ぐっすり眠れない原因"睡眠禁止ゾーン"
ぐっすり眠れない原因"睡眠禁止ゾーン"
こちらはちょっと怪しい雰囲気が漂う、都内で人気のお店。
暗い中で何かが行われていいます。
やっていたのは、ヘッドマッサージ。
1時間のコースで、ぐっすり眠れると評判なんです。
たった1時間でもいいので深く眠って、日頃の疲れをとりたい人がたくさんやってきます。
働く人の睡眠の悩みはどういうものでしょうか。
ある調査によると、第3位は、すっきり起きられない。
第2位は、睡眠時間の不足。
その2つより上位に来たのが
第1位、ぐっすり眠れない。
みなさん、睡眠の悩みは、量よりも質にあるようです。
その1人が、ちょうど出勤中のこちらの女性。
米持愛美さん。保険の仕事で毎日外を駆け回っています。
颯爽と歩いていますが、実は朝が苦手で起床時間になかなか起きられないとのこと。
ぐっすり眠れないことが彼女の悩み。
特に月曜の朝がすっきり起きられないそうです。
米持さんの普段の睡眠のようすを教えてもらいました。
平日は、毎日夜0時半に寝て、朝7時半に起きる生活。
睡眠時間は7時間。
結構寝ているじゃありませんか。
いったいどこに問題があるんでしょうか。
ぐっすり眠れない悩みの原因を探るため訪ねたのは、 早稲田大学先端生命医科学センターで睡眠のメカニズムを研究する先進理工学部教授 柴田重信さんです。
柴田さんに、ぐっすり眠れない悩みの原因を聞いてみると?
「週休2日というのは、とにかく良くないです。」(柴田教授)
え!?
週休2日が良くないって、どういうこと?
「体内時計が、狂ってきます。それが1日ですと、まだ良いのですが、週休2日なので金、土と連続してやります。それが良くないです。」(柴田教授)
休日の日に、たっぷり寝てしまう2日間の眠り方に、ぐっすり眠れない原因があるというのです。
いったいどういうことなのか。
米持さんの例をもとに、ぐっすり眠れない原因をさぐってみることにしました。
まずは金曜日の夜。
米持さんは、夜遅くまで母親とおしゃべりしながらたのしく金曜日を過ごし、家族が寝ついたあともゲームをしたり、自分だけの時間を満喫しながら、夜更かし。
就寝するのは、深夜2時でした。
そして土曜日の朝。
お休みの日なので、とことん朝寝坊を堪能します。
起床時間は、午前11時です。
米持さんの休日の睡眠のようすがこちらです。
金曜の夜、就寝時間は深夜2時。起床時間は朝11時。
その生活を、2日間続けています。
睡眠時間は、平日より2時間長い9時間。
睡眠時間は十分にも思えるのに、なぜ、ぐっすり眠った感じがなく、すっきり起きられないのでしょうか?
「週休2日で体内時計が狂ってきます。実はマウスでそういう実験をやっています。2日間、3~6時間、睡眠の時間を後ろへ遅らせると、その後1週間たっても、体内時計のリズムが十分に戻らないというデータがあります。」(柴田教授)
「昼間の眠気を訴えて受診される方の中には、こういった生活パターンの方が、かなりおられます。 睡眠相後退障害という疾患があって、遅寝・遅起きが極端になってしまう人たちのことを言いますが、大体始まりは夏休みだとか、ゴールデンウィークだとか、そういった長い休みをきっかけに、そういった生活パターンが固定してしまっています。」(栗山さん)
そんなに特別なことをしているわけでもないのに、体内時計のリズムが狂う?
いったいなぜそんなことが起きるのか?
「実は、睡眠禁止ゾーンと言われることが問題になっているのです。」(柴田教授)
睡眠禁止ゾーンの存在は、イスラエルで行われたある研究で明らかになりました。
睡眠禁止ゾーンは、寝る時間の4時間前〜2時間前と言われています。
米持さんの例にあてはめてみました。
就寝時間は、夜0時半の場合は、 睡眠禁止ゾーンは夜8時半から10時半の時間帯にあたります。
ここに、イスラエルの研究で明らかになったデータを重ね合わせます。
「覚醒度」とは、人間がいつ、どの程度覚醒しているかを示したグラフです。
睡眠禁止ゾーンとは、実は、人間が最も覚醒している時間帯なのです。
国立精神・神経医療研究センターで、睡眠の実態を研究する北村真吾さんは、 睡眠禁止ゾーンをこう説明します。
「覚醒度の高い状態にあるので、寝ようとしても寝られない時間帯にあたり、主観的な睡眠が悪くなったり、翌日また寝つけないということが起きてきたりします。寝つきは悪くなる可能性が高いです。」(北村さん)
この睡眠禁止ゾーンが、週休2日の睡眠の問題を理解するための重要なヒントになっているのです。
例えば、米持さんのように土曜・日曜と2日間連続で、夜更かししてしまうと、何がおきるのか
「後ろにずれていきます。(睡眠の)リズムがずれると睡眠禁止ゾーンも後ろにずれます。」(北村さん)
米持さんのケースで確認です。
まずは平日の睡眠禁止ゾーンは夜8時半から10時半。
睡眠禁止ゾーンは、前の日の寝る時間で決まります。
したがって、金曜日の夜も、同じく夜8時半から10時半です。
しかしここから夜更かしが始まります。
金曜の就寝時間が夜2時に変わると…
睡眠禁止ゾーンもその分遅れるので、土曜日には、夜10時から0時にズレてきます。
しかも睡眠禁止ゾーンは、2日間連続で寝る時間が遅くなると、睡眠禁止ゾーンの効果が強まって固定化していきます。
そして日曜日の就寝時間は、月曜日に備えて夜0時半に戻したたき 睡眠禁止ゾーンのすぐ近くで寝ようとしていることになるのです。
この時の覚醒度をさきほどのグラフで見てみると、 覚醒度とともに睡眠禁止ゾーンがずれたときの意味がわかります。
布団に入った段階で、まだ覚醒している状態で眠ろうとしてしまうことになるのです。
さらにもうひとつの原因がメラトニンです。
メラトニンは、人間に眠気を促す睡眠物質。
メラトニンは、朝の起床時間で決まります。
分泌が高まるのは、起床からおよそ16時間後。
米持さんのケースで考えると、 平日の起床が朝7時半なら、夜11時半頃からメラトニンが高まり眠気がきます。
休日の起床が、朝11時に変わると メラトニンの分泌のタイミングも遅れるので、深夜3時に変わってしまいます。
このメラトニンも、睡眠禁止ゾーンと同様、土日に2日連続で起床時間がずれると そのズレが、はっきり固定化されていくのです。
このズレがもっとも大きく問題になるのが、日曜日の夜。
これでは、ぐっすり眠れません。
それどころか、この体内時計のリズムのズレは、月曜日以降にも影響が続きます。
つまり、土日の眠り方のせいで、時差ボケが1週間続くような状態になっている。
だからこそ、柴田教授はこう言っていたのです。
「週休2日というのは、やっぱり良くないのです。結局、体内時計(睡眠のリズム)が遅れたままになっているから、月曜の朝には、頭の中がまだ起きていないわけです。自分では気がつかないけど、カラダがボケていますよということなのです。メラトニンに限らず、それを支配している体内時計自身がめちゃくちゃになっていきます。リズムをつくる力が弱くなってきます。基本的には生活リズムをきちんとするということが一番なんです。」(柴田教授)
ちなみに、睡眠禁止ゾーンから適度な時間を空けて良い睡眠をとっている場合、脳はどうなっているのでしょうか。
こちらは脳波のグラフ。
覚醒(W)から、下に行くほど深い睡眠になることを意味しています。
深い睡眠でもっとも重要なのが、ノンレム睡眠(N3)に到達しているかどうかです。
こちらが、良い睡眠のときの脳波です。
眠りにつくまでの時間はおよそ15分。
どんな特徴があるのでしょうか。
「寝ついてからすぐに深い睡眠が出てきてます。時間が進むに連れて、浅い睡眠に少しずつ移っていく。これが正常な睡眠の形と言われています。いちばん最初の深い睡眠が、カラダの疲れ等を癒やすために、非常に重要だと言われています。」(栗山さん)
こちらは、問題のある睡眠のときの脳波です。
眠りにつくまで2時間もかかっています。
「睡眠に問題があるという方の例では、まずいちばん目につくのは、なかなか寝つけていない。就寝から実際に寝つくまでに2時間かっています。さらに、その後もN3に到達する深い睡眠がとれていないことです。こういう睡眠パターンになると、起きてもなかなか疲れがとれていないという現象が起こってくるかもしれません。」(栗山さん)
こうした睡眠のとり方が、体内時計のリズムを変え、あらゆる体調の変化に関わってくるというのです。
「体内時計が狂うと睡眠のほかにもカラダに悪影響を及ぼします。一般的には糖尿病、肥満、心血管系の障害、そういった疾患が出やすいということが言われています。ジェットラグ(時差ボケ)といって、いわゆる時差のある地域に移動を日常的にされているような方の間では、がんの発症率が高いという報告もあります。」(栗山さん)
体内時計リセットでぐっすり眠れる!
体内時計リセットでぐっすり眠れる!
ぐっすり眠れないという睡眠の悩みを訴えていた米持さん
特に月曜の朝がすっきり起きられないことが問題でした。
この月曜の朝の目覚めをすっきりするために、週末の過ごし方をどう変えればいいのでしょうか?
重要になるのは、体内時計のリズムをリセットすることにあります。
いつどのように体内時計をリセットするのか。
米持さんに体験してもらいました。
まず金曜の夜。
大好きなゲームをしながら、いつもの休日のように夜更かしを楽しみました。
就寝時間も夜2時。普段の休日と変わりません。
土曜の朝 起床時間は11時。
休日の朝寝坊も満喫します。
土曜の夜、前日と同じように夜更かし。
就寝時間は、夜2時。
そして、日曜の朝。
ここに、体内時計をリセットする秘けつがありました。
起床時間は、朝7:30。
ちょっと無理をして平日と同じ時間に起きてもらいました。
そして、2つめの秘けつがこちら。
カーテンを開けて、朝の光をしっかり浴びる。
この2つの体内時計のリセット法で、睡眠の質はどうなるのでしょうか?
眠りの質を測るため、脳波計をセットして夜を過ごしてもらいました。
日曜の夜10時半。
なんと、あくびが…!
眠気がちゃんと来たようです。
そして・・・日曜の夜 布団に入ったのは、いつもより早めの夜11時。
しばらくすると眠り始めました。
途中で目が醒めることもなく、朝までぐっすり。
月曜の起床は、朝7:30。
月曜の朝は、特に眠気がとれずに、辛いといっていた米持さん。
この日の睡眠は、どうだったでしょうか?
「なんだか全然違いました。いつもの平日より、すっきりしていました。夢もあまり見た記憶がないので、自分的にはすごく深く寝られた気がします。」(米持さん)
睡眠の質はどうだったのか、脳波のデータを見てみましょう。
眠りに入った最初の段階で、深い睡眠を示すノンレム睡眠(N3)にまで達していました。
日曜の朝7:30に起きたことで、メラトニンの分泌時間が元に戻り、 これまで寝付きが悪かった夜の時間帯でもスムーズに眠れたと考えられます。
さらに朝の光をしっかり浴びたことで体内時計のリセットもしっかりできました。
月曜の朝もすっきり起きられたということで、その後の1週間も良いリズムで生活できると考えられます!
では、柴田教授に、体内時計のリセットに効果的な方法をまとめて頂きました。
「朝日を浴びることです。朝がやはり大事で、それから朝食をとることも重要です。朝食は特にカラダの体内時計を朝に合わせます。最近の研究では、カフェインの入った、コーヒーみたいなものを食後に飲んでいたりすると、より(体内時計を)合わせやすいとしています。それから運動もいいです。」(柴田教授)