『マジック:ザ・ギャザリング』の最強、最良カードとも名高い「ブラック・ロータス」が、オークションサイトeBayにて1860万円(16万6100ドル)で落札された。
最強カードと言われることも多いブラック・ロータスだが、場に出せば勝利が決定するカードというわけではない。どういった類のカードなのか、順を追って解説しよう。
そもそも『マジック:ザ・ギャザリング』では、カードを場に出したり能力を使うためにコストとしてマナを消費する必要がある。基本的にマナは1ターンに1枚まで場に出せる土地カードの枚数ごとに生みだされるため、ゲーム中に使えるマナ数は徐々に増えていく。また、マナには6色設定されており、カードによって必要なマナの色と数が異なる。
だが、それに対しこのブラック・ロータスの能力は、場に出せば任意の色の「マナ」をその場で3つ生成するというものだ。自身は0マナ、つまりマナ無しで使えるにも関わらず、1ターンに本来ひとつしか増やせないマナを1ターンのうちにさらに3つ、しかも任意の色を生み出す事ができてしまう。このカードのインパクトから、“ロータス”の名は好きな色のマナを場に生成する能力の代名詞となり、「金粉の水蓮(Gilded Lotus)」や「水蓮の花びら(Lotus Petal)」といったさまざまな亜種も存在する。
このような理由により、ブラック・ロータスは『マジック:ザ・ギャザリング』黎明期の9枚の強力カード「パワー9」の筆頭とも言われている。非常に強力なため、現行のルールの多くで禁止カードとされており、ほぼ全てのカードが利用できるヴィンテージルールですらデッキに1枚までという制限を設けられている。
ブラック・ロータスがリリースされた当時の背景も整理してみよう。同カードは、1993年に発売された『マジック:ザ・ギャザリング』の最初の基本セット「Limited Edition Alpha」に収録されていた。その後に発売された、「Limited Edition Beta」と「Unlimited Edition」と呼ばれる基本セットにも収録されている。
これら3種のブラック・ロータスはすべて違いがあり、アルファとベータは基本的なデザインは同じだがカードの形状が少し異なり、アンリミテッドはカードの枠が白いことで区別されている。なお、アルファはカードの形状が違うため、ゲームに使用するためにはアルファのカードのみのデッキを使うか、デッキをスリーブに入れて形状でカードが判別できないようにする必要がある。
ブラック・ロータスは、すべてのバージョンを合わせて2万枚が印刷されたと言われている。特に希少なアルファに収録されたブラック・ロータスは、1100枚しか印刷されていないとされている。開発会社のウィザーズ・オブ・ザ・コースト社も再録しないことを公に保証しているため、その希少価値は計り知れない。
今回落札されたブラック・ロータスはLimited Edition Alpha収録のカードだ。カードの状態などを説明する動画も公開している。トレーディングカードの保存状態を格付けするレーティングサービスBeckettが、このブラック・ロータスに付けた格付けは「9.5」。保存状態は極めて良好であることが保証されている。アルファとベータでは価値が大きく違うため、カードをカットしてベータ版をアルファ版の形状にするような詐欺行為まで行われていると言われている。そのため、高額なカードはこういった信頼できる格付け会社による評価が不可欠となっている。
前置きが長くなったが、ブラック・ロータスの価値はカードの効果が強力で、イラストが美しく、さらに希少価値が非常に高いことによって上昇を続けている。2013年にオークションでほぼ同等のブラック・ロータスが300万円(2万7300ドル)で落札されており、2018年になると同等のブラック・ロータスが約980万円(8万7672ドル)で落札されている。これまでも高額なカードであると言われていたブラック・ロータスだが、美品であるという点を鑑みても、その価値は暴騰とも言える上昇を遂げていると言えるだろう。
なお、高額で取引されるのは『マジック・ザ・ギャザリング』のカードだけではない。たとえば、『ポケモンカードゲーム』の39枚しか印刷されていない限定カード「ピカチュウ・イラストレーター」が600万円で落札されたことが報じられている。もし昔カードゲームにハマったのであれば、押し入れにカードをしまいこんだままという方も少なくないだろう。数千万円の値がつくカードはないかもしれないが、自分のコレクションを再確認してみるのもいいかもしれない。
ライター/古嶋 誉幸