

 明日の朝ごはんをたくさん食べよう。

 おやすみなさい……。








 朝だ!昨日決意して寝たおかげで目覚めすっきり。

 今日はきっといい1日になるはずだ。

 昨日のは夢じゃないよね?

 おはよう、麒麟。


――うむ、我はいつでもユウナのそばにいる。おはよう――


 うんうん、朝起きたらすぐに挨拶が出来る存在がいるっていいね

 おなかもすいてるし、メイドさんを呼んでみようかな。

 あたしは誰かが来る前に自分から出てみることにした。


 部屋のドアを開けると……あたしの部屋の前に誰かが倒れている!?

 リリアさん?

 もしかしてずっとここにいたのかな?


「リリアさん、大丈夫?」

「ん……ユウナ様?」

「ん、あたしだよ。大丈夫?」

「すみません、寝てしまっていたようです」

「無理しちゃだめだよ。こっちで休もう」


 あたしはリリアさんを起こして部屋のベッドまで運ぶ。

 リリアさんの顔は寝不足のため、少しだけ美しさが減っている。

 でも綺麗だけど……。

 はあ……あたしを心配してくれたんだね。

 こんな優しい人をあたしは今日裏切ろうとしている。

 作戦の中でリリアさんを人質にする可能性もあるんだよなあ……。

 でも、もう決めたんだ。

 ごめんねリリアさん。


「リリアさん、少し休んでてね」

「はい、申し訳ありません」


 あたしはメイドさんを探しに行こうとして廊下に出るとすぐに見つかった。

 朝食と栄養剤的な物をお願いして部屋に戻る。

 リリアさんは寝ているようだ。

 綺麗な人は寝顔も素敵なんだな……。

 もう会えなくなるかもしれないからよく見ておこうかな。

 今までよくしてくれてありがとうね。

 リリアさんは裏切ったあたしを恨むかな?

 でも、いつかわかってほしいな……。


 やがて朝食が来て、あたしはおなかいっぱい食べる。

 リリアさんも薬草的な物?をもらったらしく、少し元気がでたようだ。


「ユウナ様、お恥ずかしいところをお見せしました……」

「いいの、あたしのことを考えてくれたんだよね」

「そう言っていただけると……」


 よし、計画実行のための最初の仕込みをしておこう。


「リリアさん、今日の予定なんだけどゼヴさんに会えないかな?昨日の神託の儀で思い出したことがあるの。相談しないと……」

「わかりました、お呼びいたしますね。お昼は大丈夫と思いますので、ユウナ様はそれまで休んでいてくださいね」

「いいのかな?あたしここに来てから何もしてないんだけど……」

「大丈夫です。異世界にこられた勇者様にはリラックスしていただくための時間を設けておりますので」

「そっか」


 勇者の待遇って良すぎだね。

 この世界の人は基本的に優しいんだよなあ。

 なんで魔物にはあんな厳しいのさ。


――女神アルティアナの教えによるものだ。人に優しく魔物に厳しく。そのことを疑う人間はこの世界にいない――


 あたしの疑問に麒麟が答えてくる。

 むー、女神のせいか。

 身勝手な神様がいると困っちゃうよねえ。

 魔物みんなでやっつけちゃえばいいのに。


――神に逆らうなどできぬ。それに、そもそも我も魔物も女神を愛している。たとえ嫌われようともな――


 うーん?わからないよ、なんでなの?


――それはこれから魔物と仲良くなった後に聞いてみるがよい。まずは今日の作戦を成功させようぞ――


 そうだね。まずあの子たちを助けないと。

 それに、仲良くなれるんだね。楽しみだなぁ。


「ユウナ様?どうかされましたか?」

「あ、ごめん。ぼーっとしちゃってたね」

「まだお疲れのようですね。私は行きますのでゆっくりと休んでください。お昼すぎに迎えに来ます」

「うん、無理しちゃだめだよ?」

「ありがとうございます。大丈夫ですので」


 リリアさんを見送り、ベッドへ横たわる。

 しっかり休んで作戦に備えないとね。


――捕えられた者たちが心配だ。我が分身を偵察に行かせておこう――


 偵察?ちび麒麟ちゃんはそんなことできるのかな?


――透明にもなれるし、だいたいのことはできるぞ。昨日見た牢ならば破って連れ出すことも可能だろう。陽動は必要だがな――


 わあ優秀。さっそく呼びだそう。


「ちび麒麟、召喚!」


 あたしの体から飛び出すように現れるちび麒麟。

 うーん、もふもふでかわいいぞ。

 さっそく行ってくれるかな?

 ちび麒麟はかわいくうなずき、透明になった。

 もふもふはそのままだ。便利な能力だね。

 では、後は任せてあたしは休んでいよう。


 しばらくすると麒麟に反応があった。


――魔力を死ぬギリギリまで吸い取られているようだな、生かさず殺さず、恐ろしい技術よ――


 うーん、早く助けてあげたいよね。

 でも、失敗したら元も子もないんだ。

 我慢しててね……。


――だが彼らは運が良い。これまでの間、どれだけの者がああやって苦しまされてきたか……――


 そうだね……あたしを召喚するための魔力だって……。

 人間ひどい奴。

 いや、教えがひどいのか。

 なんとかならないのかなあ。


――根づいた教えはそうそうのことでは消せぬだろうな。それより、あの者たちをすぐに助けられるよう分身をあと4体ほど送っておこう――


 そうだね。1秒でも早く助けたいもん。

 あたしは4体ほど追加で召喚して出発させた。

 そして待つ。もどかしいが待つ。


 昼食を食べ終え、着替えを済ませる。

 ドレスなので動きにくいけど、そこは我慢だ。

 基本的に麒麟の上に乗っているだけなので問題ないはずだ。

 リリアさん、そろそろ来るかな?

 その前に残りのちび麒麟を召喚して透明にしておく。

 万全の体勢で挑むのだ。


 やがて……ドアがノックされる。


「ユウナ様、迎えに来ました」

「ありがと、準備出来てるよ。いこうっ」


 これより作戦開始だ。

 勇者として召喚されたあたしが裏切り、人間に牙をむく。

 きっと大変なことになるだろう。

 だけど、あたしは自分の信じる道を進むよ。





 あたしはリリアさんに連れられて街の教会に来ていた。

 神殿に登らなくて済んだのは助かる。

 なお、昨日の兵士も護衛として周りを固めている。

 神官長のゼヴおじいさんはすでに来ているようだ。

 さて、なんとかしてあたしの腕輪をはずさせなきゃな。


「勇者様、お話とはなんですかな?やはり神託の儀の時になにかありましたか?」

「うん、あの時は混乱してて気付かなかったけど……女神様の声の他にに違う声も聞こえた気がしたの」

「なんですと!やはり邪神が悪さをしてきおったのかもしれませぬ。して、なんと言ったのでしょうか?」

「おぼろげだけど、麒麟の力を使うなって……」

「ふうむ……それは邪神が麒麟の力を恐れているということでしょうかな……ということは麒麟はやはり女神様の力?」

「わからないの、邪心の罠かもしれないし。それを確かめるために、一緒に麒麟と会話してもらえないかな?」

「ふうむ、やってみましょう。私は接近すれば女神様の力を感じることが出来ます。麒麟に近づいてみましょう」


 うーん、あっさりと騙されてくれてしまった。

 麒麟への疑いを持っているゼヴおじいさんだから、こういった言い方をすれば騙せるってのは麒麟の案なんだけど……なんだか悪いことをした気がする。

 麒麟の背中に乗せさえすれば、あとはなんとかなるだろう。

 欲を言えばあたしも麒麟に騙されてるって形にしたいけど……難しいだろうな。


「それでは広い所へ移動しましょうか。ちょうど今日は競技場が空いているはずです」


 広いところが空いているのは都合がいい。

 あたしたちは移動していく。


「ユウナ様、大丈夫ですか?顔色がすぐれません」

「リリアさんありがとね、緊張しちゃってさ」

「無理もありません」


 あたしは実際に緊張している。

 リリアさんの考えているのとは違う理由だけど。

 ふう、最後まで優しくしてもらっちゃった。

 ごめんねリリアさん。


 そんなわけで到着し、さっそく召喚する。


「麒麟、召喚!」


 大量の魔力があたしの体から流れ出て麒麟を形作る。

 周りの兵士達が驚きにどよめく。

 強そうな兵士達も怖がるんだな。あたしの力はやっぱりすごいんだ。

 麒麟は出てきてすぐ、地面に大人しく座っている。

 ちび麒麟は透明なまま周りにいるはずだ。

 ちびたちのことは知られたくないからこのまま透明でいてもらおう。


「じゃあいこう。おとなしくしてるから」

「は……はい……。やはり少し恐ろしいですな……」


 尻込みしちゃってるゼヴおじいさんの手をひっぱり、麒麟の上に乗る。

 さあ、やっちゃって。


「のわああああああ!!」


 麒麟が唐突にはるか上空に飛び上がる。

 ゼヴおじいさんの心臓が止まらないかちょっと心配。


『神官長ゼヴよ。なぜ我が怒っているかわかるか?』

「な、なんじゃ!?勇者様、これはいったい?」


 あ、麒麟って普通に喋れるんだね。

 麒麟の説得のお手並み拝見といこうか。

 あたしはとぼけておくことにする。


「えっと……わかんない……麒麟どうしたの?」

『勇者の左腕に着けたものをはずせ。あのようなもので行動を縛るなど許せぬ』

「し、しかし……それをはずせば、いざという時にお前を消すこともできなくなる。それをするくらいであれば、今ここでわしが死のうとも……」


 わあ、ゼヴおじいさん……たとえ自分が死んでも平和を取るのか。

 ちょっとかっこいいいけどさ、困っちゃうよ……。

 これ以上脅すのってなんかやなんだよなあ……。


『まず先に言っておくぞ。我は1度呼びだされたならば、例え勇者が死すとも3日は活動可能だ』

「な!?」

『勇者を殺し、我の怒りをこの都で味わうか?』

「そ、それは……」

『約束しようではないか、今ここで腕輪の呪縛を解くならば誰も殺さぬ』

「そんな約束が信用できると思うか?」


 ゼヴおじいさんすごいな。

 こんな状況なのに冷静に会話してるよ。

 さすが神官長なのか……。


『我は神により創られし存在。嘘などつけぬ』

「邪神であろう?そんな世迷い事を……。む?むむむ……嘘でないのか?」


 わかるんだ……。

 ゼヴおじいさん何気にすごい人?

 でも、おかげで交渉は成功しそう?

 麒麟ってもともと人を殺す気ないから、あの交渉は嘘じゃないけどちょっとずるいかなあ。


「腕輪は外そう、だが嘘がつけぬのであればひとつ質問しておきたい」

『なんだ』

「お前の行動には、勇者様の意思があるのか?」

『ある』


 えー、あっさり言っちゃったよ。

 これであたしが騙されてた説は使えなくなったか……。


――すまぬな、だが無言でいたとしてもそれが答えとなってしまう。腕輪をはずさせることが先決だ――


 わかってるよ。責めてるわけじゃないの。

 上手くやってくれてるもん。


「ユウナ殿……腕輪は約束通りはずしましょう。しかし……何をお考えかはわかりませぬが、これであなたは反逆者。覚悟なされよ」

「覚悟なら出来てるよ。あたしは自分が信じる道を行くの」

「その自分の信じるわがままのために……罪なき者の命まで落とすことを心にとめておいていただきたい」


 罪なき者って誰?

 あたしも麒麟もだれも殺さないよ。


「どういうこと?あたしはだれの命も奪わないよ?」

「今回の件で責任を取らされる者がでる。それはおそらく……ユウナ殿と一番長い間一緒にいた者だろう」

「え!?」


 リリアさんが責任を取らされて死刑になるってこと?

 まさかそんな……。

 いや、この世界は魔物に少し同情しただけで犯罪者になるのだ。

 ありえる……。


「今ならまだ間に合います。力の扱い方を知らぬゆえの暴走で処理もできまする。考え直してはいただけぬか?」


 この人はあたしの良心に訴えかけて説得しようとしているのか……。

 うう……。どうしたらいい?


――ここであきらめても我は恨みはせぬ。やりたいようにするがよい――


 うう……誰もかれも助けるのは無理ってことだよね……。

どんなに恨まれようとも決意は変えないと思ってたけど……。


 あたしは悩んだ末、最悪になるであろう答えを出した。

 きっと後で後悔するんだ。でも、あたしのやりたいようにする……。

 麒麟、リリアさんも連れていく。

 人質って形でね。


――承知した。この騒ぎで兵も集まってきているようだ。救出を開始する。ユウナの決意に感謝しよう――


「腕輪をはずして」

「わかった……」


 ゼヴおじいさんは心底落胆した顔で呪文を唱え始める。

 ごめんね、でもこれがあたしのしたいこと。

 腕輪はすぐに外れて地面に落ちていった。

 これであたしは自由だ。


「ありがとう、ごめんね」


 ちび麒麟、ゼヴおじいさんを下に連れて行ってね。

 代わりにリリアさんをさらってきて……。


 ここからはあっという間だった。

 麒麟の背中にはあたしとリリアさんと、無事助け出した双子の猫っぽい魔物がいる。

 すごいね……。


――我が本気を出せば造作もない。その腕輪だけが懸念であったからな――


 うん、最強だもんね。

 幸いなことにリリアさんは気絶している。

 昨日の寝不足のせいもあるのだろう。

 起きたらきっと悲しそうな顔であたしを責めるんだろうな……。

 つらいけど、あたしが決めたことなんだから受け入れなきゃね。

 さあ、最後の仕上げをお願い。


『この女は人質にもらっていく。我に攻撃しようなどと考えぬことだ』


 この言葉の後、麒麟は雄たけびをあげて、都全体が揺れたように見えた。

 人々はみんな、兵士ですらびびって何もしてこないだろうな。

 麒麟は北を目指して飛び立っていく。

 さあ、もう後戻りはできないぞ。

 目指すは魔物の世界。

 あたしの信じた道が正しかったのか、これからわかるはずだ。

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