04.神獣召喚?
これまでのあらすじ
異世界に勇者として召喚されたあたしはなんだか皆にちやほやされて浮かれ気味。でも、倒さなければならない魔物はこの上なく可愛かった。つきそいのリリアさんや街の人は魔物に怯えているんだけど……その理由があたしにはよくわからない今日この頃。
目覚めて、あたしはほとんど動かないまま着替えと食事がすんだ。
気分はほんとにお姫様。
ここのメイドさん達は優秀だよ。
やがてリリアさんが迎えに来てくれた。
リリアさんの顔を見るとホッとする
この世界で初めて会った人で優しくしてくれてるから、当然なのかもね。
「おはようございます勇者様。昨日はよくお休みになられましたか?」
「うん、まるでお姫様になったみたいな生活だったよ」
「うふふ、勇者様は戦い以外ではお姫様以上の扱いをされますよ」
「そっか、あたしがんばるね」
「期待しております」
リリアさんに連れられ、今日も馬車で移動。
今日は神殿で神託をもらうらしい。
これであたしの能力がわかるんだとか。
ちょっと楽しみだな。
馬車が到着して、また階段の前……。
この世界の神殿は高いところにあるのが決まりなのかい?
「勇者様、申し訳ないですがまた歩いていただきますね」
「わかった……。ハイヒールまだ慣れないから支えてくれる?」
「はい、お任せください」
リリアさんに甘えて、支えてもらうあたし。
深い関係になれなくても、やっぱり美人のお姉さんにはくっつきたい。
それに、たまにコケそうになるのは本当なのだ。
「神殿が高いところにあるのは、神様がお空にいるから?」
「そうですね、女神様は空より私達を見守ってくださっています。そこに近づきたいという私達の心の現れですね。実際には高い位置に無くとも、女神様はちゃんと見守ってくださっているのですけどね」
「そっか」
高くする必要はないけど高くしたいわけか。
人間の自己満足なわけだね。
ま、気持ちはわかるけかな。
あたしが好きな女の子に近づきたくなるのと同じだろう。
違う?
30分ほどかけて登り終えた。
どこの観光スポット?って感じだよ。
帰りのことを考えると、あたしは空を飛ぶ能力がほしいと本気で願った。
神殿は、あたしが召喚された神殿より少し小さいかな?
見た目はそっくりだ。
「それではいきましょう、勇者様。中で神官たちが待っています」
「わかった……。緊張するなあ」
「大丈夫です。リラックスしてください」
神殿に入ると、召喚された時に見たのと同じ、頭をすっぽり隠すようなローブに身を包んだあやしげな人達。この人達が神官かあ。
あ、一番偉そうというか豪華な衣装の人が近づいてきた。
「勇者様、ようこそお越しくださいました。私が神官長のゼヴと申します」
「あ、どうも……」
「それでは勇者様をお願いいたします」
そう言って隅の方へ移動するリリアさん。
うーん、そばにいてほしかったなあ。
「勇者様。お名前を教えていただけますか?」
「えと……
「ありがとうございます、勇者ユウナ様」
あ、あたしってこの世界に来て初めて名前を名乗った?
そういえばリリアさんもあたしの名前知らなかったんだよなあ……。
後でリリアさんには名前で呼んでもらおうっと。
「ユウナ様、神託の儀の前にひとつお詫びをさせてください。あなた様の左腕についている腕輪についてです。それがなにかは聞かれましたか?」
「はい、リリアさんから……」
「そうですか、心苦しいのですが我慢してくだされ。その腕輪の管理をするのは私なのです」
「まあ事情はわかったので……」
「ありがとうございます」
あたしが反抗しようとしたら、あたしの動きを止めるのはこのゼヴおじいさんなんだな。ないとは思うけどさ……。
ま、こんな申し訳なさそうに言ってるし許しちゃおう。
「それではユウナ様。これより神託の儀を始めます。こちらへどうぞ」
「はい……」
神殿の真ん中にある祭壇のようなところに連れていかれる。
うーん、この静かで重い空気がとてつもなく緊張する。
「勇者様、こちらへ膝まづき……女神アルティアナ様に祈ってください」
「はい」
よくわからないけど、女神様にお祈りしてみる。
隣ではゼヴおじいさんがなにか呪文を唱えている。
周りの神官たちも呪文を唱え出したようだ。
うーん、ほんとに女神様の声が聞こえるのかな?
とりあえず祈ろう。
女神様、あたしは女の子が好きなんですが、この世界の人とどうこうしようとは考えないので、見逃してくださいね。
怒られそうだけど、ちゃんと懺悔しておこう。
――勇者よ、聞こえているか――
はい?頭に声が響く。
これが神託?
――そうだ、お前に話しかけている――
えっと?なにかおっさんのような声だよ?
女神様じゃないよね?
――それは気にするな。勇者よ、お前にはこの世界を救ってもらいたい――
うん、魔物を倒すんだよね?なんか気は進まないんだけど……。
―そこはお前の判断に任せる―
え?倒さなくてもいいの?どういうこと?
――まずは時間がない。お前に与えた能力について説明しておこう。お前に与えた力は『神獣召喚』と『神獣合体』だ。我が創りし最強の神獣をお前に預ける――
おお、最強?なんかかっこいいぞ。
頭になにか流れ込んでくるぞ。呪文?
――力を使いこなすための最低限の知識を渡しておく。では、この世界の未来を任せたぞ――
え?まだ聞きたいこといっぱいあるのにな。
それっきり待てども声は聞こえてこない。
なんでそんな急いでたの?
「勇者様!ユウナ様?」
ゼヴおじいさんが慌てたように声をかけてくる。
なんか周りもざわざわしてるような……。
厳かな場所なんだからもうちょっと余韻に浸らせてほしいよ。
「えっと、声が聞こえたけど……」
「女神様でしたか?なんだかいつもと違う感じがいたしまして……」
「どうなんだろう?女神様ってどんな声なのかな?」
「とてもお優しい声をしておられます」
あのおっさんのような声では優しそうとか判別つかないぞ。
でも面倒事は避けたい。
あれが優しい声ってことにしておこう。
「たぶん女神様の声だったのかな?」
「そうですか。安心しましたぞ。して、どのような力かお聞きになられましたか?」
「神獣召喚って言われたよ」
「神……獣……?でしょうか……?」
「うん、神様が創ったって言ってたよ」
「むう……?女神様が獣を創りになったとは聞いたことがない……しかし……ううむ?」
やはりさっきのは女神でなかった?
てことは邪神?だとしたら怖いけど。
世界を救ってって言ってたよね?
あたしをだまそうって感じはしなかったよ。
まあ、神様の言葉の真偽をあたしなんかじゃ見抜けはしないだろうけど。
「勇者様?顔色が悪いようですが大丈夫でしょうか?」
リリアさんが近づいてきた。
あたしは顔色が悪いらしい。
たしかにそうなのかもしれない。なにか怖いんだもの……。
そう考えたら……体も震えてきてしまう……。
「神官長様?何か問題があったのでしょうか?」
「わからぬ……。問題はないとは思うのだが……。とりあえず勇者様に休んでいただいてから力を見せていただこう」
「わかりました。それでは勇者様、こちらで休みましょう」
「うん……」
リリアさんに連れられて、休憩室ぽいところに来た。
ベッドに寝かせてもらう。
「リリアさん、なんか怖いの……。あたし大丈夫かな?」
「大丈夫です。勇者様のことはアルティアナ様が見守っています」
「だといいなあ……」
「とりあえずお休みください。神託の儀で精神的に疲労されたのだと思います」
「そっか、じゃあこの不安感は疲れのせいかな?リリアさん、手を握っててくれる?」
「はい」
リリアさんのすべすべした手、冷たいけど安心するな。
とりあえず休めばこの不安感は消えるのかな?
少し寝よう……。
目が覚めると、リリアさんがあたしの手を握ったまま微笑んでくれた。
天使だな……って思ったよ。
「勇者様、大丈夫ですか?
「うん、なんか楽になった。行こう!」
「ふふ、元気になられたみたいで安心しました。でもゆっくりでいいですよ。すみません、勇者様がお目覚めになったと神官長様にお伝えいただけますか?これから外へ向かいます」
「わかりました」
だれか他にも近くにいたようだ。
さて、あたしの頭はすっきりしている。
やはりあの不安感は信託の儀のせいなんだな。
神様と話すって疲れるんだなあ。
考えてみると。ファンタジーで神様の声を聞く神子が役目を果たすたびに倒れるってのは定番だよね?
さて、あたしの力を試してみよう。
あたしは衣服の乱れを直してもらい、リリアさんに連れられてゆっくりと外へ出る。
皆が待機していた。
ゼヴおじいさんがあたしに近づいてくる。
「勇者様、それでは力をお見せいただけますか?」
「はい、やってみます」
あたしは心の中で念じる。
初めてやることだけど、やり方がなぜかわかる。
では、言ってみようか。
「麒麟、召喚!」
あたしから何かが抜けていく感触。
これはきっと魔力の流れなんだろう。
あたしの体にある魔力を使って召喚するらしい。
その抜け出た魔力が空中で形作られていく。
「おおおおおおっ!?」
周りからどよめきや悲鳴が聞こえる。
気持ちはわかる。
あたしもびっくししているよ。
体長は10メートル以上あるだろうか?
ドラゴンのようにも見えるし、いろんな動物のいいところを混ぜたようにも見える。某飲料のパッケージとはちょっと違うかな?
ちなみに名前は私が名付けた。
名前を付けた相手に服従を誓ってくれるらしいんだ。
なんで麒麟かって?
最強の獣って感じがするからさ。
麒麟は空中に浮いたままこちらを見ている。
なんとも素晴らしい威厳が漂っている。
まわりの神官たちはなにかに気圧されるかのように完全にびびっている。
普段は冷静沈着だと思われる神官長のゼヴおじいちゃんですら腰を抜かしそう。
「勇者様?あれは勇者様が?」
「うん、そうみたい」
「言うことを聞くのですかな……?」
ゼヴおじいさんが大慌て。
気持ちはわかるけど、驚きすぎて心臓止まらないでね。
言うこと聞くのかな?
「たぶん大丈夫、降りてきてー」
――今降りるとそこにある木々を痛める。もっと広い所でなければならぬ――
あ、声が聞こえた。なんかいい子だねえ。
「降りてきませんな……」
「ここ狭いから降りたら木を傷つけちゃうってさ」
「な、なるほど。会話できているのですな……。では消すことは可能ですか?」
「やってみる、もどってー。麒麟、送還!」
――わかった。いつでも呼ぶがよい――
うーん、見た目は怖いけど素直でかわいいなー。
消えていく神獣麒麟。
あたしの中に戻っていくようだ。
「これがあたしの力みたい。どうなんだろう?」
「おそらく……これまでの勇者様の中で最強ではないかと……。他の都の勇者をよく知るわけではないですが、格が違うと思います……」
んー?最強の獣を従えたあたしって最強?
なんだか嬉しくなってきたよ。
あ、階段降りるのに運んでもらおうかな?
でも街がパニックになっちゃうか。
「しかし……あれは本当に使っていい力なのか?アルティアナ様が望む力とは違うような……」
ゼヴおじいさんがぶつぶつ言っている。
せっかくテンション上がってるのに水を差さないでほしいな。
もっと柔軟に行こうよ、おじいちゃん。
この後、偉い人がたくさんやってきて挨拶をされたが、あたしは上の空だった。
所詮は子供なんだから、新しいおもちゃを手に入れたような心境。
早くいろいろやってみたいなと思ってる。
だってさ、さっきは見ただけでなにもさせてないんだよ?
早くあの子の活躍を見たいの。
あたしはこの時、神託の儀で聞こえた謎の声のことをすっかりと忘れているのであった。