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あたしの可愛いモン娘たち 作者:クロべぇ
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02.魔物襲撃?

これまでのあらすじ

スマホいじってたら異世界に召喚されたあたし。あなたは勇者ですとか言われて、馬車に乗って移動させられてる。つきそいのリリアさんが美人で惚れちゃいそうな今日この頃。

 夢を見ていたようだ……。

 仲良しの可奈ちゃんと遊ぶ夢。

 お部屋で昔のアルバムを見てはしゃいでるんだけど、ふと顔をあげると目が合って……とても顔が近いことに気づくあたしたち。

 そのまま可奈ちゃんが目を閉じるの。

 あたしは、しちゃっていいんだよね?と考えながら可奈ちゃんの唇にあたしの唇を接近させていく……。


 というところで目が覚めた。

 続きは現実でね。と可奈ちゃんが言った気がした。

 もちろんあたしの妄想だ。

 女の子といちゃいちゃしてみたいけど……したことなんてない。

 あたしが目を覚ましたのはいつものベッドの上ではなく、馬車の中。

 リリアさんの膝枕の上だ。


「勇者様、起きられましたか」

「うん……ごめんねリリアさん。足痛いよね?」


 あたしはゆっくりと起き上がる。

 たっぷり寝た感じがするので、リリアさんにとってはかなりきつかったはず。


「大丈夫ですよ。勇者様は軽いですから」

「ありがと、でも……。そうだ、あたしマッサージ得意だから揉んであげるね」

「え?いえ、勇者様にそんなことをしていただくわけには……」

「いいの、あたしがしたいんだからさ。ね?いいでしょ?」

「それでしたら……。お願いいたします」

「うん!じゃあうつぶせになってね」

「はい」


 あたしはリリアさんの足の前に座り、マッサージを開始する。

 あたしがずっと乗ってたんだから、全体的に血行を良くしないとね。

 足先から順に揉んでいく。


「んっ、んんっ」

「リリアさん、痛かったら言ってね」

「大丈夫です……ん……」


 少し苦しそうな声。

 やっぱり足はだいぶしびれてたんじゃないかと思う。

 早く楽になってもらおう。

 あたしはリリアさんのスカートを少しだけ上にまくる。

 とても綺麗で白い足がのぞいた。

 うーん、うっとりしちゃうな。

 頬ずりしたくなるけど、それは我慢します。

 血流を良くするふくろはぎマッサージ。

 これでリリアさんもっと綺麗になれるよ。


「んんっ……勇者様、本当にお上手なのですね。気持ちいいです」

「でしょでしょ?よく友達にしてあげてるんだ」

「うふふっ、お友達は幸せですね」

「あたしマッサージ好きだから、リリアさんにもいつだってしてあげるよ」

「ありがとうございます。勇者様が戦いでお疲れになった際は、私にもマッサージさせてくださいね」

「うん、その時はお願い」


 リリアさんのマッサージ。

 間違いなく気持ちいいぞー。

 楽しみが増えたな。

 30分ほどマッサージして終了。


「勇者様、ありがとうございました。すごく楽になりました」

「うん、よかったよ」

「ところで勇者様、おトイレなどは大丈夫ですか?」

「あ、行きたいかも」


 行きたいとは言ったものの、公衆トイレとかあるわけでもないし、野で??

 うーん……でも行かなくちゃなあ。

 馬車が止まり、休憩時間となる。


「勇者様、あちらの陰に行きましょうか」

「うん……」


 リリアさんに連れられて、馬車から遠めの木の陰へいく。

 やっぱり野でなんだなあ。出したいのが小さいほうだけで良かった……。


「勇者様、この葉っぱで拭いてくださいね。わたしは後ろを向いております」

「うん……」


 トイレットペーパー代わり?の葉っぱを渡されてあたしはしゃがみこむ。

 ショーツを降ろして、ドレスのすそをしっかりまくってと。

 お姫様ってトイレも大変なんだろうなあ。

 リリアさんを見ると耳を塞いでいる。

 気遣いのできる素晴らしい女性っていいなあ。

 特にトラブルもなく事を済ませて、あたしはリリアさんの前に移動する。


「リリアさん、終わったよ」

「はい、それでは私も失礼して……。申し訳ありませんが少し待っていていただけますか?」

「もちろん」


 あたしは後ろを向き、リリアさんと同じように耳を塞ぐ。

 あたしもリリアさんみたいな素敵な女性を目指すんだ。

 少ししてリリアさんも終えたようで、馬車に戻る。


 馬車では、お馬さんたちもごはんを食べてるみたいだった。

 あ、お馬さんなでなでさせてもらおうかな。

 あたしは御者さんに話しかけてみた。


「お馬さん触ってもいいかな?」

「え?はい。おとなしい奴だから大丈夫ですよ」

「わーい、お馬さん可愛いなー」


 あたしは馬の頭をなでなでする。

 最初ちょっとビクッとしてたけど、その後は嬉しそうに見える。

 うんうん、動物好きのあたしの心が通じたのかな?


「ねえ、この子たち名前はなんていうの?」

「えっと……名前はないですよ」

「そうなんだ……じゃあ、あたしがつけていい?」


 あたしの言葉に御者さんは戸惑っているよう。

 なんで?動物に名前を着ける習慣のない世界なの?

 そんな御者さんを見て、リリアさんが声をかけてきた。


「勇者様、それはやめておいたほうがいいです……」

「え?なんで?」

「そのうちわかります……」

「えっと……うん……」


 さっぱりわからないけど、リリアさんが困ったような顔をしているのであたしはそれ以上聞かずに馬車に戻った。

 うーん、異世界ならではのなにかがあるのかな?


 お馬さん達もおなかいっぱいになったみたいで、間もなく馬車は出発した。

 なんとなくスピードが上がった?

 たくさん食べて元気になったのかな?

 がんばって走ってね。


「それにしても先ほどの勇者様のマッサージ、すごいですね」

「えへへ、それほどでもないよ」


 あたしは少し切ない顔だったのかもしれない。

 リリアさんがあたしに気を遣うかのように話しかけてきた。

 うん、やっぱり優しい人だな。


「勇者様の旦那様になる人は幸せですよ」

「旦那かー。まだ若いし結婚する気はそんなにないよ」


 男にそんな興味ないしなあ。

 うーん、でも将来は結婚を考えなきゃいけないんだろうな……。

 とりあえず後回しにしたい話題だ。


「勇者様ともなると、結婚の申し込みが殺到しますよ」

「うーん、困るなあ……」


 あたしは男より女性にもてたいんだよ?例えばリリアさんとかさ。

 この世界にも百合な人たちはいるのかな?


「うふふっ、きっと勇者様の気に入る素敵な殿方も現れますわ」

「うーん、想像つかないよ。リリアさんとかはどう?」

「はい?わたしがどうかしましたか?」

「あたしが活躍したら、あたしのことを結婚したいくらい好きになったりとかさ」

「ふふふ、勇者様ったらお戯れを」

「え?」

「女神アルティアナ様の教えでは、同性愛は許されておりませんからね」

「そうなんだ……」


 がーん!

 あたしは鈍器でぶん殴られたような衝撃を受ける。

 あたしの楽しみがひとつ減ったわけね。

 それにしても女神アルティアナだっけか?

 この世界で信仰されている神様なのだろうか?

 この世界で目覚める前にも名前を聞いた気がする。

 なんとなくその女神が嫌いになった。


「アルティアナ様ってのはどんな方なの?」

「この世界を見守ってくださるお方です。少しお話しましょうか」

「うん、聞かせて」


 聞いてみたところ女神アルティアナは、この世界の人間を作った神様らしい。

 自身の姿に似せて人間を作ったようで、人間をこよなく愛していると。

 だったら女性が人間の女性を愛するのも認めてよね。

 でも宗教ってこんなものかな……。

 同性愛が増えると人口が減るから、禁止する宗教が多いって聞いたっけ。


 そして女神は人間を愛するがゆえに、それを傷つける魔物を憎んでいると。

 うーん、イラストだとあんな可愛い魔物だったんだけどなあ。

 どんなものか見てみたいものだ。

 しかし、逆に考えるとこの女神は人間以外嫌いなのではなかろうか?

 馬に名前つけるのもこの女神が禁止してるとかだったらやだなあ……。

 あたしは完全にアンチアルティアナになるよ。


「この世界の神様はアルティアナ様だけなのかな?」

「邪神もいます。名前を口にすることすら禁止されたアルティアナ様の宿敵です。この邪神が魔物達を作ったのです」

「じゃあ、この世界の人間はみんなアルティアナ様を信仰しているんだね?」

「そうです」


 ふむふむ。

 人間を作った女神アルティアナと。魔物を作った邪神なんとかさんの争いか。

 あのイラスト通りの魔物だったら、邪神さんはあたしと気が合いそうだ。

 しょせんは神話と言ってしまいたいけど、こういったファンタジー世界では本当にいる可能性が高い

 宗教が一つしかないのもそれを裏付ける。

 ふう……あたし来る世界間違えたね……。

 女の子といい仲になろうとしたら本当に天罰が落ちそう。

 とっとと事を済ませて帰ろうと思った。






 そんな感じで3日ほど過ぎた。

 美人のリリアさんと話すのは相変わらず楽しいのだけど……これ以上仲が深まらないと考えると楽しさも半減していた。

 退屈だぞー。

 馬車の乗り心地がいいのだけが救いだけど、たまにはベッドで寝たい。


「勇者様、もうすぐ村に着くので今夜はそこで一泊いたします」

「そうなんだ。どうして?」


 やったね、少し気分転換が出来るよ。

 なにするんだろう?


「馬車の整備と、馬の交換です」

「そっか、お馬さん頑張ったもんね。休ませるんだね」

「あ……えっと……」

「違うの……?」


 なんでそこで言いにくそうになるの?

 お馬さんを新しい子にして、今までの子は休めるんじゃないの?


「あの馬達は無理をさせすぎてもう限界なんです……」

「どういうこと?」

「特殊な薬草を飲ませて無理に走らせているんです。ですので……」


 特殊な薬草って何?麻薬みたいなもの?

 すごく元気だったから、この世界の動物はすごいなって思ってたんだよ。

 なのに、あれは無理矢理走らせてたってこと?

 名前を着けないほうがいいってのは、死ぬとわかってたから?

 やだよう……。


「なんでそうまでして走らせるの?」

「勇者様を急いでノースリアまでお連れしなくてはならないのです」

「あたしそんな急がなくていいよ?時間かかっても我慢するよ?だから無理させないで!」


 だめ、もう泣いちゃいそう。

 あたしのせいで馬がたくさん死ぬことになるんだよ。

 そんなのだめだよぅ。


「申し訳ありません、急ぎ戻らないと……北の都が魔物に攻め落とされる可能性があるのです」

「そんな……」


 つまり、人間の住むところを守るために動物を犠牲にするわけだ。

 これに関してあたしは文句を言えない……。

 だって、もしあたしの家族や友達がピンチの時に動物を犠牲にすれば助かるなら……きっとあたしはそっちを選ぶだろう。

 人間って嫌だな……。


「勇者様はお優しいのですね。私配慮が足りなかったようです。申し訳ありません」


 あたしに深々とお辞儀をするリリアさん。

 いいよ……。仕方ないもん……。

 納得はできないが、納得することにする。


「いいの。気を遣わせてごめんね……」

「勇者様……」


 あのお馬さん達、食用にされるのだろうか?

 もしくは薬漬けだから食べることもできないのかな?

 もし食用にされるんだったら……あたしは泣きながらでも食べよう。

 あたしの勝手な考えでしかないけど、無駄死にはさせないよ……。


 夜も更けて、村に到着したようだ。

 村の人?優しそうなおじさんが迎えにきてくれているみたいだ。


「お待ちしていました。こちらへどうぞ」

「よろしくお願いしますね」


 あたしは馬車を降りて、お馬さん達に手を振る。

 はあ……ちゃんとお別れしたいけど余計につらくなるだけだよね……。

 さ、気を取り直していこう。

 小さい村だけど、ちゃんと街灯のようなランプがあって道がよく見えている。

 あたしたちのために用意してあるのかもしれない。

 家や畑がたくさんあってのどかなイメージだ。

 道端にとても綺麗な青い花が光に照らされていた。


「このお花綺麗だね、なんだろう?」

「あれはキキョウですね。私も好きな花ですよ。薬草にもなります」

「よろしかったら、どうぞ摘んで帰ってくださいね」

「いや、いいの。せっかく咲いてるのにかわいそうだし」

「ふふ、勇者様はやはりお優しいですね」


 キキョウか。

 あたしの世界でもよく聞く花だけど、花に詳しくないからなあ。

 暗いので、他に目につく物もなく目的の家に着いたようだ。


「せまい家ですがどうぞ。私は隣の家にいますので、なにかあればお呼びください」

「わかりました、ありがとうございます」


 家に入ると、なんだかいい匂いがする。

 もしかしてごはんかな?


「勇者様、食事の用意が出来ているようです。いただきましょう」

「うん!」


 ひさしぶりに馬車以外での食事だ。

 それだけでなんだか嬉しいよね。

 ごはんと、野菜の煮物かな?あとお魚っぽい。

 素朴だけどおいしい。この村で採れた野菜かな?


「食べたら早いですが寝ましょう。馬車の準備が出来次第出発いたします」

「わかった」


 ベッドが2つ用意されたベッドで寝るみたい。

 ちょっと前ならなにかに期待して喜んでたんだろうけど、今はもう何も期待できないとわかっちゃってるからそのままベッドに入る。

 ちなみにあたしはずっとドレスを着っぱなし。

 不思議なことにちっとも汚れなくて、しわもできない。

 さすがファンタジーな世界、と納得しておいた。


「リリアさん、おやすみ」

「おやすみなさい、勇者様」


 あたしはお馬さんたちが苦しまずに逝けたか考えながら寝た。

 この世界に天国があるのなら、そこに行ってほしいな。

 女神様、あなたの愛する人間ではないけど、あの子たちに祝福をお願いします。







 ん?なんだか騒がしい気がして目が覚めた。

 隣を見るとリリアさんがいない。

 ランプの明かり以外は真っ暗だから時間は真夜中と思う。

 なにかあったのかな?

 あたしはランプを持って外に出てみた。


 外に出ると、ランプらしき明かりがたくさん見える場所がある。

 とりあえず行ってみよう。

 あれ?明かりが1つ近づいてくる。


「勇者様、すみません。置いて出て行ってしまって」

「それはいいんだけど、なにがあったの?」

「魔物が出ましたが、見回りをしていたランベル将軍に倒されたのでもう問題はありません」

「魔物……どんなやつなの?」

「そうですね、これから戦うことになるわけですし、見ておいた方がいいでしょう。こちらへどうぞ」

「うん……」


 ついに魔物との対面だ。

 イラストで見たように可愛いのか。

 リリアさんの言うように凶悪なのか。

 あたしは倒されたという魔物に近づいていく。


 なんだろうこれは……。

 あたしに見えるのは、とっても可愛い女の子。

 犬っぽい耳としっぽがついて、ちょっと毛深いけど、凶悪さは微塵もない。

 矢が体に数本刺さっていて、とても痛々しい。

 苦しそうに震えてるから、まだ生きてるみたいだけど。

 えっと……。


「勇者様、まだ完全に死んではいないのでお気を付けを」

「この子、なにか悪いことしたの?」

「おそらく、畑を荒らそうとしたのではないかと」


 あたしは周りを見渡す。

 ぱっと見だけど、畑が荒らされてる感じは一切ない。

 それよりこの子が手に握っているのは……キキョウの花?

 この花って、薬草になるって言ってたよね?

 この子はただ単にこの花を採ってただけじゃないよね?

 あたしが放心しているとだれかがやってきた。


「ランベル将軍、いかがでしたか?」

「うむ、逃げたやつは始末してきた。あとはこいつのとどめをさすだけだな」


 とどめ?殺すの?こんなに可愛いのに?


「殺しちゃうの?」

「勇者様、おられましたか。凶悪な魔物は始末するか捕える決まりなのです。現在は捕えるための道具がないので殺すしかありませぬ」

「この子、そんな凶悪そうに見えないよ。なんだかかわいそう」

「勇者様はお優しいのですな。こんな魔物に情けをかけられるとは。しかし、放っておくとどんな被害があるか……」


 ランベル将軍は、棒のような何かを構える。


「それは?」

「魔物から魔力を奪い取る道具です。魔力を奪えば魔物は死にます。お下がりください」


 あたしはリリアさんに引っ張られて魔物?の前から離れる。

 ランベル将軍は棒を思いっきり魔物?に突き立てる。


「いやあああああああぁぁぁぁあ!!!」


 耳を覆いたくなるような悲鳴が、目の前で倒れている子から発せられる。

 あたしは動くこともできずに、震えながらそれを聞いていた。

 その魔物と呼ばれた可愛い子は、すーっと消えていった……。


「消えた……?」

「魔物は倒すと消えてしまうのです」


 死んだら消えるのかな……。

 あの状態で無事逃げたってことはないだろう……。

 放心しているあたしをよそに、集まった村人は会話をしていた。


「いやあ、今夜は騎士様がいて良かった」

「そうだなあ、普段は魔物なんて出ないのにな」

「騎士様がいる時に限って、運の悪い魔物だよ」

「今までは夜の見回りなんてしてなかったが、これからは必要かもなあ」


 ねえ……今あたしが考えてることって、皆に言ってもきっと笑われるよね?

 普段からこの子は夜に花を摘んでたんじゃないの?

 普段はいない見張りの騎士がたまたまいて見つかっちゃったんじゃないの?

 何の根拠もない考えだけど、一度思いついたらもうそうとしか……。


「勇者様、冷えますので戻りましょう」

「……」


 あたしはリリアさんに手を引かれて、放心状態のまま歩いていた。

 なにかを言われている気がするが、あたしの耳には入らない。

 あの魔物?の断末魔の悲鳴がずっと耳に残っていた……。


 家に着き、ベッドに寝かされてもあの光景が頭から離れない。

 魔力を奪うって、あんな残酷なことなの?

 あたしをこの世界に召喚するための魔力はああやって集めたの?

 あたしが元の世界に帰るには、あの行為をあたしの手でやらなくちゃいけないの?

 嫌だ……。あんなことできない……。

 あたしの頭は絶望感のみで覆い尽くされていた……。







「勇者様、起きてください」


 ん?昨日はあれだけ悩んでたけどしっかり眠れたんだ……。

 少しだけ頭がすっきりしている。

 でもなんだか目が腫れぼったい……。

 泣きすぎたかなあ。


「勇者様。大丈夫でしたら朝食を食べましょう。間もなく出発です」

「今朝はいいや……早く行こう」

「わかりました。それでは出ましょうか」


 早くこの村から離れたい。

 何の解決にもならないけど、昨晩のことは早く忘れたいんだ。

 朝の明るい時間に見る村はのどかだった……。

 昨晩のことさえなければもっと楽しく歩けたのにな……。

 キキョウの花がたくさん咲いている……。

 この可愛い花のことも苦手になりそうだ……。


 馬車に乗り込み出発。

 リリアさんがいろいろと話しかけているようだが、よく聞こえない。

 あたしは適当に相槌を返しながらうずくまっていた。

 落ち着くまで少し時間がほしい……。







 あれからまた一晩が過ぎて、あたしの頭は少しだけ落ち着いた。

 最後の望みは一つだけある。

 それは、魔物が可愛いというのはあたしの勘違い。

 凶悪さをごまかしてあたしをだますための作戦なんだって可能性。

 リリアさんも昨日そう言っていた気がする。

 そうであれば、あたしは戦える。

 村であたしが考えたことは、すべて勘違いでありますように……。

 さて、自分に気合を入れないとな。


「リリアさん、なんか心配かけてごめんね。あたしがんばるよ!」

「勇者様……ありがとうございます……。精いっぱいサポートさせていただきますね」


 リリアさんが涙を流してくれた。

 昨日はずっとあたしを心配してくれてたんだ。

 そう、こんな優しいリリアさんがあたしをだましてるなんてことはない。

 魔物は凶悪なんだ。

 今日はそれを教えてもらおう。


「リリアさん、あたしが戦う魔物たちについて教えてくれる?」

「わかりました。ではまず……、私達が向かっているのは北の都ノースリアですが、さらに北に行くと北の魔王が住む城があります」

「北のってことは、魔王もたくさんいるの?」

「はい、東西南北4人の魔王がいます。勇者様に相手していただくのは北の魔王。氷の女王ヴェリアです」

「なんだか名前からして寒そうな魔王だね」

「はい、住む城は氷に覆われていて、凍えるような寒さと言われております」

「うーん、あたし勝てるのかな……。寒いの苦手だし」


 氷の女王か。

 きっと綺麗なんだろうな。

 でも雪女みたいな感じで冷酷なんだろうな。

 というかそうであってほしい……。


「ふふ、大事な勇者様をいきなり魔王の城に行かせはしませんよ。まずは勇者様の能力を確かめてから、少しずつ戦いの経験を積んでいただきます」

「そっか、どんな力があるんだろう……。他の勇者はどんな力を持ってるの?」

「今現在北の都ノースリアで活躍している勇者様は重力を操る力を持っているそうです」

「なんかすごそうだね。他の都にいる勇者は?」

「勇者様の力の秘密が魔物にばれてはいけないため、公にはされていないのですが、とても強い力を持っているらしいです」


 うーん、秘密なのか。

 とりあえずわかったのは重力を操るというすごそうな力か。

 あたしの力……便利な力でありますように……。


「どうせなら、魔物を改心させて仲間にできる力とかがいいな」

「勇者様はお優しいですね……。でも水を差すようで申し訳ないのですが、そのような能力はありえません……」

「え?なんで……?」

「たとえ改心しようと魔物は魔物。すべて殺すのが決まりなのです」

「そう……」


 魔物嫌いの女神様。

 その女神様を信仰する人間達も魔物が嫌い。

 なにがあっても殺す……徹底してるんだな……。

 リリアさんの目は真剣そのもので、あたしはこの世界が怖くなってきた……。

 魔物が改心させる余地のない凶悪な生き物でありますように……。

 ただひたすらそう願った……。

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